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『久弥さんシナリオと麻枝さんシナリオ』
『Kanon』において、久弥さんが担当されたシナリオと、麻枝さんが担当されたシナリオとの間には、印象に差があるように感じます。そのことに関して、私なりに少し思うことを書いてみます。
私のSSを読んで下さった方はもうお気づきの通り、私の書いてきたSSの内容は、久弥さんが担当されたシナリオとキャラクターに偏っています。これに関して言えば、一見すると2通りの見方ができると思います。すなわち…久弥さんのシナリオの方が麻枝さんのシナリオよりも好きであるか、もしくはその逆に、久弥さんの方が嫌いであるかです。つまり前者であると仮定すると、久弥さんの書くお話が好きだから、その内容を膨らませてSSを書いているということになります。また後者であると仮定すると、久弥さんの書くお話に不満があるから、その内容を補うためにSSを書いているということになります。
結論を先に言うとそのどちらでもなく、おふたりともに大好きであり、おふたりの比較などとてもできないということになるのですが、その違いがどのへんにあるのかという点を明確にしてみたいと思います。
久弥さんのシナリオから受ける私の印象は、登場人物にとても感情移入しやすいということです。それこそ作中人物の気持ちがとても良く感じられて、共感してしまうのです。特にヒロインの気持ちなどがそうです。私のSSを読んで下さった方にはおわかりのように、各シナリオの補完と称して、ヒロイン視点での作中のエピソードをモチーフにした内省的なSSをいくつか書いています。これらのSSは、作品から伝わってくる…しかし直接的には描かれることのなかったメッセージのようなものを、自分なりにSSという形で表現したものと思っています。
久弥さんのシナリオにおける各ヒロインの心情を見ると、溢れるほどの思いを抱えながらも、それを無理やり抑えこんで苦しんでいるという印象を感じます。だから…ヒロインの思いが伝わってくるから、思わず作中に引きずり込まれてしまいます。感情移入してしまいます。ヒロインの視点からの物語が見えてくるのです。すなわち、自分自身もまたこの物語の登場人物として同化してしまうのです。
だからこそ、敢えて直接描かれることのなかったこれらの心情を描いてみたいという欲求に駆られて、ヒロイン視点でのSSを書いてしまうのです。溢れるほどの思いを感じるからこそ、視点の異なる物語として書きとめてみたい…と思うのです。つまり久弥さん寄りのSSが多いのは、ヒロインの心情に同化しやすく、描きやすいからだとも言えます。もちろん、久弥さんの書かれるお話が好きだということは言うまでもありません。もっとも…本当の意味で、どれだけヒロインの心を掴めているか、久弥さんの意図するところをどこまで理解できているかということとは別問題になりますが…。
さて…それに対して麻枝さんのシナリオから感じる私の印象はと言うと…『美しい』なんです。とにかく演出込みでということにはなリますが、真琴にしろ舞にしろ、シナリオが佳境に入ってからの見せ方は、まさに魅せられるという言葉をして『魅せ方』という表現をしたくなるほどに美しいと思います。悪い言い方をすれば、それ故に舞シナリオのラストなどはお話の展開がやや強引で難解にも感じられますが、解釈上で自分なりの結論を出せるようになった現時点では、やはりその圧倒的なまでの美しさが目を引きます。
ただし久弥さんのシナリオの場合とは逆に、ヒロインに対する感情移入が非常にしにくいのです。これはお話の構造と言うよりも、登場人物の性質によるのかもしれませんが、概して麻枝さんの担当されるヒロインは、とても強い想いを胸に秘めているにもかかわらず、自分自身ですらもがその想いの正体に気が付けず、想いを持て余してもがき苦しんでいるという印象を感じるのです。だから…ヒロイン自身ですら掴みかねている本当の想いという前提をして考えたとき、感情移入が非常にしにくいと感じるのです。要するに、久弥さんの描かれるヒロインに比べて麻枝さんの描かれるヒロインは、感情表現が下手な子が多いのではないかと思うのです。本当は強い想いを胸に秘めた、優しくて素直ないい子たちなのに…。
こうした状況から、麻枝さんのシナリオの場合は久弥さんのシナリオの場合とは異なり、ヒロインに対して感情移入しにくく、しかもお話の展開そのものの美しさに魅了され、圧倒されてしまう。従って、ヒロインの心情に同化して作中に引きこまれる代わりに、むしろ一歩距離を置いた観点から、さながら映画を見るかのように、観客の立場に立たされてしまうのです。そしてそのために、SSなどが書きにくいと言えます。
つまり纏めると、ヒロインの心理に同化して、自分自身が作中に引きこまれてしまうのが久弥さんのシナリオから受ける印象であり、逆に全体の美しさに魅了されて、さながら観客の立場に立たされてしまうのが麻枝さんのシナリオから受ける印象だと言うことになります。久弥さんのシナリオは、本当にヒロインの心情がわかりやすくて感情移入しやすいです。そして麻枝さんのシナリオは、圧倒的なまでに美しく、自分が入りこむ余地などありません。従って私にとっては、おふたりのシナリオの印象が全く異なるため、比較や優劣の判断などとてもできかねることであり、おふたりともに大好きだということになります。
最後になリますが、敢えて理想論で言うならば、ヒロインの感情を掴みやすい分だけ久弥さんの方が好みかもしれません。しかしながら…私の内省的なSSを読んでいただければわかる通り、あくまでもSSの形態としては佐祐理さんシナリオが理想であり憧れです。そういう意味では麻枝さんの方が好みかもしれません。だから…分業ではなく合作で1本のシナリオを書かれたら、どんな凄いものになってしまうのだろうと思うのですが、それこそ想像もできないことですよね。
『以上』
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