丸坊主の田村のカウンターパンチは僕には見えなかった。
打ち合いの中で突然崩れた高田を見て「あちゃーまた金的か?」と
的外れな心配を僕はしていた。
でも
あの状況であのパンチを打てるんだから、田村にはまだ明日があるんだろう。
そして、リングにかつての仲間が全員集合する中、
躊躇するヤマケンと、それを誘い上げた田村の姿。そしてあの握手。
躊躇していたヤマケンも泣かせるし、誘い上げた田村も泣かせる。
いや
あの場で何が氷解したのかは、正直僕にはわからない。
もしヤマケンが勝ってたら、全く違った状況になっていたのかもしれない。
そういう意味では、昨日はすべてが奇跡のように運んだ一日だったように思う。
「よし、俺は辞めるけど、お前ら一緒にもう一度やってみるか?あの続きを」
そう高田がぶち上げても不思議ではないような、そんなマジックがあの場所を包んでいた。
バラバラになったのは、ただのボタンの掛け違いで、
いつかあったはずの完全な絆は、
お互い顔を突き合わせれば、すぐにでも取り戻せるはずなんだ。
形を変えてとしても
誰の心にもある、遠い幻想の風景。
そんな風景があの日は、現実にあった。
幸せなお葬式だった。という事なんだろう。
ああ、あいつは大変そうだったけど、いい人生を送ったんだなと。
酒を飲みながら語られているような世界。
高田は高田としての人生を、よく成し遂げたのだ。
まだ死ぬ事が出来ていない猪木が羨んだのは当たり前の話だ。
死ぬ事ができた高田と、死ぬ事ができず、そして許されない猪木や前田。
そのどちらが幸せなのかはわからない。
だけど
高田には「第2の人生」というものがあるのだと思う。
そこらへんの事を考えるのは面白い。
そして残された者達の明日はもう始まっている。
田村が進むべき方向はどこなのか。
高田に謝り、ヤマケンを許した事で、
田村の背負ってきた「屈折」の大きな要素が解消された(気がする)。
田村は次のモードに切り替わるのではないか。
そんな予感がする。
いいインターバルで試合も出来ている。
美農輪戦と高田戦で、再び田村はマウンドに立つ権利を手に入れた。
そして何に向けて、どんな球を投げるのか。
桜庭戦と言う簡単な予想はあるけれど、
それだけでは無い絵を田村は描き始めているように思う。
そして、その責任を田村は受け取ったのだ、桜庭と共に。
交わるのはまだ早い。
記念撮影に引き出そうとした百瀬の手を、綱引きのように全力で拒否した姿も印象的だった。
そうだ
田村にしか撃てない相手は、まだたくさんいるのだ。
高田とはまた違う一生を走り続けなければいけないのだ。
おそらく田村も幸せには死ねないタイプの人間だ。
でも、それぞれの道を貫く事の意味を、師匠が身を持って示したのだから、
田村は田村としての道を貫いていくだろう。
今まで以上に。