それでも何とか気持ちを落ち着けて、良い息子の仮面を無理矢理嵌め、着替えをしてからリビングに下りてゆくと、少し様子のおかしい若妻を労わる父親の声が聞こえてくる。



「… は甘えん坊だな…。一晩会えなかったのがそんなに寂しかったのか…?…すまなかったね、さ、顔を上げてごらん…。」


「…しゅ…わたし…」


「…いい子だから…。君をおいてなど、どこへも行かないから…。ね?…こんなに震えて…すまなかった…」

 ソファーにゆったりと座って、華奢な肩を抱きしめて、そっと髪に口付ける自分の父親を、修司はリビングの扉越しに見つめた。そして、そっと一旦階段をあがると、さも今から下りますよ〜といったように、階段を音を立てて降りていった。




「…ああ、修司も早いな。部活はいいのか?」

「…ええ、3年はもう引退ですよ、父さん。あ、 さん、俺にもコーヒーお願いします。」


「は、はい……」



「それに、今月から自由登校でね、学校には行ってもいかなくてもいい事になっています。」

「そうか」


 ゆったりと構えて夕刊を読む修一と、リビングから庭に続く大きな窓をあけて、飼い犬であるジョンを構いにいく修司。




  は米を仕掛けてから、コーヒーを入れ、そんな二人の様子を見ながらテーブルへとカップを並べた。



「…修一さん…修司さん…コーヒーが入りました…」

「ああ、ありがとう。」

「すいません、 さん」



 二人がそれぞれテーブルについて、コーヒーを飲んでいると、修司が突然思い出したように に話し掛けてきた。

「そうそう、 さん、期末の範囲は出た?」

「え…ええ。先週日程と範囲のプリントを…」


「そっか…俺たちは後卒業試験だけだからな…。で、いつから試験なの?」

「え…一週間後ですけど…」


「そう…世界史の貴島は毎年決まった問題を出すんだ。…教えようか?」

「え、で、でもっ」

  は、一瞬修司が何を言い出すのかと思った。

 まるで昨夜のことは何でもなかったかのように、いつもと同じ態度で に接してくる。
 そんな修司の態度を疑う事なく、修一は自分の妻と自慢の息子を嬉しそうに見ていた。



「いいじゃないか、そうしなさい、 。…息子に教えて貰うのはイヤかもしれないが、まぁ、部活の先輩にでも教えて貰っているのだと思って…」



「え、ええ…。」



  は一週間後を思うと溜息をつかずにはいられなかった。


 まだ学生である には、修一と一緒に寝る部屋のほかにも、勉強部屋というか、普通の机とベッドの置かれた部屋が用意してあった。

 テスト前やテスト中は、その部屋で夜も寝てしまう事もあった。上南はレベルの結構高い学校だったし、修一の好意で学校までやらせてもらっている身としては、恥かしい成績はとりたくないと頑張っていたからである。


 そんな の気持ちを快く修一は認めてくれていた。テスト前やテスト中でも、余程の事がないかぎり二人は同じ寝室で眠っていた。



 それでも…深夜まで、修司の隣の部屋で勉強をするのかと思うと体が震える。



 夫婦の寝室は一階だし、修司の部屋と の部屋は隣同士で二階…。何だか嫌な予感がする…。












「え…と、ここからだね、試験範囲?」

世界史の教科書を手に修司は真剣な表情で に問う。



「はい」


はそんな修司に、まさか父親が階下にいる時間にこの間のような真似はしまいと素直に答えた。
の部屋の中央に置かれた小ぶりのデスクに向かい合わせで座る二人。

階下では修一がリビングのソファーで学術書を読んでいる。

微かに音楽も聞こえてくる。


そんな静かな土曜日の夜だった。




「ローマはポエニ戦争でアフリカの(A)に勝利して西地中海を支配下におくようになり、しだいに属州を増やしていった。しかし、前2世紀終わり頃からは政情が混乱して、平民派の(B)や閥族派のスラなどの有力者間の権力闘争が激化した…」

