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コン…コン…
少し躊躇いがちなノックの音。
それが誰なのか、私にはわかっている。
私の部屋のドアをノックする人は、この家にはたった一人しかいない。
そして…私がノックの音を聞くのは…本当に久しぶりのことだった。
思えば、最後にこの音を聞いたのは…いつのことだっただろうか。
記憶が不意に甦る。
きっとそれは…
…あの日。
私の積年の想いが叶えられた、たった一日だけのあの日。
お姉ちゃんと一緒に学校へ通うことが出来た…
たった一日だけの…幸せな日。
あの朝…私を部屋まで呼びに来てくれた…お姉ちゃん。
コンコン…
ノックの音。
そして…
『栞? 早くしないと初日から遅れるわよ』
『わかってるよ〜、お姉ちゃん』
…それは…遠い日の幸せな想い出…。
たった一日だけ叶えられた…願ってやまなかった光景…。
そしてそのあと私は、病気で倒れて入院して…
私がこの家に戻ってきたあとも…
いつの間にか、このドアがノックされることはなくなっていた…。
だって…
お姉ちゃんは…
…。
「栞…入るわよ」
お姉ちゃんの声で、現実に引き戻される。
「あ…うん…いいよ、お姉ちゃん」
だから…こうしてまた、お姉ちゃんが私の部屋に来てくれたこと。
ただそれだけで…私は…。
…。
そうして…。
本当に久しぶりに…。
その夜…お姉ちゃんとお話しすることが出来た。
学校のこと…
勉強のことや友達のこと…
部活や学校帰りの寄り道のこと…
街へ出たときのこと…
遊びに行ったときのこと…
そして…
お互いにとって、もう一人の姉妹のこと…
恋のこと…
祐一さんのこと…
けれども、そんな想い出たちも大切だけど…
こうして今、お姉ちゃんとお話が出来ることと比べたら…
だから…私、幸せだよ。
本当だよ。
こうして二人、仲良くいられることが…
それだけが…
ずっと、私が願ってきたことだったのだから。
お姉ちゃんのことが、大好きだから。
だから…
私、今日一番嬉しかったことはね…
私の部屋へやってきたお姉ちゃんの、最初の言葉。
その一言で、私の想いは…全部…報われたんだよ、お姉ちゃん…。
私が欲しかったのは、謝罪の言葉なんかじゃない。
だって、お姉ちゃんの辛い気持ち、誰よりもよくわかっていたから。
私だって、お姉ちゃんのこと、大好きだから。
だから…
お姉ちゃんの言葉が、本当に嬉しかったんだよ。
『栞、最初に言っておくことがあるわ…』
お姉ちゃんは…少し照れたような表情で…
『一度しか言わないから…聞き逃さないようにね…』
そして…
照れてはいるけれど…
その瞳には…私の姿をはっきりと映しだして…
『私の…妹でいてくれて、ありがとう…』
『お姉ちゃん、あなたのこと…大好きよ』
『これからも…いつまでも…ずっと…』
だから私は…満面の笑顔で…
お姉ちゃんの前では、本当に久しぶりの…
作り物ではない、心からの笑顔で…答えるんだ。
『そんなこと、わかってるよ』
『私だって、お姉ちゃんのこと…大好きなんだから』
ね…お姉ちゃん。
私、わかったんだよ…。
私が生まれてきた意味がなんなのか…。
お姉ちゃんの妹になるためだったんだね…。
そうして…幸せになるために…私は生まれてきたんだね。
だから…
『お姉ちゃん…』
『私、お姉ちゃんの妹で、本当によかったよ…』
『私、今…幸せだよ』
本当に伝えたかった言葉。
本当に伝えたかった想い。
なのに…伝えることが出来なかった大切なもの…。
だから…もう…何も後悔することはないよ…
…お姉ちゃん…。
ずっと…ずっと…いつまでも…
お姉ちゃんは、私のお姉ちゃんで…
私は、お姉ちゃんの妹で…
そうだよね…お姉ちゃん…。
私…本当に…幸せだよ……。
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