洗剤環境科学研究の広場




(5月13日)新洗剤運動宣言・PRTR法指定化学物質をふくむ洗剤の製造と販売、使用を制限、自粛すべきである
―洗剤の安全性に関する歴史的な評価をふまえてー

藤原邦達


 合成洗剤の安全性に関する論争は戦後、中性洗剤の出現以来激しく行われてきた。一時は石鹸か合成洗剤かというような、2者択一の立場での、合成洗剤追放運動と称する住民、消費者側の組織的な活動が行われて、行政や洗剤メーカー側との角逐が社会的な関心を大きく集めていた。このような洗剤をめぐる社会的な混乱と対立は世界的にも異例であるといわれてきたが、狭小な国土に大規模な産業と消費人口を抱えていて、問題化学物質の単位面積あたりの環境負荷水準が異常に大きくなりがちな我が国の場合には、戦後の、下水処理場周辺の市街地に洗剤の泡雪が舞い飛んだような状況が異常に強烈な社会的な反応を引き起こしたのも無理からぬところであったと思われる。
後述するような歴史的な経過のなかで、石けんの使用者の比率は激減し、今日では合成洗剤を使用する消費者の比率は90%を超えるようになっている。そして、とりわけ界面活性剤として直鎖アルキルベンゼン・スルホン酸塩(LAS)やポリオキシエチレン・アルキルエーテル(POER)を含む洗剤がもっとも大量に使用されるようになっている。
 以下の小論では、LASやPOERの安全性に関する既往の論議に関する経過を紹介して,最終的に,これらの問題界面活性剤を含む洗剤の製造と販売、使用を制限、自粛すべきであるとする理由を明らかにしたいと考える。

1 LAS、POERの問題性に関する研究の経過
 1950年代の前後から、わが国に登場したいわゆる中性洗剤の代表的な存在が側鎖アルキルベンゼン・スルホン酸塩(ABS)系の洗剤であった。この洗剤の消費が急激に拡大したために、家庭排水が流れ込む中小の河川は洗剤の気泡で覆われるような異常な状況になった。洗剤の使用に際して皮膚湿疹が生じて問題となり、他方で、水生生物に対する影響が危惧されるようになった。この時点で我が国の洗剤メーカではABSを直鎖アルキルベンゼン型のLASに置換することに踏みきって、我が国では世界でも最も早い時期に低発泡性の合成洗剤を普及することに成功したといわれている。
 しかしながら,急速に普及したLAS系の洗剤はなお以下の2点において疑惑を残していて、行政、研究者、消費者団体、メーカー側間での論争は絶えることがなかった。
(1) 洗浄に伴って発生する皮膚障害、発癌性、催奇性などでの人の健康に対する影響
(2) 廃棄後に発生する水質汚染に伴って発生する水生生物の生態系などへの影響
 1970年から1980年代にかけて、柳沢文徳教授一門、三上美樹教授(後に三重大学学長)一門や小林勇博士らの、いずれも合成洗剤研究会(現在は改称して洗剤・環境科学研究会)に所属する研究者たちは以上の(1)、(2)についての研究成果を数多く発表して注目を浴びるようになった。  そのうち(1)に関しては合成洗剤の皮膚吸収が動物実験で実証され、また皮膚の手あれなどの皮膚障害なども各地の研究者たちによって実証された。しかし発癌性は否定された。
 他方で皮膚塗抹時に妊娠マウス、ラットの胎仔に奇形が発生するという三上教授一門の発表は大きな波紋を引き起こして、合成洗剤反対運動が大きく盛り上がる結果となった。しかし同様な実験を行った研究者たちの報告では、発生毒性に関する有害性については若干の問題があっても、催奇性は特段に証明されない、とされた。そして最終的に当時の厚生省では「合成洗剤は通常の使用条件では問題がない」とする判断を下した。
以上の経過に関して、国側では文献1、文献2、文献3などの研究報告集をくりかえして公表したが、これらの最終的なまとめとして厚生省環境衛生局食品化学課が編著した文献4が公刊されている。
 以上のような報告を通して、国側では、要するに、「通常の使用(洗剤の目的としての使用)において安全性に関する問題は認められない」とする従来の主張が確認されたとしており、こうした姿勢は現在にいたるまで受け継がれている。
 他方で、このような国側の報告に対して三上教授らは反論して、つぎのように述べている。
「研究班を代表すると称して公表された、いわゆる「西村報告」では、それらの生体障害性はことごとく否定されている。私どもは当然のことながら、ABS、LASその他の界面活性剤の、体内取り込み量の程度によって、生体障害性は左右される、との観点から、同一見地の経口、皮下、経皮各投与法による成績を、広く、総合的に検討したが、経口、皮下で障害性は顕著であり、経皮投与では一般に経皮吸収率は低く、従って経皮吸収量は少ないので、障害性は弱いことを検証しえた。しかし弱いといっても,四肢奇形、とくに棘突起奇形などの骨系統の異常、脊髄中心管閉鎖等の奇形、モンスター、小口蓋裂(口蓋隙)など、有意の多発が認められている。哺乳類での、合成洗剤、又は、界面活性剤による催奇形性は、全く明白であって、疑う余地はない、と思われる。」
三上教授一門の研究と、とくに西村報告などに対する同氏の反論は、文献5、文献6などに記載されているが、さらにそれらは文献7、文献8などに要約されている。

2 既存の研究に関する問題点の指摘
 私は、専門外の立場にあるものとして、以上に示した催奇形性や発生毒性に関する研究者間での評価が分かれている事態について、これ以上言及することを慎みたい。三上教授に近い位置にいた立場からも身贔屓な発言になることを回避したい。ただし、当然のことながら、以上の各研究者の実験結果では、実験動物の種類や遺伝的な素因、飼料、検体の種類、組成、投与の条件、従って生体内吸収量などが影響したであろうし、病理組織学的な症候についての研究者間での判断が微妙に相違した可能性があったものとも考えられる。
 当時の厚生省環境衛生局食品化学課長藤井正美氏は文献4の冒頭で、文献3から、以下のように引用しており、研究継続の必要性を認めている。
「なお今後の検討が望ましい点としては、本報告の経過報告の当該箇所で言及したように、洗剤の適用によってかなりの低濃度で胚発生異常の見られる場合のありうること(ただし奇形胎児は見られていない。野村、山本(忠)など)、出生率の低下の見られることなどについては、その場合の洗剤の適用条件(濃度、卵膜の状況、適用皮膚の状況など)の検討、実際の体内濃度の検討などを含めてより深い検討が望ましい点であると考えられた。このような現象が実際的状況で見られうるものか否かについてはその可能性がほとんどないものとは考えられるが、改めて洗剤の経皮吸収(特になんらかの皮膚障害のある場合)と胚細胞への到達可能濃度との関係等についてはより実際的な条件についての詳細な検討が行われることが望ましいと考える。」
 以上を要約すると、これまでに、実験動物では次のような事実が判明している
三上教授、その他の研究者の場合とも「かなりの低濃度で」胚発生異常などの発生毒性が認められた。
三上教授は胎仔での奇形を認めたが、他の研究者では認めなかった。
皮膚塗布によるLASなどの吸収が見られた。
発癌性、発がん補助性は認められなかった。
洗剤の普通使用条件で考えられる体内摂取量は動物実験で認められた最大無作用量の1000分の1レベルであって、安全率100分の1をはるかに下回っており、問題はないとされた。

