第19話 「行動」
「うわぁーー!!」
「っく!!」
狂乱する鉄男くんの使う「悪魔の力」の為、
僕達のいたコンクリート製の床はいとも簡単に破壊された!!
だが、鉄男くんは近くの崩れていない床に手をつき、なんとか落下を防いだ様子だったが、
僕はというと、壊された床部分から覗いた上半身に、
姫野ちゃんをなんとか僕の腕一本で支えている状態だった!!
「ひ、姫野ちゃん!!!」
「ははは! 凄い、凄いよ! 面白くてワクワクしちゃうよ!」
そんな危険な状態を見て、この状態を作った張本人はお腹を抱えながら大声で笑っていた。
今度こそ僕は、この少年、マリオ・イセルタルを、金髪の少年を憎めそうだった・・・。
「くっ!!」
僕の真下に下の階層が見える。 その高さは10メートルはあるだろうか。
偶然なのか、それとも計算されてなのか、この場所の下は階層同士が高く設計されていた。
しかもその場所には、今さっき壊された床の破片や小さなガラスの破片もありとても危険で、
僕としてはなんとしても姫野ちゃんを落とすわけにはいかなかった!!
『僕の右腕に彼女の、姫野ちゃんの命が掛かっている!!』
この思いこそ、今の僕に力を与える唯一の希望だった!!
「ま、待っててね・・・、姫野ちゃん・・・」
僕はなけなしの力を振り絞って彼女を救い上げようと、「ベルセルク」の腕に力を入れる!!
そんな瞬間だった!!!
「うわっ!!!」
隣にいた鉄男くんの手元の床が崩れたのだった!!
「て、鉄男くん!!!」
僕はとっさに左手を差し出し、彼の手を掴んだ!
その掴んだ瞬間に、僕の上半身に二人分の全体重が掛かって悲鳴を上げた。
「くっ!!」
『右手には姫野ちゃんを、左手には鉄男くんを。
こんな状態であの少年に攻撃をされたら・・・』
そう思うと、僕の背中と額に嫌な汗が流れた。
しかし、以外にも彼は攻撃をしてくる様子もなく、
ただ僕の行動一つ一つを楽しみ見つめるだけで、何もしてこなかった。
あくまでも傍観者でいるって事なのだろうか?
しかし、どっちにしても良い状況とはいえなかった。
「へぇ〜、頑張るね、君」
「・・・」
今の僕は返答をする余裕もなかった。
「これでこそ、ここに来た意味があるってもんだよ」
「・・・」
少年は、自分の言葉に何も言わない僕の態度が気に食わなかったのか、
今の僕に言ってはならない究極の選択肢を出してきた。
それは、もっとも嫌な選択だった・・・。
「さて、このままいても両方助けられないよ? じゃあ、どうする・・・?」
この時見た笑みこそ、悪魔の微笑と言うのだろう・・・。
「友情を取るか、愛情を取るか」
ここまでは彼が言うであろう言葉は僕にも想像がついた。
しかし、この後に続いた言葉が一番僕の心を傷つけた・・・。
「それとも、二人共、蹴落とすか・・・」
「なっ!!」
その動揺に、僕の胸の部分の床が僅かに崩れ、僕は一瞬両手を放しそうになってしまった!
「うわっ!!」
また一瞬、二人の体に得られたくない無重力が伝わった。
パラパラと僕の胸の辺りから砂煙の落ちる音が聞こえる。
その落ちる砂煙と一瞬の無重力を受け、姫野ちゃんが目を覚ました。 もっとも嫌な時に・・・。
「きゃぁあーー!!!」
「騒がないで!! 姫野ちゃん!!!」
グッと、僕は彼女を掴む手に力を入れ、彼女を押さえ込む。
だが、その反動でまた僕の胸下の床にヒビが入った。
「だ、大丈夫・・・だから・・・」
額に汗の流れる嫌な感触を我慢しながら、僕は精一杯の笑みで彼女に答えた。
「ははは!! さて、そのやせ我慢はいつまで持つかな?」
高らかに笑うマリオに、僕は初めて正直に殺意を抱いた。
「黙れ!! このヤローーー!!!」
「わっ! 怖い」
そんな僕の心中を知ってかいなか、挑発気味に驚くマリオ。
だが、彼はもっと酷い仕打ちを僕にしてきた。
「怖いから、君も黙ってもらおうか・・・」
マリオの指先がツツーと、僕の顔に掛かった。
『マズイ! あの視線を見ては・・・』
そう思ったが遅く、僕は彼の「悪魔の力」を受けてしまった!
「あう!!」
急激に眠気が襲ってきた!
多分、睡眠薬を飲まされたらこんな状態になるんじゃないだろうか?
確かに僕は色々あって疲れて眠かった。
しかし、今寝るわけにはいかなかった!!
だが、この僕を襲う急激な眠気は、今の僕にとって一番の強敵だった。
『マズイ!! 今寝ては・・・』
そう思った僕の行動は、こうするしかなかった・・・。
「っぐ!!」
一瞬の激痛、そして鮮血。
そう、僕は舌を噛み切ったのだ!! もちろん全てじゃなかったけど。
「へぇ〜、そこまでするんだ」
奇妙に関心するマリオに向かって、僕は大声で叫んだ!!
