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『永遠と一日』 序盤

『フォーチュン アテリアル』を基にした二次創作短編SS
「瑛里華編」のアナザーサイドにおける桐葉と伽耶のエピソード
夏コミ頒布のノベル本の序章部分を掲載


※『フォーチュン アテリアル』のサイドストーリー的な二次創作ノベルです。
一応、2008年夏コミ本のお話の派生という位置づけですが、そこまで深くは関わってません。
同じく09年1月に頒布のコピー本『永遠と一日 挿話』も、ちょっと絡む程度となります。
 2009年夏コミに本作全文が頒布予定となってます。




 真夜中。ここは修智館学院の本敷地という高台にある図書館棟の地下の書庫。
 その更に奥に行ったところ。白い壁には入り口とは別の古びた扉があるが、開閉厳禁という注意書きと真新しい鍵がそれを閉ざしている。この夏休みの騒動の為に図書館棟の職員か学院の関係者が応急措置で封鎖したらしい。

 胸ポケットから真新しい鍵を引き出す。これは一週間も前に私の部屋の扉の隙間に差し込まれていたものだった。「丘の上の眠り姫へ」と、そんな書き残しも添えられていた。名は記されてないけれども差出人はあの男。

 この鍵を手にしてから「丘の上の眠り姫へ」とあの男に呼ばれた場所、学院と島の下に眠る地下空間へ真夜中に何度か潜り込んでいた。洞窟の奥にある人工の通路、地下奥にある地底湖のような昔の軍事施設跡、その更に奥、学園の裏手にある滝つぼの出口と、この島にあるらしい地下空間のかなり広い範囲を自らの目で見て触れて確かめて周っていた。

 何故、私は無駄足を踏んでまで調べまわるのか。理由はただ、自分の「主」を探し当てる為。私はその主の「眷属」だから。そもそも私は主がこの島に住んでいることを知ったから、島にある修智館学院に入ったのだ。

「遠回りも真実に近づく方法、ね」
 鍵穴に鍵を差し込み、静かに開錠する。扉をゆっくりと開く。きしむ音とともに深い闇が姿を現わす。暗く何も見通せないはずの地下の入り口だが、明かりを手にしなくてもこの程度の暗さ、私なら目を届かせる事が出来る。それが私の眷属の力のひとつ。

この地下空間は、図書館からの入り口の方が最も奥に位置しており、実際の入り口は東儀家の屋敷の辺りに隠れている。そして奥までの半分は自然に出来た洞窟が通路のようになっているが、残りの半分は人口的な地下通路となっており、広大な地底湖のような場所も存在していた。これら人工物はかつて軍事基地があったという名残らしい。
出口はその他に、途中から枝分かれした天然洞窟を通って学園裏の滝つぼに出る道と、最も遠く、島の外に通じる大橋に程近い造成地まで掘られた通路があった。更に枝分かれしている洞窟も幾つかあったがほとんどは短く、その奥まで辿り着く事が出来ている。

 真夜中の時間に往復できる範囲、出口まで到達できる道筋、枝分かれした洞窟はこの数日でほぼ周り尽くしていた。人工的に掘られた空洞が洞窟の入り口を封じている可能性もあるが、さすがにそこまで調べを尽くすには限界があるので諦めている。

限界と言えば寮を抜け出す事もそろそろ難しくなっている。
私の身体は「眷属」の体質なのか週に一、二回ほど不意に眠りに落ちる。そしてここまで一週間以上に渡る島の調査中に二回ほど眠り落ちて寮に戻ってこれなかったのだが、間の悪い事にその時に限って自分が夏休み中の寮で当番に当たっていた。

今夜この一連の事であの生徒会の副会長から小言を言われている。これ以上五月蝿く言われるのも煩わしいので今夜、この調査が最後になる。もし今回何も手がかりが見つからなければ、恐らくはこれ以上の発見は無いだろう。

     ◆ ◆ ◆

 もう何度も飛び降りた闇の空間に身を投げ入れ、難なく着地する。見慣れた空間であるそこには、夏休みの時に潜り込んでいった洞窟の入り口と逆の位置に古びた箱がある他は特に気に掛かるようなものは見当たらない。
 その箱の中は、そういえば、備え付けの懐中電灯が収められていただけだったので特に重要だとは思っていなかったから、今まで見ていなかったと思い出す。近寄って見下ろすがその箱の中は空っぽでやはり見るべきものはなかった。
「…………」
 洞窟の調査でハズレばかり掴んでいるから、何度目かの空振りに思わず苦虫を噛むような表情を浮かべてしまう。

 大きく息を吐き出し気持ちを切り替えようと努める。そしてふと、視線の先に別の闇が潜んでいる事に気付いた。入り口の空洞からは完全にただの引っ込んだ場所にしか見えなかったそこは、もうひとつの洞窟への入り口だった。
 その闇を覗き込む目で奥の姿を捉えようとしてみるが、その洞窟はかろうじて人が通れる程度の細さのようだ。もちろん何かを発見する為に、自分に関する何かを探る為に、連夜洞窟に潜り込んでいたから、この奥を調べない理由は無い。

