第34話 「開戦」
「なんやそれ?! あいつそんなにガキなんか?!」
それは、この浜辺で出会った秋葉玲司さんの心中を表したものだった。
その驚きようは彼を言葉だけでなく、飛び上がって僕を見つめる目つきからも想像が出来た。
そこまで秋葉さんを驚かせたものとは、実は姫野ちゃんであった。
勿論彼女が直接秋葉さんを驚かるようなことをした訳ではない。
まあ、平手打ちはしたけど・・・。
じゃあ姫野ちゃんの何が彼をあれだけ驚かせたって言うと、彼女との歳の差によってであった。
何でも秋葉さんは姫野ちゃんに一目惚れをしてしまったらしかったのだ。
勿論大人の女性として・・・、である。
確かに彼女は顔は可愛いし、スタイルも抜群。
それに、これは僕も驚いたことなのだが、彼女、胸も方も十分大人だったのだ。
ああっと、別にそこだけ見てた訳じゃないよ?
でもね、あんな真っ赤なビキニを着られちゃうと・・・。
う〜んっと、まあそんな訳で彼女はとにかく歳の割にはナイスバディーの為に、
23歳の秋葉さんでも惚れてしまった訳なのだ。
ちなみに姫野ちゃんの歳は、僕と同じで15歳なんだけどね。
・・・で、そんな彼女を見つけた秋葉さんは、
ちょっとした事件でいつの間にかに僕の知り合いになっていたのだ。
その事件とは、光にーの彼女、朝倉美沙さんの妹、千紗ちゃんが起こした事件だった。
まあそんな大した事でもないんだけど、
その彼女がちょっとした事で男の人をぶつかっちゃったんだ。
その男がこれまたコワモテな大男で、さすがに僕は彼女を助けようと飛び出たんだ。
だが、そこを狙ってたのが秋葉さんだった。
「止せや、大将。 ここじゃぁ〜喧嘩はご法度やで」
この言葉を聴いたときは、カッコいい人だと思ったんだけどなぁ〜。
助けてもらってから今まで色々と話をしてたんだけど、
どうも彼は姫野ちゃんと同じ、「喋らなければ」いいタイプの人間で、
話せば話す程最初に思ったイメージがどんどん崩れていっちゃって・・・。
そんな時だった。
「秋葉さん、こんな所にいたんですか!」
浜辺で話していた僕と秋葉さんの背後から、急に誰かが声を掛けてきたのだ。
僕より頭一つ分くらい背が低くてちょっとだけ色黒な彼は、
夏の日差しを受けて眩しく僕の目に映った。
「ああ、源五郎か」
その青年、源五郎くんは、間の抜けた秋葉さんに間髪無く喝を返した。
「ああ・・・じゃないっすよ!! 店長怒ってますよ!!」
どうやらバイトをサボっている秋葉さんを呼び戻しに来たバイト仲間らしかった。
「さ、早く!早く!」
「へ〜へ〜」
首根っこを捕まえられてズルズルと引きずられて行く秋葉さん。
あ、扱いが慣れてる・・・。 恐らくいつもこうなんだろう。
だが、急に思い出したかの様子で秋葉さんが男の子に声を掛けた。
「あ、源五郎。 あいつ「デビルハンズ」やで」
この言葉を聴いて、僕は夢から急に現世へ叩き起こされた気分に包まれた。
いや、現世から夢を見始めたとでも言った方が良かったのか・・・。
「え?」
同時に同じ言葉を発した僕と源五郎くん。
その表情も同じ。 声も同じ。 そして、その後にとった行動も一緒だった。
「おいおい、お前ら何構えとんじゃ!」
それは無意識にとった行動だった。
僕は左腕で顔を隠し、自由な右腕はいつでもパンチを打てる状況を。
目の前の彼は彼で、左手を前に突き出し右手は力拳を作っていた。
「しかし秋葉さん! こいつ、デビルハンズなんでしょ?!」
秋葉さんのなだめる声を聴いても緊張した顔つきを変えない彼は、
確認の為か再度足元で横倒れる秋葉さんに聞く。
しかし、秋葉さんから返ってきた答えは、
源五郎くんの問いとは対照的に、気の抜けた口調だった。
「ああそうや。 左腕にソウルスターの跡があんねんからな」
「!」
僕はとっさに左腕を隠す。 見られてはいけない物を隠すように。
しかし、その行動が逆に彼へ確信たるものを与える事となってしまった。
「やはり・・・。 こうなったら、今ここで!」
っく!! やはりこの子、敵?!
