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第43話 「警戒」



「あ、あれは普通の襲われ方じゃないって、どういう意味なの?!」
あまりの驚きと秋葉さんの行動と言葉に、僕は混乱気味な足取りで家の外に出ると、
少し早く冷たい秋風が風呂上りの僕らの身体を寒く包み込む。
そして澄み切った夜空からは、こぼれ落ちるような月明かりが街を照らし出していた。
「あれはな、デビルハンズにやられたものや。 見てわからんかったんか?」
何かを警戒する様子で辺りを窺(うかが)いながら、秋葉さんは説明してくれた。
「あのあんちゃんの服、焦げてたやろ?」
「え? あ、み、見てなかったです」
「はあ? いつも言ってるやろ、「相手をよく観察せえ」って。 まあ、ええがな」
とりあえず辺りに誰も居ない事を確認した秋葉さんは、
ゆっくりと僕のいる玄関前まで戻ってきた。
「今日び、喧嘩するのに火を使う奴なんざおらへんて。
あれはきっと「悪魔の力」を持ったデビルハンズの仕業や」
「え? で、でも、それだけで判断しちゃ・・・」
姫野ちゃんがあの阿久津という男に絡まれて以来、親友だった鉄男くん、
病院で知り合った元気くんといい、
もう僕の知り合いがデビルハンズ事に関わるのが嫌だったのだ。
その為、僕は一番身近な光にーが彼らに関わるなんて事は考えたくもなかったのだった。
だが、秋葉さんはそんな僕の甘い考えを厳しい一言で打ち砕いた。
「あのな、真。 
こんな物身に着けた日にゃ、そういう可能性も考えなあかんで!
「はぁ・・・」
勿論、こんな物とは「悪魔の力」の事だ。
「それにな、何故デビルハンズのせいやって言える根拠もあるんやで」
「根拠?」
「ああ」
そう言って胸を張って軽く咳き込んだ秋葉さんは、近場の小石を拾って絵を描き始めた。
「これを「ここ」と説明するとな・・・」
手に取った小石をコンクリートの地面に押し当てて小さな円を描いた秋葉さんは、
その小さな円の周りに更に大きな円を描く。
そしてその円と円の間に線を引き、30mと大きく書いた。
「ワイはな、さっき風呂に入った時、ついでに結界を張っといたんや」
「結界?」
「ああ。 風呂の湯使ってな、この家を中心とした半径30メートルに水の結界を張ったんや」

水の結界。
それは秋葉さんの持つ「悪魔の力」、「スメルキリュア」を使った、
目に見えない薄い膜の様なものだそうだ。
その結界は普通の人や物とかが触れても素通りしてしまうので破れることはないけど、
「悪魔の力」を持った者だけが触れると破けるという特殊な能力を持った、
一種の
悪魔感知レーダーだそうなのだ。

「その結界がな、さっきのあんちゃんが帰って来た直前に破けたんや」
「そ、そんな!! そ、それじゃ光にーはデビルハンズに襲われてたって・・・」
「だからそう言ってるやんけ」
やっとの事で理解した僕に呆れた秋葉さんは、手をパンパンと叩き辺りを見回す。
「恐らくな、まだこの辺に居ると思って外に出たんやけど・・・」
しかし秋葉さんの予想は外れ、外には誰も居なく、ただ夜風が僕達を包み込むだけであった。
だが、秋葉さんはまだ警戒を解かない。
「来なへんな」
「ですね」
パジャマにサンダル姿で飛び出してきた僕達は、
無意識に玄関前から道端まで足を運んでいた。
その時であった。
「な、なんやこの匂い?」
「うわっ! 臭っ!!」
強烈な匂い襲われ、僕達は涙目になりながら鼻を押さえ込んだ。
それは今までは感じていなかった夜風が運ぶ排気ガスと木々の匂いの中に突然現れた、
魚が腐った匂いを更に強烈にした様な、今まで嗅いだことのないとても臭い匂いだった。
「やっばいで、この臭い。 なんなんや?!」
手に持った悪魔降臨手引書を落としそうになりながら、
秋葉さんは怒りながら辺りを見回した。 すると・・・
「臭いとは失礼だな。 同志よ」
と、低く、でも澄み切った声が闇の中から聴こえてきた。
「何?」
同志、と呼ばれた事に反応した秋葉さんは、
明らかに嫌な表情をして声のした闇に視線を投げかけた。
するとその声の持ち主は、暗闇よりゆっくりと僕達の前に姿を表したのだった。
「この大切な道具を「臭い」とは失礼ではないか?と、聞いているのだ」
その声を発する男は、夜の闇より更に真っ黒なコートを羽織った細身で長身の男だった。
「こんな夜更けにサングラス。 尚且つその変な帽子。 明らかに怪しい奴やな、お前」
そう。 その長身の男は、こんな暗闇なのにサングラスを掛け、尚且つ縦長の黒い帽子姿。
そしてその手には大きな袋を肩に抱えていたのだった。
秋葉さんに言われるまでもなく、
明らかに怪しい男だった。
「こ、この人がデビルハンズでしょうか?」
「こんなケッタイな格好する奴、ワイは友達にいないからな。 恐らくそうやろ」
そう言った秋葉さんだったが、彼の普段の態度や性格からならこんな友達がいないと言われても
いまいち「そうですか」と反応が出来なかった。
だってそれ程秋葉さんも変人だってことは、この夏休みの間で分かったのだから。
「どや? お前デビルハンズか?」
どう聞いても誤解のないような問い掛けを長身の男にすると、
秋葉さんは僕の横で軽く構えをとった。
「確かに私は「悪魔の力」を持つ者だ」
簡潔に、だがこれも誤解のしようのない返事を返した男は、
少しずれ落ちたサングラスを軽く指で掛け直した。
「な、何故光にーを襲ったんだ!!」
遂に耐え切れなくなった僕は、思わず彼らの会話に割って入ってしまった。
「ちょ、ちょい待てや」と、慌てて僕の肩を掴んだ秋葉さんだったが、
僕も負けずにその手に対して、「待てません!」と彼の手を振り解いてしまった。
「何故光にーを襲ったんだって聞いてるんだ!!」



