The Millennium & othes (ミレニウムと関連作品)

<華麗なるコーラスワークを堪能>

昨年6月に何気なく購入した「レコードコレクターズ」誌7月号の特集は「ソフトロック」だった。
これを読み、ソフトロックなるジャンルがあることを初めて知った。ジャンルも知らなければ、もちろん取り上げられているミュージシャンも名前すら聞いたことがないものばかりだった。その後購入したソフトロック関連の書籍と合わせて読んでいくと、どうやら60年代後半〜70年代前半にかけてシングル製作を中心に活動(というか、なかなかアルバム製作までできなかった)したミュージシャンが多いため、LPがCDで再発されるということも少ないようだ。
しかし最近ではソフトロック的アプローチを取り入れたり、リスペクトを表明する日本のミュージシャンも多く、静かなブームになっているようだ。レコードコレクターズ誌で特集されたのもそうした背景があるからだろう。

さて今ひとつわかりにくいソフトロックの定義だが、レココレ誌の記事では「ソフトロックとは60年代後半〜70年代前半にかけて製作された、スタジオレコーディングに重点を置いた主にアメリカのポップミュージックのある一群」を指すようだが、決め手になる定義やジャンル分けはないらしい。レココレ誌でも全く名前の知らないミュージシャンからビーチボーイズやスリー・ドッグ・ナイトなどのメジャーなバンドまで幅広く取り上げている。

そこで私はソフトロックの代表選手的に紹介されていたサジタリアスミレニウムを購入して聴いてみた。「なるほど、これがソフトロックか!」と納得のいくサウンドで、すっかり気に入ってしまった。ソフトロックを全て聴いてもいないので断言するわけにはいかないが、ミレニウムから抽出できるソフトロックの要素として次の2点を挙げることができる。

1.全編を埋め尽くす緻密なコーラスワーク。
2.ロックの典型である楽器を大きくフィーチュアすることがない。例えばギターソロが一切ない。

他にもこの時期にイギリスのロックに典型的だったブルースの影響も全く感じることができない。逆にサジタリアス辺りを聴くとサイケデリックなものは聞き取ることができる。

ミレニウム関連作品は日本で特に人気が高いようで、「世界初CD化」やLPにすらならなかった音源が続々とCD化されるなどありがたい状態が続いている。こうなってくるとどれから聴くべきか迷うところだが、まずはサジタリアス「プレゼント・テンス」とミレニウム「ビギン」をお勧めしたい。
(2001年7月)

<プロフィール>
<CDの発売状況> →CDの発売状況(特別編)をご覧ください

2002年4月1日 「Voices Of The Millennium」を追加しました。
2003年8月4日 「Pieces」を追加しました。

<中古CD状況>

ほとんど見かけません。

<おすすめアルバム>

Sagittarius   「Present Tense」 (1967)
01. Another Time   02. Song To The Magic Frog (Will You Ever Know) 
03. You Know I've Found A Way   04. The Keeper Of The Games   05. Glass 
06. Would You Like To Go  07. My World Fell Down  08. Hotel Indiscreet 
09. I'm Not Living Here  10. Musty Dusty  11. The Truth Is Not Real
輸入盤のみ次の9曲を追加収録)
12. Artificial Light (Of All The Living Lies)  13. Get The Message 14. Mass #586
15. Love's Fatal Way 16. My World Fell Down (Single Ver.)  17. Hotel Indiscreet (Single Ver.) 
18. Lonely Girl  19. The Keeper Of the Games (Demo) 20. Sister Marie (Inst)