彼が突き出した左手に力を込め始める。 そして、素早く呪文のようなものを唱え始める。
「僕の中に眠る、「天使ユーノ」よ! 悪に染まる敵を撃つ為に・・・」
え? て、天使だって?! しかし驚いてなどいられない! 早く構えないと!!
だが、その一瞬の戸惑いが、彼に隙を見せる結果となってしまった。
彼が構えた左手の前に、一瞬にして現れた白い弓。
そして、右手に持ったクリーム色に染まる細長い矢が、一直線に僕の心臓を捕らる!!
「くらえ! 悪魔よ!!」
や、やられる・・・。
しかし、僕を救ってくれたのは、意外にも秋葉さんだった。
「おいお前!! 人の話聞かへんかい!!」
しかし、秋葉さんは怒鳴るだけでは飽き足らず、
自分の頭の上で構える源五郎くんのパンツをガッチリ掴み、
フン!!と、両手で力一杯引きずり落としたのだった!!
「!!」
「!!」
ボーボーだった・・・。
「な、何するんですか?!」
真っ赤に染めた顔で慌てて自分のパンツを履く源五郎くん。
そんな彼に、ちょっと負けた気分になった僕・・・。
「お前が人の話を聞かへんからや、ボケ!」
「だって、あいつは・・・」
動揺しながらもパンツを履き終えた源五郎くんは、
やっと立ち上がった秋葉さんに涙目で訴える。
しかし秋葉さんは腰を屈め、グイっと源五郎くんの胸倉を掴んだ。
「忘れるな、源五郎。 ここにはまだ客が居る。 喧嘩はまだや」
ドスの利いた秋葉さんの声に、彼は黙り込んでしまった。
た、助かった・・・のかな?
しかし、源五郎くんの胸倉を離してから僕の方を睨む秋葉さんの表情が
まだ険しいものだったことに、僕は更なる警戒心に汗が湧き出てきた。
「おい、真」
「は、はい!」
怖さのあまり、背筋がピンとなってしまった情けない僕。
だって、それ程の怖さがあったんだもん。
あのあか抜けたあの秋葉さんの表情が、ここまで強張って僕を睨むから・・・。
「・・・」
無言のまま歩み寄って来る秋場さんは、ついに僕の目の前までやって来た!
そして・・・
「わっ!!」
肩を鷲掴みされる。 やばい! もしかして僕を捕まえに油断させたのか?
それだけの想いが過ぎる程の力で、僕は肩を掴まれたのだから。
そして、彼はさっきより更に低い声で一つ一つゆっくりと口を動かした。
「真」
「な、なんですか・・・」
真剣な秋葉さんの目。 それは、一代決心した男の目であった。
嗚呼、僕はやられるのか・・・。 こんな綺麗な目をした人に・・・。
そんな覚悟の見えざる衣が僕の心を包み、思わず目をつぶってしまった。
だがその衣は、意外な彼の言葉に剥ぎ取られた。
「真、姫野ちゃんにこれ渡して来てくれ」
・・・はい?