もう誰も、僕の知る何も知らない普通の人達に、この問題に関わってほしくない!!



その思いに、僕は一歩前に出て長身の男に怒鳴ってしまった。
だが・・・、
「「光にー」・・・? ああ、あの少年の事か」
と、軽く流す様に男は言った。
「知ってるのか?! やっぱアンタが光にーを!!」
そこまで言って、僕は男に掴みかかろうと走っていた。
「真!! アカン!!」
突然の僕の暴走に止めに入ろうした秋葉さんだったが、
僕の方が一歩早く走り出していたために捕まえる事は出来なかった。
「コノヤローー!!」
その怒りの感情に反応してか、僕の持つ「悪魔の力」、「ベルセルク」が発動した!!
だが、その拳が男の顔に届く前に、真横の道から出て来た筋肉質の男に腕を取り抑えられた。
「待て待て、拳の勝負なら俺が相手だ!」
「っく!!」
僕の腕を捕まえたその男の握力は物凄い力で、振り払おうとしても全く歯が立たなかった。
「黙れ!黙れ! うるせーガキだなー」
『この腕、全然外れない』
何度も何度も腕を振りほどこうとする僕に長身の男が声を掛けてきて、
「同志よ。 ここでは戦い辛いだろう。 場所を変えるぞ」
と言って、1人でさっさと歩き出してしまった。
「おいおい、待ってくれよ、アニキ!!」
急に仲間が居なくなってしまって焦るもう1人の男は、「お前らも来いよ」と声を掛け、
慌てながら後を追いかけてしまったのだった。
「っく・・・。 痛ったぁー」
「大丈夫か? 真」
やっと開放された手首を撫でていると、心配してくれた秋葉さんが声を掛けてくれた。
「ど、どうします? 追いかけます?」
「当たり前やろ。 喧嘩売られて買わなきゃ男が廃(すた)る!!」
それは彼にとって聞くまでもなく、ごく当たり前の返事だった。



美しが丘公園。
春には桜が咲き、秋にはイチョウの紅葉で綺麗に輝くこの公園が僕達の戦いの場となった。
この公園は僕の家の側にあり、広さも結構あってそれぞれの季節には沢山の人が集まるが、
さすがにこの時間帯には誰も居なかった。
「さて、始めはどっちが相手だ? え?」
妙に挑発的な筋肉質の男は、自分の鍛えられた筋肉を見せ付けたいのか、
この寒い秋風の吹く中で白いシャツにジーパンという、まったく季節感の無い格好だった。
「石井よ。 早く済ませるのだ。 「これ」が傷む」
「これ」とは恐らく背に抱えた袋の中身の事だろう。
あの強烈な嫌な臭いからして、あまり関わりたくなさそうな物だったけど。
「お前か、光にーを襲ったのは!!」
と、声を掛けたが、今度はシッカリと秋葉さんに肩を掴まれていた。
「「光にー」? 誰の事だ、それ?」
今正に戦おうとする僕の質問に、石井と呼ばれた男はとぼけた表情で僕に言った。
「とぼけるな!! 
「火の力」を使って光にーを襲ったのはお前らだろう!!」
「「火の力」?」
「ああ、そうだ!! お前の持つ「悪魔の力」か? それとも後ろの男の力か?!」
怒りの為か、震えの止まらない僕を軽くなだめる秋葉さんの声。
「待て、真。 落ち着け」
「わ、分かってます・・・けど」
そんなやり取りの間に割って入ったのは、
目の前の男ではなく後ろで話を聞いていた長身の男だった。
「その「火の力」を持つ男は我々ではない。 我々はだた採集をしていただけだ。 同志よ」
同志、同志、と、やたらに連発する男に、僕も秋葉さんも好感を持てなかった。
「そ、そんな事、信じられるか!! 嘘付いてるな!!」
動揺のためか、怒りのためか、僕は引き下がれなくなって大声を上げたのだが、
彼らが言っている事が正しかった事に気付かされたのは、この後すぐのことだった。
「ま、俺は喧嘩やるならどっちでもいいけどな!!」
パンパンと、拳を叩くやる気満々の男、石井。
その様子を後ろで冷ややかに見つめるサングラスの男。
その2人の正反対な性格に、僕は更に警戒心を持ったのだった・・・。



To Be Continued・・・



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神の左手 悪魔の右手