第15話 「接吻」
「なめやがって!!」
怒りの表情で殴り掛かってきた鉄男くん。
・・・だが、その目には、何故か涙が浮かんでいた。
「お前さえいなければ! お前さえいなければぁーーー!!」
右、左・・・と、乱打を放つ彼の激しい攻撃は、
僕の持つベルセルクの腕に完全に防がれて痛くはなかった。
けれど、その痛みは全て僕の心の奥深くに確実にヒットしていた・・・。
そんな瞬間だった。
「真!!」
その紙を引き裂いた様な甲高い声で、僕と鉄男くんは同時にある人物を見つけたのだった。
「ひ、姫野ちゃん・・・、どうして・・・」
「やめて! あなた達友達でしょ?! なら何で喧嘩をしてるの!!」
格闘する僕達を止めるよう声を上げ、息を切らせながら走る姫野ちゃんは、
彼女の方を見た僕の目の前までやって来た。
「な、何故ここに?」
そう答えた後に、僕はこの「ベルセルク」の腕に気がつき隠したのだったが、
しっかりと姫野ちゃんに見られてしまった。
「何故って、あなた達がこんな古ぼけた病院に入って行くところを見たから・・・」
そう言いつつ、姫野ちゃんの視線がゆっくりと僕の腕へと下がった。
そして、僕の腕、「ベルセルク」の腕を見、彼女は驚いたようだったが、
何とか持ち返した姫野ちゃんは、真っ直ぐな瞳で僕を見つめた。
「真! その腕、もしかして・・・」
「うん、あの洋館で貰った腕だよ」
鉄男くんからの攻撃から息を整えた僕は、少しバツが悪い顔つきで彼女に説明した。
「それと・・・」
僕は鉄男くんの方を見て、彼もあの洋館で「悪魔の力」を手に入れたのだと、
簡単に付け足した。 手に入れたかった理由は言わなかったけど。
「・・・」
非現実離れした僕の話しを聞き、姫野ちゃんは何かを考えている様子だったが、
すぐに僕と鉄男くんとを交互に見、何故僕達が戦うのかを聞き出す。
「そ、それは・・・」
「何? 言えないの?」
こう言うときの彼女は正直苦手、いや、怖かった。
隠し事をする僕に、彼女はいつもこうやって怖い表情で問い詰めるのだ。
それが光にーの場合には、オマケでゲンコツが付くのだけど、
彼女の場合はそれが無いだけマシかも知れない。
そんな僕と姫野ちゃんとのやり取りを黙って見ていた鉄男くんが、
ついに耐え切れなくなったのか口を開ける。
「喧嘩の理由か。 それはな・・・」
我慢しきれない様子で苦笑しながら、鉄男くんは自分の思いを告白したのだった。
「て、鉄男くん・・・」
つい僕は彼の喋りを止める為、手を掛けようと伸ばしたのだったが、
しかし、その手は鉄男くんの灰色の手によって虚しく弾き飛ばされた。
「触るな!」
その声はいつになく厳しい口調で、僕と姫野ちゃんは彼の変貌振りに戸惑いの視線を交わす。
「お前、言ったよな。 「真の友達じゃあ、この俺とは付き合えない」と。
だからな、俺はこいつを倒す為にこの力を手に入れたんだよ」
「それは・・・」
「確かに言ったよなぁ〜? え? 神埼」
キツメの表情で尋問される姫野ちゃんは、いつになく弱気で返事を返す。
「それに、俺がこの力を手に入れた理由はもう一つあるんだよ」
「もう一つ?」
今度は僕が彼の話相手になる番だった。
しかし、鉄男くんはまだ姫野ちゃんに話があるのか、視線だけは彼女に向けられていた。
「ああ、それは、神崎の惚れた相手を上回る魅力を手に入れたかったからだ」
その言葉は、僕と姫野ちゃんの胸にそれぞれ違った衝撃で伝わった。
「あ、え? 惚れた・・・相手?」
僕は目耳に水を食らった表情で姫野ちゃんを見ると、
彼女は顔を真っ赤にしながら弁解をしようとしていた。
「違うの! あれは私が強引に・・・」
「うるさい!」
大慌てで鉄男くんに駆け寄ろうとする姫野ちゃんを止めるかのごとく、
鉄男くんは思いっきりの力で近くの壁を叩いたのだった。
「強引だろうが事実は事実じゃないか! キスをしたのは!!」
え? キ、キス?!
その言葉は、僕が聞いた言葉の中でもっとも驚いた爆弾発言だった!!
