新橋からゆりかもめに乗って有明へ。
花火大会へと向かう浴衣の女の子のうなじを見ながら
全11試合の行方に思いを馳せる。
空想のなかでヘイズマンはシムにアームロックを決め、
高阪はゴムマリのようにTKシザースで回転する。
金ちゃんは踵落としを決めるかな?いつかの後楽園ホールのようにリングスコールは起きるのかな?
空想の中で遊んでいるとノロノロのモノレールもさほど気にならない。
空席の目立つ有明コロシアム。
いつからか会場に入るとまずその客数を気にする癖がついた。
「リングス社員じゃないのに」と彼女に笑われる。しかし今日の入りは相当悪い。
代々木第二あたりを満員にしてやる方が盛り上がるのになとか、これまた社員になって考える。
でも、この虚勢を張る感じも含めてリングスだよなぁとか思い直す。余計なお世話ではあるが。
ロビーに出ると前田日明やハンがサイン会を開いていた。
そして田村や坂田、成瀬からの花輪が飾られる。
すこし感動していると、「そんなの社交辞令よ」と彼女。軽い殺意を覚える。
山本憲尚からの花輪だけ見つからず、それもいかにも彼らしくちょっと笑った。
開会セレモニー。前田日明がテーマ曲に乗って登場。
これでは「元気ですかー!!」とやってもおかしくない演出だ。
引退式をあれだけ地味にやった前田らしくない。なぜか少し痛々しいものを感じる。
第1試合はヘイズマンとシム。気合が入りすぎてすぐにバテてしまうヘイズマン。
シムは異様に腰が強くトップをなかなか取らせない。こいつは本当に強い。
しかしそれが客に伝わる前に敗北した坂田と田村も気の毒だ。
水面蹴りまで出して必死に切り崩しを試みるヘイズマン。しかし届かない。
ヘイズマンはヘイズマンで、
10周年大会という事とわずかに残った昔からのリングス勢である事を
相当に心に期している事が伝わってくる。いつかの国別対抗戦を思い出す。
タリエルに必死に食らいつき一本を奪ったヘイズマン。彼の真摯な姿が大好きだ。
判定は2−0でシム。
第2試合。アローナとホーン。
この格好いいブラジル人をプライドに行かせてなるものかと必死でホーンを応援する。
なぜスター性のある外人の敗北を望まなければいけないのか。
この屈折こそがリングスファンの醍醐味である。
双眼鏡で見るグラウンドの攻防は見所があった。
若魚のように躍動するアローナ。
詰め将棋のように動きを制していくホーン。5分があっという間に過ぎていく。
しかし大会場の観客にどこまで伝わったか。
またハイレベル同士だけにディフェンスに重きが置かれていたようにも感じた。
場内スクリーンがあればもう少し違っただろうに。
判定でアローナ。ちょっとだれてきた会場。
第3試合。ミーシャとホフマン。
グローブを着けずにグラウンド勝負を仕掛けていくミーシャ。
序盤は片足を取ってのテイクダウンに成功していたが、徐々に厳しくなってくる。
しかしあのホフマンを何度も持ち上げて上を取っていくミーシャの姿は美しかった。
2Rやってドロー。しかしミーシャは怪我で棄権。ホフマンが決勝に勝ち上がる。
第4試合はヒョードルとババル。
リングス期待のヒョードル、
っていうかここでヒョードル負けたらどーするんだよというムードが場内を満たす。
しかしヒョードルは強い。
でたらめな軌道を描く高速フックと、異様な腰の強さでババルを寄せ付けない。
グラウンドではガードに付き合わず、上からパンチを落として圧倒する。
つまりババルが田村や高阪に使った戦法だ。
ババルのビデオを研究し尽くして、
その結果相手の勝ちパターンを逆に使う事を指示したのは間違いなくハンだろう。
作戦を可能にするヒョードルの身体能力も含めて
ヴォルク・ハン格闘術の執念と凄みを感じた。深読みかもしれないが。
そして劣勢のババルは下からの足関節狙いで逆襲する。
久しぶりに見る必死のババルも良い。
極めに行く積極性はむしろババルの方が上まっていたようにも感じる。
それを難なくかわしていくヒョードルも凄いが。
判定でヒョードル。「本っ当に良かったね〜」と彼女に語りかける。
何を言ってるの?という顔をされる。 まだまだ教育が足りない。
15分の休憩。缶ビールを買って場内に戻る。
響き渡る「ワルキューレの騎行」藤原喜明の入場だ。
第5試合。ハンと藤原のエキシビジョン。
双方とも黒のスパッツで、
「これはあくまでエキシビジョンだかんね」と 客に訴えているようにも感じた。
これも深読みではあるが。(以下「深」で略)
旧リングスルールということで、