3 洗剤の水生生物に対する影響問題についての到達点
他方で、環境生物影響については、文献4のなかで、既存の文献の総括責任者であられた吉田教授はつぎのようにのべている。
「より広範な環境一般における生物インパクトについては科学的な検討は極めて不十分である。今日までに現実に問題とされているのは、洗剤そのものではなく、含有燐成分による燐負荷問題のみである。本問題が重要であることは言をまたない点であると考えるが、同時に一般環境負荷の場合の問題点、例えば赤潮関連問題その他の生物環境関連領域についての基礎的検討が推進されることを望むものである。」(文献4のp57)
 吉田教授が以上のように記載されたのは1983年であったから、これは、いささか認識不足であったことは否めない。
実はその時点までに、LASなどの河川などでの実在残留濃度についての実測事例やLASのその濃度付近での魚介類、両棲類などに対する生物影響についての実験結果なども例えば合成研究会誌や水質関連学会誌などに、多数報告されていたのである。
LASなどの水生生物に対する最大許容濃度については、当時の洗剤工業界側の中心的な研究機関であった花王生活科学研究所の所長であられた坂田氏が以下のように生態化学誌に記載していることを著者は文献9において、すでに1981年に、紹介している。
  「菊地らは界面活性剤の魚体への吸収・体内分布・排泄に関する研究と、界面活性剤の魚類に対する長期間暴露実験を通して、界面活性剤が水生生物に影響を及ぼさない濃度(最大許容濃度)を求めるための綿密な研究をしており、その成果が本誌にも紹介された。その中で、あくまで設定された実験条件下での値で、これをそのまま水質環境目標値とすることは出来ず適当な係数をかける必要があると言うことで、これまでの調査、研究から界面活性剤の水生生物に対する最大許容濃度として次の3つをあげている。即ち、(1)TLm試験からの算出として、水産環境水質基準では、淡水域でABSが0,5ppm、LASが0,2ppmであり、海水域では若干毒性が強いとしている。(2)生存・成長・繁殖試験からの算出として、淡水域でのLASの最大許容濃度は0,3mg/l以下であると推定している。(3)生理学的、病理組織学等の方法での最大許容濃度は藤谷の研究からはABS,LAS共0,5mg/l以下、立川らの研究ではLAS0,0015mg/lとしている。」(文献10)
  その後の滋賀県が研究を委嘱した調査団の研究報告、文献11でも、アユの稚魚の発育阻害は0,1ppm台であるとされている。また標識をつけたアユを河川に放流した後に、再捕獲する野外調査では、アユはLASの平均濃度が0,044及び0,190mg/lの河川水を明らかに避け、LASの検出限界値(0,004mg/l未満)の河川水を好むことが観察されている。(文献12)これから考えると、琵琶湖の湖北の測定点付近の河川水でもアユに良い環境ではないとされている。(文献13) 
 実在する中小河川のLASなどの濃度は0,1ppmを上回る場合が多数あることについては各地で報告されているとおりである。
 また家庭などから排出されて、側溝から放流口や下水処理場付近にいたる河川水の濃度範囲は、100ppm台から漸次希釈されるのであって、河川水の平均濃度が0,1ppmをこえる中小河川などの水域は環境内に普遍的に存在していると考えるべきである。特にいわゆる水域忌避濃度の点から考えると水質中の微量のLASでさえも生態学的には好ましくないことは明らかだというべきである。
 以上の事実はLASが「通常の使用条件では安全性に関する問題はない」とする厚生省の判断が洗剤を使用する人の場合についてだけのものであって、使用後に廃棄された水環境の場合には適用されないことを意味している。
 洗剤は「通常の使用条件」では必ず全量が廃棄されて、水環境に負荷される。そして通常の水残留条件下に水生生物などに悪影響を与えることは明らかである。私たちが1970年代以来主張してきたように、厚生省や洗剤工業会などの「洗剤は白」、「安全性に問題はない」とする考えかたが科学的、総括的に不完全なものであったことは明白である。
4 PRTR法でのLASなどの位置付け
(1)PRTR法と指定化学物質の定義
  1999年7月に公布された「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進にかかる法律」(いわゆるPRTR法)では、この法の対象となる第1種指定化学物質(354物質)、第2種指定化学物質を定めている。
PRTR法の目的は、「化学物質の管理や環境の保全に対する国民の関心の急速な高まりや,OECD等の国際機関における検討の進展、海外における制度化の進展等を踏まえ、有害性が判明している化学物質について、人体等への悪影響との因果関係が判明していないものも含め、環境への排出量の把握に関する措置(PRTR)並びに化学物質の性状及び取扱いに関する情報の提供に関する措置(MSDS)を講ずることにより、事業者による化学物質の自主的な管理の改善を促進し、環境の保全上の支障を未然に防止すること」(法第1条)にあるとされている。
ここで言うPRTRとはPollutant Release and Transfer Register(環境汚染物質排出移動登録),MSDSとはMaterial Safety Data Sheet(化学物質安全性データシート)の略である。
この法律での対象指定化学物質とは平成12年2月の中央環境審議会の報告書(文献14)によるとつぎのように記されている。
1)当該化学物質が人の健康を損なうおそれ又は動植物の生息若しくは生育の支障を及ぼすおそれがあるもの、
2)当該化学物質の自然的作用による化学変化により容易に生成する化学物質が1)に該当するもの、
3)当該物質がオゾン層を破壊し、太陽紫外線に到達する量を増加させることにより人の健康を損なうおそれがあるもの、のいずれかに該当し、かつ、
4)その有する物理化学的性状、その製造、輸入、使用または生成の状況等からみて、相当広範な地域の環境において当該化学物質が継続して存すると認められる化学物質で政令で定めるものとされている(法第2条第2項)
 またMSDSのみの対象となる「第2種指定化学物質」は上の1)から3)のいずれかに該当し、かつ、
 4)´その有する物理化学的性状から見て、その製造量、輸入量又は使用量の増加等により、相当広範な地域の環境において当該化学物質が継続して存することとなることが見込まれる化学物質で政令で定めるものとされている(法第2条第3項)
(2)洗剤の界面活性成分の第1種指定化学物質への指定の意義
 合成洗剤の界面活性剤成分であるLAS(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸及びその塩)とPOER(ポリオキシエチレンアルキルエーテル)はPRTR法の第1種指定化学物質として指定された。
この事実は使用後に廃棄されて水環境中に負荷されるLAS等の有害性が国によって認定され、従ってPRTR法による処理が必要であり、LAS等が「環境の保全上の支障を未然に防止する」必要がある化学物質であることを国が認めたことを意味している。
そして同時に、業種、従業員数、対象化学物質の年間取扱量等で一定の条件に合致する事業者が水環境中への排出量および廃棄物としての移動量についての届出が義務づけられることになっている。また「事業者は国が定める技術的な指針(化学物質管理指針)に留意しつつ、化学物質の管理を改善・強化する。又、その環境への排出や管理の状況などについて関係者によく理解してもらえるように努める」ものとされている。
化審法とは異なりPRTR法では、指定化学物質に関して、禁止、削減、規制、回収などの措置を講じるように定められてはいない。しかし、法第2条では指定化学物質は「人の健康を損なうおそれ又は動植物の生息若しくは生育に支障を及ぼすおそれがあるもの」と規定されている。そうであるならば、すくなくとも製造者、販売技術者、販売者、使用者などが可及的、実際的に不使用、代替、減量、自粛、自主規制することが望ましいのは明らかである。単に事業者が届出さえすればよいと考えるのは誤りであるとせねばならない。事業者に望まれる[管理の改善・強化]、「関係者への理解の要請」のために具体的に何をせねばならないかも明らかである。

5 LAS、POERの使用実態
 04年の3月23日に、国は第2回のPRTRデータを公表した。これは、昨年3月に01年度の発表があったあとの、02年度の分に相当する。
 届出排出量と届出外推計排出量(対象業種からの届出対象外の排出量、非対象業種からの排出量、家庭からの排出量、自動車などの移動体からの排出量)の合計は約88万トンであった。
 家庭からの排出量の内訳では、洗剤用の界面活性剤であるPOERが28%、LASが25%、そのほか、ジクロロベンゼンが29,2%、キシレンが2,1%、ジメチルドデシルアミンが1,9%、HCFC−141bが1,4%、イソプレンが1,4%、その他が10%となっている。洗剤用の界面活性剤が全体の約半分を占めていることが注目される。
 指定化学物質の排出量上位10物質のうちPOERは第6位、LASは第7位を占めている。