サジタリアス(射手座)はバンドとしての実体はない。解説によれば、プロデューサーのゲイリー・アッシャーがボールルームやカート・ベッチャー(ほとんどのボーカルとコーラスを担当)のデモテープにコーラスやストリングスをオーバーダビングし作り上げたという。バックミュージシャンには後のミレニウムのメンバーや、コーラスではブルース・ジョンストングレン・キャンベルが参加している。曲調は、70年代的な言い方だがメロウである。コーラスの巧みさは冒頭の「Another Time」や4曲目「The Keeper Of The Games」でまずは楽しめる。エンディングで一層分厚くするのが見事。2曲目「Song To The Magic Frog」はベッチャーの中性的なボーカルが美しい。こういう声が出せて自由に使えたことがベッチャーを「コーラスの魔術師」に仕立てた所以だろう。5曲目「Glass」や輸入盤のボーナストラックである12曲目「Artificial Light」は極めて60年代的だ。前者はラーガロック、後者はフォークロック調である。7〜9曲目はアルバム中もっともノリのよい曲。「Hotel Indiscreet」のコーラスはもろビーチボーイズ的、「I'm Not Living Here」なアコースティックギターによるイントロが実にかっこいい。そして透明感あふれる10曲目「Musty Dusty」、11曲目「The Truth Is Not Real」で幕を閉じる。12曲目以降の輸入盤に収録された未発表曲では、実験的なサウンドも聞かれる。14曲目「Mass #586」、15曲目「Love's Fatal Way」はコーラスによるゆらぎで独特のサイケデリック感覚を生み出している。13曲目「Get The Message」、18曲目「Lonely Girl」(これはほとんどサンディ・サリスベリーのソロといってよい)も軽めだがポップ感覚が心地よい。オリジナルアルバムに収録されなかったのが不思議だ。アルバム全編を通して、目立たないが、タンバリンやハーブなどの楽器の使い方も効果的だ。
またシングルバージョンである16曲目「My World Fell Down 」、17曲目「Hotel Indiscreet」の間奏に挿入されたちょっとアバンギャルドなSEの使い方はミレニウムでもちらりと聴くことが出来る。
このアルバムは日本盤(SRCS9272)もでているがオリジナル曲のみの収録となっており、
輸入盤はオリジナル曲(1〜11)に加えて、未発表曲(12〜15、18〜20)とシングルバージョン(16、17)が収録されている。

The Millennium   「Begin」 (1968)
01. Prelude  02. To Claudia On Thursday  03. I Just Want To Be Your Friend  04. 5 A.M.
05. I’m With You  06. The Island  07. Sing To Me  08. It’s You  09. Some Sunny Day
10. It Won’t Always Be The Same  11. The Know It All  12. Karmic Dream Sequence #1
13. There Is Nothing More To Say  14. Anthem (Begin)  15. Blight  16. Just About The Same

一連のミレニウム関連作品の主人公であるカート・ベッチャーはソフトロックの鍵を握る男だろう。彼は「ハーモニーの魔術師」「コーラスアレンジの天才」と呼ばれており、プロデュースを手がけた66年のアソシエイションの1stアルバムでは、早くも複雑なコーラスアレンジを披露している。
続いていよいよ頭角を現すボールルームを経てミレニウムのデモ製作を開始、ここから派生したのがサジタリアスである。そのサジタリアスとミレニウム、ミレニウムは固定メンバー7人をそろえていたという点で大きく異なっている。中心人物はあくまでもベッチャーであるが、ソングライティングやボーカルを他のメンバーも手がけているため、よりバラエティに富んだ作品となっている。
本CD(国内盤)は、LP収録曲(1〜14)と共にプロモシングルの収録曲(15,16)が収録されている。まずはハープシーコードの旋律を聴かせる「Prelude」に驚かされる。この魅惑的なアイデア、彼らの非凡の才を強く感じる。このイントロに導かれて始まる「To Claudia On Thursday」でお家芸のハーモニーを満載したポップな世界が広がる。
3曲目「I Just Want To Be Your Friend」や6曲目「The Island」はベッチャー的アレンジが冴える。4曲目「5 A.M.」や5曲目「I’m With You」はメンバーであるサンディ・サリスベリーリー・マロリーの個性が出たと思われる楽曲に、ベッチャーのコーラスアレンジが見事に調和しており、また後者のサビのノリはロック的で実に楽しい。ロック的といえば個人的なベストトラックとなった8曲目「It’s You」と10曲目「It Won’t Always Be The Same」。ドラム、ギターが元気で、もちろんコーラスも抜かりはない。以上、いずれの曲でもアコースティックギターのクリアな音色がコーラスワークに負けず劣らず美しい。サジタリアス以上にポップで親しみやすい楽曲を展開している。
ところが12〜14曲目になると、今までのポップな表情が一転する。スタジオミュージシャンたちがやりたい放題に遊んでいるという感じだ。12曲目「Karmic Dream Sequence #1」のエンディングはいきなり琴と和太鼓に見立てたドラムで純邦楽になり、14曲目「Anthem」ではテープの逆回転のオンパレード。当時発売元のCBSは「前衛的すぎる」と販促活動に二の足を踏んだそうだが、それも納得できる(笑)。
また16曲目「ブライト」ではジャズのリズムパターンにこれまた複雑なコーラスを組み合わせており、実に興味深い。