こんな味気のない試験問題の朗読でさえ、修司の甘い声を聞くのは心地よい。


親子なら当然声も似てくる。


修一の声に似た修司の優しく包み込むような声に、いつしか強ばっていた の緊張感も薄れてきてしまった。





「…?… さん?」



「は、はいっ?」




「こら、上の空だったよ?」


「ご、ごめんなさい…」

は慌てて教科書を持ちなおした。




「で、この(A)は何が入るか分かる?」


「え…と…カルタゴですよね?」





「じゃあ(B)は?」


「マリウス…かな?」



「そう、正解」



「よかった」

はホッと安心して笑顔を見せた。






「くす。じゃあ、御褒美」


「え?」


いきなり修司は向かい合う の顎を上向きにさせると、そのまま唇を奪った。




「んっっ…!!んっ…んんっ…」


修司が舌を割り込ませようとすると、 は唇を結んでそれを拒もうとする。
無理にこじ開けるのをやめた修司は、今度は口付けをしたまま右手で の胸を服ごと揉んだ。



「んあっ……」

大きな手で胸を掴まれ揉まれた は思わず口を開いてしまった。その隙に修司は舌を滑り込ませ、 の腔内を貪りはじめた。




「っ……っっ……」


拒もうとも次第に深くなる口付けに頭が朦朧として には抵抗する力もなくなってくる。そんな の様子を察して、修司はゆっくりと唇を離した。

修司と の間に蜘蛛の糸のように透明の線が艶かしく繋がる。




「やっ…だ、ダメですっ…」


なるべく小声で修司にそう抵抗すると、修司は向かい合っていた席から立ち上がり、 の真横にくると、そのまま床に押し倒した。



「しゅ、修司さ…」


修司は部屋着の薄いワンピースを着た の足を開かせると、下着越しに の泉を指でそっとなぞる。




「っ!あっ…」




「ずいぶん敏感だね…ね、何かしてほしいんだろ?」


「そ、そんなこと…」

は真っ赤になって瞳には涙を浮かべて修司を睨んでいる。




「図星だろ?一度覚えた罪の味は忘れることができない…っていうからね…。俺もそうだから…抱きたくて抱きたくて毎日狂いそうだった……」


修司は下着を降ろすと、長い指で の泉をかきわけて奥へ奥へと進ませる。





「くっ…やっ…」

「ほらもう指に蜜が絡み付いてきたよ……あたたかいね、 の中は……」



「やっ…やっ……」


は階下の修一に声を聞かれないようにと、イヤイヤと頭を左右に振って小さい声で拒んでいるが、修司はそれでも指の動きを止めるどころか、さらに指の本数を増やして激しく擦り出している。





「すごいな……こんなにあふれ出してきた…」




 静かな室内に、修司の指がたてる粘着質な水音だけが響き渡る。

  は、溢れる涙を拭う事も出来ずに、自分の口に手を当てて、声を漏らすまいとしていた。




「…どこまで我慢できるか、試してみたい気もするけど…。やっぱりバレると大変かな…?色々とね…」


 修司は言葉とは裏腹に、悪びれる様子もなく、 の体をひょいと抱えあげると、ベットの脇に をそっと下ろし、上半身だけベットにうつ伏せにさせると、後ろから覆い被さって、そっと布越しからでも判る、立ち上がった胸先を摘んだ。




「…っ!…んんっ…ッ」


「そうそう…。そうやって、ベットに口をつけてるといいよ…。これなら、下の階にも声も、俺の を愛する振動も伝わらないから…安心してイキまくるといい…」


 うなじにねっとりとざらついた舌を這わせて、首筋を舐めあげる。そしてスカートを腰まで捲り上げると、剥き出しになった双丘をそっと撫でながら手を滑らせて、充分に潤んだ泉に再び指を挿入する。