「だから、俺はお前ら兄弟を消し去る為にこの「悪魔の力」を手に入れたんだよ!」
そう言うが早く、鉄男くんは僕の頬に思いっきりの力で右ストレートを食らわし、
僕はそのまま後ろの壁まで飛ばされ、軽い衝撃を背中に受けたのだった。
その衝撃は、軽く押されて壁にぶつかったのと同じぐらいの衝撃だったけど、
だけど僕は、全身で受けた体の痛みより、心に受けたダメージで立ち上がれなく、
放心状態でその場にうずくまってしまっていた。
「真!!」
慌てて寄り添う姫野ちゃんだったが、今の僕には彼女の声は心に届いていなかった。
・・・姫野ちゃんがキスしただって?・・・
その衝撃的な言葉だけが、僕の心の中でリフレインをする。
・・・一体誰と?・・・
僕の目の前に知らない男が現れ、その男に飛び掛るように近づく姫野ちゃん。
そして、そのまま二人がキスをする光景がスローモーションで映し出される。
・・・駄目だよ! 姫野ちゃん・・・
しかし、僕の声は二人に届かない。
・・・嫌だよ! 何で!・・・
只々、僕は泣き叫びながら声を掛ける。
だが、二人はついに僕の目の前で祝福されざる行為を交わしたのだった。
・・・姫野ちゃん・・・
僕は、そのまま気を失った・・・。
「ははは! こいつ、気絶しやがった!」
もちろん彼は僕が殴られたショックで気絶したのでは無い事を知らない。
しかし、それが気を良くしたのか、鉄男くんは僕と姫野ちゃんの方へと歩み寄って来た。
それに気が付いた姫野ちゃんは、僕をかばうように立ち上がって大の字で構える。
「真にはもう触れされない!」
「ほお、面白いじゃないか」
不敵に笑う鉄男くんとは対照的に、姫野ちゃんの足は恐怖で震えていた。
その彼女に、鉄男くんは悪魔の手を差し出して頬に手をやる。
「ほら、俺はあいつよりも強くて魅力的な力を手に入れたんだぜ?
だから、俺の女にならないか?」
「だれがアンタの彼女になんか!」
そう言って、姫野ちゃんは悪魔の手を弾く。 その瞳に、もう弱気な表情は無かった。
「じゃあ、そんな言葉も言わせないように、体に教え込むか」
フフっと、くすみ笑いをし、鉄男くんは僕に与えたのと同じ要領で彼女に殴りかかった。
しかし、彼のストレートは空を切り、代わりに姫野ちゃんの平手打ちを貰ったのだった。
彼女がグーで鉄男くんを殴らなかったのは、恐らく彼の事を思ってであって、
これがあの不良達であったら、彼女は容赦なく握りこぶしで殴りつけていただろう。
でも、それが逆に彼の闘争心に火をつけたようで、
彼は灰色の手で姫野ちゃんに平手打ちをお返しした。 無論、手加減はしたが。
パチン、と、乾いた空気に響いた音は、
姫野ちゃんの頬に赤い痛みを、心の中には強い意志を与えたのだった。
「まだ抵抗する気か?」
「もちろん!」
キッと、鉄男くんを睨み、姫野ちゃんは次々とパンチを放つ。
しかし、彼女の攻撃を余裕を持って避けている鉄男くんだったが、不意に何を思いついて頷き、
そのままの体勢で彼女の攻撃の流れを交わしつつ、いつの間にかに壁際まで近寄っっていた。
「これで終わりよ!」
彼女は鉄男くんに引き寄せられた事に気づかず、決めの一撃を放つ。
しかし、それを狙っていた鉄男くんは、ギリギリまで近づいた彼女のパンチを紙一重で交わす。
一瞬のうちに的を失った彼女の拳は止まらず、
そのまま鈍い音を立てて壁に小さなヒビを作った。
これは、もちろん彼女の攻撃力が普通の女の子より強かった為もあったが、
老朽化で壁自体がボロボロになっていて、
なおかつ今までの僕達の格闘でのダメージが建物全体に響いていた事もあったのだった。
しかし、彼女の手には致命的なダメージを受けた様子で、
痛みを堪える為にその場で手を抑えてしまう。
その隙を待っていた鉄男くんは、灰色の腕を彼女の腹部へと綺麗にヒットさせたのだった。
「うっ!」
隙を狙った事もあってか、激痛によって姫野ちゃんは鉄男くんに寄り添うように倒れこんだ。
「じゃじゃ馬がやっと静かになったか」
そう言いつつ、鉄男くんは姫野ちゃんを抱きかかえ、未だに気絶する僕の元へと歩み寄った。
「ほらよ」
鉄男くんは、まるでゴミでも捨てる口調で姫野ちゃんを僕の横に放り、
今度は放心状態の僕を力一杯に蹴った!
「あう!」
痛みの為、僕は思わず声が出たが、今だ意識は現実には返らなく、
只、姫野ちゃんがキスを・・・と、繰り返すばかりだった。
ちぃっと舌打ちをし、鉄男くんは僕にトドメを刺そうと悪魔の腕を振りかぶる。
「こうも張り合いがないんじゃ、いまいちつまんね〜な」
その光景に、姫野ちゃんは痛みを堪えながら僕に近寄って、
何とか僕を起こそうと肩を前後に振ったが、僕は同じセリフを繰り返すだけだった。
・・・姫野ちゃんがキスを・・・と。
「真! 起きないとやられちゃうのよ! 早く起きなさい!」
しかし、やはり僕は先程と同じく起きなかった。
そんな僕と彼女とのやり取りに、僕は起きるのを期待していた様子だったのか、
鉄男くんは今だにトドメを刺そうとはしなかった。
しかし、いくら彼女の問い掛けに起きない僕の態度に痺れを切らせたのか、
鉄男くんは遂に僕達二人にトドメの一撃を振り落とそうとした!
「ちぃ! これで終わりだ! 真!!」
だが、姫野ちゃんはまだ諦めていなかった!
何度の呼び掛けに、僕の繰り返す言葉は只一言。
・・・姫野ちゃんがキスを・・・
そんな僕の態度に、彼女も遂に決めたようだった!
「そんなに私のキスが欲しいなら、あげるわよ!!」
そう言うのと同時に、彼女は僕の唇を奪ったのだった!
これが、僕と姫野ちゃんとの初めてのキスだった・・・。
To Be Continued・・・
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神の左手 悪魔の右手