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『今日のフォアテリ フォーチュン・キャンバス』

《 一 》
 ここは修智館学院の本敷地という高台にある図書館棟の地下の書庫。それも更に奥に行ったところ。
「ヒナちゃん先におりているからね!!」
「エリスちゃんも早く早くッ。行こ、かなでちゃん!」
そう言い残して悠木かなでと萩野可奈の二人は書庫の奥にある古びた扉の向こうの暗闇に乗り出した。そして扉の傍にあるという木製の年季の入ったハシゴを伝って光の届かない所に降りていく。もちろん、真っ暗な洞窟だからという事で登山用サーチライトをそれぞれ手にしている。だから暫くするとその明かりに照らされた洞窟の壁面が少しだけ扉から覗く事も出来た。
「お姉ちゃん……、あまり奥に行ったら危ないよ」
 と、かなでの妹・陽菜が注意を促しているけれども、洞窟に降りた二人は更に奥を光で照らしながら覗き込んでいた。


 かなでと可奈が学院紹介の為に構内を案内するペアになった時、まるで鏡合わせの様に駆け寄り、申し合わせたかの様にパチッと両手を合わせていたから、この二人なら息がピッタリかもと陽菜も思っていた。
しかしながら、一度走り出すとすぐには止まってくれない姉、そして荻野可奈は学院に到着してからずっとせわしく生徒会副会長の千堂瑛里華や生徒会役員の東儀白、今回無理やり参加させられていた紅瀬桐葉といった修智館の学生にまでテンション高く質問攻めにして何故かメモまで取っていた。
この双子のような二人が一緒になると、もしかすると誰にも止めることが出来ないかもしれないという予感もあった。

だからもう引き止めないといけないと陽菜は扉の向こうに身を乗り出してみるのだけど、闇の中に見えてくるのは洞窟の奥でチラチラとする登山ライトの光だけ。
「お姉ちゃん……」と声を掛けると暗闇の中から「大丈夫大丈夫」と姉の声だけが響きながら返ってくるだけ。
「お姉ちゃんお願いだから帰ってきて……」
 陽菜のその声が暗い空間に再び響く。しかし今度は何も返ってこない。
「陽菜さん、どう……?」
 陽菜と一緒にここに居た金髪の少女・鳳仙エリスが様子を伺おうと身体を寄せてくる。
「ごめん、お姉ちゃんたち止められなかった」
入れ替わるように顔を引っ込めた陽菜は書庫の床に座り込むなりそう答えるしかない。
「……どうしよう」
 悩むよりも先にそう漏らしてしまう。

「だったら、私が先輩たちを引き止めてこよっか」
暗い空洞から陽菜に振り返ったエリスは陽菜の心配する様子を察した、のではなく、自らの好奇心が先立つような感じで陽菜にそう申し出た。
少し前までの具合の悪そうな様子とは違うエリスの言動と輝く水晶のような瞳に、陽菜は戸惑い「危ないよ」としか口に出来なかった。


陽菜とエリスがペアを組む事となったのは、学院に到着してからそう経たない間に少し気分を悪くしたエリスに陽菜が付き添った事からだった。ペアがそれぞれ別行動する為に解散してからはその顔色は次第に良くなっていたなとは思っていたけれど……この今の好奇心に満ちた瞳が本来の姿なのかもしれない。

 そもそもこの四人はわざわざ洞窟探検の為にこの学院を訪れたわけではない。都会にある撫子学園の鳳仙エリスと萩野可奈は他の学生とともに、遠く珠津島という所にある修智館学院を訪れていたのだ。九月にここで開催される文化祭に学園相互交流の一環として出展する、その打ち合わせの為に。
訪問初日の今日は到着したばかりだという事で、手始めに学院の施設を両校の学生がペアを組んで案内して周る事となっていた、はずだったのだけれども……。

 それが……図書館の中にあるという年代物の絵画を見たいというエリスの要望から陽菜が図書館の書庫に案内した所で、書庫の奥の方で修智館のジャージ姿のかなでと可奈が何やら準備しているのを見かけてしまう。このアクシデントが今回の大騒動の幕を切ってしまったのだった。

「……よし! 私も降りてみる!」
 座り込んだまま中々決断しない陽菜の言葉に待ち切れず、更には暗闇よりも未知の空間への興味の方が勝ってしまったらしいエリスは、そう言うと扉を跨ぎ、そのたもとにあるハシゴを降り始める……。
「ちょっと待ってエリスさん!!」
 這うように扉に身を寄せ手を伸ばし必死に引き止めようとする陽菜。
「任せといて!」
 覗きこむ陽菜を見上げたエリスは片手を振って余裕を見せていた……。
「って……アレ!?」
「エリスさん!!」
 バキバキッと何かが砕け散るような音とともにエリスの姿が一瞬のうちに真っ直ぐ暗黒の底に引きづり込まれ、そして「…ズン!!」と落ちた音が底から響く。

