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「いもうと」
みさか かおり
わたしには、いもうとがいます。なまえは
「しおり」といいます。でもわたしは、しお
りがきらいです。すぐになくからです。おか
あさんを、ひとりじめするからです。でもい
ちばんきらいなことは、からだがよわいこと
です。しおりはからだがよわいから、おそと
であそべません。おともだちもいません。だ
から、いつもわたしがあそびあいてになりま
す。そのせいで、わたしはおともだちとあそ
ぶことができません。おかあさんに、しおり
とあそぶのはいやといっても、おねえちゃん
なんだからとしかられます。だからわたしは
しおりのことが大きらいです。
でもある日、わたしがおうちへかえると、
だれもいませんでした。しおりもいませんで
した。おかあさんもいませんでした。どうし
たのかなとおもっていたら、おかあさんから
のおてがみがありました。
「おかあさんは、しおりをつれてびょういん
へいきます。おとうさんがかえるまでは、い
い子にしてまっていてね。おかあさんより」
とかいてありました。
おかあさんは、ときどきしおりをつれて、
びょういんへいくことがあります。しおりの
ぐあいがわるくなったときです。わたしは、
いい子にしておとうさんをまちました。
おうちにかえってきたおとうさんは、わた
しをつれてびょういんへいきました。ベッド
には、しおりがねていました。
「おねえちゃんごめんね。しんぱいかけて」
としおりがいいました。わたしは、しおりの
ことがきらいだったから、しんぱいなんかし
ていませんでした。でもほんとうは、すこし
だけしんぱいだったかもしれません。
わたしはしおりのことが大きらいなのに、
しおりはなぜか、わたしになついてくれまし
た。だからわたしは、しおりのことがきらい
なくせに、おねえちゃんらしくふるまってき
ました。それがおかあさんのいういい子だと
おもったからです。わたしがいい子にしてい
れば、おかあさんはわたしのことを、ほめて
くれます。いつもしおりのことばかりかまっ
ているおかあさんだけど、ちゃんといい子に
していれば、わたしをほめてくれました。だ
からわたしは、いいおねえちゃんでいようと
おもいました。でもほんとうは、しおりとい
るのがたのしいときもありました。じぶんで
もよくわかりません。
その日は、しおりはおうちへかえってきま
せんでした。こんなことははじめてでした。
おかあさんは、
「しおりはにゅういんしたのよ」
といいました。わたしは、にゅういんという
ことばのいみをしらなかったので、おかあさ
んに、おしえてもらいました。にゅういんは、
びょうきがよくなるまで、ずっとびょういん
におとまりすることだそうです。そんなの、
わたしはいやだなとおもいました。ちょっと
だけ、しおりがかわいそうになりました。
その日はひとりでねました。いつもはしお
りといっしょなのに、にゅういんしてしまっ
たからひとりぼっちです。とてもこわかった
です。さみしかったです。でもしおりもおな
じです。びょういんでひとりぼっちです。
わたしははじめて、しおりがいないことを
さみしいとおもいました。いつもはしおりが
いてくれるから、さみしくありませんでした。
こわくありませんでした。そして、しおりは
いつもひとりぼっちだったことにきがつきま
した。
わたしには、おともだちがたくさんいます。
でもしおりには、だれもいません。しおりに
は、わたししかいません。そしてわたしは、
ひとりぼっちがどんなにさみしいことか、は
じめてわかりました。しおりがいてくれて、
どんなにしあわせだったのかがわかりました。
しおりにはわたしがいて、わたしにもしおり
がいます。ふたりで力をあわせれば、こわく
はありません。ふたりでいれば、たのしいこ
とだってできます。わたしはこの日、しおり
がどんなきもちでわたしのそばにいたのか、
はじめてしることができました。
わたしはいままで、いいおねえちゃんでは
ありませんでした。そうおもいます。だから
わたしは、おかあさんのいういい子でもあり
ませんでした。そのことにきがつきました。
これからは、もっとしおりとなかよくしよう
とおもいます。しおりといて、たのしかった
おもいでもたくさんあります。だからほんと
うは、わたしもしおりのことがすきだったの
かもしれません。でもうらやましかったんだ
とおもいます。でもこれからは、もっとたく
さんしおりとなかよくなって、しおりのこと
を大すきになろうとおもいます。だってわた
しは、しおりのおねえちゃんなんだから。
わたしはこのことを、おかあさんにいいま
した。
「これからは、しおりとなかよくするよ」
って。
おかあさんは、よろこんでくれるだろうと
おもったのに、なぜかないていました。どう
してなのかはわかりません。おとなはふしぎ
です。でもそのかわり、おとうさんがわたし
のあたまをなでてくれました。だからわたし
は、とってもうれしかったです。
そしてわたしは、いまはもう、しおりのこ
とが大すきです。じまんのいもうとです。
§
思い出の中に埋没していた意識が、現実の世界へと戻ってくる。
「懐かしい物が出てきたものね」
…そう。
私が小学生の頃に家族のことを書いた作文だ。
その後、栞にねだられてあげてしまったのだが…
まさか未だに大切に保管してあるとは思いもよらなかった。
「あたりまえですよ〜」
「だって…私の大切な宝物なんですから」
『宝物』。
そう言われると少し恥ずかしい気もする。
でも悪い気持ちではないと思う。
でも私は素直じゃないから…。
「まあ…小学生にしては、上出来だったかしらね」
すこし茶化してみる。
「でも…そこに書いてあることは、もう意味がないわね」
意味深な視線を栞に送ってみる。
予想通り、少し頬を膨らませて拗ねたような表情に変わる。
「え…?」
意外…という表情の栞。
「言葉通りよ。そんなもの、もう意味はないって言ったのよ」
さらに続けてダメをおす。
「え〜、お姉ちゃん、そんな…」
動揺のあまり、栞の顔色が変わる。
これだからこの子は、からかいがいがあるわ。
「そんなこと言う人、嫌いです…」
「これは、お姉ちゃんが私を『大好き』だって言う大切な証拠です」
「だから私が死ぬまで、大切に取っておきます」
少し赤面しながら、可愛らしい意地を張る栞。
だから…ついからかってしまうのよね。
「だから…その紙切れはもう、無意味なのよ」
思わず意地悪な笑みを浮かべてしまう。
「お姉ちゃん、そんな〜」
本気で残念がる栞。
苛めるのはこれくらいにしておくのがいいかしら…。
「だって…」
少しもったいぶって口に出す。
「お姉ちゃんは…」
…だめだ。
どうしても、笑顔になってしまう。
「その頃なんか比べものにならないくらい、栞のことが大好きなんだから…」
満開の花のような笑顔を浮かべる栞。
私はこの子の『笑顔』に助けられてここまでこれた。
だから私は、これからもこの子の笑顔を守り続けたいと本気で思う。
「大好きよ、栞」
「あの頃よりも…ずっと…」
もう一度だけ、想いを込めて贈る言葉。
「私もだよ、お姉ちゃん」
「あの頃より、ずっと…ずっと…お姉ちゃんのことが大好きだよ」
私たちの幸せは…ここにある。
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