読書ノート 2003年 12

(〜12/06)
『王子と乞食』 マーク・トウェイン 彩流社 B
マーク・トウェイン・コレクションの中の1冊。
昔に読んだのは、かなりしっかりしたものだったとはいえ、子ども向きにリライトされたものだったと思う。
王子と乞食が偶然に、それぞれの身分を取り替えておこる出来事は、簡単な筋立てだけを繋いでもおもしろいが、小説はなんといってもやはり細部だ。こまごまとした描写の楽しさにこそ、小説をよむ醍醐味があるといえるだろう。
名作だからと、リライトしたものを子どもに与えなくてもいいと思う。
でも、この翻訳では堅すぎると思う。

『少年舞妓・千代菊がゆく!花見小路におこしやす』 奈波はるか コバルト文庫 B
京都の置屋吉乃家の舞妓が逃げてしまい、一人息子、中学2年の美希也がかわりに、見習い舞妓千代菊になって、お座敷に出る。
そこで、31歳のハンサムだが、シャークのようなと評される財閥の御曹司、楡崎慎一郎と出会う。楡崎はバツイチ、高校生の頃から祇園に出入りしていたという男!で、千代菊に夢中になる。
いやはや、想定読者の年齢層はどのくらいなのだろうか、といぶかしい!
けっこうきわどいんだけれどなあ。

『少年舞妓・千代菊がゆく!濡れ衣で祇園追放!?』 奈波はるか コバルト文庫 B
見習いで舞妓に出た千代菊は、たちまちに大評判、人気も抜群。しかし、千代菊をひいきする前に、楡崎がひいきにしていたのは、祇園一の売り上げを誇る銀華さん。ある晩、一緒にいた銀華さんの持ち物がなくなって、千代菊のカゴの中から出てきた!
濡れ衣をかけられ、噂になり、イジメにあっても、可憐な千代菊は負けないのだ!!
従兄弟の宏章は、京都大学のギリシア哲学専攻の大学院生、これもカッコいい。
祇園のしきたり風習などがこまごまと描かれて、ものめずらしさある。まあ、おとぎ話なのだが。

『少年舞妓・千代菊がゆく!すっぽかされたお披露目』 奈波はるか コバルト文庫 B
 とうとう、千代菊は見習いから、本当の舞妓として、店出しをすることになった。
楡崎の元夫人もご登場で、だんだん奥が深くなる。
 しかし、31歳の男が13歳の少女に恋をする、っていうのも、なんだかなあ。
恋は思案の外というけれど、はてさて‥‥。

『少年舞妓・千代菊がゆく!御曹司のスキャンダル』 奈波はるか コバルト文庫 B
 作者のホームページには、楡崎と、千代菊の初恋の人である、天才高校生プロ棋士の紫堂薫との人気投票があって、伯仲しているという。ワタシ、どっちがいいかなあ(笑)。
 楡崎は、千代菊の従兄弟の美希也の存在を知り、ついに車の中からとはいえ、美希也を見てしまう。
 第1巻目が7月初旬から始まって、9月9日重陽の節句にまできた。少年が声変わりするまでの限られた時間の中で、さて、以後はどういう展開になるのかと、目が離せない。


(〜12/13)
『運命の息子 上下』 ジェフリー・アーチャー 新潮文庫 B
一組の夫婦の、双子の兄弟のひとりが、もう一組の夫婦の死んだ息子と取り替えられた。全く違う環境で育てられた二人は、やがて、コネチカット州知事選に出馬、接戦を繰り広げる。
ナットとフレッチャーとの交互の視点で語られるが、その交代が早くて、上巻はそれぞれをとりまく人間関係を理解するのに難儀した。下巻へ来てようやく、物語を楽しむことが出来た。
二人の兄弟の、それとしらずの相克の争いなのだが、フェアプレイで、きれい事すぎる気もしないではない。

(〜12/20)
『宿命のささやき ヴァルデマールの風第1部 上下』  マーセデス・ラッキー B+
ヴァルデマール年代記。ケロウィンの弟子、ヴァルデマール国の王女で<使者>であるエルスペスは、魔法剣<もとめ>を携えて、魔法使いを探す旅に出た。
<もとめ>の謎が明らかになり、<ともに歩むもの>の謎もあきらかになっていくように思う。
エルスペスは途方もない魔法の<天恵>を持っていて、師となる魔法の達人<暗き風>と出会う。
これは、まだ序章だ。第2部の発売が待ち遠しい。

『中世の城日誌 少年トビアス、小姓になる』 リチャード・プラット文、クリス・リデル絵 岩波書店 A
13世紀のイギリス、伯父の城で住み込みの小姓として修行する11歳の少年、トビアスの日記。こまごまと描かれた詳細な絵入りで、衣装や暮らしぶりなどの生活がよくわかる。
カドフェルの時代より少し後だが、そう変わりはないだろう。
騎士は体を守る鎧を着るとき、たくさんの重ね着をした。麻のアンダーシャツ、キルティングのアンダーコート、鎖かたびら、鎧、軍衣(サーコート)。一人では着られないというのもなるほどだ。


(〜12/27)
狐笛のかなた』 上橋菜穂子 理論社 A
著者の最新作。著者直筆サイン入りというのをゲットして感激!!
時代はたぶん平安末期か。“あわい”に生まれ、使い魔として生きる狐の野火と、“聞き耳”の力を受け継いでしまった小夜と森陰屋敷に閉じ込められている小春丸。
3人の思いの交錯が、美しい春の野山のイメージを紡ぎながら、薫り高い日本語で丁寧に描かれていく。絵巻物を繰りのべるように。
終章を読みながら、人の幸せとは、なんだろうと思った。

『自宅にて急逝』 クリスチアナ・ブランド ハヤカワ・ミステリ B+
 亡くなった第一夫人を偲ぶ会に集まった親族たちの言動に、大富豪は激怒して、遺言を書き換えると言う。そして、翌朝、死体となって発見される。
 ロッジの周りに撒かれた砂の上には、犯人の足跡はない! 張りつめた雰囲気の中で交わされる会話は、なんともスリリングだ。
 幼児期の生活環境、育てられ方でこういう性格になったといわれると、なんとなく納得してしまうところがあるが、まあいいか。
 安心してお馴染みのコックリル警部についていった。

『第三の時効』 横山秀夫 集英社 A 
 このところ、軽妙余裕洒落た翻訳物を続けて読んでいたせいか、この重さ深刻さ執念に、ひどく疲れる。
 人間は、何のために生きているのでしょうね。
 ただただ、重き荷をおうて、まなじりをけっして、ひたすらあえぎあえぎ生きてのが人生だ、楽しみを求めるのは罪悪だとすら思えてしまう。
 ただ、ある異質の情感が漂ってくる気がする。これは嫌いではない。この連作、続きがあるのだろうか? 楠見の背景が無性に知りたい。