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第18話 「狂乱」



「へぇ〜、凄いね、その「ベルセルク」の腕ってやつは」
真に覚醒した「ベルセルク」の腕の力を見、
素直な感想を述べながら現れたその金髪の少年、マリオ・イセルタルは、
心身共に疲れた僕達の前で拍手をした。
「その・・・、君は何をしにここに来たの?」
そんな彼に、僕は思わず聞き返してしまった。
「僕かい?」
その僕の問いにマリオはクスクスと笑いながら、君達の戦いを見に来ただけだよ、と、言う。
様は、
ただ単に野次馬根性で来たというのだろうか?
しかしその割に彼は只の観客でもいるのも満足いかなかった様で、
あれこれと僕達に文句をつけてくる。
そんな態度に、鉄男くんが相手になろうかと一歩前に出ると、
駄目駄目、僕なんか全然弱いんだから、と、以外にも逃げ腰の少年。
しかし、少年の顔には笑みがあった。
「でも、僕的にはもっと君達に戦って欲しかったな」
この言葉が何かの合図の様だったのではないかと、僕は無意識に感じ、一瞬寒気がした。
そして、マリオは
「少年」とは思えない程の悪魔じみた笑みで僕達を見つめたのだった。
「もっと激しく、もっと熱く戦ってくれれば、僕もここに来た甲斐があるってものだけど・・・」
ここまで言い終えて、僕は確信した。
彼は、マリオは・・・
「敵」だと。



