クリスマスの季節 −549−
人形
バルセロナの、一行が手洗いのため立ち寄った免税店で、私は、
陶磁製の人形を買おうとした母を制してしまいました。母は以
前、高価な硝子器を、団体で立ち寄った免税店で購入、日本に
別送しましたところ、歪んでいて、蓋の合わない粗悪品を掴ま
され、幸い、その店を紹介した旅行社が直ちに交換を手配、損
はなかったのですが、今回、母が望んだ人形は、私には高すぎ
るように思われ、また出かける時間が迫り、別送の手続きに不
安がありましたので、いい加減な理由をつけ、やめさせてしま
ったのです。
母は国の内外に関係なく、特産品や名産品についての知識が乏
しく、名前だけで買うことは先ずありません。しかし、自分が
「よい」と思った品は躊躇なく購入、私から見たら相当贅沢で
すが、一度買った例えば衣服は、二十年も三十年も、自分で直
しながら着続けています。父が健在だった頃は父の衣服も、擦
り切れてしまったスラックスは裾を解いて折り直し、痩せて不
釣り合いになった上着は、身頃を解いて仕立て直し、吟味して
手に入れた一級品を、いつまでも大切に愛用しています。
母は「これから」に不安を抱いています。父が亡くなってから、
生活の基盤が崩れてしまったのです。考えは固まってきました
が、その実現には、いくつも関門を抜けなければなりません。
金銭上の壁もあります。しかし、歳のせいでしょう、母は親族
に「よいもの」を与えたいとする衝動が強まっており、贅沢は
身銭を切って!を信条とする私と、食い違うことがあります。
先の齟齬には、このような事情もありました。しかし、制して
しまったことが気になっていましたので、レストランの後は、
別送の手続きが確かなお店で買い物を、と決めていました。
マドリードでは、はじめにお土産を買うお店を決めてから、近
くのレストランを予約しましたので、午後、お店が開く時刻を
見計らって、レストランの支払いを済ませ足早に移動。
駆け足の買い物は、品物の吟味も、品定めする楽しみも棚上げ
になってしまいます。売り手から顰蹙を買うのは当然かも知れ
ません。日本人の店員のいるそのお店も、やはり団体客が押し
寄せては去って行く、その「習性」を見続けていますと、陳列
品と団体客の間に溝を感じてしまい、一級品を製作する態度と
一級品を漁る心性に距離を感じてしまい、何やら恥ずかしい気
分----。
母はお土産用の人形を孫娘に選んでもらいました。私も買いま
した。端から丹念にあたり、絞り込んだ一点が娘の好みと一致、
帰国後、届けられた人形は、眠るように寄り添っています。
旅 −2− 01 Apr 2000
531
547 頬(ほお)に涙の跡
208 正面
男の子は
伊豆高原の「人形の美術館それいゆ」を観た折に
母が選んだ人形です
過日の顎を三針縫った折
倒れた衝撃の後遺症が案じられましたので……
出血が止まらず
帰路
自転車の主婦に尋ね
立ち寄った内科医は昼休みでしたが
手当てしていただきホッとしたのも束の間
車中で再び出血
鬱陶(うっとう)しかったのでしょう
止血のテープを剥がしてしまったのです
母の住まい近くの外科医に到着
朝早くから夕刻まで
高年者が溢れている診療所で止血
暫(しばら)く通院
その折、後遺症の懸念を知らされ
診療所での治療が終わった段階で
かかりつけの都心の病院で精密検査
後遺症は杞憂(きゆう)に終わりました
聴神経腫瘍は小さいまま変化なし
隠れ脳梗塞も新しいものは見当たらず
ただ
齢相応に老化している様子を
お医者様はパソコンのモニターを私に向け
各部位を拡大しながら説明してくれました
人形
これまでの旅の折々
買っておいてよかったです
子育てもそう
少子化対策推進も介護保険制度再編成も
先ず自ら……!だと思いますよ
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