第32話 「出会」
天に広がる青い空、退いては満ちる浜辺の波、
そして、沢山の水着の美女!!
そう、僕達は海に来ていた。
それは、あの数々の戦いで疲れ果て落ち込んでいた僕を励ます為、
姫野ちゃんが提案したものだった。
あの洋館で「悪魔の力」をバンシーに受け取って以来、僕は戦い続けてきた。
気色悪い蛇の悪魔、「マキュール」と阿久津と呼ばれていた男。
今まで色んな事をして遊んだり会話した僕の親友、鉄男くん。
そして、僕が殺してしまったとても可愛かった少年、元気くん・・・。
僕はもう一杯一杯だった。
もう何もかも投げ出したい気分だった。
しかし、幽霊となって出てきてくれた元気くんの言葉、
『あの時、止めてくれてありがとう』、
この言葉によって、僕は少しだけ救われた。
だけどこの一週間、僕は何もしない毎日を過ごしてきていた。
ただ朝起き、ただご飯を食べ、そしてただ寝る。
そんな毎日だった・・・。
時々窓を開け空を見る。 すると、青く広がる大きな空が見えた。
・・・この空の向こうに、あの元気くんはいるのだろうか?
そう考えると、また僕は居たたまれない気分になる。
そして、少しだけ涙が出たのであった。
恐らくそんな僕の様子を母から聞いたのだろう。
夕方、姫野ちゃんから電話が掛かって来た。
・・・海に行こう、と。
僕は落ち込んでいた。 理由は色々とあった。
でもこのまま落ち込んでいたら、また元気くんに怒られそうだったから、
僕は彼女の電話に答えた。
・・・海に行こう、と。
だがしかし、海に着いたとき、落ち込んでいたのは僕より姫野ちゃんの方であった。
「はい、光一さん。 喉渇いたでしょ?」
「ああ」
手渡された水を一口飲む光にー。 そのペットボトルが日の光を受けて輝く。
「・・・」
そして、それを無言で渡す。
「美味しかった?」
語尾の後にハートマークでも付きそうな甘い声で聞き返す彼女。
そんな様子を姫野ちゃんと僕が見ていると・・・、
「うわっ!!」
「はい!! 私からのジュース!!」
「あ、ありがと・・・」
背後からやって来た千紗ちゃんが、僕の頬に当てた冷たいジュースを手に笑っていた。
ええっと、説明すると、今僕にジュースを渡してくれた子は、朝倉千紗ちゃん。
歳は14歳で、髪が左右へお下げになっている元気一杯の女の子。
クリクリとした大きな瞳が印象的で・・・、
「何見てるの? やだ! 私に惚れたのね? うふふ」
「わ! 腕に巻きつかなくても・・・」
「いいじゃん! もー!」
どうやら僕は彼女に好かれちゃったらしい。
本来なら嬉しい事なのだろうけど・・・、何しろその後ろには・・・。
「あら、モテモテなのね? 真・・・も!!」
そう言って姫野ちゃんは僕の横を早足で行ってしまった。
あう。 ついてるのか、ついていないのやら・・・。
そんな彼女の視線が、一瞬光にーの方に向く。
その光にーの隣には、千紗ちゃんのお姉さん、朝倉美沙さんがいた。
そう。 これは僕も知らなかったのだが、光にーには彼女がいたのだ!
それを知らず、姫野ちゃんは僕と、オマケと言いつつ(もしかしたら僕がオマケだったかも?)
光にーも海に誘ったのだった・・・が、待ち合わせ場所で初めて彼女に出会い、
僕と姫野ちゃんはそれぞれ驚きの表情で彼女と対面したのだった。
海の家に着いた僕達五人はようやく一息ついたのだったが、
姫野ちゃんだけが元気がなかった。 ・・・あ、一応僕もね。
「はあ〜」
「だ、大丈夫?」
千紗ちゃんの腕を振りほどき、姫野ちゃんに声を掛ける。
「大丈夫よ!! あんたじゃないんだから!!」
あう。 怒られた。
「日射病かな? 暑かったからね」
そう言って濡れたタオルを優しく差し出したのは、美沙さんであった。
彼女の綺麗な髪がさらっと海風になびき、ここまでシャンプーの匂いが飛ぶ。
「あ、ありがとう御座います」
妙によそよそしい姫野ちゃんも、魅力的には充分美沙さんに負けていない。
だけど、彼女の綺麗さと姫野ちゃんの綺麗さとは全然違う。
何て言ったらいいんだろう。
姫野ちゃんの綺麗さは、全てが輝く光の綺麗さって感じだろうか?
その点、美沙さんの綺麗さは、全てを優しく包み込む暖かい日の光の綺麗さかな?
朝日と夕日。 夜空で輝く花火と線香花火。
キラキラと沢山輝く星屑と、優しく照らす満月の様な・・・。
同じものなのだけど、全然違う。 そんな対照的な二人だった。
「先輩! 早く海に行こうよ!」
そう言って僕の腕を引っ張るのは千紗ちゃんであった。
彼女は・・・、恐らく爆竹花火だろう。
「何が爆竹なのよ?! もう花火したいわけ? 後々!! まずは海! 海ぃ!!」
「そらーー!!」
千紗ちゃんが浜辺でビーチボール遊びを始めた。
「よ!」
それに続いて姫野ちゃんが浜辺で舞う。 う〜ん、さまになってるなぁ〜。
「何見てるの? イヤラシイ」
あう。 嫌がられた。
「お仕置き!!」
ぼすっ!!