6 結語、PRTR法該当の洗剤成分は法非該当のものに代替せよ
(1)PRTR法での指定化学物質である界面活性剤の製造、使用は自粛するべきである。
 以上に示したLAS等の安全性の評価に関する歴史的な経過のなかで、最終的に家庭用の合成洗剤の成分界面活性剤であるLASとPOERが国のPRTR法の指定対象物質となり、有害で問題のある化学物質として公式に認定されるようになった。従って、これらの界面活性剤の製造、使用に関わる事業者は義務付けられている排出、移動量(Release and Transfer)等の届出だけではなく、この際、一歩進んで、これらの使用を中止して、同様な有用性、安全性を有するPRTR法指定物質以外の化学物質に代替することを早急に検討するべきである。
 一般に、PRTR法指定化学物質であっても、有用性の点で代替が困難である場合もあるだろう。しかし洗剤の界面活性剤に関しては、技術的、経済的な側面を含めて、LASやPOERに固執せねばならない理由はないと考えられる。
 このまま放置すれば、洗剤メーカーなどの盛大なコマーシャル攻勢のもとで、PRTR法を周知していない消費者の家庭などでの利用拡大が促進され、LAS、POERなどの環境負荷水準が大幅に上昇する危険性がある。今日の消費者のほとんどが「合成洗剤は安全である」としてきた厚生省などの既往の対応や「合成洗剤は白」としてきた洗剤工業会などの既往の宣伝を信じており、本稿で示したような、LASやPOERの使用が抑制されるべきだとする情報を十分に与えられているとはいえない。
(2)販売関連の事業者もPRTR該当物質をふくむ洗剤の取扱いを自粛するべきである。
 販売関連の事業者もPRTR法の主旨を尊重して、生態系に被害を与える恐れのあるような商品の販売を自粛するのは当然のことである
(3)消費者はPRTR法該当物質を含む洗剤の使用を自粛するべきである。
 消費者が問題になるような商品を購入、使用しなければ、結果的にLASやPOERなどが環境中に排出されることはない。表示を確認してPRTR法非該当の成分を含む洗剤を選択することが望ましい。
  (4)生協はより良い洗剤政策を徹底するべきである。
 従来、我が国の生協では、いわゆる「よりよい洗剤政策」を掲げて、情宣、教育、学習に取り組み、水環境にやさしくないABS、LAS系洗剤等の使用を自粛してきた。しかし、00年にコープとうきょうが、02年にはコープさいたまが従来の洗剤政策が誤りであったとして、LAS系洗剤の導入を開始することになり、これらの生協店舗の売り場には花王やライオン製の合成洗剤が堂々と並べられるようになった。PRTR法が制定されたのと同じ時点での、これらの生協の異様な政策転換に対して、私は一研究者として合成研究会誌などに総説を発表するほか、ホームページなどで、あるいは直接に、再三注意を喚起してきたが聞き入れられなかった。
 このような事態が最近になって、生協という水環境、生態系の保全、安全性問題など熱心に取り組んできた消費者の組織の中で発生しているのはかえすがえすも残念なことである。環境を守るための運動体が生態系などに有害なPRTR法指定化学物質の環境内拡散を促進するような商品を推奨、頒布するという、歴然たる自家撞着をあえてする、そうした事態を決して見過ごすことはできない。
 生協の組合員、消費者はPRTR法の趣旨を再確認して、法で指定された界面活性剤を使用した洗剤の利用拡大に走るような商品政策を阻止、排除せねばならない。同時に代替界面活性剤をふくむ生協本来の「よりよい洗剤」の開発と利用をすすめるべきである。
(5)研究者は慎重で冷静な評価、総括を行うべきである。
厚生省が最終的に[合成洗剤は通常使用条件では安全性に問題はない]とした判断は吉田克巳教授を始めとする数名の公衆衛生学者の丹念な文献調査を総括した結果に基づくものであるとされている。
 その評価の結果をまとめた報告書(文献4)の記述に大筋で誤りがあったとは思わない。しかし、三上教授が実際に胎仔奇形を有意に認めたという事実が実際に存在した以上は、四大學研究班班長の西村報告に対する三上教授の反論をうけて、もう一歩進んだ、より仔細な検討を継続して行うように結論するべきであっただろう。
 とくに公衆衛生学を専門とする研究者として、洗剤の安全性問題を総合的に検討する場合には、単に使用する人に対する影響だけでなく、使用、廃棄後に発生する環境負荷に起因する生物影響について留意する事が必要であった。かりに人体影響に関する評価が誤っていなかったとしても、環境負荷に起因する生態系に対する影響が無視される形で行政側や企業側に「合成洗剤は白」とする一方的なお墨付きを与えてしまったことについては責任があったと言うべきである。吉田教授らは、行政や企業の側が「合成洗剤は実際使用条件では安全である」即ち「合成洗剤は白」説を流布することを無条件に容認してはならなかったのである。
 我が国での合成洗剤の単位面積あたりの使用量はアメリカの10倍以上であり世界一であるとされている。このような過大な環境負荷に配慮しないような「安全性の総括、評価」なるものを根拠として、一概に「合成洗剤は白」とされるような安易な結論を広く流布させたことが悔やまれる。
 吉田教授らが厚生省から委嘱されて文献調査を行った時点において、洗剤の水環境中の実在濃度や水生生物に対する影響に関する実験報告などは全く無視された。実際に文献4では三上教授以外の合成洗剤研究会の研究者による報告などは全く引用されていない。もちろん、厚生省の委嘱自体が人体影響に限られていると理解されていたのかもしれないし、生態系影響は環境庁の所管だとする考え方もあったのかもしれない。
いずれにしても、やっと1999年になってPRTR法が制定されて,中央環境審議会や環境省などによって、LAS等が法指定の対象化学物質として認知されたが、それまで、あるいはそれ以後今日までも、企業側によって「合成洗剤は白」というレッテルが貼られたまま、LAS等が企業側の旺盛なコマーシャルのもとで、大量に市販され、使用されて、水環境中に負荷される結果になったのはまことに遺憾なことであった。
(6)洗剤メーカーは謙虚に事態を認めて対策を講じるべきである。
 LAS、POERを規制している国はない。アメリカではLASは食品添加物に指定されているというほど問題の少ない化学物質であると考えられている。
しかし、環境負荷、生物影響という点での、最近に至るまでの我が国でのLASやPOERに関する評価が誤りであるとするのでなければ、各事業体はPRTR法の趣旨に従って、製造、排出、販売、使用を自粛する方向での商品政策を採用するべきである。間違っても、利用拡大方向での積極的な販売拡大のためのPRなどを行うべきではない。
 今日の消費者は「石けんか合成洗剤か」などとする2者択一論を短絡的に主張してはいない。60年代以降のラジカルな合成洗剤追放路線はもはや過去のものになっている。消費者団体のひとつである生協での「よりよい洗剤政策」では、人体、水環境に、よりやさしい洗剤の範疇から合成洗剤そのものを決して排除してはいない。
 洗剤メーカーはLAS、POERに代わるPRTR法非該当の界面活性剤を主剤とする、有用性、安全性、必要性、経済性を満足するような、すぐれた洗剤の開発を急ぐべきである。このことは既往の低発泡性洗剤の開発にも匹敵するような世界的なみごとな先例をつくることにもなるであろう。

戦後から今日に至る半世紀間の、洗剤の安全性に関わる歴史のなかで、人体影響、環境影響に関する膨大な研究が行われてきた。私たちはそれらの成果を冷静に受け取って、着実、冷静に対処するべきである。研究者として、消費者として、消費者団体として、製造、販売、使用に関わる事業体や企業として、それぞれの責任を誠実にはたすべきである。
私たちは有用性、安全性、必要性そして経済性に優れた洗剤を享有することが出来るように今後とも努力するべきであろう。(完)

文献一覧

文献1:科学技術庁、昭和48年度特別研究促進調整費による合成洗剤に関する研究報告
文献2:厚生省、昭和51年、厚生省LASの催奇性に関する合同研究報告
文献3:文部省、昭和56年、文部省科学特別研究報告、合成洗剤の生物影響 
文献4:総括代表、吉田克巳、「洗剤の毒性とその評価」(厚生省環境衛生局食品化学課編)
文献5:三重解剖業績集(三重大学医学部解剖学教室編)
文献6:合成洗剤研究会誌
文献7:三上、小林、藤原共著「合成洗剤」(合同出版,1978年刊)
、 文献8:同上共著「洗剤の毒性と環境影響」(同上、1986年刊)
文献9:藤原邦達著「洗剤革命」(日本評論社、1981年刊)
文献10:坂田:生態化学、vol.2、no2)
文献11:合成洗剤環境影響調査団報告(代表、阪大教授、末石富太郎)
文献12:日高秀夫:水、29(13)、18(1987)
文献13:多賀谷久子ら共著「琵琶湖から学ぶ」(大学教育出版、1999年刊)
文献14:環境省「PRTR法対象化学物質の決定過程について」


