第14話 「親友」
「そ、そんな! 僕は人を殺してない!!
それに、あれはあいつが悪かったんだ!! だって、姫野ちゃんを・・・」
僕は弁解した。
それは、彼に対してだったのか、それともあの僕と姫野ちゃんを襲った
阿久津と言われた男に対してかは分からなかったけど。
しかし、その時僕は思ったのだった。
「何故、鉄男くんがそんな事を知っているのか」を・・・。
その瞬間だった! 彼が手にした鋭く光る大きな武器で、僕を攻撃してきたのは!!
いや、それは大きな武器に見えただけで、実際は違ったのだった
それは、僕がもう二度と見たくない代物だった。 それは・・・
「真、恥じる事は無いんだぜ。 俺達は」
そう言って、鉄男くんは僕の前で腕を広げた腕は、
まるでセメントにでもつっこんだ様な、細く長い灰色の腕と化していた。
そう、彼の腕は悪魔の腕に変わっていたのだった・・・。
「そ、その腕! 悪魔の腕・・・」
僕は言葉に詰まってしまった。
だが、よくよく見ると、その鉄男くんの腕から生えた灰色の腕は、僕が見覚えのある物だった。
「その腕、まさか・・・」
僕が詰まり詰まりで言葉にすると、それを助ける様な口調で彼は付け加えた。
「ああ、悪魔、「ギガンテス」の腕さ・・・」
悪魔、「ギガンテス」
古来の悪魔図鑑では、その名の悪魔は人間を遥か高い位置から見下ろす程で背丈の巨人で、
その腕からおり出す怪力によって、およそ壊れないものは無いと言われる怪力の悪魔である。
・・・が、しかし、僕の持つ「悪魔降臨手引書」には、違った記述で紹介されていた。
「その者、全身に鼠がかった色の皮膚も持ち、その姿は枯れ木の化石を思わせる容姿である。
だが、その容姿に騙させて戦いを挑んだ勇者は後悔するだろう。
その者の持つ能力は、その悪魔の容姿からは想像のつかない物だからだ・・・」
確か、そう書かれていた。
そう、あの悪魔の腕の持つ力は、僕の持つ「悪魔の力」より、より悪魔的な力を持っているのだ。
「この腕は最高だ! まさに俺が求めていた「悪魔の力」さ!」
そう言って高らかに笑う鉄男くんに、僕は立ち上がって悲しげな表情をし、聞いてみた。
「鉄男くん。 君も「悪魔の力」を手に入れてしまったんだね」
「ああ、お前が手に入れたように、俺も「悪魔の力」を手に入れたのさ!」
「どうして! どうして手に入れたかったさ! こ、こんな力・・・」
僕は聞かずにはいられなかった。
だって、あんなに明るく、あんなに喧嘩に強く、元気一杯で毎日を生きる彼に、
僕が望んだような悩みで「悪魔の力」を得ようとする訳が無かったからだ!
「どうして?」
高らかに笑っていた鉄男くんは、僕の言葉で態度が急変し、身構えた。
「どうしてだって? それはお前のせいだよ」
「ぼ、僕の・・・せい?」
何故? 何故僕のせいなんだ? 僕には分からなかった。
「ああ、お前がいなければ、あいつは俺の物になってたんだ!」
「あいつ?」
誰だか分からなかった。
「とぼけんな! 神崎の事だ!」
神崎。 つまり、「神崎姫野」、姫野ちゃんの事だった。
「姫野ちゃんがどうなんだよ!」
僕は半分泣いていた。 どうしてだかは分からなかったけど。
「あいつは、「お前の友達の俺とは付き合えない」と言いやがった!
だからお前の存在を消す為に、俺は「悪魔の力」を手に入れたんだ!」
「そ、そんな・・・」
僕は愕然とした。
確かに僕は姫野ちゃんを守る為、「悪魔の力」を手に入れた。
しかし、鉄男くんも彼女を欲しいがために「悪魔の力」を手に入れたというのだ。
僕はこれ以上にない、運命の悪魔の悪戯の存在を感じられずにはいられなかった。
「ああ! それが悪いか!!」
怒りに満ちた鉄男くんの拳が、僕の頬と心に深い痛みを与えた。
「っく!」
僕は何も言えなかった。
それは、頬の痛みの為でなく、胸の奥からくる痛みのせいであったからだ。
「俺はな、真。 お前の事が憎かったんだよ」
ポツリと、床を眺めながら言う鉄男くんの体は、少し震えていた。
「俺とお前が初めて会ったあの日の事、お前は覚えてるか?」
顔を上げた鉄男くんのその目に、僕はあの日の光景を思い出す。
「うん、覚えているよ。 もちろん」
「実はな、あの時既に俺は神崎を狙っていたんだ」
そう、さらりと言った彼の言葉は、僕の胸にさっき以上の痛みを与えた。
「え? だ、だって、鉄男くんと姫野ちゃんとが会ったのって、僕より後じゃ・・・」
「いや、俺が初めて学校に登校した日に、俺はお前の隣に歩く神崎を見ていたんだ」
ぐっと握った手を見つめる鉄男くんの目には、
多分姫野ちゃんを初めて見た時の光景を思い出しているのだろう。
そして、恐らくその隣には僕がいたんだと思う。
「俺は、あいつに一目惚れしたんだ。 だが、あいつの隣にはいつもお前がいた。
だから俺は決めたんだよ。 「あいつを俺の物にするには、
まずお前と仲良くなるのが一番早い」・・・とな」
・・・ショックだった。
鉄男くんが彼女を好きだって言った事よりも。
僕は、彼の恋の道具だと、彼は言ったのだ。
それは、今までの僕と鉄男くんとの友情は偽りだという事と同じ意味なのだから・・・。
あの日、僕は彼の輝いた目で同好会の勧誘する彼を見つけた。
あの日の輝きは嘘だと言うのだろうか!
