第4話 「発動」
「うわぁーー!!」
僕は驚いた!!
御婆さんの言われた通りに差し出した、僕の両腕。
その両腕を、御婆さんは手に持った大きな鎌でスッパリと落とした!!
音を立てて落ちた僕の両腕。 そして、その横にある、青黒く太い両腕。
その比較にならない程の僕の弱い両腕を無視するかの様に、
御婆さんは青黒い悪魔の腕、「ベルセルク」の腕を手に取り、
今切られた僕の腕の切断面に、ゆっくりと結合したのだった・・・。
ジリリリリィーー!!
僕は、その大きな音に驚き飛び起きた。
その慌しく鳴り響く目覚まし時計を見て、僕はアラームを消した。
時は朝7時半。 いつもなら普通に起きる時間だった。
だけど、僕の頭の中はサッパリしなかった。
それは、今アラームを止めたその手にあった・・・。
それは、昨日の事なのに、あまり覚えていなかった。
学校が終わった僕は、急いであの怪しげな洋館に向かった。
これは覚えている。
そして、止めたにも関わらずついて来た、幼馴染で僕の大好きな姫野ちゃんと僕は、
洋館の中で悪魔の力をくれる、魔女みたいな御婆さんに出会った。
ここもOK。
だが・・・問題はその後だった。
あの御婆さんは、僕に悪魔の力を与えると言った。
そして、差し出された契約書なる物に、僕はサインと捺印をしたのだ。
その後・・・。
確かに僕の両腕は切られた。 切断された・・・筈。
だが、今ここにある僕の両腕は、あの切られる前の僕の腕だった・・・。
その切断された両腕の変わりに、御婆さんが持ってきた悪魔の力、「ベルセルク」の腕は、
確かに僕の両腕に結合された・・・筈であった。
・・・で、この辺から僕の記憶は曖昧になっている。
僕が覚えているのは、両腕に「ベルセルク」の腕が結合され、
その結合面から、腕、体、頭・・・と、電気の様な何か流れ、そして僕は意識が無くなった。
その時、御婆さんはこんな事を言っていた様な気がする。
・・・これで、また一つ開放されました。 もう少しで全て・・・
そして、何かに気が付いた様にボソリと、
・・・そう言えばこの子・・・とも言ってた様な気がしていた・・・。
「早く起きなさぁ〜い」
下から気の抜けた様な声が聞こえた。
多分、朝起きるのが遅い僕を起こそうとした母の声だろう。
横着に二階に上がって来ない。 まあいいけど・・・。
僕は手のひらを見つめて見た。
だが、それはいつもの変わらない、僕の両手だった・・・。
「・・・の青葉市、青葉区で昨日、意識不明の男女二人が倒れているのを発見されました。
現場では争った後や、二人に外傷があった事から、何かの事件に巻き込まれたのではと・・・」
「あらやだ、うちの近くじゃない。 物騒になった・・・あら、おはよう」
テレビを見ながら、母は僕に挨拶をした。
「おはよぅ」
僕は、働かない頭を必至に働かせながら居間にやってきた。
「もうお兄ちゃんは学校に行ったわよ?」
僕の兄、有村光一(ありむら こういち)は、僕の三つ上の兄で、
父の血をシッカリ受け継いでいて、姫野ちゃん以上に勉強が出来、正に秀才と言われている。
ちなみに僕は母親似らしく、全てに置いて兄とは対照的であった。
そんな兄は、顔も美形で背も高く、スポーツ万能。
将来は、姫野ちゃんと結婚して良い家庭を作って欲しい、と、
姫野ちゃんの両親とうちの両親とが話していたのはショックだった。
それ程うちの兄を姫野ちゃんは釣り合っていたのだが、
兄はこの弱々しい僕と、女の子らしくない姫野ちゃんが嫌いならしく、
最近は顔も合わせていなかった。
まあ、それはそれで僕にとっては好都合だったけど。
「だって、光にー(光一兄の略ね。)は僕より遠い学校じゃん」
僕はテーブルに座って、冷蔵庫から取り出したアイスコーヒーをコップに注ぐ。
「それに・・・今日・・・僕、頭が痛い・・・」
これは正直ちょっと違う。 正確には、「頭が混乱している」だった。
僕の腕。 僕の意識の通りに動く、僕の腕。
だが、何となく違う。
僕は、アイスコーヒーを腕に溢してみた。
「冷たっ!」
「マコちゃん(これは、母が僕の事を言う時の愛称だ。)何やってるのよ、まったく」
「ご、ごめん。 手が滑って・・・」
母は、僕の溢したコーヒーをタオルで拭き取ってくれた。
「大丈夫? 顔色悪いけど・・・」
コーヒーを拭き取り終わった母は、僕を心配そうに見つめた。
「あ、う、うん、大丈夫。 何とか・・・」
「そう?」
少し心配そうな様子の母だったが、そのまま台所へとタオルを置きに行った。
冷たかった。
確かに僕は腕に掛けたコーヒーによって、頭でシッカリ冷たさを味わった。
でも、それは普通に考えるとごく当たり前の事だったけど、
今の僕には、「もしかしたら、冷たくないんじゃないか?」と、思ってみたのだったけれど、
それは只の思い過ごしだったみたいだった。
「大丈夫? 学校、休む?」
いつの間にかにテーブルに座っていた母が、僕を心配そうに見つめる。
その心配そうな瞳。 その心配そうな・・・。
「ああぁーー!!!」
僕はある事を思い出して、慌てて席から立ち上がった。
そうだ! 姫野ちゃん!! 姫野ちゃんはどうしたのだろう?!