「久しぶりにエスケープが見たい!」という期待が場内に満ちる。
しかし場内にロストポイント掲示板は無く、お互い技をかたくなに切り返す。
あるいはどっちかがエスケープしたら
勝者と敗者が決まってしまうという思惑もあったのかもしれない。 (深)
後半に差し掛かるにつれて、ハンのカニバサミを藤原が強引に逃げたり、
藤原のコンビネーションにハンが声をあげたりと
微妙な緊張感も漂っていたようにも思えた。(深)
10分フルタイムを終え、お互いを抱き上げる両者。
藤原は花道で足を引きづっていた。
そしてリングスネットワークの各国代表を表彰するセレモニー。
白シャツにサングラスのドールマンが異様に格好いい。
表彰式でザハリエフさん(だったかな?)の名前を読むことのできない前田に
パコージンさん(だったと思う)が助け舟が出したりして、場内に暖かいムードが流れる。
藤原とハンの試合からこのセレモニーへの流れが10周年大会のなかで一番良い時間だったように思う。
前田の周りに暖かい空気が流れると、
なんだか救われたような気持ちになる。
僕は前田の弱さとさびしさが好きだ。
ヒョードルの勝利から、一連のセレモニーでようやくいい感じになってきた会場。
第6試合は新人・横井とフィエートだ。
フィエートのセコンドにはドールマン。抜群の迫力がある。
絶対にこの人は複数の人間を殺してる気がする。
フィエートもいつもの不敵なパフォーマンスを完全に封印。かわいいぞフィエート。
試合が始まると同時につっこんでいく横井。フィエートは見事なカウンターをあわせる。
崩れ落ちるがなんとかごまかしてグラウンドに持ち込む横井。
落ち着いてポジションを取っていく。グランドパンチの正確さはヒョードルのよう。
最後は危なげなく腕十字に仕留める。
ひとしきりガッツポーズした後に、ふいに大切な事を思い出す横井。
この日一番のグランドムーブでロープ下に滑り込み前田に挨拶。相当笑う。
第7試合はアターエフとアーロン・ブリンク。
ヘビー級の総合の試合で後ろ回し蹴りがまともにヒットするのを初めて目撃した。
「打撃出身選手による、総合仕様にアレンジし直した打撃」
バトジェネで見た村浜の打撃に近い感動を覚える。
フィニッシュはまたしてもカウンターの左フック。
おそらく顎をかすめるパンチじゃないか。
突進してくる相手にショートフックでカウンターを合わせるなんて尋常ではない。しかも2試合連続で。
リングスがどんなにやばくなっても、
ヒョードルとこのアターエフがいれば乗り切れる。それほどの才能。
次はあえて滑川あたりと当ててほしい。
第8・9試合はトーナメント決勝戦。
大会前からこのカードの並びはおかしいと考えていた。
リングスが「場」を目指すのならば、
10周年大会はあくまでもこの決勝戦をメインにするべきだった。
純粋な強さだけが唯一の価値として目指される場。
それが現在のリングスを貫くテーマではなかったのか。
最近好カードを連続しながら、
どんどん盛り下がっていくリングスをとりまく現状について、最近考え続けていた。
思えば去年の4・6・8月の大会は異様にテンションが低かった。
KOKという発明はその残酷さと美しさの強度によって、
それ以外の試合から価値を奪ってしまっているのだ。
通常の大会において、異なったテーマを探したとしても、
あの圧倒的な大会以上の吸引力を発揮できない。
それが去年、田村が味わった地獄だった。
8試合目以降、リングスが現状抱えている問題点、
KOKという発明の光に頼るなかで放置してきた問題点が次々と露呈していく。
その酷さに会場では絶望的な気分になったが、
今はそれは再生の為の必要な過程であったようにも思う。
8試合目のアローナとシム。
アローナのラッシュでコーナーでダウンするシム。
即座に塩崎レフリーが割って入りストップするが、
シムにダメージは見受けられず猛烈な抗議を始める
この2年間、同じようなシーンを何度も見たが、その度に会場は騒然としていた。
その事について全く改善が無いことが、納得ができない。
ダウンの定義が明確でなく、
さらに一度のダウンで試合が決するという事自体に観客を納得させるだけの力が無いのだ。
これがもしボクシングであったとしても1ダウンで試合が決するルールになったら
相当フラストレーションがたまると思う。
グランドでの顔面打撃がない以上、
続行不能な深刻なダメージであるかどうかを見る時間を持っても問題は無いと思うのだが。
もしリングスがそうじゃないと考えるにしても、