Gary Usher   「Beyond A Shadow Of Doubt」 (2001)
01. Beyond A Shadow Of Doubt   02. In The Land Of Change   03.Gray, Soft Black And Blue
04.Point Of View   05. Dolky's Verse   06. Sleepy Land   07. Butterflyin'   08. High N' Dry
09. Ships   10. Bo And His Beard   11. Everything Turns Out Right   12. So Long   13. Slippin'
14. We May Make It Yet   15. Walk A Mile   16. Beyond A Shadow Of Doubt(version 2)
17. In The Land Of Change(version 2)   18. Gray, Soft Black And Blue (version 2)
19. We May Make It Yet(version 2)   20. Walk A Mile(version 2)   21. Go Rocket GO

カート・ベッチャーの未発表曲集「Misty Mirage」と、この作品のどちらを紹介しようかと迷ったが、6月下旬に発売されたこちらを紹介したい。
ゲイリー・アッシャーはビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンと交流があり、「409」や「イン・マイ・ルーム」などを共作している。また、やはりコーラスを得意としていたザ・バーズの「名うてのバーズ兄弟」「ロデオの恋人」もプロデュースしている。60年代後半にカート・ベッチャーと親交を深め、サジタリアス「プレゼント・テンス」を製作する。サジタリアスとしては69年に2ndアルバム「ブルーマーブル」を発表、ここではほとんどのボーカルをアッシャー自身が手がけ、アッシャーのソロプロジェクトといってよい内容であると言われている。
この「ブルーマーブル」、今年2月にやはり世界初CD化で再発された。喜んで聴いてみたものの、今ひとつの出来映えにがっかりした。なぜだか一様に暗い。やはりベッチャーがいないとだめか、とその時は思った。そのため、この作品にもあまり期待していなかったというのが正直なところだ。しかし、それは大きな間違いだった。
この作品は71〜73年にアッシャーが製作していたものの、なぜか発売されずに終わっていたそうだ。今回、新たに9曲の未発表曲/テイクが発見され、めでたく発売された。リード。ボーカルはアッシャー、バックボーカルにはベッチャーとディック・キャンベルが全面参加している。
大半の曲がギターのバッキング演奏だけである。そう、これはデモということだ。しかしこれがデモ? と疑ってしまう素晴らしい出来である。ボーカルとコーラスは完成ラインといってよい。
特筆すべきはコーラスと生ギターだけでドリーミーなサウンドを作り上げたアッシャーの才能の素晴らしさである。ベッチャーと並びうるものがある。解説にもあるとおり、この作品が当時完成して世に出ていたら、いやこの状態のままでも発売されていたら、サジタリアスと並ぶソフトロックの代表曲となったであろう。
紹介しておきながら、このアルバムのよさを伝えることが出来るほど聞き込めていない。とりあえず1曲だけ、9曲目「Ships」の美しさ、テンポを変えてうねりをつけ、楽器が次々と入ってくるところやギターのカッティングの力強さはこの作品中最高の出来である。
また、14,15,21曲目ではベッチャーがリードボーカルをとっている。


<関連書籍>

 レコード・コレクターズ 2000年7月号 

私がソフトロックを聴くきっかけとなった1冊。
日本におけるソフトロック・ムーブメントの流れや、ソフトロック系以外のミュージシャンにも見られるソフトロックの要素などを解説してくれている。
アルバム選では、プロデューサー・作編曲者別に現在CDで入手可能なものを中心に69作品を紹介してあり、大変便利である。
また日本におけるソフトロック研究の第一人者にしてよき理解者でもある長門芳郎氏によるカート・ベチャー評の前編も掲載されている(後編は翌8月号に掲載)。
昨年の雑誌ですが、2001年7月現在ではバックナンバーはまだ手軽に取り寄せることができます。



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