僕は急いで家を出たのだった。
「おはよー!」
「あ、おはよう!」
朝の挨拶の交わされる中、僕は通学で使っているバスを慌てて飛び降りた。
「きゃっ! 何するの?!」
「ご、ごめん! 急いでるんだ!!」
僕は一応謝りながらも、学校への坂道を駆け上った。
教室に入ると、僕はすぐに見回し、姫野ちゃんを探した。
すると・・・彼女は居た!!
「ひ、姫野ちゃん!!」
僕は慌てて彼女の机に向かった。
「・・・おはよう」
彼女は何故か怒っている様だった。
「お、おはよう・・・」
僕も思わず退き腰で言ってしまった。
そりゃぁ〜怒ってるよね。 あんな怖い思いをしたんだもの。
でも、彼女はあの時、意識を失っていた筈。
すると、彼女は僕の「この腕」が悪魔の腕と交換されたのは知らない筈。
だが、それより彼女がどうやって家に帰ったかを聞きたかったのだったけど・・・。
「姫野ちゃん?」
僕は、精一杯の笑顔で彼女に聞いてみたのだったけど・・・。
「何?」
帰ってきたのは、その一言だけだった。
怖かった。 こんな怖い姫野ちゃんの瞳を見たのは久しぶりだった。
「あ、あの・・・」
そう、僕は更に聞いてみたのだけど・・・。
「真」
「え? な、何?」
僕は更に慌ててしまった。
「席、着いたら? 先生が見てるわよ?」
「え?」
僕は周りを見渡した。
すると、僕以外の生徒は、もう席に着いていた。
「有村。 また神崎に助けをねだってるのか?」
「あ、い、いや・・・」
僕は顔を真っ赤にして自分の席に座ったのだった。
でも良かった。 彼女も無事だった様で。
彼女を守る力を手に入れる為に、彼女を危険にさらしたなんて・・・。
これじゃ、笑い話にもならないもんね?
「さ、授業を始めるぞ」
そう言った先生を横目に、僕は姫野ちゃんを見守っていた。
放課後、僕は姫野ちゃんにあの後の事を聞く為、二人で屋上にやって来た。
「何よ」
姫野ちゃんはまだ怒っていた。
「あ、うん、ご、ごめんね」
とりあえず、僕は彼女に謝った。 僕が悪い訳じゃないんだけど。
「本当よ! 怖かったんだから!!」
姫野ちゃんが怒るのは無理が無かった。
でも、僕は言った筈。 「きっと怖いから止めた方がいいよ」、と。
そして、姫野ちゃんは気絶した。
今、僕の腕に取って変わった筈の悪魔の腕、「ベルセルク」の腕を見て。
「でも僕、姫野ちゃんを怖がらせようと思って連れ込んだんじゃ・・・」
思わず僕は黙ってしまった。
そんな様子を見、姫野ちゃんは観念した様で僕に言った。
「・・・ありがと」・・・と。
「・・・え?」
僕は、彼女の意外な言葉に戸惑った。
意味が分からなかった。 「ありがと」と言う言葉の意味が。
「昨日、わたしを・・・運んでくれたんでしょ?」
運んでくれた? 何を?
