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第10話 「雑談」



窓の外に見える降り続く雨を見つめ、僕は考え事をしていた。
それは、僕が先週に会ったあの男と悪魔の事。
あの僕と姫野ちゃんを襲った阿久津と言われた男は、
やはりあの川原にある洋館で「悪魔の力」を手に入れたのだろうか?
それと、ソウルスターを手にした時に見たあの光景の中の、
悪魔の死体の溢れる中で泣いていた広い背中の巨人の事を。
あの平地で見た筋肉ムキムキの巨人。 あれは・・・



パカン!
「あいたっ!」
「こら! また外を見てる、有村。 そんなに帰りたいのか?」
先生の言葉に、クラスの仲間が僕を笑う。
「あ! すみません。 何でもないです」
「そんな事だから、成績が良くならないんだぞ」
またしてもクラス中に笑い声が広がる。
「・・・はい」
僕は赤面するしかなかった。

あの日、つまりマキュールと言われた悪魔と戦った日から、
もうすぐ一週間が経とうとしていた。
あの日、悪魔を倒した僕は、傷つき倒れていた姫野ちゃんを抱え、
一旦保健室に彼女を寝かせた。
その後、このボロボロにされた服を着させる訳にいかず、とりあえずジャージを着さようとした。
しかし、それはとても大変な作業だった。 だって彼女、
下着姿だったから。
それはいいとして、その後も大変だった。
まず僕の家に電話をし、母に事情を話した。 
でももちろん
悪魔に襲われたなんて言える訳がなく、仕方がなく彼らのせいにした。
そう、あの一番最初に僕たちを襲ったあの不良達の事だ。
そして、姫野ちゃんが目を覚ますまで僕と母とで看病していると、
彼女は痛々しい声を発し目を覚ました。
「ううぅ・・・あ、あれ?」
「あ?! 大丈夫、姫野ちゃん!」
困惑した表情で僕と母を見た彼女に、僕は不良達に襲われたところまでの経緯を話した。
それはちょっと苦しい説明だったけど、彼女と母は何とか説明がついた僕は、
顔色が良くなった姫野ちゃんを早く家に送ろうと、話の流れを何とか変え、
早々に彼女を母の乗ってきた車で家まで送ったのだった。
家に着いた時、ほんと、マコがまた迷惑掛けてごめんね、と、
母が優しく言って彼女を送った事に、
僕はあまりの罪悪感に、彼女の目を見れずに別れてしまった。

家に着いた僕と母は、特に何も話さずにその日は過ごした。
これは、僕がいかに沢山の虐めにあって、毎回彼女に迷惑を掛けていたからで、
普通の家ではトコトン突き止められるであろう。
でも母は何も言わず、だた一言、「明日、ちゃんと姫野ちゃんに謝るのよ」と、言っただけだった。
だが、次の日、彼女は学校には来なかった。
その日は金曜日だったので、僕は今日謝らないと来週まで彼女に会えないと思い、
家までお見舞いへ行ったのだったが、彼女は会ってくれなかった。
そして月曜日、僕は姫野ちゃんに会って謝った。
僕は日が経ってしまった事もあり、謝るのが少し怖くなっていたが、
彼女は以外にも怒ってはいなく、
苦笑いで「別にいいよ」と、言っただけで僕をあしらったのだった。
そんなこんなで、僕と彼女との中はギクシャクした日々を過ごしていたのだった。



「何してんだ? 真」
放課後、まだ窓の外を見ていた僕に、同じ同好会の仲間の鉄男くんが話し掛けてきた。
「んん? 何でも・・・」
僕は曖昧に返事をした。
「・・・そっか? 元気無いように見えたけど?」
「うん・・・」
更に曖昧に答える僕の様子に、鉄男くんは鞄から何かの本を取り出した。
「ほら、持って来たぞ」
そう彼が差し出したのは、僕が前々から借りようとしていた魔術書だった。
「でもこれ、俺も読んだけどあまり面白くなかったぞ」
そう、彼も僕と同じ悪魔好きなのだ。

彼と初めて会ったのは、僕がこの学校に入ってすぐだった。
このクラブで悪魔部なんで代物は無いと思いつつ学校内をうろうろしていたのだったが、
校庭内の広場に出た時、僕は目を疑った。
そこにはデカデカとした文字で、
「求む! 悪魔研究同好会!!」と看板を出し、
教室まで聞こえそうな声で勧誘をする彼を見つけたのだった。
そんな彼の元に僕は迷わず足を運び、同好会の内容を熱心に聞いたのだった。
そして次の日には僕達は意気投合し、
学校では勧誘、放課後では悪魔の知識の交換に励んだのだった・・・。