(12月08日)今後ともLAS洗剤問題を誠実に追及しよう
―本年の総括として―


 私は、ここ20年来、生協の洗剤政策形成のために、専門的な立場からご協力申し上げてきた。そのスタンスは周知されているように、「よりよい洗剤論」の立場であり、組合員に供給するための「人体、環境にやさしい洗剤」を究明する行き方である。私は、特別に、石けん以外の洗剤を認めないようなラシカルな姿勢をとり続けてきたつもりはないし、優れた品質のものであれば、ナショナルブランドの製品を組合員に供給することも一向に差し支えないと申し上げてきた。そしてこの考え方はわが国のおおかたの生協で妥当なものとして受け入れられてきた。
 その私が、そして大方の生協陣営が、長年のあいだ、「よりよい洗剤」の界面活性剤としては適切な性質を持つとは考えられない、としてきたLASが、一昨年、国によって、水環境に好ましからぬ影響を与える容疑があるとされているPRTR法該当化学物質として正式に指定されることになった。これは私や生協陣営のこれまでの判断を裏付けるものであり、今日的な学界の常識を尊重したものとして、まことに当然の決定であったと思われる。
 ところが、こともあろうに、昨年、コープさいたまは、あえてこのLAS系の洗剤を解禁する方針を打ち出して、従来の洗剤政策が誤りであったことを組合員に謝る、とまで、機関誌「にじのひろば」に書いた。水環境問題についての取り組みでは定評のある生協、コープさいたまにおいて発生したこのような事態が各関係者たちから驚きをもって迎えられたのもまことに当然のことであっただろう。
 コープさいたまにはもう10年くらい前になるが、何回か洗剤問題や食品の安全性問題で講演に行ったことがある。私の名前を知っている組合員も多かろう。知人もある。まんざら無縁な生協ではなかったから、直接理事会あてに書状をお送りしてご意見を申し上げた。しかし反応がなかった。このころからLAS系の洗剤に反対するコープさいたまの組合員たちからもメールなどでの問い合わせが届くようになった。そこには私を呼んで直接意見を聞くように要請しているとも書かれていた。だから、私は以後、再三にわたって、このホームページでも私の研究者としての見解を披瀝することになった。正直に言って、私には著書の執筆、講演その他の本務がある。本音を言えば、残り少ない人生の時間のなかで、もう解決済みと思われてきた洗剤問題などに今更振りまわされたくはなかった。まして、すぐれた生協のひとつであると信じてきたコープさいたまの商品政策などに介入するような事はしたくなかった。
 しかしながら、やはり筋を通して、問題の本質を曖昧にしてはならない、それが生協と言う組織の健全な発展を願って生きてきた1人の研究者としての私の信条に対する責任だと思ってきた。
 それから半年が経過した。そして、最近になって、以下に示すような新しい事態が展開するようになっでいる。

1 コープさいたまの組合員のなかに、LAS洗剤の新規発売は認められない、即刻、店舗、共同購入での供給を停止して、従来どおりの「よりよい洗剤政策」に復帰するべきだ、LAS問題についての学習会を開いて欲しい、という意見が積極的に出されるようになった。この件についての政策担当者からの回答が要請されるようになった。

2 全国の生協関係者のなかに、この問題についての関心が高まるようになった。私に対しても質問が届くようになった。

3 洗剤・環境科学研究会のなかにもこの問題への関心が持たれるようになり、来年度の第28回全国研究会において、「LAS系の洗剤と生協の洗剤政策」について考えるためのシンポジウムが企画されることになった。
 シンポジストとしては、日生協、コープクリーンなどの関係者、PRTR法、洗剤問題などの各分野にわたる研究者のほか、コープコープさいたまの洗剤政策の責任者と関係組合員を御招請申し上げて、公開の席上で、存分に討論を行なう事が予定されている。

 PRTR法指定化学物質については、国がそれらを問題化学物質であると認定し、したがって企業などに「取扱いの改善」方を求めているのであるが、コープさいたまは、最近になって「LASは法的に、禁止、規制されているわけではない、のであるから発売を開始したことに問題はない」、とする主旨の回答を組合員に対して行なっている。すなわちコープさいたまでの「取り扱いの改善」とはPRTR法該当のLAS系の洗剤を「新規に発売する」事であった、ということになる。これは水環境の保全についてことさらに厳しい生協の環境政策としては、まことにふさわしくない判断であった、と私は思う。
 コープさいたまのLAS系洗剤の発売開始は、組合員学習会がくり返し行なわれて、理事会決定がなされた上でのことであった、と聞いている。それならば、この1年間、賛成、反対の見解を持った各分野の研究者の意見を聞いて、本当に、十分にリスクアナリシスを行なう体制がとられていたのかどうか疑問である、といわねばならない。
 この際、コープさいたまは少なくとも研究者である私に対して、きちんと反論せねばならない。そしてその結果が全国の関係者や組合員に対しても公開される事が必要である。そして、もしも自信があるのなら、生協の洗剤製造供給元であるコープクリーンに対しても、LAS系の洗剤の新規開発を迫るべきである。これは優れて組織としての環境政策上の基本的な責任であると言うべきだろう。  「よりよい洗剤」を組合員に提供するために、懸命に取り組んでこられた全国の生協関係者に対しても、コープさいたまは、そのような従来のLAS排除の政策を誤りであるとしてこられた理由と、反対を押し切ってLAS洗剤の新規発売という行為をあえて断行されてきた理由を丁寧に説明される責任をはたしていただきたいと思う。たとえば機関誌「にじのひろば」に現時点での公式な見解を発表されることも一つの方法でななかろうか。
 来年こそは、この問題に決着をつける重要な年になることを確信してやまない。以上を、取りあえず、この問題についての本年の総括にしたいと思う。(完)


(11月10日−1)生協の「よりよい洗剤政策」を推進するために
−全国の生協関係者の皆様へ−


 コープネットでは、私たちや一部の組合員たちの反対を押し切って今年度から花王やライオンなどのLAS先剤の導入にふみきった。
 このホームページでは再三にわたってこの問題をとりあげてきたが、首都圏生協の洗剤政策は全国各地の生協に大きな影響を及ぼす可能性があるので、あらためてここで、LAS先剤の導入政策の誤りを端的に整理して示すとともに、現時点での対応のあり方を考えてみることにする。

1 LAS洗剤の導入は何故問題なのか
(1)LASが生態系の保全にとって問題のある化学物質であることは今日的な研究者の一致した見解である。だからこそ国が生態系に有害な、又は有害である可能性のある問題化学物質として、LASをPRTR法で指定したのである。
(2)生協の組合員はPRTR法でpollutantとして指定されている化学物質の使用を可能な限り回避すべきである。生協の商品政策においても、PRTR法に指定された問題化学物質であるLASを主剤とする洗剤を組合員にすすんで供給するような方針を打ち出すべきではない。これはきわめてわかりやすい道理である。
(3)生協は日頃から水、環境、生態系の保全についてもっとも忠実な政策を掲げてきた。にもかかわらず、国をあげて環境問題に取組む機運が高まっている今日、これに逆行するようなPRTR指定物質であるLAS先剤導入政策を発足させるべきではない。
 その組織が依拠する論理に反する行為を軽々に展開することは許されない。リスクを予防する、疑わしきは避ける、それは生協の商品政策の原則であったはずである。全国には、自粛方向に逆行する政策が堂々と実施されたことに驚いている生協関係者が多くいることを忘れるべきではない。
(4)全国のおおかたの生協の、既存の「より良い洗剤政策」では、LAS先剤を推奨せず、したがって組合員に供給しない方針を長年にわたって堅持してきた。これは近年制定された国のPRTR法でのlASの位置付けを予見したのであり、科学的にきわめて正当な政策であったといえる。現時点でこれを変更する必要性はまったく見当たらない。

