宇野薫とのエキシビジョンを終えた高阪が自分の胸を指しながら言った
「リングスは自分のここにあります」
「俺のなかにもあるぞー」と会場の誰かが応えた。
高阪はいつもの淡々とした調子で続けた。
「安心して下さい。僕が闘う所がリングスです」
会場がわきあがった。僕も声にならない声を上げた。
いつかのマイクアピール。
「前田さん亡き後のリングスを・・・」と語った高阪に、暖かく苦笑いした日を思い出した。
あれからどれだけの年月が流れたのだろう。
いつも「加速する格闘技界の流れに乗り遅れたら過去の存在になる」と
控えめに警鐘を鳴らしていた高阪の姿も思い出した。
最後のマイクアピールは、
結局「前田亡き後のリングス」を支える事はできなかった高阪の
精一杯の言葉であるように思えた。
一試合一試合複雑な気持ちが去来したリングス最終大会で
唯一素直に感動する事ができる瞬間だった。
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センチメンタルな気分になるのは、そんなに嫌いではないのだ。
2月15日。リングス最後の日。
仕事をばっくれて横浜へと向かう東横線の中で、
ヘッドフォンで音楽を聴きながら、
無意識のうちに僕は「切ない感じ」を楽しんでいたように思う。
でもこれはリングスの最終興行なのだ。
そんな「泣きに行く」みたいな感じで良いのかなぁとも思っていた。
ぶっちゃけて言えば、観戦記をどう書けば感動的かなぁとか、
そんな事すら考えながら、そんな事を考えてる自分を意識しながら
電車に揺られていた。
横浜文体に来るのは、何年か前の田村−山本の2戦目以来の事だ。
午後五時半。関内駅からは会場に向かう流れが出来ていた。
こんな事はいつ以来の事かなぁとぼんやりと考えながら入場する。
会場に入るとグッズ売り場にすごい行列が出来ていた。
Tシャツが1000円でポストカードが100円くらいだったらしい。
僕はビデオの列に並んでみたものの、
前の人を押しのけて「お得な買い物」を探そうとしている自分に気が付いて
また自己嫌悪に陥ってしまう。
自分はこの最終大会に何を求めているんだろう。
場内に入る。2階席の正面最前列という、なかなかの好ポジション。
リングに目をやると、出場選手がひしめき合うようにウォーミングアップをしていた。
遠目だから誰が誰だかはよくわからなかったけれど、
ほぼ全員の選手がいたのではないか。
去年から参戦している矢野卓見選手、最初で最後の参戦になる宇野薫。松本秀彦。
彼らがリングスに対してどんな思いを抱いていたのかはよくわからないけれど、
最後の最後にリングスに「間に合った」男たちが、
そのリングの感触を、自分の体に刻み込むようにしていたようにも見えた。
なぜだか、リング上の選手たちがとてつもなく羨ましく思えた。
会場は2階3階の安い席が超満員。1階はいくつかの空白が見受けられる感じだった。
(最終的には満員だったけど)
もう客の入りとかを、おせっかいに気にする事は無いんだよなぁとか思いながら、
パンフレットに目を通す。色々な人の言葉を読む。
糸井さんはいつものように文学的に前田日明を語っていた。
「リングスの為に何が出来るか。それが今年のテーマです」
いつかのWOWOWでの糸井さんの言葉に強く共感した時の事を思い出す。
ただ受け手でいるだけでなく、何か積極的に関わりたくなるような、
そんな吸引力がリングスにはあった。
リングスの為に自分は何ができるのだろうか。そんな事を考え続けてきた日々。
糸井さんにとっての答えはなんだったのだろうか。
僕は結局、大した事はできなかった。
7時を若干過ぎてVTRがスクリーンから流れる。
そして開会式。前田日明の「第一次リングス」という言葉にホッとした雰囲気が流れる。
でも微妙に違和感を感じたりもした。
そう。
1月の後半からの、「リングスは終わらない」という報道を聞くたびに、
僕は現実をどうとらえていいのかよく分からなくなった。
前田が強がるのは良い。
だけどもリングスファンとして、
この時点で見つめなければいけなければならないものは確かにあるように、僕には思えたのだ。
第一試合。
「日明兄さん、もう一丁」とプリントされたTシャツを着て、ヤノタクが入場する。サンボ松本は異様な肉体。
バチバチの打撃を身につけてきた松本は、小谷とやらせたい感じ。
対するヤノタクは観客が飽きが来ようとお構いなしでフニャフニャ戦法を貫く。
この人にとっては、入場からの全てが表現であり、主張なのだろうと思う。ひねくれてるけど芯が通っている。
試合は裏拳でダウンを奪ったヤノタクのポイント勝ち。
勝ったヤノタクがリング上から前田日明に正座で挨拶する。
ある意味、王に謁見するような雰囲気。リングスのリングで闘ったものだけの特権。
一体ヤノタクは前田日明に何を伝えたのか。
読唇術で解読したい気持ちになった。
(以下 続く)