 長く細い洞窟はやがて少しずつだが道幅が広がっていった。そして「普通の人」ならそこで断念するような障害が現れる。暗がりの先、水の流れる轟音の響く所に達すると、突然幅広い地下水脈の早い流れが道を遮っていた。それが特に何ら問題にも障害にもならない私は難なく大きく跳躍する。

洞窟をまた暫く歩き続けると、その更に先には今度は大きく深い亀裂が広がっていた。ただその対岸には、岩壁以外不毛の洞窟に何故か長い木の板を重ねたようなものが置かれている。向こう側からこちらにそれを渡して誰かが足を運ぶ事があるのかもしれない。つまり、この先に誰かがいる。久し振りに期待感が湧き上がるような気がした。

 この程度の断崖も問題なく飛び越える事が出来る、躊躇なく地面から足を跳ね上げたその時、不意に前進するという意志をかき消すような意識の混濁が目に映るものを白く霞ませてしまう。瞬間的に断線した意識は対岸に転がり落ちた衝撃で目を覚ましたが、直ぐに起き上がる事が出来ずにいた。軽い痛みが続くお陰で意識がなんとか保たれているが、押し寄せる睡魔に抗う事が難しく感じられる。
不意に訪れる睡魔がこんな時に。

「眷属」だからなのかは判らないが、時々まるで意識を失ったかのようになる事から、普段はその兆候が見えるすぐに、誰の目も届かない自分の部屋かこの珠津島の山頂辺りに隠れてそこで眠るようにしていたのだ。今この場で眠りに落ちてしまうと恐らくは昼間では目を覚まさないだろう。
「丘の上の眠り姫」
 この鍵に添えられた手紙の事を今また思い出してしまう。自分の失態を見られたという大失態だが、何故か思い出した途端に睡魔の波が弱まってきたような気がした。膝をつきながらようやく立ち上がることが出来た。視界もなんとか取り戻そうとすると洞窟の少し先に出口らしいものが見える。その向こうは空洞が広がっているようだった。

 小さな睡魔の波が何度も意識に押し寄せてくる。出口に近づく歩みも身体がどうしてもふらついてしまい遅々としたものとなり、思い通りにならない苛立ちだけが募ってしまう。
出口に達したと思ったら、また身体を地面に崩してしまった。
 肘で身体を起こし、ぼんやりした目を正そうとすると人の手で掘り拡げられたかのようなそこには、人の姿をしたもの? 死体ではないが生きているようにも見えない、まるで実物大の人形のようなものが無数も寝かされている光景が広がっていた。これまで自分という異質な存在以上の恐怖とは無縁だと思っていた私は、目の前に広がる異様で不気味な事に恐れを感じてしまい、暫く身体を起きあがろうとすら思わなかった。
 ようやく起き上がるも、膝に手を付いて支えないと立っていられない状態。睡魔と恐怖を押さえ込もうと周りの状況を確かめようとした。奥まではそれなりの距離があること、寝かされている人形のようなものは身に付けている衣装が手前のものは時代劇じみたものなのに対して、奥になるにつれて近年の姿のものに変っていること、辛うじて人が歩けるような道筋が用意されていたこと、この空洞の構造を少しずつ把握する。

 数十体もの間をゆっくりと歩き抜けると、最後に寝かされた中高年と思われる男女、比較的最近らしい服装をした二体から先は、安置する為の余地なのか地面が広がるだけとなった。
 その先にも数体の人形が寝かされていた。意識を押しやろうとする睡魔の波がまた高まる。身体のふらつきもやや大きくなってきた為に時々踏み止まりながら近づいてみる。目に映るものが時折コマ送りのようなものに変わるなど酷く不安定になっていると感じるが、目の前にある人形のようなものに近づかなければいけない、その意志だけが心の支えとなっていた。
それらの姿は少しずつはっきりと捉えられることができた。綺麗なものから煤けて傷ついているものまで、コマ送りのように映るものが現実感から遠ざけるようだったが、睡魔に屈しようとしていた目がその顔つきを捉えると、眠気が吹き飛ぶような衝撃が走った。。自分と同じ姿、桐葉という名を持つ自分と同じものが数体そこにあった。古い小袖姿や半世紀前の戦争中に身に付けていた婦人服など、身に付けているものは皆違い、それぞれ綺麗に整えられている。
「……どういうこと?」
 私は私のはず。幾分の記憶は失っているけど幼なじみの伽耶との鬼ごっこなど昔の事も憶えている。しかし、これは、何? 私は何?
 目の前にある自分と同じ姿をした人形が何体も転がる光景に自分の存在を疑ってしまう。自らへの問いかけはしかし、再び強まった意識を覆う白い波に押し込まれてしまい、その場で倒れてしまった。どこかで猫の鳴き声がした。ネネコの鳴き声かしら。



 以下、本編へ。
 なお、今回公開の序盤については実際の同人誌では変更部分がある場合がありますのであしからず。 多分、印刷原盤作成の辺りで再チェック入れるので……。(09年6月30日)