そんな彼とも、もう丸2年の付き合いになる。
見た目はまあカッコ良い程度で、成績もまあまあ。 
つまり普通の人で、僕と並ぶと少し頭が出るくらいの背丈で、体型も僕とあまり変わらない。
あえて僕との違いを言えば、彼は喧嘩に強かった。 姫野ちゃん程ではなかったけど。
その為、彼は虐めには合った事もなく、
いつも虐められている僕をたまに助けてくれた事もあった。
「そう言えば、また虐められたんだって?」
「うん」
「よくまぁ〜虐められるねぇ〜」
クスクスと笑いながら、彼は僕の正面の席に座った。
「いいじゃん、痛いのは僕だけなんだし」
「今回はそんな訳にはいかないだろ?」
どうやら姫野ちゃんの事を言っているらしい。
「・・・」
僕は黙っていた。
そんな僕に、彼は仕方なそうに、ふっ、と笑った。
「ちゃんと神崎には謝ったのか?」
「一応」
「一応ねぇ〜」
「・・・」
僕と彼との間に、一瞬の間が空いた。
そんな間に耐え切れなくなった僕は、彼の持ってきてくれた本を何気なく開いて見た。
「それ、お前の持っている「悪魔降臨手引書」程面白くないぞ?」
彼もそんな沈黙の間に耐え切れなくなったのか、僕の見ている本に付いて話し掛けてきた。
「悪魔・・・か」
僕は呟いた。

悪魔。
その響きは、今までは僕の心をワクワクさせてきた。
だが、あの洋館に行き、あの不思議は体験をし、
そしてその後の戦いをした後には、僕の考えは180度変わっていた。
僕は良く虐められ、その度に姫野ちゃんや鉄男くんに助けられていた。
そんな彼女らに、僕は申し訳が立たないと思い、
あの「悪魔の力」を手に入れようと思っていたのだが、
実際、「悪魔の力」を手に入れた後に僕が体験したのは、
同じ「悪魔の力」を手にした男との戦いだった。
しかも、守る筈の彼女を守れず、
一歩間違えば取り返しの付かないところまでの状況になっていたのだった。
更に、
下手をしたら僕は人を殺していたかもしれなかった!
あの赤く光るベルセルクの目に見られた時、
僕は目の前の男を倒すだけに意識を囚われていた。
あの怒り、あの憎しみ。 あれは僕を確かにあおっていた。
「裏切り者を殺せ!」と・・・。