「あう!!」
「あはは!!」
僕の顔面に綺麗なアタックが入った。
「あはは! 上手いね、千紗ちゃん」
「はい! 千紗バレー部だから!」
「へえ〜、私はバスケ部なのよ」
「わあ! 姫野さんはバスケやってるんですか?!」
「うん。 でも、ビーチバスケなんてないからね」
「そうですものね、あはは!」
僕はのけ者だった。
仕方なく、僕の顔面にキスしたボールを手に取り、お返しとばかりに投げ返した。
「わっ! 先輩やるぅ〜」
「見てろ! 僕だってやれば出来るんだからな!」
「はいはい。 さ、千紗ちゃん、行くわよ!!」
「はい!!」
え? 二対一なの?
・・・と、思った時は遅かった。
「あう!!」
「あはは!! 上手い上手い!!」
「千紗、ナイスぅ!」
こうして僕達は夏を満喫していった・・・。
昼時、僕と姫野ちゃん、そして美沙さんの三人は売店から戻る途中の会話。
「そう言えば、美沙さんって・・・、光一さんとは・・・」
そう質問したのは、焼きそばを持ちながら歩く姫野ちゃんであった。
その少し聞きづらかったと思う姫野ちゃんの質問を受けた美沙さんは、
同じく手に焼きそばを持ちつつ答えた。
「あ、分かっちゃいました? 同じ時計をしているの」
「あ、いや、そうじゃなくて・・・」
え?と、首を傾げる美沙さん。 そんな彼女の様子に戸惑う姫野ちゃん。
その間にいる僕は、早く光にーの元に戻りたかった。
「えっと、その、どうやって知り合ったのですか?」
付き合ってるのですか?と、多分聞きたかったのだと思うけど、
姫野ちゃんの口から出た言葉は違った。
しかし、そんな彼女の質問に、優しい声と、そして遠くを見つめる目で美沙さんは語った。
「あの人にはね、私から声を掛けたの」
「・・・」
「・・・」
僕と姫野ちゃんは、二人して黙って聞き入ってしまった。
「「私と、付き合って下さい!!」ってね」
そう言って舌を出し笑う美沙さんの顔は、とても幸せそうな顔つきだった。
その幸せそうな顔が、余計に姫野ちゃんの心が痛んだのだろう。
その後、僕達が光にーの所に戻るまで一言も喋らなかった事を思うと・・・。
「あ! 焼きそば!!」
屋台から戻った僕達を見つけて、大声を上げながら飛び跳ねていた。
「はいはい、待っててね」
しかし、待ちきれない彼女はバタバタと足音(砂浜だから、実際は聴こえないけど。)をたて、
僕達三人の方に走って来る。 ホント、この暑い中でも元気な子だな。
・・・と、思っていたら、
「あ! 危ない!!」
美沙さんが叫ぶ。 しかし、遅かった。
「何すんじゃボケ!!」
あちゃ〜、人相悪そうな大男とぶつかっちゃったよ。
「あ、ごめんっ!」
一応謝り、また走ろうとした彼女だったが、大男は彼女を赦さなかった様で、
ぐいっと、彼女のお下げを引っ張った。
「きゃ! 何するの!!」
「それはこっちのセリフじゃわ!」
あわわ! 気の強そうな彼女は、更に気の強そうな男に突っかかった。
だが、彼女が突っかかったのは言葉だけじゃなかった。
パチン!!
ザワザワとした浜辺でも聞き取れる程のいい音が響いた。
「レディーの髪に勝手に触るなんて、あんたサイテー!!」
「こ、この野郎・・・」
叩かれた頬が赤くなったのは叩かれた為か、それとも怒ったからであろうか?
「もう勘弁ならねぇ!! こうしてやる!!」
「ああ! 危ない!!」
僕は手に持った焼きそばを捨て、男の手を止めようと走った。
だが・・・、
「止せや、大将。 ここじゃぁ〜喧嘩はご法度やで」
そう言って振りかぶった大男の腕をつかんで止めたのは、
正しく「海の男」と呼べそうな色黒の青年で、背中には「阪神」と書かれたシャツを着ていた。
「な?!」
「それに、ここじゃアンタも暴れられんだろ?」
ニヤっと、不敵な笑みで言う青年。
「・・・」
その言葉の意味は最初僕には判らなかったが、この時の二人には意味が通じた様で、
「ケッ! 覚えてやがれ!!」
・・・と、捨てセリフと吐いて去っていった大男であった。
「あ、ありがと!! あんたカッコいい〜!!」
「だろ? だろ? ワイってカッコええだろ?」
「うん。 真先輩よりはね」
え? 僕ってカッコいいの?
そう思ってちょっと顔を赤くしてしまう僕。
そんな僕に向かって二人の視線が向く。
「先輩!! 焼きそばは?」
「あ・・・」
僕は手を広げる。 勿論手には無い。
「・・・」
そうだった。 僕、焼きそば投げちゃったんだった。
「ご、ごめん、投げちゃった」
「ええぇー!! 何やってるの、先輩!!」
「あう。 ごめんね」
「こいつが真か?」
拍子抜けした顔つきでやって来た青年は、僕の顔を見て更に顔をしかめた。
「そうよ? カッコいいでしょ?」
「だから、腕は組まなくていいって」
又しても腕を組んできた彼女と僕を見て、青年はあははと笑った。
「ワイの方がカッコええで」
「んーもう! 真先輩の方がカッコいいの!」
「ワイの方や!!」
「先輩!!」
あう。 なんだかなぁ〜。
二人の睨み合う視線の間で、僕はあははと笑うしかなかった。
こうして僕達の夏は楽しく、そして騒がしいものとなって始まったのであった・・・。
To Be Continued・・・
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神の左手 悪魔の右手