2 リスクアナリシス的な対応を大切にせねばならない
 問題化学物質としてのLASの取扱いを決定するに当たっては、生協は少なくとも徹底したリスクアナリシスによって対処するべきである。研究報告、関連資料を収集し、関係研究者の意見を聞いて,しかも組合員にその過程を正確に公開して、その問題の是非を決めねばならない。
 反対意見の研究者の見解を直接聞いて、たとえばなぜLASがPRTR法の指定物質になっているのか、なぜ自粛方向での取扱いを国が要望しているのか、その理由を組合員に周知したうえで、検討を行なって結論を得なければならない。
 私は、何時いかなる場合でも、一研究者として御協力申し上げると言ってきた。学習会の講師として私を呼べという声が組合員の間にあったことも聞いている。しかしコープさいたまはLAS賛成派の研究者だけを繰り返し招いて学習会を行なってきた。これは極めて生協らしくない態度であるとしかいいようがない。はじめに政策ありき、その政策の貫徹のための、「学習の生協」であろうとするのか、それでは、そのような洗剤政策の担当者はまさしくどこかの官僚たちと全くかわらないではないか。

3 LAS解禁路線を真似る生協が現れることをおそれる
 食品添加物、農薬、ダイオキシン対策などで知名度の高い優れた生協であり続けてきたコープとうきょうやコープさいたまのLAS解禁路線が全国的に拡散していくことを率直に恐れる。
 洗剤の減量政策は正しい。疑問の余地はない。しかしそのかげに隠れるような形で,LAS解禁政策を展開するのは邪道である。
 なぜコープネットは、予防原則と正面から矛盾するPRTR法対象物質であるLASを含む洗剤を今時発売するのか、その理由を明らかにせねばならない。生協の従来からの「よりよい洗剤政策」は石けんオンリーの政策ではない。生協の洗剤群のなかには、LAS以外にPRTR法該当物質であるAE洗剤がある、というのなら、そのAEを使用しない方向での新洗剤の開発を目指すべきである。AEがあるからLASもよい、というような考え方は排除するべきである。
 今日の洗剤開発技術は非常に進んでいる。今更PRTR法指定化学物質を界面化学物質として使用せねばならない、というような、いかなる理由もありえないのである。
 PRTR法指定化学物質は、有害か、あるいは有害性が疑われているのである。その疑わしさを厳格に追求して、添加物や農薬などを厳しく自主規制してきた生協が、その一方で堂々と「法的に禁止されていないのだから」というような言い訳をするのは見苦しい。
 生協はLASやAEを使っていない「よりよい洗剤」を組合員にすすめよう。魅力的な生協の洗剤を開発して、企業の洗剤に8割かたの組合員が流れている現状を克服しよう。それがほんものの、生協らしい商品政策ではないのだろうか。(完)


(10月17日)コープさいたまのLAS洗剤の供給開始問題を他人事視しないでおこう


   最近、PRTR法との関連で、コープさいたまに対して、一部の組合員からLAS洗剤の供給開始政策を撤回するようにとの要請が行なわれている。これに対して、このほどコープさいたま側からの回答があり、その要旨を入手することができたので、若干の私見を述べておくことにする。

@ PRTR法についてのコープさいたまの説明
 コープさいたまの「PRTR法とは」の解説のなかでは、「私たちの身の回りには、」「まだよくわかっていない」、「金属や合成化学物質が」「少なくありません。」と書いた上で、「その情報を把握するための新しい仕組みがPRTR法です。」としている。
 さらに、環境庁のホームページを引用して、「この法律に基づいて排出ガスや排水の規制を行うものではありません。」「あくまでも事業者の自主的な管理の改善を促進することが主旨となっています。したがって対象化学物質=供給中止が必要な汚染物質ではありません。」と記している。

A LASの位置付けの誤り
 コープさいたまは、以上のように、LASは、現状では要調査対象であって、規制されていないのだから供給してもよいのだ、とする立場に立っている。これは法治国家での一般企業、事業者の常識としては確かに正しいことである。
 しかし、コープさいたまは、れっきとした生活協同組合の組織である。だから、それが生協の組合員に理解される論理であるといえるのかどうか、あるいは、それが組合員の合意が得られる行為であるといえるのかどうか、が問われていることを忘れてはならない。
 LASのような化学物質は、PRTR法において、「人の健康を損なうおそれや動植物の生息、生育に支障を及ぼすおそれがあるもの」と明確に規定されている。つまり、それらが調査の対象となる理由は、まさしくそれらが問題化学物質であることが客観的に認定されているからなのである。

B 生協の論理に逆行するな
 要するに、水環境の保全に熱心な生協として、問題化学物質であることが明らかなLASの取り扱いをどう考えるかが問われているのである。国はPRTR法で指定した化学物質には問題がある、と言う前提に立っているからこそ、単なる「情報を把握する」ための調査を目的とすること以上に、「事業者の自主的な管理の改善を促進する」ことを求めているのである。
 いかなる事業者であれ、PRTR法では、指定化学物質に関して「自主的な管理の改善」を行なうことが要請されている。したがって、コープさいたまもまた、LAS洗剤に関しては「自主的な管理の改善」をせねばならなかったのである。しかし、コープさいたまが実際に行なったことはLAS洗剤の新規発売、供給の開始であった。このことが、はたして、「自主的な管理の改善」に当たる行為であったといえるのであろうか。

C 安心、安全を大切にする組織なのか
 禁止、規制されない限り使用するという論理は、明らかに生協の安全、安心の論理ではない。食品添加物であれ、農薬であれ、国が規制、禁止していなくても生協は科学的な評価を行なって、問題、容疑があるものは自主的に規制してきた。私がこれまで協力してきた旧Zリスト、管理食品添加物の自主規制はまさしくその典型であった。組合員はそのような生協の予防原則に即した姿勢に絶大な信頼を寄せてきたのである。しかし今回、コープさいたまは国が問題化学物質として「自主的な管理の改善」を求めている、そのLASを含む洗剤でさえも、新たに発売、供給することをあえてしたのである。はたしてこれが良識ある組合員に理解される行為であるといえるのであろうか。
 規制されていないかぎり、農薬などが残留していてもかまわない、という考え方をするというのなら、たとえば有機農産物を大切にしてきたコープさいたまの従来の姿勢もいずれ放棄されることになる、というのであろうか。

D コープさいたまは企業なのか
 LASはPRTR法の指定化学物質である、しかし規制されていないから、LAS洗剤を新規に発売、供給することにする、という論理は、国が問題化学物質として認知しているLAS洗剤を今も旺盛に生産、販売して、水環境を汚染している一部の心ない企業側の論理と全く同様である。
 PRTR法の「対象物質=供給中止が必要な汚染物質ではありません」と言い切っているコープさいたまは確かに合法的な事業体である。しかし、コープさいたまは安全、安心を大切にしてきた生協である。国をあげて「自主的な管理の改善の促進」が求められている時に、逆に、LAS洗剤の発売、供給を開始するという、そのような洗剤政策は、はたして生協らしい商品政策だとといえるのであろうか。組合員はそのことを問題にしているのである。

E コープさいたま問題を他人事視してはならない
 コープさいたまは組合員に対する回答書のなかで、PRTR法の対象物質にはLASだけでなくて、生協が従来全国的に供給してきたコープセフターやクリーンにも使用されているAEも含まれている、と書いている。
 生協の洗剤の製造元であるコープクリーンや日生協などの生協陣営が今後,LASだけでなく、AE対策にも取り組むことが必要であるのはいうまでもない。間違ってもコープさいたまのような論理を採用しないことである。このさいPRTR法の主旨を正しく理解して,PPRTR法指定外の界面活性剤を使用した、魅力的な、よりよい洗剤の開発と供給のために真剣に取り組まれるべきである。
 現状で、約80%をこえる組合員が生協の洗剤を使用していないといわれる。生協関係者はこの事実を率直に恥じるべきである。組合員を惹きつけるような、すぐれた洗剤を開発するために、全力をつくしてこなかったことを反省せねばならない。
もしも性能的に一般企業の洗剤をしのぐような生協独自の洗剤を開発することに成功するならば、そしてすぐれた教育と学習活動をとおして、水環境を大切にする既存の路線を補強することができるならば、必ずや組合員の共感が得られて、現状を打破することが可能になるであろう。
 そのような努力を怠ってきた生協関係者のありかたこそが今回のコープさいたまのLAS洗剤の新規発売、供給問題を引き起こすことになった最大の理由であることを、このさい肝に銘じる必要があると考える。(完)


