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第9話 「報酬」



ズパン!!
精気を吸い取る悪魔、マキュールの能力を逆手に取って、
僕は全身に溢れる「悪魔の力」を一気に解放すると、耐え切れなくなったマキュールは、
まるで安物のゴム風船が破裂した様な音を立て破裂した。
そして、散々僕と姫野ちゃんをいたぶった阿久津と言われた男に、
僕は思いっきりの力を込めて殴ったのだった。
「そして、これは姫野ちゃんの痛みだぁーー!!」
鈍い衝撃が腕に伝わり、それが全身に伝わった時には、
もう男は壁に叩きつけられて動かなかった・・・。




「はーはー」
胸がドキドキしていた。
あの悪魔、「ベルセルク」の声が聴こえてきてから、
僕の意識はただ目の前の男を倒す事だけに支配していた。
そして、その意識の背後には、悪魔「ベルセルク」の叫び声が聴こえていた。
全ての裏切り者には死を・・・と。
はっと、僕は意識を取り戻し、目の前の男の所へ足を運んだ。
彼が死んでないかを確認する為だ。
だって、あんだけ思いっきり殴りつけ、その衝撃で壁にヒビが入っていたぐらいだったので、
もしかしたら・・・と、思ったのだった。
でも僕の心配をよそに、男の胸は上下していた。 良かった、生きてる。
でも・・・
僕はベルセルクの手を見た。
その青黒い手はまだ戦い足りないのか、熱く熱を保っていた。

その時だった。
ブウンと鈍い音と共に、床で気絶している男の腕跡から、
鈍く光るピンポン球ぐらいの大きさの何かが出て来た。
それがゆっくりと宙に浮いたかと思うと、目の眩む眩しい光を一瞬放ち、
残った場所には星型の黄色い石みたいな物があった。
「これが、ソウルスター?」
確か男が言っていた。
「ソウルスターを手に入れる為には、
「デビルハンズ」を倒し、そいつの持つ「悪魔の力」を潰す必要がある」

そして、「悪魔の力」をくれたあの洋館の御婆さんも言っていた。
ソウルスターを得る事によって、「悪魔の力」は更なる力を得るのだ・・・と。
・・・となると、僕の腕にあるベルセルクの腕も、
このソウルスターを手に入れればもっと強くなれるのだろうか?
そう思った時には、僕はもうソウルスターを掴んでいた。
その瞬間、またもや目の前が真っ白になり、今度は頭の中にある光景が現れたのだった。



・・・それは薄暗い闇。 
周りにはチラホラと揺らめく炎と、デコボコした床に転がる沢山の剣や槍。
そして、その平地の真ん中に一つの人影の背中が見える。
僕は、その人影の所へ走った。
その人影は遠くでは分からなかったが、近づくにつれてその大きさがハッキリしてきた。
人影の背はゆうに二メートルを越していて、背中から見ても筋肉ムキムキなのが分かる。
そして、頭の上には太く鋭い血まみれの角が見えた。
もしかしてこの人影、ベルセルク?
そう思った僕は怖さのあまりに後ずさりしたが、
床に転がった「何か」にぶつかって尻餅を付いてしまった。
鈍い衝撃がお尻に、柔らかいとも硬いとも取れる感触が手に走った。
その変な感触に、僕はとっさに手をどけて床に転がる「何か」を見てみた。
そこには・・・
全身血まみれの、物凄い顔つきの悪魔らしき死体が横たわっていたのだった。
つまり、
僕は死体に躓(つまづ)き転んだのだ!
「うわぁーーー!!!」

僕はあまりの驚きに、叫んでしまった!
そう、
周りに見えたデコボコした床は、沢山の死体が重なって出来ていたのだ!
その叫び声に、目の前の大きな巨人が振り向き始めた。
だが、僕はあまりの恐怖に腰が抜けてしまい、
ただただ手足をバタバタさせるのが精一杯だった。
ゆっくりと巨人が僕の方へと振り向く。
その動作に僕は叫びつづけたのだったが、
巨人の横顔が見えた時、僕は黙ってその顔を見つめてしまった・・・。
「な、涙」
そう、
その力強い巨人は泣いていたのだった。
「な、何故・・・」
僕は独り言の様に呟いた。
その瞬間、またもや目の前が真っ白になり、
目が見える様になった時には、元の学校の屋上に戻っていたのだった。



僕はベルセルクの腕を見てみたが、腕はもうただのひ弱な僕の腕に戻っていた。
ゆっくりと手を握ってみる。 それは確かに僕の手、僕の腕である。
だが、僕の目にはさっきの荒々しい、力強い青黒い腕がダブって見えていたのだった・・・。



そんな僕を、またしても見ていた人物がいた。
その人物達は、僕の学校から遠くに見えるマンションの屋上から
こちらの様子をうかがっていたのだ。
「へぇ〜、あの子勝っちゃったよ」
明るい表情と声で笑うのは、まだあどけない金髪の少年。
「そうですね、マリオ様」
マリオと呼ばれた金髪の少年に話し掛けたのは、綺麗な長い黒髪を持つ女性であった。
「だけど以外だったよ、あの少年が勝ったのは」
「はい、マリオ様」
「だって、4つのソウルスターを持つ戦闘経験のバリバリある悪魔に、
まだ
「力」の覚醒(かくせい)していない悪魔が勝つと思うかい? 沙羅」
「いえ、私も勝つとは思いませんでした」
沙羅と呼ばれた女性は、かしこまりつつ返答した。
「今まで結構な数の悪魔を見てきたけど、
腕力だけで勝負に勝った悪魔は初めてだ」
まるで自分の事の様に喜ぶ少年は、隣の沙羅と呼ばれた女性の肩に手をついた。
「あの少年、僕の探している「力」を持っていると思うかい?」
「私の予想からすると、あの少年にはマリオ様の探している能力は持っていないかと・・・」
ニコニコと笑みの溢さない少年とは対照的で暗い黒髪の女性。
僕がそんな彼と彼女と出会うのは、もう少しの時間が必要であった。
「そうだね沙羅、あの馬鹿力の悪魔が
僕の探している能力者じゃないと、僕も思うよ」
そう言って、金髪の少年は興味津々の目で遠くの僕を見つめた。
その目は、静かな湖畔を思わすような蒼氷色(アイスブルー)の瞳を光らしていた。

風が二人の髪を優しく撫でる。 それは、春を忘れさす生暖かい風であった。
「マリオ様、もうすぐ雨が降ります。 ここでは・・・」
少年の体を気遣う黒髪の女性は、恭(うやうや)しく告げる。
「分かった。 さて、今日は戻ろうか」
優しげな笑みで沙羅を見たマリオと呼ばれた少年は、
ゆっくり立ち上がる女性の手を繋いでいた。
「では、参りましょう」
その言葉の後には、もう彼らの姿は何処にも見えなくなっていたのだった・・・。



ポツポツと振り出す雨を受け、僕は薄暗い空を見た。
それは、まるで先程見た光景の巨人が流した涙を思わせる、
6月の長い長い梅雨の始まりであった・・・。



To Be Continued・・・



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神の左手 悪魔の右手