●賢い旅程を作る

どんなに自由な旅行でもまず旅程を作ってみることが大切だ。私は旅程なしで旅行をしたことはない。それは自由を束縛するものでも独立心を阻害するものでもない。むしろよく調べてあり周到に準備した旅程は、実際に旅行した際に限りない自由を保証してくれるものなのだ。

旅程は変えるために作るといっても過言ではない。例えば旅の途中の町で祭りに出会った時、次の予定がわかっていればそこで一泊できるかどうかがすぐ判断できる。また、その後の予約が変更可能かどうかもすぐわかる。そういう自由度を確保するためにも旅程は必要なのだ。

では、実際に「賢い旅程」を作る上での留意点を考えてみよう。

1無駄のない飛行便をとること
旅程を考える場合、必ずしも目的地までの往復切符を買う必要はない。例えば、フランクフルトから旅をスタートしてヨーロッパを南下、帰りはローマから飛行機に乗るということも可能だ。これはオープンジョー(鮫が大きく口を開けた形からこの名前がついた)とよばれる切符で、一カ所の(たとえばローマ)往復料金と値段は同じである。

この切符を使えば帰りにわざわざ時間と金を使ってローマからフランクフルトまで戻る必要はなくなる。旅行ルートを考える場合、これは知っていると便利だ。通常の格安切符でも可能だ。代理店に聞いてみよう。

2気候を考えよう
東南アジア
(特にフィリピンやインドネシア)を旅行するときには台風シーズン(6月から9月)を避けたほうがよい。台風で島に閉じ込められて帰れなくなることもあるからだ(経験者は語る)(苦笑)。

ヒマラヤを見にカトマンドゥに行くときはモンスーンが終わっている11月以降でないと山が曇っていて見えない。

くそ暑い真夏や死ぬほど寒い冬のニューヨークはごめんだ。ニューヨークは春か秋がよい(私はセントラルパークが紅葉する秋が一番美しいと思う)。

東京へ旅するのなら6月の梅雨のシーズンと乗り物がごったがえすお盆は避けたいと思う。そのかわり、何もかも活気あふれる年末と全てが静まりかえるお正月に日本を訪れてみたい。

ヨーロッパを旅するのなら暖かい地方を選んでルートを考えることだ。春ならイタリアからスタートして北上する。真夏の地中海や真冬の北欧は避けたい。
真夏には涼しい北欧に、真冬には暖かいスペインに行くのが賢いというものだ。

とはいえ、寒いクリスマスのヨーロッパもいい。行く国のもっとも活気があふれる時期を選びたいものだ。


3観光客を避けること
ヨーロッパは7月、8月がピークシーズンだ。できればこの季節を避けてショルダーシーズン(5、6月、9月)を選びたい。でなければ出来るだけ観光客を避けることを考えよう。真夏のベニスや秋の日光には行きたくないものだ。6月のザルツブルグと7月の音楽祭時のザルツブルグはまったく違う町になってしまう。

いつ混んでいつがオフかは各国のガイドブックをチェックする。例えば、パリは7、8月はガラガラだけど、その分9月には見本市や国際会議が目白押しでホテルがとれないこともある。毎年の自動車ショウ、ブックフェア時のフランクフルトではまったくホテルが取れなくなる。

また夏には全ヨーロッパ民族がアルプスを越えてリビエラの浜に殺到する。このあたりは避けたほうが賢明だ。なぜかドイツ人はトルコが好きで8月のイスタンブールは黒い靴下にサンダルばきのドイツ人だらけになってしまう。真夏の1日と15日のヨーロッパのハイウェイも要注意だ。リゾートへ急ぐ車、帰る車で大渋滞になるからだ。

2月初旬のベトナムはテト(旧正月)で、11月下旬のアメリカはサンクスギビングで国民すべてが故郷に帰る。そのため日本のお盆状態になってしまい、飛行機も宿も取れなくなるので敬遠したほうがいい。

4休息日をつくる
休暇中でも休暇は必要だ。連日の観光地巡り、美術館、観光ツアーは疲れる。せめて10日に一度か週に一度、何にもしない休息日を作ることだ。大都市と地方の小さい町、山や海、森や川などをうまく交互に組み合わせるといい息抜きになる。