「エリスさんっ、大丈夫!!」
 一瞬でエリスが消えてしまった事に驚いた陽菜が暗闇の底を凝視すると、木クズの埃の匂いと真っ暗な洞窟の地面に、その姿ははっきりとはしないものの金髪の輝きが辛うじて見える。そこにエリスが居るようだ。
「だ、大丈夫なのっ!! エリスさん!!」
「……う〜〜ん、ちょっと腰打っちゃったかもしれないけど多分大丈夫……」
 エリスの声が返ってきたから陽菜は少し安堵して腰を再び書庫の床に落とし……
「ああっ!?」
 洞窟からのエリスの悲鳴に、座り込む間もなく慌てて洞窟に顔を出す陽菜。
「ハシゴがバラバラ……」
 それはつまり、木製のハシゴが壊れてしまったという事。確かに扉のそばにさっきまであったはずのハシゴが無くなっていた。このままでは陽菜が後を追って降りる事もエリスやかなでや可奈が図書館に戻ってくる事も出来ないから、つまり大変な事になったということだ。

「本当にケガしてないの?」
 陽菜の問いかけにエリスは身体を色々と擦ってみると「うん……特に異常はないよ」と答えていた。
「お姉ちゃんたちは!?」
 次の確認はやはり問題の二人の事。
「声が全然しないからもっと奥の方に行っちゃったかも。でもまだ追いつけると思う」
 かなでや可奈の後を追おうか、そう言い出すエリスの声に「待って待って!」と陽菜は引き止める。
「だめよエリスさん、真っ暗だから危ないし。誰か呼ぶまで待って」
「そんな事してたら先輩たちがもっと奥に行っちゃう。今ならまだ引き止められるって」
 すると、ゴソゴソとする音が響いてきた。
「エリスちゃん?」とその行動に不安を感じる陽菜。すると暗闇に突然明かりが灯った。
「そこに転がってた箱に備え付けみたいなの見つけたからライトはこれで大丈夫だよ」
 その光源にいるエリスの手には懐中電灯。
どうしてそんなものがこんな所に都合よくあるのかと一瞬思考が止まる陽菜だったが、そんな疑問よりも今はエリスを引き止める事の方が先だと頭を切り替えようとした。しかしどうすればいいのか即座に浮かばなかった為、
「でっでも、そんな格好じゃ洞窟なんて」
とただ制服姿にスカートだと汚れたり怪我をしたりして危ないと注意するしかない。

「大丈夫、すぐまたここに戻ってくるから」
 ぐずつく間にエリスが洞窟の奥に歩き出していた。「待って」と引き止めようとする陽菜の声にも、スニーカーの踏みしめる音が微かに響き返すだけだ。

「エリスさん……」
 ついさっきまで、普段ひと気のない図書館の奥の書庫には四人も居たのに今は一人だけ。ここでやっと自分ひとりではもはやどうにもならないと陽菜も確信せざるをえない。
 そこでやっと、なんで思いつかなかったんだろうと悔やみながら、誰かを呼ぶために携帯電話をポケットから取り出していた。


(以上、プロローグというか第1章めの前半ぐらい。一応完成したものかな)

※まだ印刷原稿全てが完成してない(汗)。ともかく小説部分を全力で仕上げている所ですorz

 今回の小説は原作本編の瑛里華ルートでの【夏休み前の文化祭準備中】〜【瑛里華との海水浴デート】の間(夏休み前半)辺りを舞台としてます。 だからその時点で明かされていない要件とかをなんとか誤魔化したりしながら書いてますね。 微妙にその後の展開は【瑛里華エンド】とは違ってしまうかも。
 あと、時間的にもページ的にも桐葉とかなで&可奈との遣り取りがカット(涙)。 なお伽耶様も登場しません。あ、桔梗 霧先生もだ(爆死)。

 今の所、小説パートは17ページ分の予定。挿絵無しは確定(汗)。 余る3ページほどは時間がないので後書きとかで色々と誤魔化しで埋めます(汗)。 それでも表紙含めて24ページの冊子です。今までよりも4ページ増! 頒布価格は250円。

『フォーチュン アテリアル』の千堂瑛里華と
『Canvas2』の鳳仙エリス

エリスが「赤色」にトラウマがある事は周知ですが……
時間設定的にはエリスがそれを克服して以降と言う事で(汗)。

何気に82万アクセス突破記念になりました。

コミックマーケット 8/17(日) [東館 オ-40a]
 発行予定
 『今日のフォアテリ フォーチュン・キャンバス』
 「フォーチュン アテリアル」×「Canvas2」