第二話 「契約」
僕の名前は、有村真(ありむら まこと)。 中学3年生の15歳だ。
ごくごく普通の男の子・・・だと、自分では思ってる。
別に髪を染めてたりもしてないし、顔も全然美形の顔立ちでもない。
かといって、メガネを掛けたガリ勉タイプって訳でも、
アニメや漫画を集めているむさ苦しいオタクって訳でもない。 ごくごく普通の見た目。
学校の成績は下から数えて・・・ま、これはいいか。
体育も・・全然駄目。 僕って運動神経は無いみたい・・・。
そんな感じなのがこの僕だ。
で、僕の隣にいる彼女の名前は神崎姫野(かんざき ひめの)ちゃん。 僕の幼馴染だ。
彼女はスポーツ万能、成績優秀、顔もアイドル並みに可愛い女の子。
そして、僕が一番大好きな女の子だ。
・・・で、いつかきっと彼女に告白しようと思う。 「好きです」って。
でも、今は駄目。
今の僕には、彼女を守る「力」が無い。
いつも彼女に助けられている、この情けない僕。
でも、この気持ちは誰にも負けないつもりだ。
だって、この僕が一番彼女との付き合いが長いから・・・。
そんな彼女に勝る唯一の僕の取り得。 それが悪魔の知識だ。
・・・と、大げさに言ったけど、僕はごく一般に知られている大衆向けの悪魔には興味がなく、
今背中に背負ってる鞄の中の「悪魔降臨手引書」の、
マイナーだけど力溢れる色々な「力」を持った、数々の悪魔の豊富な知識が、
唯一彼女に負けない僕だけの取り得だった。
「悪魔降臨手引書」
これを手に入れてから、僕の人生は変わった。
まあ、この本を僕が何処でどう手に入れたかは、またの機会で話すとして、
とにかく、この僕が姫野ちゃんに勝るのは、この悪魔の知識と、
幽霊を見ても怖がらないってところぐらいだろう。
そう、僕と姫野ちゃんは霊感が強いらしく、小さな頃から何度も幽霊を見て育ってきた。
え? それは可愛相だって?
僕は別にそうでもないんだけど、姫野ちゃんは今の歳になっても駄目みたい。
喧嘩ではいつも強いのにね?
おおっと、こんな事言ったら姫野ちゃんに怒られちゃうから黙っといてね。
そんな僕と彼女、姫野ちゃんと二人は、昨日、偶然にいかにも怪しげな洋館を見つけた。
ただ見つけたぐらいじゃ、いくらなんでもこの洋館には惹かれなかった。
でも、その洋館を見た瞬間、僕の中に眠っていた本能が目覚めたらしく、
その本能に従ってここにやって来たのだった・・・。
でも、何故かこういう雰囲気の嫌いな姫野ちゃんもやって来ちゃった。
あんなに僕が「きっと怖いから止めた方がいいよ?」って言ってあげたのに・・・。 まったく。
おっと、随分前置きが長くなっちゃったね。
まあそんな訳で、僕と姫野ちゃんは、あの洋館も前へとやって来たのだった・・・。
「ねえ、本当に・・・入るの?」
いつも強気な姫野ちゃん。 つい今さっきだって僕を助けてくれた彼女とは思えない
弱々しい声でこの僕に話し掛けてきた。
「うん、ここにはきっと何かある。 僕の本能がそう言ってる」
そう言う僕は、目の前のそびえ立つ洋館を見つめていた。
「何気取ってるのよ? 真のくせに・・・」
ちょっと悔しそうな姫野ちゃん。
でも、今の僕はどうしてもこの洋館に入ってみたかった。
きっとここには彼女をも守れる「力」がある様な気がしてならない・・・と思ったからだ。
「表札はないね?」
僕は洋館の敷地への玄関入り口の鉄柵を見回す。
「そう・・・ね?」
「でも、中に入ったらあるかもね?」
そう言って、僕は鉄柵を開けて敷地に入った。
「あ、待ってよ!」
慌てて彼女も入って来る。
そして、僕達は洋館の玄関前までやって来た。
いかにも古びた木製の大きな扉。
そして、取っ手にはライオンの形のが・・・じゃなく、普通の取っ手だった。
