◆1◆

 

 

 

 分かっている…。



 カズマくん……ううん…樫宮くんには将来を誓った人がいるってこと。

 


 だから樫宮くんとずっと一緒にいたいという私の願いは叶えられない夢だってこと…。





 せめて私と逢っている時だけでも、その時間だけは私だけの樫宮くんでいてくれるなら…私はそれでもいいと思っていた。


 樫宮くんの胸の中でその温もりを感じられるなら…それで幸せだと思うようにしていたから…。


 

 

 

 

 

 

 

 

「待たせたな」


「ううん」


 今日は樫宮くんとのデート。

 樫宮くんからの誘いに私は笑顔で応える。

 


 少しでも樫宮くんといる時間が楽しくいられるように…。

 

 




「さっき店長から電話があって、今日は店が
臨時休業になった。だから、ずっと一緒にいられる…」

 


「え?そうなの?……嬉しい……」

 

 





の好きな所、どこでも連れていってやるよ」


「……くす」

 

 



「何だ?何か可笑しいこと言ったか?」


「ううん。…何だか…優しいなって思って…今日の樫宮くん」

 

 



「そうか?」

 樫宮くんは少し頬を赤らめて照れる。ゴージャスでホストとして接客している時にはあまり見せないような笑顔で…。

 

 

 でもね、私は知っているの。

 樫宮くんはいつだって本当は優しいんだってことを…。



 委員長と呼ばれていた学生時代も、誰も知らない所でクラスのために一生懸命動いていたこと知っていたから…。


 そんな樫宮くんが大好きで…でも私には手が届かない存在だった…。

 

 

 



「で、どこにする?」

 樫宮くんはそう言いながらさりげなく私の肩に手を回す。

 まるで恋人同士みたいだね……。

 

 

 


「そうだな〜。プラネタリウムは?」



「プラネタリウムか…。いいかもしれないな。久しく本物の星なんて見ていない。星が出る時刻から朝まで店で仕事しているだろ?」


「うん、そうだね」

 

 



「軽く食事でもとってから行こうか?」


「うん」

 

 



 食事を済ませ、柔らかい午後の陽射しの中、カフェテラスでコーヒーを飲んでから私達はプラネタリウムの入っているビルへと向かった。



 週末の街中は歩くのも困難なほど、人込みが多くて…。でもそんな中、やっぱり樫宮くんは目立っていて…。すれ違う女性は頬を赤らめながら樫宮くんに振り返る。

 

「くす……」

 



「……何…にやついているんだ?」



「……だって…。樫宮くん…かっこいいから…」

 

 




「は?」

 少し呆れた口調で言い返す。

 

 


「目立ってるよ、樫宮くん。みんな振り返っていくもの」


「………そうか?…今日はゴージャスで着ているような服装じゃないだろ?普段着だと思うが……」



 確かに、スーツ、ネクタイといったホストの服装ではない。

 コットン生地のシャツにジャケットを羽織って、ジーンズ。でも…それでもやっぱり樫宮くんはかっこいい。

 

「ほら、行くぞ」

 メガネをそっと指で直して、樫宮くんは私の手をギュッと握って歩き出す。

 



 憧れの樫宮くんと一緒に街の中を歩いたり…一緒に食事をしたり…


 そして…こうして手を繋いで時々見つめあって……

 


 気付くとすごく近くに樫宮くんの顔があって……

 

 

 

 

…」


 優しいキスが私を包む。

 


 本当の恋人同士みたいに…


 

 

 

 


 一緒にいられるだけで…それでいいと物わかりが良いふりをしていたのに、

 樫宮くんに逢う度に、

 樫宮くんが私だけに笑ってくれる度に


 私の樫宮くんへの気持ちはどんどん膨らんでいって……欲張りになる。

 

 

 


 この手を…離したくない……

 

「樫宮くん…」

 私が握り合った手に力を入れて樫宮くんを見つめた時、

 樫宮くんの胸ポケットに入っていた携帯から着信を告げる音楽が流れた。

 

 

 



「……… ……」



 携帯の着信音が響く中、樫宮くんは私にキスを何度も落とし、次第に深くなるキスに目眩がしそうになる。

 

 でもまだ携帯から響く機械音は鳴り続けていて……

 



「樫宮…く…ん……。電話……出た方が……んっっ……」



 私の言葉もすぐに樫宮くんのキスに塞がれてしまって…

 


 まるで電話に出ることを避けているかのように、樫宮くんは私にキスを繰り返す。

 

 

 

 


「…………」

 鳴り止まない携帯の着信音に樫宮くんは小さくため息を付くと、ようやく携帯をポケットから取り出す。

 


 そして…

 

 携帯画面を見た樫宮くんの表情が突然険しくなった。

 



「樫宮くん?」

 



「…………………少し…待っていてくれるか?…」


「うん…」

 



 樫宮くんは、抱き締めていた私の身体をそっと離して、私から少し離れた場所でその電話を受信した。


 

 


『ああ…はい…そうです…樫宮ですが………。!!!容態が?………!!…分かりました…。今から…向かいます…はい……よろしくお願いします……』

 

 

 


 ……樫宮くんの婚約者が入院している病院から?


 婚約者の御両親から?

 

 



 ……私は気付かぬふりをしながら、プラネタリウムの開演案内が記されたポスターを眺めていた。目で字を追っていても、一文字だって頭の中には入ってはこない…。

 

 

 

 

 




……すまない……。急用ができた…。この埋め合わせは必ずするから…」

 


「うん、大丈夫。ちょうど欲しかったバッグがあるから、そのお店にでも買い物に行ってこようかな。ふふっ」

 


 嘘…。

 バッグなんて欲しくない。買い物なんてしたくない。

 樫宮くんと……一緒にいたい……。

 

 

 




…」


「なあに?」

 

 

 



「愛してる……。俺はお前だけを愛したい……愛してる…」
 

 そんな切ない声で囁かないで……

 

 

『行かないで!!』

 樫宮くんが抱き締める腕の力が、 言ってはいけない…その言葉を告げてしまいそうだから…

 

 

 


 決してその言葉は言ってはいけない…


 樫宮くんを困らせてしまうから…

 樫宮くんを苦しめてしまうから…

 

 







「じゃあ…また後で…電話かメールするから……」

 


!!」


 私は樫宮くんに背を向けて、そしてそのまま後ろを振り返らずに走った。

 


 樫宮くんが私を呼ぶ声が次第に小さくなって……そして雑踏に混ざって聞こえなくなって……。

 

 

 

 

 



 ようやく走っていた足を停めて、私はその場にうずくまって泣いた。

 


 

 どうしてこんなに好きになっちゃたんだろう…。



 どうしようもない位、樫宮くんのことが好き……。
 

 


 樫宮くん…… 好きなの……。

 





 メビウスの輪のように、私はこの苦しい恋から逃れることは…できないの?

 


 永遠に……?

 

 


※次ページにもBGM有ります。




<ひとこと>
カズマ攻略記念ドリ(笑)のつもりでしたが、もういきなり切ないモードになってます(汗)。
だって、だって〜!!!
カズマってばっ!!!!!その気にさせといて〜(苦笑)
ということで(どういう事?笑)、続きます(笑)。

瞳の中に…-1-

 『遠く離れた場所』
Music by Myu Music