「貴様!!! 絶対にブッ殺してやふ!!!」
その叫び声と共に流れ出た僕の血が、下の姫野ちゃんと鉄男くんに飛び散った。
「ま、真・・・」
その僕の豹変振りに、姫野ちゃんは驚きを隠せない様子だった。
「れっ対に・・・、れっ対に・・・」
目からは涙を、口からは鮮血を、体全身からは熱と汗を出す僕の様子に、
マリオ・イセルタルは満足げに拍手を送った。
「じゃあ仕方ない。
本当は僕の手を汚したくなかったんだけど、僕自身がトドメを刺してあげようか」
そう言って、マリオは床の崩れた部分を迂回しながら僕の方へとやって来るのだった。
「クソ! クソ! クソ!!!」
僕はその死刑執行人がやって来るのを、ただ見つめる事しか出来なかった。
そんな時だった。
小さな声で僕を呼ぶ声が聞こえたのは。
「て、鉄男くん!」
どうやら彼は、床から落ちたショックで正気に戻った様子だった。
「良かった! 良かった!」
僕は精一杯の思いで涙を流し喜んだ。
だが、彼の顔に何かの決意があった事には気が付かなかった。
「聞け、真。 このままじゃ、三人とも殺される。 だから・・・」
そこまで聞いて、僕は心臓が止まる思いをした。
「この俺の手を離せ」
「嫌だよ!! 僕に、僕にそんな事が出来るわへないじゃん!!」
「黙れ! 真! あいつに気づかれる」
「でも! でも! 僕には出来なひよ!!」
「ああ、そうだろうな・・・」
さすがは僕の親友。 言いたい事は分かってくれていた。
しかし、僕は彼の事を良く解っていなかったのかも知れなかった。
「なあ、真」
「何?」
「俺達は・・・、親友なんだよな?」
「な、何言ってんだよ。 もちろんじゃないか!」
「じゃあ、俺の一番の願い事も分かるよな?
「願い事・・・?」
「ああ」
それは、多分姫野ちゃんと仲良くなる事だろう。 今までの彼の行動と言葉からして。
そう思い、僕は彼に告げた。 もちろん隣にぶら下がる姫野ちゃんにも聞こえる声で。
しかし、鉄男くんから帰ってきた言葉はちょっと違っていた。
「少し違うな、真。 俺は、神崎の笑顔が見たかったんだよ」
「え・・・」
その声は姫野ちゃんだった。
「でもな、俺の行動と言葉じゃ神崎の心からの笑みを引き出す事は出来なかったんだよ」
「・・・」
僕も姫野ちゃんも黙ってしまった。
「だからこそ、お前に俺の願いを叶えて欲しいんだ」
「え? え?」
僕は何故か赤面して動揺してしまった。
「だから・・・、頑張れよ、真」
その言葉を聞いて、僕は彼の気持ちが、今、ハッキリと伝わった。
「神崎・・・、いや、姫野」
そこまで言って言葉を区切り、そして彼は言ったのだった・・・。
「好きだったぜ!」
そう言って見せた彼の笑顔は、とても眩しくて、
そして、溢れ出た涙によってよく見れなかった・・・。
「鉄男くんーーー!!!!」
強引に僕の手の中から離れた彼の手に、僕はただ、叫ぶ事しか出来なかった・・・。
「いやぁーーー!!!」
そう、彼女も、ただただ、落ちて行く彼に向かって叫ぶ事しか出来なかったのだった・・・。
一瞬の轟音の後、辺りはとても静かになった・・・。
「なる程、そんな手もあったんだ」
僕の背の後ろで憎むべき男の声が聴こえた。
「コノヤローーー!!」
僕は今まで何処に隠されていたのかと思う程の力で姫野ちゃんを救い上げてそのまま放し、
その勢いでマリオに飛び掛った!!
だが、殴りかかったその場所には、マリオの姿形は無くなっていた。
「なっ!」
僕は辺りを見渡すと、僕の後ろ5メートル程の場所で、
あの黒髪の綺麗な女の人に抱きかかえてもらっていた。
それが、今日二回目の彼女の行動だった。
「大丈夫ですか? マリオ様」
「ああ、今のはちょっと助かったよ」
瞬間移動だった。
「こういう時は、本当に助かるよ。 ありがと、沙羅」
そう言ってウインクするマリオに、沙羅と呼ばれた女の人は、恭しく頭を下げた。
「いえ、私がマリオ様のお役に立てるのは、こんな事ぐらいしかありませんので・・・」
そう、彼女も「悪魔の力」の持ち主だったのだ。
恐らくここにやって来た時も、あの沙羅と呼ばれた女の人の「力」を使ったのだろう。
「汚いぞ! お前達!!」
僕はそう叫ぶしかなかった。
「そうかな? 戦略だよ、これは」
そう、ケラケラとマリオは笑った。
「勝つべくして勝つ為には、君の様な考え無しの行動だけじゃなく、
こうして安全策を持ってして戦わないと。 その為の戦略が君には無いよ」
そこで一旦言葉を区切る。
「でもまあ、今日は君も良い勉強になったんじゃない?」
「べ、勉強・・・?!」
「うん、単独行動の愚かさってやつが・・・さ」
「なっ!」
「だからこそ、僕はまずあの人を潰しに掛かったんだよ・・・」
あの人とは、鉄男くんの事に疑い様もなかった。
「そうすれば、君は単独になるからね♪」
そう言って、軽くウインクをする。
「だから、今度会う時はちゃんとした仲間を作っておくんだよ。
僕に潰されない、ちゃんとした仲間を・・・」
その、今度って言葉を聞いて、僕は彼らが逃げる事が分かった。
「今日はもう満足したから帰るよ。 じゃあね♪」
「ま、待て!!」
僕は慌てて彼らの所で跳び掛かった!
しかし、今一歩で彼らは何処かへ飛び去ってしまったのだった。
「今日は本当、お互いに楽しめたね。 じゃあ、また会う機会を楽しみに待っているよ・・・」
それが空耳だったのかどうかは分からなかった・・・。
To Be Continued・・・
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神の左手 悪魔の右手