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  「どうですか、祐一さん。このお話は」

俺の手には、読み終えたばかりの本が1冊。

  「ドラマみたいで、ちょっといいお話だとは思いませんか?
   なかなか格好いいですよね、お姉ちゃんと祐一さん、そして私。
   今度のお話は自分で言うのも何ですけど、かなりの自信作なんですよ」


にこっと微笑む栞。

  「今度のイベントこそ、これで行列間違いなしですっ」

…………。

行列間違いなし……かどうかはさておき、確かに悪くはない話だと思う。

不治の病の薄幸の美少女と、その姉の麗しき姉妹愛。
ふたりを巡るひとりの男の純愛。

赤面したくなるほどに美化されたその話は、ベタでくどくてお約束だ。
けれど、そういうのもかなり嫌いじゃないことは確かだ。

……ただし問題は。

  「……で。俺の肖像権はどうなるんだ、栞。
   よもやこのまま、実名で本を売るつもりじゃないだろうな」


  「……どうせ、実名かどうかなんてわかりはしませんよ」

そういう問題じゃないように思えるのは俺の気のせいか?

……と言うより、自分の本名でこんなベタな話を書いてしまう栞の感性が疑わしい。





  「それにしても……栞にこんな趣味があったとは驚きだな」

まさか……栞が、同人女だったとは。

  「そもそも初めて祐一さんと会ったきっかけは……。
   カッターナイフとか、必要な道具がどうしても見つからなくて、
   次の日がイベントなのに、まだコピー本が仕上がっていなかったんですよ。
   それで仕方なくコンビニに買い物に出た、その帰り道で祐一さんと出会ったんです」


  「ぐは……」

あんまり知りたくなかった真実。

それがこうも美しく脚色されるとは。

……栞、恐るべし。

  「じゃあ……大量に買い込まれたお菓子の類は……」

  「もちろん、追い込みのための戦闘食に決まってます。
   徹夜はあたりまえでしたから、そうするとお腹もすきますよね。
   こういう切羽詰まったときには、甘くて高カロリーのものほどいいんです」


泣きたくなってきた。

……泣きたいときは泣けばいい。

でも……ここで泣くのは敗北のような気がする。





  「それにしても栞のことだから、絵で勝負するのかと思ったぞ」

……戦う前から勝負は決まっているような気もするが。

  「どんなに良い話を描いたって、読んでもらえなければ意味がないですからね」

さらりと返す栞。

  「それはそうだな……って……」

…………。

やっぱりそうか……。

  「実はこのお話、以前に漫画で描いたことがあるんです。
   感動してもらえる自信はあったのに、ちっとも売れなかったんです」


少し興奮気味に語る。

  「皆さんお手にとって下さるんですけど……
   ぱらぱらと2〜3ページ捲ると、会釈して行ってしまわれるんです」


少し不満げに頬を膨らませる栞。
そんな仕草は可愛らしいのだが……言ってることは笑えない。

   「栞……。正直言って、向いてないと……思うぞ……」

と、聞こえないくらいの小声で呟く。

  「え? 何か言いましたか? 祐一さん」

  「あ……いや。何でもないぞ、栞」

一瞬小首を傾げたあと、気を取り直したように栞は続けた。

  「それで……もう一度、このお話を皆さんに読んでいただきたくて。
   今度は小説風に仕立ててみたんです。祐一さんもいいお話だと思いますよね?」


  「ああ、その点は保証する。少し恥ずかしいくらいがちょうどいいかもしれないな」





  「それにしても、知らなかったぞ」

……そう。
この本を読んで、初めて知った。

  「何のことですか?」

本当に、何のことだかわからないという表情の栞。

  「いや、栞にこんないいお姉ちゃんがいたなんてな。初耳だ」

栞とつきあい始めて暫くになるが、姉がいたのは知らなかった。

  「……いやですよ、祐一さん。今頃何を言ってるんですか」

合点がいったという表情で、ころころと笑う栞もまた可愛らしい。
俺もつられて笑ってしまう。

  「そうだな。今さらだな。
   でも本当に気がつかなかったぞ。
   こんないいお姉ちゃんを持って、栞も幸せ者だな。
   香里っていう名前なのか? そのうちいつか紹介してくれよな」


  「……祐一さん、本気で言ってるんですか?」

少し真顔に戻って問い返す栞。

そしてすぐに元の屈託のない笑顔に戻って言葉を続ける。




















 「私にお姉ちゃんなんか、いるわけないじゃないですかっ」




















 (ばいばい、お姉ちゃん……)




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