その後、僕は彼の作った同好会に入ったのだったが、
毎日の様に繰り返した僕との楽しかった会話も嘘だと言うのだろうか!
そして、虐められていた僕を助けてくれたのも、やはり偽りの友情だったのだろうか・・・。
「僕達、親友だよね」
いつの日かの放課後だったか、僕は何気なく鉄男くんに聞いた事があった。
その問いに、ふっと苦笑したあと、彼はこの僕を横目に答えた。
「ああ、俺とお前は親友さ」
そう、爽やかな風の様に、鉄男くんは笑ったのだった・・・。
つぅーっと、僕の目から一筋の涙が流れ、その涙が床に落ちたとき、彼は行動したのだった。
「だがな、駄目だったんだよ、そんな甘い考えじゃあ」
キッ!っと、何かを決意した様な鉄男くんは、真っ直ぐな目で僕を睨む。
「お前さえいなければ、俺はあいつと付き合える! だから・・・」
そう言って鉄男くんは戦闘態勢で構え、僕と対峙した。
「さあ、お前には死んでもらうぜ!」
灰色の腕を掲げ、鉄男くんは襲い掛かってきた。
・・・が、その腕を僕は何とか捕まえ、そのまま押さえ込んだ。
「どうした! お前は俺の「親友」なんだろ?! だったら俺の頼みを聞いてくれよ!」
今度は泣きそうなか細い声で語りかけてきた。
だがその時、偶然に彼の左腕が目に入り、僕は2つのアザを見つけてしまった。
「そのアザ、もしかして・・・」
僕は怯えた目で鉄男くんを見たのだったが、
彼の目は僕と対照的で、不敵に笑っていたのだった。
「ああ、俺はもう二人殺(や)ったぜ」
「ふ、二人も・・・」
「そうだ。 俺は昨日と今日とでもう二人もデビルハンズを倒し、
二つのソウルスターを手に入れた! だから、お前なんかに負ける筈が無い!」
そう言って、彼は両手に「力」を込めた!
すると、鉄男くんの持つ「ギガンテス」の手が怪しく光始めた。
はっと僕はある事を思い出し、その手を放して後ろに跳ぶと、
彼はそのままの体勢で僕をあざけ笑った。
「はっ! 思い出したようだな、この「ギガンテス」の「力」を」
そう言うと同時か、彼は床に手を付けた。
するとどうだろう!
彼の手から、まるで目に見えない蛇が僕を獲物として狙いを付けたかのように、
真っ直ぐなヒビが向かって来たじゃないか!
「わっ!」
とっさに横っ飛びして避けたのだったが、
僕がその彼の腕、「ギガンテス」の腕の持つ能力を知らなければ、
多分避ける事は出来なかっただろう。
なんとか床のヒビ割れに飲み込まれなかった僕は、自分が今までいた場所を見てみると、
既にその床は砕けて何も無く、下の階層が僕を吸い込むように顔を出していた。
「思い出したか、真。 この「ギガンテス」の腕の「力」を」
そう言った鉄男くんは、いつの間にかに僕が無意識に手を掛けた柱の影まで移動し、
「ギガンテス」の腕を柱の上下にやり、更に「力」を注ぎ破壊を繰り返す!
「お前も壊れて死んでしまえ! 真!!」
「力」の注がれた柱は、彼の手に導かれるようにヒビが入り、僕の方へと倒れ掛かってきた。
「うわぁーー!!」
僕は、恐怖のあまりに叫んでしまったが、手だけは反射的に柱を抑えようと構えていた。
鈍い衝撃が僕の腕を走る。
それが全身に回るとき、僕は潰されてしまう。 死んでしまうのだ!