「!!ぅ…ぁ…ッ…やぁ…しゅうじ…さんっ…」


「…し〜っ…。声を出しちゃダメだよ…。 がこんな所をオヤジに見られたいなら話は別だけどね…。」


「…?!そ…んなっ…ッ…」




「…俺はかまわないよ…。 を抱いた時から…地獄に落ちる覚悟は出来てるんだ…。むしろ、見せ付けたいくらいだよ…。俺に…俺に見せつけたようにね…」

 泉をかき回していた指を抜き取ると、体を起こす。



 カチャカチャとベルトを外す音とチャックの下ろされる音が響いたかと思うと、次の瞬間、いきり立った修司の欲望が最奥までいきなり入ってくる。




「!!…あぁっ…っ!!」



 懸命に体をベッドに押し付けようとしていた の顎が上がって、体が跳ね、その口から悩ましいまでの嬌声が上がると、それを合図のように、 の腰を掴んだ修司が、自分の腰を打ち付けるようにして の敏感な部分を擦って突き上げる。


 そして、後ろから腰を痛いくらいに掴んでいた手を滑らせると、二人が繋がっている部分を確認するように、更に花弁を強引に割り開いて撫で始める。




「…俺が帰ってこなければ…あのまま玄関でオヤジと愛し合ったんじゃないの?…ねぇ? …」


「…ッ…そんな…事…」




「……ねぇ、あのキスは からオヤジにねだったのかな…?」


「…ちがっ…!あぁ…っ……」



「違うの…? が望むのなら、今度は玄関でしようか…?…スリルがあっていいだろ…?」


「い、いや…っ…いやぁ…ぁ…ッ…」




「…鍵なんてかけないからね…誰が扉を開けるか、わからないよね…」



「…もぅ…おねが…っ…ゆる…して…」

 ベットカバーを握り締める の手が、まるで助けを求める遭難者のような気がして、修司に残された理性がどんどんなくなっていく。



「…誰に助けを求めるつもり…?…っ…俺しか…俺にしか… を助けられないっていうのに…」



 いつもの余裕を無くした修司の、恐ろしいほどの渇望に満ちた懇願の動きが、 を追い詰める。

 背中を震わせる の顔を、横向きにさせて涙で濡れた頬にキスを落としながら、修司はもどかしげに何度も自分自身を押し込んでは引き抜き、容赦なく攻め立てていった。






「あっ…んっっっ……はぁっ…しゅ……修司さ…修司さんっ!!」


  の理性も今の修司の前には無用のものとなり、身体は意識とは裏腹に修司を求め、彼の動きに合わせて締め付け始めてきた。


「んっ……もっと俺の名前呼んでくれないか……嬉しいよ… …」

 無意識に修司の名を呼びながら喘ぎ始めた に、愛おしさを感じた修司は、さらに彼女の腰を抱き寄せて欲望を打ち続ける。





「ああっ…修司さんっ…修司さ…っっ…」




「そろそろ……だね…っ…」


 二人の絶頂は目前だった…。

 修司はさらに深く腰を引き寄せると の耳元で絞るような声で囁いた。






「どこまでも一緒だ……あの時から…俺はお前しか……だから…俺と一緒に……」





「?……修司さ…あああっ……ふぁああああっっ……」

 修司の言葉に疑問を持ちながらも、 には考える余裕もなく、そのまま一段と高い声を上げてゆっくりとベッドに沈むと、修司も追い掛けるようにしてその欲望を放つ。



「くっ…!!………」









 ベッドに沈んだ の額にかかった髪を丁寧にかきわけながら、修司は寂しそうな瞳で呟いた。





「こうして身体は繋がっているのに、心はあの時に置き去りにされたままなのだろうか………ずっと…ずっと手を離さないでいたかった……」




 消え行く意識の中で、 は修司の言葉にどこか懐かしさを覚えた。






「ずっと手を…?」



 そうどこかで聞いたこの言葉。

 昨日、今日ではなく、ずっとずっと前に…。














 『ずっと手をつないでいようね』




 この言葉の意味が明らかになった時、二人を包む闇はさらに深くなっていく…

 

 

 

 


−禁断の木の実 3−

(作/橘 妹&橘 姉)