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第6話 「困惑」



「殺(や)れ! 「マキュール」、こいつの精気を吸い取れ!!」
一瞬、僕はその言葉の意味が分からなかった。
だが、僕を噛む青白い眼が光ったかと思うと、急激に力が抜けていくのが分かった。
そう、この「マキュール」と言われた蛇が、僕の精気と言われる何かを吸い取っていたのだ!




『こ、こいつ、僕を吸ってる?!』
マキュールと言われた蛇の口からは、僅かに僕の肩から出た血が滲んでいた。
その光景を見た為か、それともマキュールが「精気」と言われる何かを吸っている為か、
僕は全身から力が抜けていくのが分かった。
「どうだ? 精気を吸われる気持ちは?」
僕の下、約2mぐらいの所から、獲物を得た獣の様に僕を見つめている。
そんな時だった。
男の左手、つまり、僕の肩に噛み付いていない方の蛇の頭が喋ったのは。
「阿久津よ、やはり「デビルハンズ」の精気は違うのぉ・・・」
低く、年老いた声で「マキュール」と言われた蛇は、僕の精気についての感想を呟いた。
「やはり、只の人間より「デビルハンズ」の精気は美味いか」
「・・・ああ」
それぞれ不気味な笑みを返しながら喋る光景に、僕は更に恐怖した。
「こ、こいつ、喋った?!」
「・・・悪いか」
青白い眼が僕を見据えながら舌を出した。
「喜べ小僧、我に精気を吸い取られれば、気分良く死ねるのだから」
吸い取られれば・・・
死ぬ?!
そんな訳にはいかない!!
僕は姫野ちゃんにまだ告白していないんだから!!
だけど、この蛇から逃れる力が沸いて来なかった。
多分、精気とやらを吸い取られているからだろう。
どうしたらこの蛇から逃げられるのだろう・・・。
僕は、今までの受けた虐めの経験から、この状況から脱出をする術を探した。

・・・そう言えばこの人、僕のソウルスターを奪うって言ってた。
でも、僕は「悪魔の力」を手に入れたばかりで、まだソウルスターって物を手に入れて無い。
じゃあ、僕がその事を言えば、阿久津と言われた「マキュール」を操る男は、
もしかしたら僕を解放してくれるかも知れない!

そう思って、僕は精一杯の勇気を振り絞って話してみた。
「ぼ、僕・・・、あなたの言うソウルスターって物、持って無いんですけど・・・」
苦しみながら、恐怖に耐えながら、僕は呟く様に言った。
だけど、その考えが甘かった事に、僕はすぐに思い知らされた。
「何? ソウルスターを持って無いだと? おかしな事を言う奴だな」
ケラケラと笑う男は、仕方が無いとばかりに僕に説明を始めた。
「お前、何も知らないんだな?」
「・・・」
僕は只々聞き入っていた。
「仕方ない、何も知らないで死んだら、お前もつまらんだろうからな」
男は「マキュール」を操り、僕を彼の目線にまで下ろした。 それでも足は着かなかったけど。
「ソウルスターとはな、
「悪魔の力」を手にした「デビルハンズ」達の命の証なんだよ」
「命の証?」
「そうだ。 つまり、
ソウルスターを手に入れる為には、
「デビルハンズ」を倒し、そいつの持つ「悪魔の力」を潰す必要がある。

だから俺はソウルスターを手に入れる為に、こうしてお前を殺すんだよ!!」
急に天地の感覚が入れ替わり、僕は宙を舞い、そして硬いコンクリートの地面に落ちた。
「うぐっ!」
胸に衝撃が走り、僕の息が一瞬止まったが、僕は苦しみながらも何とか立ち上がった。