だが、僕の持つ「悪魔の力」は僕を見捨てなかった・・・。
『力が欲しいか。 力が欲しいなら、我を呼ぶがよい』
それは、僕が初めて聞いた時を同じ、悪魔「ベルセルク」の低い声だった。
そうだった。 僕はまだ死ぬ訳にはいかなかった。
それは彼女を守る為。
それは彼女を助ける為。
それは彼女に告白する為に・・・。
「悪魔、「ベルセルク」よ! 僕に力を与えたまえ!」
僕が悪魔を降臨させる詠唱を唱えると、今にも柱に押しつぶされそうなか細い腕が、
みるみるうちに、あの力強い、青黒い悪魔の腕、「ベルセルク」へと変わり、
軽がると倒れてきた柱を支えたのだった。
「おおっ?! お前も「悪魔の力」を発動させたか! これでまた面白くなってきたな」
「面白く?」
僕は倒れ掛かってきている柱を押さえ込みながら、鉄男くんに言葉で反撃した。
「何が面白いんだ! 君はこんな人殺しの道具を楽しんで使ってるのかい?!」
だが、彼は答えは、僕の支える大きな柱の真ん中から返ってきた。
その僕が支えていた柱の幅は優に50センチを超えていたが、
鉄男くんは「ギガンテス」の腕の力を使い、いとも簡単に中心にヒビを入れ、
そのまま彼は拳と柱の破片と共に、僕の腹へと綺麗な一撃をヒットさせた。
「がはっ!!」
腹に激痛を受け、僕は後ろに弾け飛ばされた。
「どうやらお前はまだ「悪魔の力」を使い慣れてないみたいだな」
柱を粉々に砕いた彼は、一歩ずつ僕に歩み寄って来る。
「その腕、なんて言うんだ?」
余裕の為か、鉄男くんはニヤニヤしながら僕の腕を見た。
「「ベルセルク」・・・だ」
苦痛と吐き気に耐えながらも、僕は彼の問いに答える。
「「ベルセルク」? 聞いた事のない名前だな、そんな悪魔」
そう。 実を言うと、この僕も「ベルセルク」なんて悪魔は聞いた事がなかった。
ついこの前、阿久津と言われた男に襲われたあの夜、
僕は家に置いてあった「悪魔降臨手引書」を広げ、
「ベルセルク」についての項目を探してみたのだったが、この本には載っていなかったのだった。
もちろん、本をよく回し読みしていた鉄男くんも、その事については承知の上で言ったのだろう。
その為、僕が貰い受けた「ベルセルク」の腕には、
それぞれの悪魔の持つ能力が無く、ただの力が強いだけの腕と思っていた。
まあ、その手の力の欲しかった僕としては、お似合いの「悪魔の力」だったのだけど・・・。
その反面、鉄男くんの持つ「ギガンテス」の腕の能力は凄かった。
それは、「物質の持つ強度を変化出来る」能力。
つまり、どんな物質だろうと、
「ギガンテス」の腕に掛かれば簡単に壊す事が出来る「力」を有しているのだ!
「そんな力自慢の「悪魔の力」なんて、役に立たないぜ」
不敵に笑う鉄男くんだったが、彼の手は闘争心一杯で鈍く光っていた。
『一体、こんな凄い「悪魔の力」を持った相手とどうすれば戦い、勝てるのだろう・・・』
僕は膝を使って立ち上がりながら考えた。
だが、ふと何かに囁かれた様な言葉が僕の頭の中で響いた。
『どうやって・・・勝てる?』
そう、どうやって勝てると、僕は考えたのだ。
その考えが、僕の全身に回ったとき、僕は無防備で鉄男くんの方を向いたのだった。
「ん? どうした? 俺に殺される観念がついたのか?」
今まで一応抵抗してきた僕の豹変に、鉄男くんは戸惑った様子だった。
「分からない」
僕は呟いた。
「そう・・・観念がついたのかも知れないし、違うのかも知れない」
それは、もしかすると独り言だったのかも知れなかった。
僕は広げた右手を見つめ、一人言葉を続ける。
「でも、僕は君とは戦えない」
そう、僕も何かを決意した様に、構え向く鉄男くんの目を見た。
「だって・・・、鉄男くんは、僕のかけがえのない「親友」だから」
無意識に、僕は笑みが出たのだった。
その笑みは、僕が作り出した今までで一番の笑みだったかも知れない。
そう、彼はやはり僕のかけがえのない「親友」なのだ。
どんなに彼が酷い事実を隠していたとしても。
どんな思いで彼が僕に接してきていたとしても。
どんな思いで僕に戦いを仕掛けてきたとしても・・・。
その「親友」と、僕は戦う事をする訳にはいかない!
「親友」を傷つける事は、本当に悪魔に心を売ると同じ行為なのだから・・・。
「な・・・」
さっきの僕と同じようにか、鉄男くんも同様のショックを受けたみたいだったが、
同時に彼の胸の内には別の感情も湧き出た様子だった。
「なめやがって!!」
怒りの表情で殴り掛かってきた鉄男くんだった。
・・・だが、その目には、何故か涙が浮かんでいた。
「お前さえいなければ! お前さえいなければぁーーー!!」
右、左・・・と、乱打を放つ彼の激しい攻撃は、
僕の持つベルセルクの腕に完全に防がれて痛くはなかった。
けれど、その痛みは全て僕の心の奥深くに確実にヒットしていた・・・。
そんな瞬間だった。
「真!!」
その紙を引き裂いた様な甲高い声で、僕と鉄男くんは同時にある人物を見つけたのだった。
「ひ、姫野ちゃん・・・、どうして・・・」
To Be Continued・・・
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神の左手 悪魔の右手