   
(9月30日)洗剤メーカーはやがて必ずLAS洗剤を廃止する


 60年代の合成洗剤問題が騒がれた当時には、大手洗剤企業は消費者側の合成洗剤追放運動に対抗して猛烈なキャンペーンを繰り広げた。
 大手洗剤企業では合成洗剤が無害であることを強調していたし、合成洗剤追放運動では石けん以外の洗剤を絶対に認めようとしなかった。
 生協は一貫して、両極端のいずれの側にもつかなかった。すなわち、生協では、多数の研究者の協力を得ながら、人体に対する安全性と、水環境、生態系に対する影響について仔細に検討を行ない、結果的に、いわゆる「よりよい洗剤」政策を確立することになった。そして合成洗剤追放運動の立場とは一線を画して、石けん、複合石けん、高級アルコール系洗剤、一部のノニオン系の洗剤などを幅広く供給するが、水環境の保全、生態系維持の立場から、有燐洗剤とLAS系の洗剤は供給しないという方針を採ってきた。
 当時、旧厚生省は、環境衛生局食品化学課・編の図書、「洗剤の毒性とその評価」(日本食品衛生協会、1983年5月31日刊)を発行した。関係者紹介の部分には、吉田克巳、喜多村正次、滝沢行雄、池田正之、小泉直子、山本芳子、藤井正美の各氏の名前が並んでいた。B5版、371ページにのぼるこの本の結論は、要するに、「合成洗剤は白」であって、「通常の使用では合成洗剤に問題はない。」とする大手洗剤メーカーの主張を完全に裏付けるものであった。合成洗剤追放運動は重大な打撃を受けた。石けん以外を認めない、とする当時の洗剤関連の消費者運動も甚大な影響を受けた。まさしく国と大手洗剤メーカー側のタッグチームの、みごとな作戦勝ちである、といってもよかった。
 しかし、この本を仔細に検討した私は、重要な問題点に気がついた。それは、この本ではLASをふくむ合成洗剤の人の健康についての検証に終始していて、水環境、生態系への影響についてはほとんど触れていないという点であった。
 洗剤のように,家庭や工場などで、日常的に,広範に、大量に使用されて、その全量が周辺の環境中に廃棄される化学物質のばあいには、水環境、生態系の保全に関する検証を欠かしてはならない。とくに魚介類などの水中生物の生育、繁殖、行動などについての配慮が必要である。にもかかわらず、環境衛生局編のこの本では、LASなどの環境中での動態、実在濃度、水生生物への影響などに関する既存の研究成果はほとんど紹介されていなかったし、結果的に水環境・生態系保全の立場からの洗剤類の有害性についての評価は全く行なわれていなかった。 したがって、LASをふくむ「合成洗剤は白」というアピールは不完全であり、まして合成洗剤は「通常の使用では問題はない」とする結論は不正確である、というべきであった。
 当時、合成洗剤研究会の会長をお引き受けしていた私は、こうした指摘を合成洗剤研究会誌の総説などに発表して、洗剤問題において、旧厚生省、洗剤メーカー側の、水環境保全の立場を重視しないような、「合成洗剤白説」が誤りであることを警告した。そして人体影響、水環境影響を総合的に評価して、その結果として生み出された「よりよい洗剤」政策こそが正しいことを力説した。
 旧厚生省の「合成洗剤白説」は、洗剤メーカー側にとって、まさしく待望のお墨付きであった。他方で「石けんオンリー」説を唱えてきた消費者団体や合成洗剤追放運動を主導したグループには大打撃であった。洗剤メーカー側はコマーシャル攻勢を激化して、消費者の関心を買うために全力を投入した。そしてついに、「よりよい洗剤」離れまでもが進行して、生協の組合員の、LAS系洗剤を含む大手企業の洗剤の使用の比率が8割前後にも達するというような異常な情況を招くことになった。
 ただし、こうした情勢のなかにあっても、全国のおおかたの生協の商品政策自体では、「よりよい洗剤」政策を堅持する姿勢を示していた。「合成洗剤白説」が水環境や生態系保全の観点からは受け入れ難いものであることを承知していた。LAS系洗剤の問題点も正しく理解されていた。

 ところが、LASが大手を振ってまかり通っているなかで、ここ3年の間に、政府側の姿勢に大きな変化が生じてきた。すなわち環境、生態系保全の社会的な要請が強まるなかで、問題化学物質を制限、管理するための法制度の整備が行なわれ、問題化学物質の生産、移動などの届け出を義務付けたPRTR法が制定された。そして、その問題化学物質のリストの中に、合成洗剤の主力である界面活性剤LASが指定されるようになったのである。
 まさしく、私たちが指摘してきた、分解性の悪さや水生生物に対するLASの問題性が国によって認められたのである。旧厚生省の「合成洗剤白説」は覆ったのである。別の論文に示したように、有力企業のなかにもPRTR法で示された問題化学物質を排除しようとするような政策を採用するところが現れるようになった。PRTR法に指定されているような合成化学物質を含む商品を堂々と消費者に売りつけるような企業が好ましくない、とする社会的な認識が次第に定着するようになってきた。
 生協の、燐、LASを排除するという当初からの考えかたが間違っていなかったことはいよいよ明らかになった。生協運動が科学的で論理的な「よりよい洗剤政策」を大切にしてきたことが正しかったこともはっきりした。しかし、同時に、組合員の大多数が生協の洗剤を使用していない、という現実がみられることに注目せねばならなかった。ある時期以後に、洗剤問題を環境保全に関わる学習や教育の核心的な対象にしてこなかったことを反省せねばならないと思わせられた。そして、一般企業の洗剤に勝るとも劣らない、魅力的な生協独自の洗剤製品を組合員に提供できないできたことについても、言い知れぬいらだちを感じさせられるようになった。

 ところで、もう一つの驚くべき事態が生協側の内部で発生していた。こうした情勢のなかで、最近になって、関東の、主力の2つの生協が、LASがPRTR法の指定物質であることを知りながら、一部組合員の反対を押し切って、そのLASをふくむ大手メーカーの洗剤商品の供給を開始するという事態が発生した。それは、生協関係者にとって晴天の霹靂にも等しい出来事であった。それは、まさしく、旧厚生省の「合成洗剤は白」路線への回帰でもあった。
 コープさいたまはその機関誌の中で、従来の生協の「よりよい洗剤」政策が誤りであった,といい、このような政策をとり続けてきたことを組合員に陳謝するとまで書いた。そして、花王やライオンのLAS系の洗剤の供給を開始することになった。
 かって、世界に先駆けて有燐洗剤を無燐洗剤にきりかえ、同じく発泡性のABS洗剤の低発泡性のLAS洗剤への転換を成し遂げた我が国の洗剤メーカーは国の法制度や世論の動向に非常に敏感である。私は、彼らはおそらく、PRTR洗剤として問題を指摘されているようなLAS洗剤を非PRTR洗剤に切り替えることにも間もなく成功するだろうと確信している。
 そのような社会的な趨勢のなかで、水環境の保全に熱心な組合員たちに支えられていることで有名なコープさいたまやコープとうきょうが、このような60年代そのままの、時代遅れしたLAS洗剤容認政策をいつまでも続けられはずがないだろう。
 私は決して心配していない。組合員の間に、PRTR法の学習が進むようになれば、必ずLAS洗剤はコープネットなどの商品リストから消えてなくなるだろう。そして遠からず、生協本来のより良い洗剤路線に回帰することになるであろう。
 LASが、好ましい界面活性剤ではないということは、大手洗剤メーカーの研究者を含めたおおかたの水環境の研究者が認めている事実である。だからこそ、国がPRTR法の問題物質リストにLASを加えたのである。
 洗剤メーカーが脱LAS政策をめざすのは、至極当然な時代の趨勢なのである.(完)