「わたし、あの時気絶しちゃったから・・・」
姫野ちゃんは、急にしおらしくなってしまった。
そうだった。 彼女は「ベルセルク」の腕を見て気絶したのだった。 だが・・・。
「重かった?」
そう、彼女には似合わない小さな声で、ポツリと呟いた。
あ、なる程。 気絶した姫野ちゃんを家まで運んだ事に、「ありがと」と言いたかったのか。
「あ、いや、大した事なかったよ? あははっ」
・・・と、笑ってはみたが、実は僕が運んだと言う記憶は無い。
実際、僕もあの後意識を失い、朝起きたら家のベットの上だったのだったし・・・。
そして、僕は自分の手のひらを見つめた。
僕の手。 僕の腕。 あの時の出来事は、夢だったのだろうか?
そう、思っていた時だった。 僕の首根っこが急に後ろに引っ張られた!
「あう!」
そして、そのまま壁際まで投げられたのだった。
背中に衝撃が走り、一瞬、息が詰まる。
「よお、元気だったか?」
その声は、一昨日、僕と姫野ちゃんに絡んできた不良だった。
「ま、真!」
僕の体を心配してか、姫野ちゃんが心配そうに見ていた。
「この前はお世話になったからなぁ〜」
そう言って、不良はゴキゴキと握りこぶしを鳴らしている。
そして、一歩づつ姫野ちゃんの方に近寄って行く。
「何でこんな所まで?」
そう。 僕も思った。 だが、僕はすぐにその訳が分かった。
「ひ、姫野ちゃん・・・うしろ・・・」
やっとの声を出した僕だったが、彼女の耳に入るには遅すぎた。
「っ?!」
僕と、目の前に迫る不良に気を取られていた姫野ちゃんは、
後ろの柵を越えて出て来た仲間には気が付かなかった。
その仲間達。 それは、昨日彼女が僕の前から追っ払ったいじめっ子達であった。
どうやら、彼らは裏で繋がっていた様で、
そんな彼らに、姫野ちゃんは押さえつけられてしまった。
「アンタ! 卑怯だぞ!」
悶えながらも、罵声を口にした姫野ちゃんだったが、
3人の男達に押さえつけられては、さすがに抵抗が出来なかった。
そして、僕の背中の上にも一人の仲間が座ってきた。 く、くるしい・・・。
「卑怯? いい言葉だ。」
ケラケラと笑う不良は、姫野ちゃんの前に座り、彼女の頬に手を当てた。
「人間はな、卑怯な生き物なんだよ。 特に、自分の為にはな」
そう言って、彼女を立ち上がらせる様に仲間に言った。 そして・・・。
「ぐふっ!!」
姫野ちゃんの苦痛の声が聞こえた。
不良はなんと、姫野ちゃんの腹を殴ったのだった!!
「顔を殴ったら、後々残るからな」
そう言い放って、また腹に思いっきりパンチを食らわせた。
「!!」
今度は声にもならなかった。
「ひ、姫野ちゃん!!」
僕は叫んだ! だが・・・。
「おっと、起きるんじゃないぜ・・・って言っても、お前が起きても何もならないがな」
どうやら不良は姫野ちゃんに対して用があったらしい。
もちろん、僕も立ち上がろうと頑張った。
だが、人一人が乗っかっただけで、僕は動けなかった。
そんな僕にお構い無しな不良は、また、姫野ちゃんの頬に手をやった。
「いや、この可愛い顔を、逆に傷つけるってのも面白い・・・かな」
その瞬間、彼の右の手のひらが姫野ちゃんの左頬を叩いた!
パチン・・・と、その音は渇いた空気に響き渡り、
その後には、赤々となった頬の姫野ちゃんの顔があった。
そして、もう一度・・・。
「ほら、何も言えないのか?」
不良は誇らしげに彼女の頬を叩く。
「・・・くっ!」
必死に耐える姫野ちゃん。 何故? 何故反撃しないの?
僕は不思議で仕方が無かった。
「姫野ちゃん!! 何故反撃しないの?」
僕は思わず叫んだ!
だが、その声に彼女は微笑んだだけであった。
「ほう、お前、分かってないのか?」
振り返った不良が、僕の前にやって来て思いっきり頭を踏んづけた。
「お前がいるからだよ」
「ぼ、僕?」
「ああ。 あの女は、「お前が捕まっている」から、何も抵抗をしないんだよ」
そう言って、僕の頭の上の足に力こ込めた。
「い、痛っ!」
僕は痛みと同時に、姫野ちゃんの泣き声に似た叫び声を聞いた。
「やめて!! 真には手を出さないで!!!」
「ほう? じゃあ、お前には手を出していいんだな?」
僕の頭の上の不良は、ニヤリと笑みを浮かべた。
「・・・」
姫野ちゃんは、一瞬考えた末、「いいわ」・・・と、言った。
不意に、僕の頭の上から重さが消えた。
「いい・・・心がけ・・・だ!!」
そう言って、不良は姫野ちゃんの胸に手をやり、そのまま制服を破り捨てた!