「お前、ガキだからってなめんなよ?!」
マリオと名乗った金髪の少年のその横柄な態度に、とうとうキレてしまった鉄男くんは、
彼の胸倉を掴んで今にも殴りかかりそうに右腕を掲げた。
「て、鉄男くん!」
僕は思わず鉄男くんを止めようと声を掛けてしまった。
心の中の僕の本能がこの少年は「敵」だと訴えていたが、
少年と鉄男くんとの体長の差を前にすると、どうしても止めたくなってしまったのだ。
止めるな、真! こいつ、きっと何かを企んでる。 今叩かないと・・・」
僕の方を見ながら喋る鉄男くんは、遂に決意した様子で両腕に力を込めた。
「マリオ様!」
その声に、今までその存在に気をとられていなかった黒髪の綺麗な女の人が、
鉄男くんの行動を止めようと慌てて手を差し出す。
「待て、沙羅。 大丈夫だ・・・」
胸倉を苦しそうに掴まれたマリオは、今まで子供じみた(実際子供だけど。)態度だったのに、
その時ばかりは妙に大人じみた言葉で彼女を止めたのだった。
多分、彼と彼女との仲には何か二人だけの取り決めでもあるだと思う。
その証拠に、少々心配そうながらも沙羅と呼ばれた女の人は、渋々後ろに下がったのだった。
「ほお、女の手を借りないとは、一応「男」なんだな」
「まあね」
そんな彼らのやり取りに、
僕は少々胸が痛んだ。
「でもな、いくら強がってもこの「ギガンテス」の腕を持つ俺にかなうわけないぜ」
そう言って、鉄男くんは力の差を見せ付ける為、灰色の腕を少年の目の前まで持って行った。
しかし、以外にも少年は怖がる様子もなく、
代わりにその鉄男くんの持つ「ギガンテス」の腕を優しく擦るのだった。
「そうだね。 
こんなに細く弱々しく見えるのに、以外にも力があるんだもんね」
「くっ・・・」
確かに彼の持つ「ギガンテス」の腕は細く長く、一見弱々しく見えるのだ。
しかし、その外見に騙されて勝負を挑んだ敵は、
外見とは裏腹にある力に驚くだろう・・・と、僕の持つ「悪魔降臨手引書」にも書いてあった。
そんな事を知ってかいなか、鉄男くんは絶句したのだった。
「でも・・・、本当は強いんだよね・・・?」
それは、何か心の奥深くにまで届きそうな喋りだった。
「本当は、あそこの友達より強いんだよね・・・」
「・・・何が言いたい」
その語り口調に、鉄男くんも警戒してか声を低くする。
「本当はあの人を倒して彼女を
モノにしたかったんでしょう・・・?」
この辺あたりから、僕はこの少年の隠していた何かを感じ始めていた。
「本当は、今でもあの人を倒したくて仕方ないんでしょう・・・?」
「・・・」
「鉄男くん!!」
何故か僕は叫ばずにはいられなかった。
しかし、見えない何かに阻まれてか、僕は彼らの所へとは進めなかった。
その訳は、
見え隠れする金髪の少年が放つ狂気への為か、
それとも鉄男くんを、
彼を疑って警戒してしまってなのかは分からなかった・・・。
「いいんだよ? 隠さなくても・・・」
鋭く、心の奥深くに届きそうな、まるで氷の様な瞳と言葉で誘惑する少年に、
鉄男くんはどんどん引き込まれている様だった。
「お、俺は・・・」
鉄男くんの振り上げた右腕が震え出してきた。 きっと彼も心の中で戦っているのだろう。
そんな彼に、僕は手助けをしようと声を掛ける瞬間だった。
「さあ! 見せてくれ!! その君の持つ、大いなる力を!!!」
そう叫んだ少年の右腕から、
まるでカメラのフラッシュを炊いたような眩しい光が辺りを包んだ!
「うわっ!」
とっさに、僕と後ろに下がっている姫野ちゃんは目が眩んでしまった。
その眩しい光が静まった後には、さっきと変わらない光景があったのだが、
しかし、一つだけ違っていた点があった事に、僕はすぐに気が付いた。
それは、今まで苦悩の為か、小刻みに震えていた鉄男くんの右腕が止まっている点だった。
「さあ、見せてごらん。 その思いを・・・」
優しく、だが顔だけは狂気じみた笑みで囁く少年の声に、
胸倉を掴んでいた鉄男くんの左腕が徐々に力を無くして解かれる。
「真・・・」
「な、何・・・?」
彼は、彼はもしかして・・・と、僕は戸惑わずにはいられなかった。
「真! お前さえいなければ!!!」
そう言ったが早いか、鉄男くんは僕に飛び掛ってきた。
「くうっ!」
しかし皮肉な事か、前構えがあっただけに彼の素早い一撃を受け止める事が出来た。
「て、鉄男くん・・・」
彼の腕を掴み、僕はなんとか彼の腕を抑えようと押さえ込む。
しかし、彼の腕は先程より数段強い力で僕の手を解き放った。
恐らくこれが本当の彼の腕の腕力なんだろう。
さっきの戦いで見せた彼の腕力は、
心の何処かで僕に対して力を振るう事への戸惑いがあって、
多分ある程度の力を抑えて戦っていたんだろう・・・。
その彼の葛藤があったからこそ、鉄男くんは心の牢屋でうずく欲望を防げ、
僕は鉄男くんをなんとか説得出来たのだ・・・。
そしてその葛藤という錠が外れ、真に心から力が解放された今、
彼の持つ「ギガンテス」の力も真に発揮されたのだった・・・。
その心の錠を開ける鍵を差し込んだ力こそ、あの金髪の少年の持つ「力」、
マリオ・イセルタルの持つ「ハウントピクシー」の「悪魔の力」なのだろう・・・。
そう、僕は確信した。
「憎い! 憎い! 憎い!!!」
もう鉄男くんの目には僕しか見えていないようで、
「悪魔の力」を使って次々と壁や柱を破壊して行く。
受け止める事を止めた僕は、攻撃を交わす事に専念したせいか、
なんとか彼の攻撃に当たらずにいたのだが、
そんな僕も続けても戦いに体が持たなくなってきていた。
「やめてくれよ!」
「そうよ! やめなさいよ!」
僕と姫野ちゃんは二人して鉄男くんを止めようと声を掛ける。
しかし、一向に彼の攻撃は手を休めなかった。
「いいよ、いいよ。 それでこそ面白い見物だよ」
ケラケラと笑うマリオ少年の顔が見えた。
「君! 鉄男くんを止めたら、今度は君を倒すからな!」
そう、僕は強がって見せたが、鉄男くんを止める自身は無かった・・・。
「ふ〜ん、じゃあ、こうしたらもっと面白くなるかな?」
そう言うと、マリオは人差し指で姫野ちゃんを指差した。
「君、本当は眠いんじゃないの・・・?」
「え?」
急な質問に、姫野ちゃんは彼の視線を間に受けてしまった。
その瞬間だった。
マリオの人差し指がまた光ったかと思うと、
姫野ちゃんは糸の切れたマリオネットの様に床に崩れ落ちた!!
「ひ、姫野ちゃん!!」
とっさに僕は彼女に送られた「悪魔の力」に目を奪われ、足を止めてしまった。
その瞬間を、もちろん鉄男くんは見逃さなかった。
「ったぁっ!!」
大きく振りかぶった鉄男くんの攻撃をモロに受け、
僕は姫野ちゃんの真横まで吹き飛ばされてしまった!!
「ひ、姫野ちゃん・・・」
僕は、自分の体の痛みより彼女の方が心配だった。
しかし、彼女はスウスウと寝息をたてて寝ているだけだった。
「よ、良かった・・・」
そう思ったのがつかの間、僕の背中越しに鉄男くんの姿が見えた。
「これで・・・
終わりだ!!
『来る!!!』
そう、僕は確信してなんとか姫野ちゃんだけでもかばおうと、
精一杯の思いで彼女の上に乗っかった!
だが、逆にその行動こそ僕達が危険に陥ったのだっだ。
鈍い光を放ちながら襲い掛かる鉄男くんの手、それが今まで僕のいた場所に突き刺さった!
・・・と、同時に、その床が粉々に破壊されたのだった!!
無論、それは僕と姫野ちゃん、そして鉄男くんのいる床を壊した事になり、
僕達三人は破壊された床共々下まで落ちそうになった!!
「うわぁーー!!」
「っく!!」
急に無重力を味わいながらも、鉄男くんは近くの崩れていない床に手をつき落下を防ぐ。
僕はというと、壊された床部分は上半身のみだったので、
全身が落ちそうにはならなかったけど、
下敷きになっていた姫野ちゃんが完全に床下に落ちて、
なんとか僕の腕一本で支えられてぶら下がっている状態だった!!
「ひ、姫野ちゃん!!!」
しかし、そんな状態に陥っても、姫野ちゃんは眠ったままだった。
これが、「ハウントピクシー」の「力」なのだろうか・・・。
「ははは! 凄い、凄いよ! 面白くてワクワクしちゃうよ!」

・・・と、お腹を抱えながら大声で笑うマリオに、
今度こそ僕は、この少年、
マリオ・イセルタルを、金髪の少年を憎めそうだった・・・。



To Be Continued・・・



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神の左手 悪魔の右手