題名 つづみ

作者 猪井房



係から

 伝統芸能に秀で、鼓の名手だったご友人(故人)を描い
たと聞いています。前回の資料では86年1月とあり、日
本画を習い始めた頃、膠(にかわ)も粒子も筆遣いも、学び
ながら描き上げた記念すべき作品だったのでしょう。

 個体差は大きいでしょうが、構想が幾重にも浮かぶだけ
で、筆が進まない段階が、高年に達すれば誰にも必ず現わ
れる・・・と思うようになりました。身につけた知識や技
量を発揮できずに、当惑と逡巡と焦燥に苦しめられるので
したら、筆を置いてしまったとしても不思議はないです。

 ある芸術家晩年の、粗削りの仕掛りに、完成度の高い抽
象性を見出したことがあります。その作家の円熟期の傑作
からは、決して得られなかった印象でしたので、今でも最
高に好きな作品になっています。

 受賞や称賛を念じて描く限り、高年の壁は超えられない
と思います。技巧の彼岸で、淡々と描き続ける生活に、描
く側にも観る側にも、表現する歓びが訪れます。