 
(9月23日)無知以上に無恥である


 PRTR法に指定された問題化学物質をできるかぎり排除すると言うのは今日的な国民的な常識である。
 そのような問題化学物質を主成分として使用した洗剤のような家庭用品を、そのような問題化学物質を含まない商品に変えて、より問題の少ない成分を含んだ洗剤商品の開発につとめる、というのが企業の今日的な常識でなければならない。
 にもかかわらず、わが国では、LASを含む洗剤が市場や家庭の中に堂々とまかり通っており、手広くそれらが使用されているというのが今日的な世相である。このような常識が常識としてとおらない社会を支えているのが企業のあくなき利潤追求の姿勢であり、消費者の無知、無関心である。
 LAS洗剤が今日なお主流であると言う現実と、環境省がPR用のパンフレットでLASをPRTR法で指定された問題化学物質としてイラストにまで描きだして、排除を勧めていると云う現実が、なぜかみごとに同居している昨今の非常識を悲しく思う。
 法的禁止というような極端な手段に出ないかぎり、LAS洗剤は止めない、そのような企業の図太くもたくましい商魂が、そして消費者の中にあるいい加減さが、水環境の生態系を危機的な状態に追いやろうとしているのである。
 そして、それよりももっと悲しいのは、日頃、水環境の保全については最も熱心であることを標榜してきた生協運動の、その一部の組織で、最近になってLASがPRTR法で指定された問題化学物質であることを充分に知りながら、そのLASを含む洗剤を新たに組合員に供給することに踏み切ったという事実があることである。従来のLAS、Pを排除してきた「より良い洗剤政策」を誤りであると断定して、あえてこのような理不尽な暴挙に踏み切ると言うのは、そのようなLAS洗剤を「販売」して、まさかスーパーなみの利益をあげようというのであろうか。
 このような、非常識きわまる事実について、この生協の役職員たちに全く異論がなく、組合員にもさして疑問がなかったとすれば、これは無知以上に無恥であると言うべきなのではなかろうか。
 全国の生協運動の仲間たちはこの事実をどう思うのか。この際、黙って見過ごす、という非常識を、もうひとつ重ね合わせてもよいというのであろうか。
 すくなくとも、子供たちに説明の出来ないようなことをしてはならない。


(9月15日)PRTR法の趣旨を徹底するために
―現時点で事業者、消費者に求められているもの―


 PRTR法の対象となる化学物質は「人の健康や生態系に有害なおそれがあるなどの性状を有するものである」から、「環境への排出量の把握及び管理の改善の促進」をはかる必要があるとされている。
 この法律は化審法などと併せて化学物質による人の健康や環境に対する影響を抑制する上で相応の成果をあげている。しかし、現時点において、たとえば洗剤のような家庭用品に見られるように、末端での使用が完全に野放しにされているために、PRTR化学物質であるLASなどの環境負荷水準が一向に減退せず、水環境の汚染を加重して、法の趣旨に反するような結果になっていることを指摘しておかねばならい。
 こうした問題を解消するために、国、自治体、事業者、消費者にとって、どうすることが求められているかを考察してみよう。

1 事業者の責務について
 この法律の第4条には、事業者の責務について、つぎのように示されている。
「指定化学物質等取扱い事業者は、第1種指定化学物質及び第2種指定化学物質が人の健康を損なうおそれがあるものであること等第2条第2項各号のいずれかに該当するものであることを認識し、かつ、化学物質管理指針に留意して、指定化学物質等の製造、使用その他の取扱い等に係る管理をおこなうと共に、その管理の状況に関する国民の理解を深めるように努めなければならない。」
 ここでいう第2条第2項の第1号にはつぎのように書かれている。
「当該化学物質が人の健康を損なうおそれ又は動植物の生息若しくは生育に支障を及ぼすおそれがあるものであること」
 洗剤に含まれるPRTR指定物質であるLASの場合についていうならば、以上の法文で規定している「指定化学物質等取扱い事業者」を、洗剤の製造企業、スーパーマーケットや生協等の取扱い、販売事業者に置き換えて読み取ることができる。この観点から次のようなことがいえるだろう。

(1) 製造者企業の責務について
 LASという化学物質を製造し,あるいはLASを含む製品を製造し、かつ販売している洗剤メーカー各社は.以下のような対応を行なうことが要請される。
@ LASが「人の健康を損なうおそれ又は動植物の生息若しくは生育に支障を及ぼすおそれがある」ものとして、国の法律で指定されている、という事実を再確認する。
A そのうえで、「製造、使用その他の取扱い等に係る」適正な管理を行なう
B さらに、その「管理の状況に関する国民の理解を深める」ように情報の提供と開示に努める。
 現行の製品がPRTR法で指定されている界面活性剤LASを含むという事実をその製品の取扱い、販売事業者に周知する責務を自覚する。
C PRTR法に指定されているような化学物質の製造、販売を可及的に速やかに中止 して、指定外の、より問題の少ない化学物質の製造に早急に切り替える。

 現状はどうなのか。以上に示されているような製造事業者の責務が正しく果たされているであろうか。洗剤メーカーや販売業者の一部には、むしろLASがPRTR法指定物質であり、人の健康や動植物の生息、生育に支障を及ぼすおそれがあるという事実を否定したり、消費者に周知したりすることを回避しようとするような傾向があることは否定できないのではなかろうか。
 もしも、LASが以上のような取扱いを受けねばならないことに不服であるならば、当該洗剤メーカーは、国に対してLASをPRTR法の指定物質のリストから削除するように求めねばならない。
 化学企業として最大手と言われる三菱化学は、このたび、自社の製品に有害な化学物質が含まれていないかどうかを調査して、製品を供給するメーカー等に情報を積極的に開示する取り組みを始めることになった。調査では製造過程での有害物質の含有量も対象にする。これは化学業界でははじめての取り組みであり、業界全体に広がりそうだ、といわれている。(2003年9月14日、朝日新聞記事)
花王やライオン各社もこうした同業界の傾向をこの機会に大いに参考にされることが望ましい。わが国の主要洗剤各社の技術水準は極めて高く,かって不評であったABSをLASに切り替えることに成功したように、LAS代替界面活性剤を使用した性能の高い家庭用合成洗剤を開発するのはさほど困難なことであるとは思われない。

(2) 販売者事業体の責務について
 LASをふくむ洗剤の販売企業の場合でも、LASが消費者の家庭などに販売されて、使用され、廃棄されて、その全量が環境中に負荷されることにかんがみて、以下のような責務をはたすことが求められている。
@ 問題物質を含む洗剤を取り扱わない。販売を自粛する。
A 代替界面活性剤を含む洗剤の販売に切り替える。
B LASを含む洗剤を取り扱う場合には、消費者に対して,LASに関する情報を周知する。
C LASを含む洗剤の出荷量,LASの推定環境排出量、負荷量などに関する情報を正確に把握して、開示する。
 ここでいう販売者事業体には、スーパーなどの量販店のほか、最近になってLAS洗剤を供給することになったコープさいたまやコープとうきょう、コープネットなどが含まれる。

2 消費者の責務について
 洗剤はその大部分が消費者によって使用される。したがって、PRTR法の趣旨に即して、以下のような責務をはたすことが求められている。
@ 消費者はLASがPRTR法での指定化学物質であることを認知する。この機会にPRTR法についての学習に努める。
A LASを含む洗剤からLASを含まない洗剤の使用に切り替える。
B LASを含む洗剤の販売者、製造者に対しては、そのような製品の製造と販売をやめて、LAS以外の界面活性剤を含む洗剤の販売、供給に努めるように要請する。

3 国、自治体の責務について
 PRTR法の目的は、最終的にその問題化学物質が、環境中に負荷された場合の影響を最小限にすることにある。したがって、その化学物質が製品内に閉じ込められていて、使用に際して、環境中に溶出、暴露されないような場合にはさほど問題はない。しかし、洗剤の事例のように、使用後の全量が環境中に移行、拡散する場合には最も警戒されねばならない。その意味において。洗剤中のLASのように、生産量が数万トンにも達する問題化学物質が、アメリカの約26分の1とも言われる我が国の環境に廃棄され、世界最高の水準で負荷されているような現状に即して、国としても従来にまして対策を強化する必要があることは論を待たないところである。
 たとえば、以下のような取り組みを強化することが求められている。
@ 洗剤の製造メーカー、販売業者に対して、LASの使用を自粛するように要請する。代替界面活性剤を使用した製品の開発、販売に切り替えるように求める。
A 消費者に対して、LASがPRTR法に指定された化学物質であることを周知して,代替界面活性剤を含む洗剤の使用に切り替えるように指導する。
B 従来,PRTR法指定化学物質を含む家庭用品に関する行政的な指導が不完全であったこと
を反省して、洗剤などの家庭用品にPRTR法指定化学物質が含まれる場合には、PRTR表示をつけて、消費者の注意を喚起するように努める。そのための法改正に取り組む。

