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第25話 「感触」



「・・・」
「くっ!!」
無言で繰り返されるサイレントマスクの攻撃をなんとか交わしながら、
僕は何度か反撃をこころみようと思っていたが、
彼の激しい攻撃には、一向に隙は出来なかった。
しかし・・・。
「はあ!!」
何とか見つけ出した隙をついて、彼の持つ細身を剣を叩き落してみるが、
男は見向きもしないで、また新しい剣を「悪魔の力」を使って作り出し、
代わりに僕の突き出した「ベルセルク」の腕を切り裂いていく。
そして、男の左手が鈍く光ると、また新たに剣が増えるのであった。
それは、例え僕が剣を壊したりしても一緒の事だった・・・。
『き、キリが無い・・・』
ハァーハァーと、胸で息をしながら、僕は漆黒の鎧と仮面で包まれた男の姿を睨んでいた。
真っ黒の鎧が鈍く光らせ、中世さながらの仮面を被る男の戦術に、
僕も作戦を変えてみる事にした。
『あの男が剣を持っている限り、僕の攻撃は届かない。
なら、あの男の剣を奪って攻撃してはどうだろうか?』
そう、昔こんな話を聞いた事があった・・・。



・・・遠い遠い昔のある平穏な国が、大群の悪魔の群れに襲われた。
家は焼かれ、民衆は殺され、物資は大量に奪われ、街はパニックとなったそうだ。
そして、破壊に破壊された国の城に、とうとう悪魔の頭(かしら)が乗り込んできたのだ!!
危機を察した国王は、后妃や息子などを逃がし、自分と配下の兵士とで悪魔と対決したのだが、
しかし、悪魔の戦力が上だった事や、元々平穏な国で弱兵しか居なかった事が重なり、
結局、一人、また一人と兵士は殺されていき、とうとう国王ただ一人となってしまう。
そして、遂に自分の死期を悟った国王は、こう神に祈ったのだった・・・。
『神よ!! 我が命は失ってもいいが、ここに居る悪魔だけはどうか神の力で退治してくれ!!』
その国王の必死の願いが通じたのか、
光り輝く剣をかざした剣士が疾風の如(ごと)く現れ、
一瞬にして悪魔達を打ち払ったのだった・・・。

その後、この国はその剣士に救われたのだったが、
お礼をしようと剣士を探した時にはもう既に居なくなってしまっていた。
そのウワサを聴いた悪魔は、その剣士を皆殺しにしようと大群で襲い掛かったのだったが、
彼の力強く、華麗な剣舞には、どんな悪魔も鮮血の乱舞を踊ったのだった・・・。

このまま手をこまねいていては、自分達の命が危ういと考えた悪魔達は、
知恵に知恵を重ねてある作戦を考えた。
それは、こうだった・・・。
「剣士様! 剣士様! 何でそんなにお強いの?」
悪魔を打ち払い、一息ついていた剣士の下に、小さな女の子がやって来た。
「そうだね。 私はこの「光の剣」のお陰で強いのだよ」
そう言った剣士は、誇らしげに光り輝く剣を掲げた。
「本当?! じゃあ、私が持っても強くなれるかな?!」
「いや、君みたいな可愛い女の子が触る物ではないよ」
そう言って、ねだる少女をあしらっていたのだったが、
いくらあしらってもゴネル少女に剣士はとうとう折れ、
結局「光の剣」を見せてあげる事にしたのだった。
「本当?! 見せて!! 見せて!!」
「じゃあ、危ないから見るだけだよ」
だが、それこそ悪魔達の考えた作戦だったのだ!!
油断していた剣士の手から素早く「光の剣」を奪い取った少女は、
その剣で歴戦の勇者を殺してしまったのだった!!

そう。
結局、
彼の持つ武器を奪う事こそ、彼を殺す唯一の作戦だったのだ・・・。
こうして憎い剣士を殺害した悪魔達はその後、
剣士を殺した少女も殺してしまい、安泰な生活をおくったそうだ・・・。