こんこん・・・と、僕は扉を叩いてみた。
「誰かいますかぁ〜?」
返事は無い。 仕方なく再度挑戦。
こんこんこん・・・。
「誰かいます?」
でも、誰も出てくる様子はなかった。 しかし・・・。
僕が不思議そうに思っていると、姫野ちゃんが僕の腕を握ってきた。
「ねえ? 誰も居ないんじゃない? じゃあ、いいじゃん、帰ろ?」
不安そうな姫野ちゃん。
そんな彼女を見ていたら、なんだか可愛そうな気持ちになってきちゃった僕。
仕方が無いなぁ〜と、数分悩んだ末・・・
「帰る?」・・・と、僕は折れた。
そんな瞬間だった。 大きな扉が開いたのは。
「きゃぁーーー!!!」
あぅ、耳が痛い。
「いらっしゃいませ」
そう言って出て来たのは、まるで魔女みたいな御婆さんだった。
「あ、どうも」
ついそう言ってしまった僕。
姫野ちゃんはブルブル震えながら、いつの間にかに僕の背中に隠れていた。
「・・・お客様・・・ですよね?」
御婆さんは不思議そうに言った。
「あ、え、えっと・・・」
返答に困ってしまった。 どうやらここは何かのお店らしかった。
「どうぞ、お入りになって下さいな」
中学生の僕達なのに、随分腰の低い(実際充分低かったけど。)態度で、
僕と姫野ちゃんを洋館の中へと案内してくれたのだった。
洋館の中は、いかにも「出そう」な雰囲気で薄暗く息苦しく、
等間隔に立つ壁際の柱の影に飾ってある、何かの部族同士らしい人々の争う絵。
コウモリや鹿などの剥製(はくせい)。
そして、それらを照らす点々とあるロウソクの明かりが、
これまたいい雰囲気を出していた・・・って、姫野ちゃんに怒られるな。
とにかくある種独特の雰囲気の味わいを出したこの洋館に、
僕は益々胸の鼓動が高まっていった。
そんな結構長い廊下を歩いただろうか、
前を進んでいた御婆さんが一つの部屋に案内してくれた。
中にはすわり心地の良さそうなソファーと、こじんまりとしたテーブルがあり、
壁には色々な見たことの無い置物や棚にびっしりと本が並んでいた。
どうやらここは客間らしかった。
・・・と、周りの物に気になっていたら、いつの間にかにあの御婆さんが居なかった。
「姫野ちゃん、さっきの御婆さんが何処にいったか見てた?」
そう聞いてみたけど・・・
「し、知らない、見てない、わかんない・・・」
そうやら姫野ちゃんは僕の腕にシッカリ捕まったまま、
ここまで目をつぶって来たみたいだった。 す、すごい。
「どうぞお掛けになって紅茶をお召し上がりを・・・」
「きゃぁーーー!!!」
あぅ、だから耳が痛いよ、姫野ちゃんってば。
いつの間にかに戻って来ていたあの御婆さんは、
テーブルに置いた入れたての熱い紅茶を僕達に勧めてきた。
「あ、頂きます。 さ、姫野ちゃんもこれを飲んで落ち着いて」
ちょっと苦笑しながら僕は彼女に紅茶を勧めた。
でも、彼女は口にしなかった。 まさか・・・。
「毒なんか入ってないって」
僕は姫野ちゃんの耳元で、最小限の音域で話した。
紅茶を飲み、やっと落ちついた姫野ちゃんを尻目に、ここのお店(?)の事を聞いてみた。
「ここって・・・お店・・・なんですか?」
ちょっと間抜けな質問だったかも知れない。
だけど、御婆さんは丁重に教えてくれた。
「はい、そうですよ?」
「・・・」
「・・・」
「あ、え、えっと、どんなお店なんですか?」
御婆さんは何も言わないので、もう一度詳しく聞いてみた。
すると、御婆さんは立ち上がり、壁に飾ってある置物や本の方に手を向けた。
「ここでは、お客様にある商品をお売りしています・・・」
「・・・商品?」
何かの便利グッズ・・・じゃなさそうだけど・・・。
だって、そこにはどう見ても変な木彫りの人形や、古ぼけた本、
