缶ビールに向かってときどき考える 僕がここにいることを 誰も知らない時に 僕はほんとうに そこにいたのだろうか ぬるくなったビールを飲みながら そんなことを友達が つぶやいていた 僕は酔っぱらって ぼんやりと君のこと考えていた だけど 友達は 僕がここにいなかったなら おなじことを つぶやいたろうか 缶ビールに向かって 君が泣いているときに いつも 僕はそこにいなかった いつかまた 君が引き裂かれるときにも きっと そこに僕はいないだろう 君の生きている時間と場所では 僕はいないことのほうがむしろ当たり前のことで つまり そういうことなんだ だから僕は歴史を勉強する もう何千年も生きてはみたけれど どんどんひどい気持ちになっていく その時僕はどこにいたのだろう 君が君の闇から手を伸ばした時に 僕は何をしていたのだろう その時も僕は 君のこと考えていた 君のことを考えて だけど 君のことは見ようともせずに おなじように 詩や文章を書いていた それが何かの証になるように信じ込んでいた それで何か永遠に似たようなものを 生み出しているような気持ちになっていた
新緑の森へ新緑の森へ行こう 森の真ん中を見つけに行こう 森の終わりを探しに行こう 森のてっぺんまで登りに行こう 新緑の森に行こう たくさん森を笑わそう すこしだけ意地悪もしてみよう そんで 森の弱みを二人で握ろう 新緑の森へ行こう 植物の真似をして森と仲良しになろう 動物の真似をして森をからかおう そんなことに飽きたら 恋人の真似をして 森とは関係なく 二人だけで遊ぼう
国立駅にて 通過する急行列車の窓から 長い髪の少年が手を振っている 一瞬瞳を見つめあい どこか遠くへ走り去っていった いつだってこんなふうに僕は 人とすれ違ってきた 低気圧が近づいている 雨雲が僕の空にたちこめている 今にも涙がこぼれおちそうで それもきっと ただの気のせいだ ほんとうは かなしい気分があるだけで 他にはなにもない 退屈だからそれをいじっている すこし気持ちが良くて かなりむなしい それも 気分だけど ポケットの中に隠していた ひとかけらのドライアイス 空気に触れた瞬間に 煙になって消えた 手のひらに残された痛みを いつまで僕はおぼえているだろう 7月のプラットフォームに立ち尽くして 遠ざかる電車を見つめていた 僕の心を満たしたものを 君に伝えたい 忘れてはいけない こんなふうにしか 僕たちはありえない
ただ一問の質問に
こんな夜に 思い出すのは君の友達の話 「自分がどうしてここにいるのか わからない」 そうつぶやいて 17歳で時を止めてしまった 女の子の話 とても騒がしい飲み屋に二人でいた 耳に顔を付けるようにして 僕ら話していた 君はその人のそばにいられなかった 自分を責めていて 慰める言葉を探しながら僕は すこし違うこと考えていた 背の届かない海に泳ぐことも 慣れてしまえば怖くはないのかな 怯えたまなざしはみんな どこに隠しているのかな たしかとても酔っぱらって僕は 君の事が好きだって言った 勢いなんかじゃなかったよ それが何かの理由になるんじゃないかって その時は信じていたんだ 遠く離れて 思い出すのは君の友達の話 尋ねてはいけない質問を 投げかけてしまった女の子の話