あらわになった姫野ちゃんの下着姿に、一瞬、僕は見入ってしまった。
次に、不良は彼女のスカートに手をやった。
「恥知らず!」
姫野ちゃんの精一杯の抵抗。
だが、それは何の解決にはならなかった。
いや、むしろ不良の欲望に火を注いだ様であった。
不敵に笑った彼は、今度はゆっくりとスカートを脱がし始める。
「さて、何処まで持つかな?」
その光景を見ながら、僕は胸の奥深くから何かが湧き上がってきていた。
そして、無意識に床に付いていた僕の両手は、
思いっきり床に突き刺さっていたのには気が付いていなかった。
不良は姫野ちゃんのスカートを脱がし終えた。
そこには、美しいとしか言い様の無い美白の両足と、
Yシャツの下から僅かにピンク色の下着が見えていた。
もう、姫野ちゃんは何も言わなかった。 いや、何も言えなかった。
「姫野ちゃん!!!」
僕は、もう一度叫んだ!! 力強く! 今までの自分を振り払う様に!!
「さ、後はこのYシャツと下着だけだな?」
もう、不良は僕の事などかまっていなかった。
只々、自分の欲望を姫野ちゃんに向けようと、それだけで頭の中が一杯の様子だった。
僕は、とても悔しかった。
僕は、悪魔の力を手に入れたのではなかったのか?
僕は、彼女を守るんじゃなかったのか?
あの時の光景は、やっぱり夢だったのか?!
自分の弱さを、自分の情けなさを、自分のやるせなさを・・・僕は呪った。
つつぅーと、僕の頬に薄っすらと涙が流れた。
それは、とても、とても熱い涙だった・・・。
その時、最後の抵抗とでも言おうか、姫野ちゃんは不良に言い放ったのだった。
「アンタなんかには負けないわ!! 例え、ここで何があっても!!」
この一言に、不良の欲望は暴力へと移行した!
「っるせぇーー!!!」
今度は握り拳で姫野ちゃんを殴った。 思いっきり・・・。
その光景は、僕の目には、まるで高感度カメラで撮影した様にスローモーションで映り、
ゆっくりと姫野ちゃんの体が吹き飛んで行くのが見えた・・・。
そして、彼女はそのまま床に激しく叩き着けられた・・・。
その瞬間だった。
僕の両腕が熱く、まるで僕の心と同調するかの如く熱くなったのは。
「うおおおおおーーー!!!」
僕の両腕は、太く、そして青黒く変色していた。
そして、そのまま床を握り潰した両手で、僕の上に座っていた仲間の一人を殴った。
いや、殴り飛ばした!
彼はそのまま激しく壁に叩きつけられ、
魚拓の様な制服の汚れを壁に残して床に崩れ去った。
「な、何だ?」
急に後ろから聞こえた音にビックリした不良は、僕のその腕を見て唖然とした。
「・・・な、なんだ? そ・・・れ」
口を開けたままの不良。 そしてその仲間達。
だが、僕は彼らに遠慮はしなかった。
「うぅぅーーっわぁぁぁぁあーーー!!!」
僕は夢中で走った! そして・・・。
「ぐはっ!!」
「だばっ!!」
そんな声にならない言葉を口にした不良の仲間達は、
そのまま彼らが出て来た柵の向こう側まで吹き飛んでいった。
熱い。 とても熱かった。
まるで、今まで溜まった僕の我慢の限界の爆発を表す様に。
まるで、自分自身を焼き尽くす様に・・・。
激しい音を立てて落ち、その向こうから聞こえてきた幾人の苦痛の声に、
目の前の不良はやっと我に帰った。
「お、おまえ・・・、なに?」
顔面蒼白になった彼に、僕は彼が姫野ちゃんにした事と同じ様に、
思いっきり腹にパンチを食らわせた。 そして、言った・・・。
「僕は・・・、姫野ちゃんを守る男だ・・・」
その光景の一部始終を、後ろに設置された給水塔の上から見ていた男がいた。
その男こそ、僕の最初の・・・「敵」だった。
To Be Continued・・・
最初にもどる
神の左手 悪魔の右手