あとは何かの液体に入っている標本みたいな物しかなかったからだ。
「そうで御座います。 ここでは様々な「悪魔の力」をお売り致しております」
「へぇ〜・・・って、え? えぇ?! あ、「悪魔の力」?!」
僕は何気ない口調で御婆さんが説明するものだったので、思わず聞き返してしまった。
「そうで御座います。 ここでは様々な「悪魔の力」をお売り致しております」
聞きなおした僕の言葉に、御婆さんはさっきと同じセリフ、同じ口調で言った。
「・・・」
僕は、口が半開きのまま黙ってしまった。
そんな僕の行動に御婆さんは目もくれず、またソファーに座り直した。
「・・・」
僕の口は、まだ開いたまま。
「ちょ、ちょっと大丈夫?」
隣に座っている姫野ちゃんが、硬直した僕を揺すってきた。
「あ、え? だ、大丈夫・・・だよ。」
つい夢心地になって、彼女の事すっかり忘れていた。
「でも、ここでは誰にでも商品をお売り致しております訳ではありません」
一口紅茶をすすった御婆さんは、僕と姫野ちゃんを見ながら言った。
その言葉に、僕は夢の世界から一気に現実世界に戻って来た。
「誰にでも・・・じゃないの?」
「はい。 商品を売るには、まず契約をしてもらわなければなりません」
淡々と喋る御婆さん。
「契約?」
そういえば、「悪魔降臨手引書」にも契約の事が載っていた。
何でも、召還した悪魔に働いてもらったり、願い事を叶えてもらう為には、
悪魔との契約が必要と載っていた。
普通、その契約には悪魔の力を借りる代償として、
何か自分の大切な物を差し出さなければならなかった。
それは、自分の命や沢山のお金、名誉であったり、
変わったところでは、自分の配偶者や子供などの生贄だったりした筈。
その代償を悪魔に捧げる事により初めて悪魔との契約が結ばれ、
彼らの様々な「悪魔の力」を扱う事が出来る様になるのであった・・・。
「・・・やっぱ、契約には自分の大事な物が必要なのでしょうか・・・」
その代償の大きさに、僕の声は萎縮してしまった。
しかし、御婆さんは言った。
「いえ、大事な物は必要ありません。
契約に必要なのは、この契約書が読めるかどうかと・・・」
そう言って、御婆さんはどこからかノート大の大きさの古ぼけた紙を出し、
「お客様のお気持ちを頂ければ、後は何も頂きません」と、告げた。
「契約書?」
僕の持っている「悪魔降臨手引書」には、そんな契約書の事は載っていなかった。
ただ、召還した悪魔との口約束みたいなものでしかないとあった筈。
でも、大事な物も捧げず、だたその契約書を読めれば
(後、お気持ち。 つまりお金の事だね。)いいなんて、なんて素晴らしいんだろう!
・・・と、我に返った僕は、その契約書を慌てて手に取って見ると、
そこには見覚えのある、だけど今まで読めなかった文字が書いてあった。
それは、あの「悪魔降臨手引書」に書いてあった文字と同じだったのだ!
僕の持っている「悪魔降臨手引書」には、元々見たことの無い文字で書かれているもので、
その文字の下に、前の持ち主が翻訳した(だろう)英語が書いてあったのだった。
そして、今度は僕がその英語を(辞書を片手に)日本語に再翻訳したのだが、
全ての悪魔文字(?)は翻訳されてなく、
仕方なく僕は英語翻訳のみを全て再翻訳したのだった。
そんなこともあり、最初、僕は諦めた。
だけど、隣にいる僕の手を(多分、無意識に)握っている
姫野ちゃんを守れる「悪魔の力」を手に入れる為に、僕は諦めず、再度見つめ直した。
するとどうだろう! なんとその契約書の文字が読めるじゃいか!!
あの、何度見ても今まで読めなかった、不思議な悪魔文字(?)が!!
「よ、読めます! 僕、この文字読めます!!」
僕は思わず立ち上がってしまった!