僕は耳を疑ってしまいつつも塞がれた目を開くと、目の前に小さなメモが差し出されていた。
そのメモにはこう書いてあった。
『今日の6時、浜辺の外れで貴女の愛を待ってます。 玲司より』
「・・・」
「・・・」
「これ、なんですか?」
黙りこける秋葉さんに、僕は頭が混乱して聞き返してしまった。
「何って・・・、デートの約束や」
あまりに真剣に言う彼の目を、僕はゆうに10秒程見つめてしまった。
「あ・・・、はあ〜」
・・・呆れてそれ以上言葉が出なかった。
しかし、そんな僕の返事に満足した彼は、暑い日ざしに歯を輝かせながらニコニコと笑う。
「そぉ〜か、そぉ〜か! ほな、任せるで!!」
そして、あはは、と、笑いながら何度も僕の肩を叩き終えた後、
待たせたな、と、今度は源五郎くんの背に手をやり、お店のある方へと行ってしまった秋葉さん。
そんな彼の行動の後、結局残されたのは僕は、
渡されたメモを手に力無く立ち尽くすことだけしか出来ないでいたのだった・・・。
「なんやお前!! メモ渡さんかったんかぁ?!」
それが再度会った時の秋葉さんの声だった。
「あう。 い、一応渡しましたよ!」
「じゃあなんでお前一人なんや!」
「だって姫野ちゃん、行くのやだっていうから・・・」
あの後、僕は確かに受け取ったメモを姫野ちゃんに渡したのだ。
しかし、彼女は受け取ったメモを見た瞬間に顔色が変わり、僕の方睨んで・・・
「あんた、何考えてこんなの貰ってるのよ?! 返して来て!!」
と、突っ返してきたのだった。
仕方なく僕は、こんな人気の無い浜辺の奥で一人居る秋葉さんの所にまで来たのだ。
「なんや! ホント使えん男やなー」
呆れた感情を声と態度で表す秋葉さん。
「はあ、ごめんなさい・・・」
と、僕も力無く塞ぎ込んでしまう。 何故だか判らないけど。
小波(さざなみ)の音が妙に響く。 それに続いて砂が流れる音も続く。
そんな音々が、更に僕の心を落ち込ませていった。
『ホント、メモの一つもちゃんと渡せない僕って・・・』
そんな落ち込みような僕の様子に、秋葉さんがボソっ言った。
「ま、ええわ。 まだ振られた訳じゃないしな」
その彼の言葉に、そうなのか?と、僕は疑問に思いつつもうつむいていると、
秋葉さんが僕の頭の上にぽんっと優しく手を乗せた。
「しゃぁ〜ない。 次は頼むで」
結局、秋葉さんは姫野ちゃんの事を諦めた訳ではなさそうだったが、
僕の事についてはもう怒る事はなかった。
「ほな、行くか!」
そう、海をバックに秋葉さんが笑った時だった。
「ここに居たか、小僧!!」
そう言って僕と秋葉さんの前を塞いだのは、昼に千紗ちゃんがぶつかったあの大男だった。
「誰だあんた?」
その言葉に、一同静まる。
「秋葉さん!! そいつ、デビルハンズですよ!!」
・・・と、慌てて裏手の岩肌から出て来たのは源五郎くんだった。 勿論あのエプロン姿で。
その彼と目の前の男を交互に見て、あ!と、秋葉さんは手を叩いた。
「いやぁ〜、あん時はサンキューな!」
あれ? ちょ、ちょっと、秋葉さん。 この人怒ってるんだよ?
だが秋葉さんはお構い無しに挨拶を済ませ、男の横を通り過ぎようとする。
「待てや、小僧!!」
当然の彼の意見だった。 しかもオマケで手も出る。
だが間一髪で男のパンチを避けた秋葉さんは、足早に源五郎くんの所まで下がった。
「なんや? ワイが礼を言ってるのに、そりゃないやんけ?」
『この人、もしかして場の空気が読めない人?』
そう僕は疑ってしまう。 それはあの男も一緒だったようだ。
「バカかこいつ?」
そう言って僕を見る。
『恐らくそうかも』
僕は心の中でそう呟いた。
「秋葉さん!! あいつがあの男を連れて来たんですよ!
あの真とか言う悪魔が!!」
「ええ?!」
驚いて声を上げた僕は、慌てて弁解するが、源五郎くんは話を聞かずに叫び続けた。
「だから言ったんですよ! 悪魔なんか信じるなって!」
酷い言われようだった。 一応腕意外は人間なんだけど・・・。
だが、更に熱を上げる源五郎くんは、例の弓を構えて戦闘態勢を取り始めた。
「さあ、秋葉さん!! 早く構えないと、あの二人にやられちゃいますよ?!」
え? あの二人って・・・?
そう思って僕は後ろを振り返る。 当然そこにはあの大男だけ。
否な予感がして更に振り返ると、
源五郎くんが僕の顔目掛けて引き絞った弓を放したのだった!!
「わっ!!」
間一髪で矢を避ける。 だが、その反動で尻餅をついてしまったけど。
『ま、真面目に?』
そんな調子な放心状態の僕に手を差し出したのは、あの大男だった。
「ほら、立って構えろ。 やられるぞ」
ほえ? 何々? 僕はいつの間にかにこの人の味方に?
そして、この状況から求められるもう一つの答え。 それは・・・、
「なんや真!! お前、敵だったんか!!」
当然の結果だった。
こうして僕は、全然関係のない見知らぬ男達の戦いに巻き込まれていったのだった・・・。
To Be Continued・・・
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神の左手 悪魔の右手