なるほど、でも良く分かった。 彼が僕と戦う意味とソウルスターに隠された意味が。
つまり、彼はソウルスターを手に入れる為、この僕と戦うのだ。
そして、彼の持つ「悪魔の力」、「マキュール」を更に強くしていくのだろう。
でも、そうすると、僕はこの男の為に殺されるのか? それは勘弁だ。
じゃあどうするか。 ・・・簡単な事だった。
彼と戦って勝てばいいのだ。
そう、簡単なことだった。 考えつくのは。
でも、考える事と行動するのとは天地の差があるって言ってもいい。
第一、この僕がいくら「悪魔の力」を手に入れたからと言っても、所詮は弱虫な訳で、
虐められるのに耐える術は知っていても、戦う術は知らなかった。
でも、戦わないと僕は殺されてしまう・・・。
それだけは、本当に勘弁だった。

「さすが一応は「デビルハンズ」だ。 そうこなくちゃ面白くないからな」
ニタニタと笑う男は、「マキュール」をクルクルと回しながらやって来る。
この男、僕の目には段々蛇の様な顔に見えてきた。 とても不気味な蛇の顔に。
でも、彼と戦って勝たなければ、僕は殺されてしまう。
しかし、逆に考えると、
僕は彼を殺さなければ助からないのか?
人を殺す? この虐められっ子の僕が?! 
・・・いや、人間の僕が?!
そんな事が出来る筈がない。
僕は、只、
姫野ちゃんを守る為の力が欲しかっただけで、
人殺しの力が欲しかった訳じゃない!

でも、彼は僕を倒す気満々の様子で、一歩づつ僕に近づいて来る。
その目に映るこの僕は、もう人間としてではなく、只の獲物としてしか見えてないだろう・・・。
僕は悩んだ。
素直に殺されるか、彼と戦って殺すか・・・。
それはまるで僕が人間として生きるか、悪魔として生きて行くかを試されている様だった。
僕は自分の腕から生える「ベルセルク」の腕を見てみた。
その腕は青黒く、とてもたくましかった。
だが、それは何度見ても「悪魔の腕」の他には成らず、
やはり僕は目の前の男と同様に、悪魔に魂を売らなければならないのだろうか・・・。
でも、僕は姫野ちゃんと同じ人間として生きたい。
僕は姫野ちゃんと同じ道を歩みたい。
僕は姫野ちゃんと・・・。
不意に僕の目の前が暗くなった。
「お前、もう諦めたのか?」
その言葉に僕が顔を上げると、目の前の冷たく光る男の目と僕の目が合った。
「じゃあ、ちょっと物足りなかったが、トドメを刺すか」
不機嫌そうに僕を見下した男は、
死の世界へと誘う僕(しもべ)を僕の細い首に巻きつけてきた。
「くっ!」
「ふはは! 苦しいか。 苦しいだろう!」
高らかに笑う男。 その顔は、もう人間の物には見えなかった。
戦う事にしたら、僕もあんな顔つきになるのだろうか?
その事に対して、僕は不思議と恐怖はなかった。
それより、僕が戦いを選んだ事によって、姫野ちゃんと同じ道を歩けないという事の方が、
今の僕にとってはそっちの方がとても怖かった。
でも、僕はあんな悪魔にはなりたくなかった。
確かに僕は「悪魔の力」を手に入れたかった。
でもそれは、
姫野ちゃんを守りたくて強い力を手に入れたかったのであって、
本当の悪魔には成りたくはなかったんだ・・・。


僕は、ただ、彼女を守りたかっただけなのだ・・・。
僕は甘かったのだろう。
本当に甘かったのだろう。
本当に弱虫だったのだろう。
でも・・・僕は悪魔には成りたくは・・・ない。
でも・・・僕は人殺しには成りたく・・・ない。

グイグイと僕の首を締め上げる腕、「マキュール」
ダランと床に置いている僕の腕、「ベルセルク」
そんな情けない僕の様子を見て楽しみながら、
阿久津と言われた男はまた高らかに笑い始めたのだった。



・・・僕は一体どうすれば良いのだろう。



To Be Continued・・・



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神の左手 悪魔の右手