この作戦に習って、僕はサイレントマスクの攻撃を交わしつつ反撃を食らわす為には、
あの彼の手にする細身の剣こそが有効じゃないかと考え、
床に転がる無数の剣のうちの一つを手に取ったのだった。
『昔話、聴いておいて良かったな・・・』
そう、ちょっと場違いな事を思いつつも、僕は握り締めた剣をかざす。
・・・が、しかし、よくよく考えてみると、
僕は「剣道オンチ」でもあったのだった。
『な、なんとかなるかな・・・』
急に弱気になってしまっていた僕に、遠目で見る御婆さんの声が聴こえた。
「ほお、「剣士に剣を」かい? なかなかモノを知っているのぉ〜」
どうやら僕が聴いた昔話の事を言っているらしい。
だが、僕はそんな御婆さんの声など聴いていられなかった。
目の前で黒光りする剣士が襲い掛かって来たからだ!!
「あう!!」
とっさに構えた剣のお陰でなんとかサイレントマスクの一撃を交わした僕。
その時、漆黒の仮面から覗いて見えた男の目に、僕は何かを感じた。
それは、僕があの「悪魔の力」を手に入れた洋館を見た時と
同じ感触だった。
『僕の本能が、何かを伝えている・・・』
だが、その感触より今は手に伝わる
男の剣気の感触の方こそ、
激しく僕の心に襲い掛かって来ていた!!
しかし唯一の救いだったのが、
サイレントマスクの腕力より「ベルセルク」の腕力の方が上だった事で、
何とか僕は男の剣気を弾き飛ばせた!!
「やあっ!!」
「・・・!!」
しかし、相変わらず無言で僕の攻撃に耐える姿に、
僕は神に見放された思いで胸が苦しくなっていた・・・。
だが、
運命の輪を回すのは結局悪魔だったようで、
「ベルセルク」の攻撃を受けたサイレントマスクは、着地の瞬間、
床に落ちていた「悪魔の力」で出した自分の剣によって足を滑らし、
見事に地べたに尻餅をついたのだ!!
勿論、僕はその瞬間を見逃さなかった!!
「ハァーー!!!」
大きな掛け声と共に踏み込んだ僕は、手に持った細身の剣を後ろに投げ、
その後ろへ伸ばした右手を大きく振りかぶる体勢でサイレントマスクに
渾身の一撃を込める!!
『今なら倒せる!!』
そう。 
今の彼はまだ地べたに尻を着けていた。
唯一彼が僕の攻撃を交わせるとしたら、彼の右手の下にある扉
(僕がここへ入る時に殴り飛ばした、あの扉の事だ。)で攻撃を受けるぐらいだが、
あいにくノブの部分は壊れて取れていて、片手で持って僕の攻撃を交わす・・・、
そんな芸当ができる様子もないでいた!!
「これで終わりだぁーーー!!」

渾身の力と思いを込めた一撃は、あの漆黒の仮面を打ちのめした様で、
季節外れの除夜の鐘を思わす金属音が、夏の夕空に響き渡ったのだった!!
『終わった・・・。 
いや、まだだ!!
手にしっかりとした感触を感じた僕は、
今度は僕にこの「悪魔の力」を与えた御婆さんへ
恩義を返そうと思って立ち上がったのだった。
相変わらずに猫背でニタニタと笑う御婆さんの姿に、
僕の心の奥に何か嫌なモノが走るのを感じた。
「さあ、あなたの仲間は倒した!! 
今度はあなたの番だ!!
自ら流す悪魔の血によって益々青く染める腕を突きつけ、
僕は鉄男くんが受けた痛みや思い、
そして、あのマリオ・イセルタルへの憎しみと同等の思いで埋められた、
痛々しい胸の内を吐き捨てる様な言葉を投げつけたのだった!!
だが、意外にも動じない御婆さんは、ヒヒヒと魔笑を浮かべたのだった。
「お前さん、もう勝った様でいる気じゃが、
ちゃんと敵にトドメを刺さないと、この先生きて行けないぞよ
「な・・・」
それは、正に一瞬の出来事だった。
その御婆さんの言葉を聞いて一瞬僕が戸惑っている無防備なところへ、
この見事な程の綺麗な一撃が背中に入ったのは・・・。
「あ、あれ・・・?」
何かが走り抜けた感触を確認する為に背に手を回すと、
ヌルっとした感触が僕の背と手に伝わった・・・。
「こ、これ・・・」
僕は自分の背中から流れ出る赤く熱い血を見、
それを見た一瞬のうちに天と地が回るのを感じ、
そのまま生暖かいコンクリートへと大の字に倒れこんだのだった・・・。
「ハハハ、まだまだ子供じゃのぁ〜」
そんな薄気味悪く笑う御婆さんの声を聴きつつ、僕は薄れ行く意識の中で見たのだった!
あの殴り倒した筈の男が、剣に付いた血を振り落としている光景を・・・。
そして、その男の足元には僕が殴り飛ばした扉と、
その扉と同じ物だったと思われる、中央部分がベッコリへこんだ扉が落ちてたのだった。
それを見た瞬間、僕はサイレントマスクの本当の「力」が分かったのだった。
彼の持つ「悪魔の力」は、
「手にした物をコピーし、いくらでも再生出来る能力」だという事を・・・。
『ま、まずい・・・』
そう、今度こそ僕は
「駄目」だと思った・・・。
背中の痛み。 遠ざかる意識。
そして、僕を冷たい世界へと連れ去ろうと歩み寄る、
漆黒の鎧を着た男の姿の為であった・・・。
だが、またしても意外な出来事が僕の視線の先で起こったのだった!!
「げ、元気・・・」
そう悲しそうに呟いたのは元気くんのお母さんで、
その声の先には、二本足で力強く立つ元気くんの姿が見えたのだった・・・。
「あにーをこれ以上傷つけたらダメーーー!!!」



To Be Continued・・・



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神の左手 悪魔の右手