田村はそこにいなかった  〜2003年8月 PRIDEGP 吉田戦〜  
この闘いは、田村の歴史の中でも大きな転換点になると思います。 あの試合はなんだったのか、あそこでもし勝っていたら・・・などなど 何度も何度も考えると思います。   一冊の本のように、その時その時で新しい思いが生まれてくるような そんな闘いだったと思います。  


 

田村にはテーマが無かった。あるいはテーマを自分自身のものとする事ができなかった。
つまりそういう事だったんだろう。
誰もが違和感を抱いた田村の入場。
「FLAME OF MIND」でもない、Uのテーマでもない曲がかかる中、田村は入場した。
そう、それは田村のテーマでもなければ、UWFのテーマでもない、本当に「何のテーマでもない曲」だったのだ。
伸ばした髭、手には小太刀もない。
誰かがその髭面を見て「ヤマケンみたいだった」と語ったけれど、本当にそうだった。
敗戦という結果がそう思わせるのかもしれないけれど、
何もテーマを持たず、いたずらに追い詰められた表情は、本当にダメな時のヤマケンのようだった。
 
 
一日経って思う事は色々ある。
試合後にも浮かんだ後悔。
最初のダウンの時に、もっと突っ込んでいければ、
バックマウントの時に、落ち着いて効果ある打撃を入れる事が出来たら、
そして終盤。ミドルで欲を出さずに、ローとパンチで距離をキープする事が出来たら、
色々な分かれ道が目の前に浮かぶ。
田村にも勝機はあった。かなりあったのだ。
テレビの中継を見返しても、緊張感のある戦いであった事は再確認できた。
すくなくとも「田村は弱くはない」という事を示す事ができたように思う。
 
 
だけど、そんなの事は大した事ではない。
田村が評価されるのは嬉しいけれど、それは本質的な喜びではない。
「銀メダルだったけど、次はがんばります」的な世界。
それこそ、吉田の生きてきた世界じゃないか。
田村は、そういう勝ち負けだけの為に戦ってきた選手ではないはずだ。
 
 
目の前を離れないのが、試合直後の田村の姿だ。
マットをドンドンと叩きながら、悔しがっていた田村。そんな田村を見るのは初めての事だった。
田村は何を悔しがっていたのだろうか?
 
 
勝てる試合をみすみす落としてしまったから? それもあるとは思う。
負けて初めて、敗北の持つ意味の大きさを実感したのか?
それもある。だけどシウバ戦の後の打ちひしがれ方
「犯罪者になってしまったような」と語ったそれとは、異なっていたように思う。
 
 
ここからは推測だ。
田村はあの試合で、100%の田村ではなかった。
敗北の瞬間、その事に気付き我に返ったのではないか。
そう。いつでもメッセージの固まりであり、
勝とうが負けようが、何かを確実に客席に届けていた田村は、あの日どこにもいなかった。
 
余計なものを背負いこんだり、勝手な思い込みで自分以外のものを代表したりして、
それによって自分の力以上ものを発揮したり、全く発揮できなかったりする、
だからこそ、勝とうが負けようが、観るものに何かを刻み込む。
それこそが<田村の戦い>であったはずなのに、
あの試合は、そうではなかった。その事に気付いたんじゃないか。
 
 
VS柔道でもいい。VSプライドでもいい。桜庭への嫌味な対抗心でもいい、何だってよかったのだ。
田村が自分で何かにフォーカスを絞り、テーマを自分の物にする事が出来ていたならば、
敗北にも意味は生まれる。
しかし、あの試合にはそれは無かった。
田村は殺しも、殺されもしなかった。
本当に悔しい。
 
 
試合後には吉田がうそ臭い顔で、うそ臭いマイクアピールをかましていた。
別に話すべき事が無いのなら、何も話さなければいいじゃないか。
負けた腹いせじゃないけれど、吉田のマイクはいつだって全く無意味だ。
僕には、いまだに吉田が何の為にあのリングで戦っているのかわからない。
 
 
結局田村は、吉田のあのノッペリとした世界に巻き込まれてしまったという事なんだろう。
ハラハラドキドキの試合? 鮮やかな決着にスッキリ?
あの試合が残したものは「吉田は胴衣を着たら強いなぁ」とか
「やっぱ競技人口の多い世界でトップに立つアスリートの身体能力は凄いなぁ」とか
ただ、それだけの感想だけだ。
僕らが明日生きていく事に、この世知辛い世の中を生き抜いていく事には、全く関係しない。
ああ、イヤだ。
 
 
田村は花道を引き上げる時、客に手を上げて答えていた。
そんな田村の姿を見るのも初めての事だった。
ひねくれ者の僕は、試合中の大観衆の田村コールも、何かを狂わせていたのかもしれないなと思った。
 
 
これから田村がどう歩んで行くのか、まだわからないけれど。
 
田村よ、もう一度焦点を絞ってくれ。
もう一度、激しく何かと敵対してくれ。
激しく戦って、激しく負けてくれ。
 
(勝ってくれればなお良い)
 

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