「きゃっ!」
隣の姫野ちゃんが驚いた。
「あ、ご、ごめんね」
と、慌ててソファーに座り直して誤ったけど、僕の顔は嬉笑みを浮かべていたかもしれない。
「うん、うん! 読めるよ御婆さん」
僕は興奮して、何度も何度も御婆さんと契約書を交互に見て回った。
そんな時、
「でも、良く見た方が良くない? この下の方なんか・・・」
そう、興奮する僕をなだめる様に、姫野ちゃんが心配そうに言った。
「え? 下の方・・・?」
そう言われて、僕は契約書の下の文字を読んでみた。
そこには、「一度悪魔と契約した場合、十のソウルスターを集めないと、
その悪魔との一方的な契約破棄は出来ない」と書いてあった。
「十のソウルスター?」
何だろう? 聞いた事のない言葉だった。
「ソウルスターとは、契約者と悪魔の心の成長度を表したもので御座います」
「心の成長度?」
僕は考え・・・
「つまり、悪魔との理解力や交友力を表したものですか?」
・・・と、そういう風にしか無知な僕には理解出来なかった。
「まあ、その様なものととってもらえれば分かりやすいかと・・・」
そう言って、御婆さんは初めて笑みを浮かべた。
「なるほど・・・」
僕は紅茶を一口飲んで、再度考えてしまった。
「契約した悪魔を理解し、共に心を共有して、初めてソウルスターが手に入るのです。
つまり、契約者は悪魔の力を借り、力を得、そして扱う事により、
彼ら悪魔と心を共有してソウルスターを得る。
そして、悪魔はそのソウルスターで更なる力を得て、契約者を更に助けるのです。」
あまりの御婆さんの多弁にもびっくりしたけど、
それ以上にこのソウルスターの重要性に驚いた。
そして、ふと、ある疑問が頭に浮かんだ。
「じゃあ、十個のソウルスターを集めるとどうなるの?」
僕はまじまじと御婆さんを見つめ聞いたみた。
「十のソウルスターを集めた悪魔は、契約者の元を離れ、
自由の身となって魔界に帰るのです」
「魔界・・・」
僕はまた考えてしまった。
そんな僕に、姫野ちゃんは更に心配そうに僕を止めた。
「やめなさいよ、こんな怪しい事なんか。」
そして、彼女は僕に言ってはいけない事を言ってしまった。
「所詮悪魔なんて空想なんだって。 騙されているんだよ。
あんた、素直で弱々しく、この系統を信じやすそうだからさ!」
ブチン!!
僕は、頭の中で何かの切れた音を聞いた気がした。
言った。 言ってしまった。 彼女は言ってしまったのだ。
僕に対して言ってはいけない言葉を・・・。
何故僕が「悪魔の力」を得ようとするのか?
何故僕が「悪魔の力」を得たいのか?
それは・・・、
全て姫野ちゃんを守る為。
姫野ちゃんに守ってもらう為じゃなく、姫野ちゃんを守ってあげたいからなんだと、
どうして彼女は理解してくれないのだろう?!
僕は悲しかった。 彼女の理解力の無さに。
僕は悔しかった。 彼女より弱いことに・・・。
「御婆さん! その契約、させて下さい!!」
そして、僕はまた立ち上がって契約書を握り潰した。 大きな声で叫び。
「な、真! あんた一体・・・」
僕の行動に理解出来ない。 そう、彼女の瞳は訴えていた。
それがとても、とても悲しかった・・・。
だが、御婆さんは、御婆さんはこの僕の胸の中の熱い気持ちを理解してくれた様で、
「では、その契約書にサインをして下さいますか?」と、僕にペンを渡した。
そのペンを奪った僕は、後ろの壁に契約書を当て、紙が破れそうな勢いで名前をサインした。
「これでいいかい! 御婆さん!」
僕は、御婆さんに契約書を突き出し、そして姫野ちゃんを勝ち誇った様に見た。
「真・・・」
彼女も僕を見つめていた。
でも、その視線は困惑の色に染まっていた・・・。
To Be Continued・・・
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神の左手 悪魔の右手