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第40話 「帰宅」



「ただいま・・・」
「あら?お帰りなさい。 バイトはどうだったの?」
「うん。 楽しかったよ。 でもそれ以上に疲れちゃったから、また後でね・・・」
疲れ果ててゲッソリしている僕とは対照的に、
おやおやと、いつもと変わらない明るい表情で出迎えてくれた母を他所に、
僕はさっさと自分の部屋への階段を上ったのだった。
「やっと帰って来た・・・」
そこまでは覚えている。
だけど、それから母に起こされるまでの間の記憶は無かった。
「あらあら、マコちゃん。 着替えもしないで寝ちゃって」
「ん〜。 で、ナニ?」
眠たい目を擦りながら一応は起きた僕は、母に聞き返した。
「もう。 ご飯できたから呼びに来てあげたのに」
え?と、机の上の時計を見た。
8時だった。 どうやら帰って来て、そのまま3時間も寝ていたらしい。
「さ、早く降りてきなさいね。 今日はご馳走なんだから」
「はい・・・」
適当に母を追いやった僕は、渋々着替えをすることにした。
ワザワザ帰って来たからって、ご馳走なんか作ることないのに・・・。
始めはそう思ったのだが、この後僕は意外な人物に出くわすのだった。

・・・と、ここまで話したけど、何故僕がこんなにも疲れ果てているのかは話していなかったね。
僕もついつい寝ちゃったからね。
じゃあ話しましょう。
ここまでの辛〜い約1ヶ月の話を・・・。



約1ヶ月前、僕は姫野ちゃんに誘われ近くの海へと出掛けたのだった。
それは、「悪魔の力」を手に入れてから数々の事件に気が滅入ってしまった僕を
心配してくれた姫野ちゃんの提案で、
夏休みに入っていた光にーやその他の知り合いも一緒に行ったのだった。
だが、僕はそこでまたもや「悪魔の力」を持った人物に出会ってしまったのだった。
まあ、1人は「悪魔の力」じゃなく、「天使の力」だったんだけど。
その力を持つ1人、「秋葉玲司」さんと、偶然(必然?)的に戦う事になった「修三」さん。
その彼ら2人に出会った事によって、
僕はいろんな意味で自分の弱さを再確認する事となったのだった。

今まで僕が手に入れたこの「悪魔の力」を使うに当たっての動機は、
「大好きな姫野ちゃんを守りたい」が為であった。
しかし、この「悪魔の力」を使うに当たって一歩間違えれば、
あの阿久津やマリオ・イセルタルの様に人を傷つける事も出来るのだ。
それ程、この力は危険な物だったのだ・・・。
その力に、僕は押し潰されそうになっていたのだが、
そんな力を手にしても明るく陽気な秋葉さんや、
何か強い意思を持って生きる修三さんに出会い、考えを聞き、話し合ったことによって、
改めてこの「悪魔の力」との共存と自分の未熟さを思い知ったのだった・・・。

だから、僕は秋葉さんに鍛えてくれる様にお願いしたのだった。
左腕に6つのソウルスターを持つこの人なら・・・と。



こうして意気揚々と強くなる為に頑張ろうとする僕の最大の悩みが、
母へどう理由を付けて家を離れるというものだった。
だって、まさか家から海辺に毎日通ってたら電車賃が掛かっちゃうし、
それに特訓と言うからには合宿みたいに家を離れて別の場所に泊まってもみたかったし。
幸いこの事を話したら秋葉さんは、
「ワイらが働いているバイト先で一緒に寝泊りしたらええねん」と、
思いもつかなかった名案を出してくれたのだった。

でも、実際に母に言うのは緊張がいるものだった。
「あ、あの・・・」
「どうしたの? マコちゃん」
一度家に帰った僕は、居間で寝転んでテレビを見ていた母に、
今までに無い緊張した表情で言った。
「ねえ。 僕・・・、泊りがけでバイトしたいんだけど・・・」
今まで僕は何度か旅行をした事はあったが、その時はいつも家族が一緒だった。
しかし、今回は1人での旅行。 しかも泊りがけで。
一体何て言われるのか・・・と、そんな思いでうつむき加減になっていた僕に、
母からの返事は簡潔したものだった。
「・・・あらそう。 ちゃんと毎日電話するならいいわよ」
「ホ、ホント?」
意外な返事に、思わず聞き返してしまった。
「ええ。 マコちゃんが居ないと淋しいけど、
マコちゃんもたまには外の空気を味わうのもいいかもね」
と、寝転んだままで話していた母が起き上がって僕の肩に手をやり、
「それに、マコちゃんが居ないと、母さん手抜きが出来るからね」
と、優しく微笑んだのだった。