こんな「悪魔の力」、僕は欲しくなかった。
僕が欲しかったのは、姫野ちゃんを守れる力であって、人を殺す力ではなかった。
しかし、僕が手に入れた「悪魔の力」は、正しく
悪魔の力だった。
「なあ、真」
「何?」
パラパラと本をめくっていた僕に、鉄男くんはふと言った。
「悪魔って本当にいるのかな・・・」
雨の降る外を見つめながら、鉄男くんは珍しく元気のない声で言った。
一瞬、僕はこの前の戦いの話をしようかと思ったが・・・
「ん? 何だ?」
彼の無知な笑顔を見て、言うのを止めてしまった。
「「悪魔の力」なんて、手に入れない方がいいよ」
「へ?」
鉄男くんは、僕の言葉に拍子抜けした返事を返した。
だって、それは今までの僕の考えを否定する言葉だったからだ。
今までの僕であったら、「いるよ! 悪魔は絶対いるんだ!」と、大声で反論したと思う。
それを予想していた彼だったのに、帰ってきた返事がこれじゃ、
僕が彼の立場であっても同じような声を出したと思う。
「何で? また急にそんな事を言うんだ?」
今まで僕が虐めにあったというのに心配そうでなかった彼なのに、
僕が言った言葉がよほど変に聞こえたのか、今度は心配そうな様子で僕を見たのだった。
「僕、もう悪魔の追っかけは辞めるよ」
僕は怖くなっていた。
それは、阿久津と言われた男との戦いを思い出した為か、
あの時僕の頭の中に聴こえてきた、怒りと憎しみを含んだ低い声を思い出した為だったからか、
とにかく僕は怖くなっていたのだった。
もうあんな怖い体験はしたくなかったのだ。 一言で言ってしまえば。
「何故? どうした?! 虐めにあって、頭でも打ったのか?」
鉄男くんは僕の頭に手をやり、優しく撫でてきた。
そんな彼の態度に、僕は急にやりきれない怒りを彼に向けてしまった。
「うるさいな! もう僕は悪魔が嫌いになったんだよ!」
手を弾かれた鉄男くんは、苦笑しながら手を擦った。
「そっか、じゃあこんなウワサ話は聞きたくないか」
「・・・」
僕は黙っていた。 どうせ大した話じゃないだろうと思ったし、聞く気分でもなかったからだ。
しかし、彼の話を聞いた僕は、もう一度聞き返してしまった。
「何だ? やっぱり興味があるのか?」
「そう言う訳じゃないけど、そのウワサは誰から聞いたの? 
「悪魔の力」を手に入れられる場所の話なんか!
「いやなに、学校に来るバス停で近くの女たち話していた話なんだがな、
何でも川原沿いの洋館で「悪魔の力」を手に入れられるらしいって言ってたんだよな」
身振り素振りで楽しそうに話す彼に、僕は思わず聞き入ってしまった。
「まあ、所詮女子高生のウワサ話だ、当てにはならないと思うけどな?」
僕はビックリして黙っていた。
あの場所がウワサになっている?!
いつもの僕なら別に気にはならなかっただろう。 
しかし、僕は知っていた。 あの洋館の事を。 中にいる御婆さんの事を。 そして・・・
「・・・で、俺は今日その洋館とやらに行こうかと思ってお前を誘ったんだけど、
悪魔に興味の無くなった真を誘っても仕方がなさそうだな」
ポン、と、肩を叩き笑みを溢す鉄男くん。
恐らく彼も本気でウワサを信じてはいないから、こんな笑みで僕に話したんだろう。
しかし僕は知っていた。  知ってしまったのだ! 
「悪魔の力」の怖さを。
「止めなよ! どうせウワサだって、そんなの」
僕は必死になって鉄男くんを止めようとしのだが、
だがそれは逆に、彼の好奇心というロウソクに火を灯した結果となった。
「何だ真? 急にそんなに必死になって?」
ニヤニヤと笑う彼に、僕は今度こそ本当の事を言おうかと思った。
「今君の肩をつかんでいるこの腕は、
実は悪魔の腕なんだよ」・・・と。
しかし、それを言っては更に火をあおるようなものだと思い、
あえて僕は話題を変えようとしたのだったが、
急に教室の扉が開き、見覚えの顔が僕を見つめていた事に、僕と鉄男くんは驚いた。
「ひ、姫野ちゃん」
「ちょっといい?」
今までに聞いたことのない暗い彼女の声に、僕は戸惑ってしまっていたが、
急に背中を押され、僕は更にビックリしてしまった。
「行けよ、待ってるぜ」
彼女の真剣な眼差しに押されてか、鉄男くんも同じ顔つきで僕に言ったのだった。
「うん、ちょっと話してくる」
僕は鞄の中に鉄男くんから借りた本をしまい、ゆっくりと彼女の方へと歩き始めたのだけど、
急にある事を思い出して振り返り、帰る仕度をしていた鉄男くんに注意をした。
「鉄男くん! あの洋館には行っちゃ駄目だよ!」
その言葉に、彼はダルそうにゴツゴツした手を上げたのだった。
実はこの時、姫野ちゃんも僕の言葉に敏感に反応していたのだったが、
鉄男くんの方を見ていた僕は、もちろん気が付く筈はなかった。
「・・・行こうか」
僕は何故か低い口調で言ってしまった。
でも、そんな僕の口調を気にせず、姫野ちゃんも僕に同じ言葉を言っただけで、
そそくさと下駄箱の方へと歩いてしまったので、
僕も急いで彼女を後を追いかけたのだった。
そんな僕達の後姿を、鉄男くんは羨ましそうに見つめていた事に、僕が気が付く訳がなかった。



後にこの時のとった行動によって、僕がどれ程の後悔をする事になるかなんて、
この時は思いもする筈がなかったのであった・・・。



ポツポツと降り注いでいた雨は、いつの間にかに大雨になっていた。



To Be Continued・・・



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神の左手 悪魔の右手