観客や選手に対しての何らかの対策はするべきではなかったのか。
このような場面の時に必ずレフリーがとまどいの表情を見せることが全てを物語っている。
9試合目、ホフマンとヒョードル。
なかなか入場が始まらず、入場して来ても帽子すら取ろうとしないホフマン。
この時点でイヤなムードは流れていた。
スタッフがばたばたする中、
双方の国歌演奏とコールまで行ったあげくにホフマンの棄権。
この試合がこの大会を決定付けたように思う。
ホフマンの怪我自体は不可抗力だ。
しかし、その事に対する処理が最悪だった。国家を聞かせる事に何の意味があったのか。
体裁を整える為と言われても仕方がない。
あれは入場前に前田自身が経緯を説明するべきだったと思う。
この時のリングドクターのマイクも、
アローナ戦での塩崎さんのマイクも、彼ら自身の声には聞こえなかった。
塩崎さんはストップの後、確認を求めるように前田の方向にさかんに視線を飛ばしていた。
そんな状況の中でスポーツ化など本当に可能なのか。
リングスは「場」であると前田は語る。
しかしそれは理想である。現在のリングスはあくまでも前田日明の団体である。
いや
リングスが前田の団体であること自体には異は唱えない。
僕らは前田とリングスの両方が好きでここまで付いてきたのだから。
しかし現在のリングスは、
とても低いレベルでの「前田の団体」になっているように思う。
前田日明の虚勢は美しい。しかし現実を認識した上でのものでなかったら空疎になってしまう。
間違えてはいけない。リングスが前田の団体だと言っても、
求められているのは、テーマ曲でのリングインではない。
リングスの現状に対するシビアな認識であり、
それを踏まえた上でのしたたかな未来図を持った上で
それを前田自身の言葉で語ることだ。
10試合目。高阪とグロム・コバ。セコンドには宇野薫。
コバのタックルはかなり良かったが、立ち上がり際の高阪の膝蹴りでKO。
マイクでファンに対する感謝を述べる高阪。秋には日本でジムを開くらしい。
高阪の夢はファイターたちの開かれたネットワークを日本国内で構築する事だろう。
高阪には前田に意見するできるような存在になってほしい。
そしてメインイベントは金原とマット・ヒューズ。異様に力強いヒューズ。
レスリング技術で常に上を取り、
スタンディングでも何度も何度もリフトアップしては金原をマットに叩きつける。
その度に愚直にアームロックを狙って腕を取りに行く金原。
生真面目な彼が今日のメインに感じていたプレッシャーを思うと涙が出そうになる。
必死な分だけいつもの攻撃の柔軟性がなく、単調になる。
押され気味のまま試合が終わり、判定で金原は敗れた。
足早に去っていく観客を見ながら急速に疲れが押し寄せてくる。
勝負は時の運。今大会にはアクシデント的な不幸も相当あった。
でも、それだけではない。
リングスの現状の問題点はただ一つ。
リングスは何を伝えたいのか。
それがどのようにすれば伝わると思っているのか。それが見えなかった。
金原の背負っていた物、
ヘイズマンのこの大会に掛けた思い。それを見るものに伝えようという努力が見えなかった。
モニターを設置し、WOWOWで流す紹介ビデオを会場でも流す事がなぜ出来ないのか。
全く理解できない。
マニアックなグラウンドの攻防が分かる人だけの楽しみでいいのか。
今日この会場に足を運んだ客のなかには、かつてのリングスファンも多かったはずだ。
おそらくその層は「変わってしまったリングス」の認識を強くしただけではなかったか。
本質は変わってないはずではないのか。
「真剣勝負でしか表現できない感動や興奮を多くの人にわかりやすく伝えること」
それが今も昔も変わらないリングスの良さなのではないのか。
リングスの目指す場所とそこに至る道は、もしかしたら前田には見えているのかもしれない。
しかし、それが共有されていない。観客にもおそらくスタッフにも全く伝わっていない。
少なくともこの大会では見えなかった。
それが見えれば、どんなに規模が縮小されようともどんなに離脱が続こうが何の問題は無い。
どこまででも付いていく。
生意気かもしれない改めて書く。
信じる道があるのあらば、わかりやすい言葉と方法でしっかりと伝える努力をもっとするべきだ。
少なくとも僕は前田の口からそれが一番聞きたい。
リングス10周年記念大会。ヒョードルやアターエフ、横井という未来への希望も見えた。
だが、安易にそれに寄りかかってはいけない。
もっと基本的な努力でリングスは抜群に良くなるのだから。