ローマ、フィレンチェ、ベニスを特急列車で乗り継いで行く駆け足旅行だけはやめたい。ロンドンは郊外がすばらしい。パリだってベルサイユまで足を伸ばすと随分と印象が違う。本当のタイにはバンコクでは出会えない。のんびりしたチェンマイやスコタイでこそ本当のタイが味わえる。

なーんにもしない日、洗濯をする日、手紙を書く日をつくりたい。私はそれを毎週土曜日の午前中に当てている。その週に仕入れた本やパンフレット、用済みになったガイドブックなどを箱詰めにして船便で送り出す(ヨーロッパから2、3週間で着きます)。それから「ランドロマートLaundromart」で1週間分のお洗濯。その間、非常食や歯磨きを買い出しに出かけるのだ。
5旅程にゆとりを
これは難しい。どうしても予定にはあれもこれもと詰め込みがちだ。しかし、毎日の雑事、乗り物の遅れ、便秘、思わぬ出来事など、旅行中はさまざまなことが起こる。どこかでゆるいところを作っておくとクッションになる。上述した休息日をこれにあてる手もある。

まあ、といっても実際には難しいのだが、念頭に置いておくだけでも随分違うと思う。

6お祭り、イベントを優先する
限られた旅行の日程の中でお祭りやイベント、公演にぶつかる確率は大きくはない。だから旅行をするときはその時でしか経験できないことを何を置いても優先することだ。

もしミラノでオペラをやっているのなら一幕の立ち見でもいいから覗いてみるべきだ。隣の町でお祭りをやっているのなら予定を変更してでも行ってみるべきだ。

私たちがイタリアのピサに滞在したとき、宿で翌日隣町のルーカで「ろうそく祭り」があることを聞いた。さっそく、隣町の宿を予約してもらって行ってみた。町中の壁中いっぱいにグラスに入れたろうそくが掲げられていて、それがちらちらしていてとてもきれいだった。しかもその夜は中世の衣装そのものをまとった行列があり、その上お祭りのときだけに出る特別料理も食べることが出来た。こんな旅行がいちばん楽しくてうれしい。
7「なんでも見てやろう」と思わないこと
旅は刺激的だ。特に初めての旅、初めての場所では何を見ても何をしても感激と思い出でいっぱいになるに違いない。でも、遅かれ早かれ必ず臨界点が来る。何を見てもおんなじに見える、絵を見てももはや感激がない、食事も何を食べても同じ味。こうなったら何をしても同じこと。少し旅の速度を落としたほうがいい。ちょっと休みを入れて頭と足と舌を休ませるのだ。少し休んだらまた元気が出ようというものだ。

また、最後の大物が残っているのだったら(パリのバーゲンとか、大英博物館とか)その分のエネルギーを取っておかなくてはいけない。最初から飛ばさないことだ。あれもこれもと欲張らないこと。この旅は今度もう一度来るときのための下準備、ぐらいに思ってちょうどいいのだ。

8文明社会から始めよう
初めての個人旅行はなるべく文明的に日本に近いところから始めたほうがいい。アメリカはほとんど違和感はないだろう。アジアでも香港やシンガポールはほとんどすっと入って行けるだろう。

しかし、ベトナムやビルマ、インドは初めての個人旅行だとちょっとつらいかもしれない。ヨーロッパでもイギリス、フランス、ドイツあたりは入って行きやすい。しかし、ギリシアやトルコ、エジプトあたりになると旅に少し慣れていないと大変だろう。

逆にエジプトあたりから旅を始めてギリシア、イタリア、イギリスと来ると、イギリスはなまぬるい気が抜けたシャンパンみたいに感じるかもしれない。旅にも順序というものがあるのだ。

9またいつか還る日がくる
旅はいつかは終わる。でもそれが終わりではない。一度で全ては見られないし、見ようともしないことだ。見残したところがあるぐらいがちょうどいい。今度来るときの楽しみがあるではないか。

私はもう何回もイタリアに行っているが、実はまだナポリに行ったことがない。ナポリはシチリアとともに取ってあるのだ。まだ見てないところがあるから旅はいつまでもおもしろい。
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