この時、僕を止めなかった母の意外な言葉に気が付かなかったのだが、
この事をたまたま秋葉さんに話したら、
「本当はお前の事を止めたかったんとちゃうか?」と、言われたのだった。
じゃあ何故母は僕を止めなかったんですかね?と、聞き返すと、
「甘い、甘い。 お前、何だっけ? 名前忘れたけど、仲の良かったガキが死んだんだろ?
そんな大事があって落ち込んでた息子が、海から帰って来てそんな一言言ったら、
海で何かあったっちゅう事だろ? まあ、ワイはそんな事ぐらいで落ち込まへんがな」
と、短くなったタバコの火を消した。
でも、それは僕が海に行ってストレスとか悩みが発散されたからじゃないですか?と、僕。
そしたら秋葉さんは僕の頭に手をやり、
「阿呆。 そんな事ぐらいで落ち込みが治るんだったら、大した落ち込みやないって事だろ?」
そう言ってニカっと笑い、
「つまり、海で何かあった。 そんなお前がまた海へ行きたいと言った。
普通に考えたら、そこには何かあるって考えるだろう?
それに今までそんなお願いをしなかったのに、初めてそんなお願いされ、しかも反対したら、
そりゃぁ〜お前の自立する瞬間を邪魔すると思うだろ〜なぁ〜。
だから止めなかったんとちゃうかぁ?」
と、ポンポンと頭を叩いた。
そして、ケラケラと笑いながら僕に言ったのだった。
「そういうもんなんだよ。親っていうんわな」
なる程、と、僕はこの時になって初めて母の気持ちに気づき、
しかもその母の気持ちを読み取った秋葉さんが妙に大きく見えたのだった・・・。



そんなこんながあったけど、特に問題無く秋葉さんの所へ戻った僕だったのだが、
この時僕はまだ特訓というものを甘くみていたのだった。
普通に起きて、ご飯を食べ、バイトをし、その後に特訓だと思っていた。
だが、現実は違った意味で激辛という様な1ヶ月だったのだった。

では簡単に話すと、秋葉さん達と過ごした1ヶ月はこんなものだった。
朝7時、バイト先で雑魚寝する僕達3人はこの時間に起床する。
まあ、この辺は普通だった。
・・・と、そうそう。 ここで僕は初めて源五郎くんとの誤解を解く事が出来たんだ。
どうやら源五郎くんは、この夏の始めに両親が大怪我をしたそうなのだ。
ただ、それが普通に生活していて大怪我をしたというのならまだいいのだが、
実は彼の両親が大怪我をした原因というのが、
何と
長い爪を両手に持つデビルハンズのせいだったと言うのだ!!
その源五郎くんの父親なんだけど、何と学校の先生で、しかももっと驚いたことに、
僕らが通っている中学校の先生だったのだ!!
で、唯一そのデビルハンズから逃げれた源五郎くんは、
「天使の力」を手に入れ(どうやって手に入れたかは話さなかったけど。)、
たまたま家の近くの海で秋葉さんと出会い、
今日まで僕と同じように鍛えてもらっていたのだった。

で、話を戻すと、起きた僕達はご飯を食べるとすぐにバイト先へ直行。
ここで夕方まで働き、後片付けを済ませるのが大体夜の7時。
つまり12時間近くも働きっぱなしである。
その後、「お前はまず体力を鍛えなアカン!!」と、秋葉さんに言われ、
1人孤独にランニングを済ませるのだ。
源五郎くん曰く、秋葉流の登竜門だそうだ。
・・・で、ランニングから帰ると11時を回っていて、その後にご飯を食べシャワーを浴びるのだ。
そうすると、勿論特訓は無し。 っていうか、疲れて出来なかった。
そして布団へバタンキュウと、倒れこむ・・・と、
もう朝って感じのサイクルが大体2週間もあっただろうか?
さすがにこんなサイクルがこれからも続くのかと疑問に思っていた次の週は、
ちょっとした夏に見合った事件があった。
そう。 幽霊事件である。
まあ、この辺の話は長くなるからまた別の機会に話すとして、
結局秋葉さんに鍛えられたのは最後の1週間だけだったのだった。


無論、この1週間はムチャクチャハードだった。
朝は早く、勿論バイトもちゃんと済ませ、その後は組み手だった。
だが、その組み手も凄かった。
だって、
秋葉さんは1人で僕と源五郎くんの2人を相手にしていたのだから。
でも、これが当たらない当たらない。
それでいて秋葉さんは逃げているだけでなく、
ちゃんと僕達を攻撃してくるんだから・・・、かなり悔しかった。
・・・で、この特訓の内に僕が秋葉さんに当てた攻撃はたったの3回だけだった。
代わりに僕達が秋葉さんから受けた攻撃は、その10倍以上もあった事に、
僕達2人は本当に強くなったのかなぁ〜と、聞きあったものだった。

そんな組み手特訓の1週間の締めくくりが一番ハードだった。
それは何と
、家までのマラソンだった・・・。
「ほらほら!! チンタラ走っとんじゃないで!!」
と、走り始めたのが今日の朝早く。
・・・で、やっとの事で家まで走って帰って来たって訳なのだ。



・・・と、いう訳で、疲れ果てた身体を引きずりながら居間に下りて行った僕に、
ご馳走なんか食べられる気力と体力がある訳が無かったのだ。
「あらあら、もうパジャマに着替えちゃったのね?」
台所から料理を運んでいた母は、まだ半分寝ぼけていた僕に仕方ないわねと言った。
「だって着替えなさいって言ったの母さんじゃない」
と返した僕に、母はクスクスと笑いながら台所へ消えた。
「まあいいけど。 ちょっとお客さんに失礼かなってね」
「お客さん?」
誰だろう? 父さんの知り合い?と、聞いてみた。
すると母はちょっと驚いた感じで言い返してきた。
「あら? マコちゃんのお客さんじゃないの」
え? 誰だ?と、僕も驚きつつ居間を覗いて見ると・・・、
「お? ようやく起きて来たんか、真。 ワイ、腹減ってもうダウン寸前やぁ〜」
と、
フォークとナイフを両手に構えていた秋葉さんが居たのだった・・・。



To Be Continued・・・



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神の左手 悪魔の右手