 政府は、従来化学物質の人体影響を重視する政策をとってきたが、このたび欧米諸国にならって、さらに水環境、水生生物に対する影響を問題にする政策に移行する方針を固めた、そしてとりあえず亜鉛の水質規制値を定めることにした。そして、今後は更に規制する化学物質の範囲を広げていくことになった、と報道されている。(NHK、03年9月15日)
 化学物質の生態系影響重視は歴然とした社会的なトレンドである。洗剤関連事業者も、この際、対策を強化すべき時期に来ていることを自覚せねばならない。

4 結語、LAS洗剤を導入した生協のために
 化審法、家庭用品規制法等とならんで、PRTR法は問題化学物質の乱用を防ぐために重要な役割をはたしている。したがってこの法の趣旨は製造者から販売事業者、消費者にいたるまで、今後ともいっそう周知、徹底されねばならない。
 最近、一部の生協がLASを含む洗剤の販売、供給を開始することになって注目されている。従来から、安全、安心の確保を標榜して、水環境を守ることにもっとも熱心であると言われてきた意識の高い消費者の組織において,PRTR法該当化学物質をあえて解禁するような政策がどのように評価されねばならないかは自明のことである。このまま放置すれば生協運動の社会的な評価を大きく低下させるような事態に発展することが危惧される。
 おそらく良心的な洗剤メーカーにおいても、社内的に脱LAS洗剤の方策が練られているに違いない。また前述したように三菱化学のような企業努力も始まっている。業界団体の日本化学工業協会も6価クローム等主要な15化学物質について、製品中の有無や量を記す「含有情報シート」を作り、会員企業に「統一書式」として使用するように求めている。これは業界全体で化学物質管理の意識を高めるのが狙いであると報じられている。
 時代は大きく変化している。生協と呼ばれる消費者の組織が、今時、時代錯誤的な政策をとるべきではない。関係者は早急に対応を急ぐべきである。(完)


(9月12日)組合員に対して、LASとPRTR法との関係を正しく説明するべきである。
−さいたまコープの解説を批判する−


 さいたまコープはこの4月、従来の「より良い洗剤」政策を改めて、花王やライオンのLAS系の合成洗剤を組合員に供給することになった。この件に関する問題点はこのHPにこれまで再三のべてきたのでここでは繰り返さない。
 ただし、PRTR法とLASとの関係についてのさいたまコープの公式説明が甚だしく不当であって、さいたまコープの組合員だけでなく、このままでは全国の生協の組合員に対しても誤解を与えかねないので、放置しておくことは好ましくないと思われる。
 ところで、さいたまコープは界面活性剤LASとPRTR法との関係について、組合員向けの情報資料において、つぎのように書いている。
「LASが(PRTR法の)対象となった背景は、洗剤に使われることで量として非常に多い化学物質であるからのようです。」
 この説明では,LASがPRTR法で指定されているのは、大量に使用されているためであって、したがって使用量の削減に努めれば問題はない、といわんばかりである。
 そこで、ここでは、正確なPRTR法の定義や規定に照らして,LASのこの法律での位置付けを明らかにしておこうと思う。

1 PRTRの意味について
 PETRとは,Pollutant Release and Transfer Registerの略称である。Pollutantとは汚染物質ということであり,Releaseとは生産、製造、出荷などを意味しており、Transferとは移動、使用、廃棄などを,Registerとは登録、届け出を意味している。すなわちこの法律で規定されている化学物質は汚染物質であり、その生産や移動は企業によって正確に届け出ることが求められている。LASはPRTR法でいう汚染物質であるから規制の対象になる。しかし、たとえば石けんは汚染物質ではなく、したがってこの法律の適用を受けない。

2 PRTR法の目的との関係は
 PRTR法についての国側の解説にはではつぎのように書かれている。
「有害性が判明している化学物質について、人体等への悪影響との因果関係が判明していないものも含め、環境への排出量の把握に関する措置(PRTR)並びに化学物質の性状および取り扱いに関する情報の提供に関する措置(MSDS)を講ずることにより、事業者による化学物質の自主的な管理の改善を促進し、環境の保全上の支障を未然に防止する事を目的としています。」
 LASは、以上のような定義、規定に即して取り扱われるべきものであるとされている。

3 PRTR法の該当化学物質とは
 国側の解説ではつぎのように書かれている。
「対象となる化学物質は、人の健康や生態系に有害な恐れがあるなどの性状を有するものであり、」
「このうちPRTR法の対象となるのは、第1種指定化学物質の354物質です。」
 LASはそのような化学物質の一つである。

4 MSDSと情報提供の必要性
 2項で示したMSDSとは、Material Safety Data Sheet、すなわち化学物質安全性データシートの略称であり、事業者は安全性関係のデータすなわち、その化学物質の性状,及び取り扱いに関する情報の提供に関する措置を講じる事が求められている。
 LASについていえば、PRTR法によれば、事業者はLASを含む洗剤の問題性について正しい情報を提供することが要求されている。

5 事業者の責務について
 国の資料では「事業者が指定化学物質やそれを含む製品を他の事業者に出荷する際に、その相手方に対して化学物質安全データシートを交付する事により、その成分や性質、取り扱い方法などに関する情報を提供することが義務付けられました。」とされている。したがって、事業者としてのさいたまコープは事業者ではない組合員に対して、MSDSを提供する法的義務はないのではあるが、すくなくとも、この法の主旨にもとづくかぎり、さいたまコープは組合員に対してPRTR法該当物質としてのLASに関する情報を正確に提供することが望ましい、と考えるべきではなかろうか。

6 LASの位置付けについてのまとめ
@ LASはPRTR法の第4条、第1号で、「人の健康を損なうおそれ又は動植物の生息もしくは生育に支障を及ぼすおそれがあるものであること」すなわち、pollutant、汚染物質であることを国が認めている。
A LAS及びこれを含む製品の取り扱いに際しては、届け出及び周知義務をはたすことが事業者に求められている。
 さいたまコープはLASの導入に踏み切ったが、以上に示したようなLASの法的な位置付けにかんがみて必要な措置をとるべきである。

7 結論と対策
 PRTR法の該当物質であるLASをふくむ洗剤が市販されて、PRTR法の目的に反する形で環境を汚染している事態は憂慮すべき事である.消費者はこの事実を正確に知るべきであり、事業者は真剣に考慮するべきであり、国や自治体は、例えば、私がかねてから主張しているように、LASのようなPRTR法該当化学物質を含む家庭用品にはPRTR表示を付して、一般での乱用を阻止するように努めるべきである。
 とくに、安全、安心を標榜して、水環境を守るために組織をあげて取組んできた生協では、以上のように国がPRTR該当物質に指定しているLASのような問題化学物質を含む商品を組合員に対して供給することを止めるべきであり、組合員の一般企業からの購入についても、代替機能を持った「より良い洗剤」への切り替えを奨励するべきである。
 結論的に、冒頭に示した、さいたまコープのPRTR法とLASとの関係に関する組合員への、「量として非常に多い化学物質」という、まさしく本質を逸脱した説明が極めて不当であり、誤りに満ちていることは明らかである。
 したがって、さいたまコープは、早急にこの説明を撤回されるべきであり、そのうえで、改めて、組合員に対して、LASのPRTR法上の正確な位置付けに関する情報提供を行われることが求められているのではなかろうか。(完)


(9月8日)コープさいたま、コープネットのLAS導入政策を批判する。


 コープさいたまは今年の4月から、従来のよりよい洗剤政策を見直して、使用量の減量をめざしたうえで、あらたに、LAS系の洗剤を組合員に供給することになった。
 この問題についての批判はこれまでにこのHPで繰り返し行ってきたので、もうあまりいいたくはないが、今回は、最終的に理事会でLAS系洗剤導入にかかわる決定が行なわれた際の資料を入手したので、若干検討を加えておくことにしよう。

1 政策変更の理由について検証しておこう。
 使用量減量政策は正しい。しかしこれとLAS供給開始問題は別である。
 理事会の「関連資料3 商品政策 洗剤政策を見直しました」の2 洗剤政策 見直しのポイント、(4)「こうした変化をふまえて」の、Aにはつぎのように書かれている。 「すべての面で優れた界面活性剤はありません。またLASをふくめ通常の使用で使用を禁止するような問題はありません。」
 また、Cにはつぎのように書かれている。
「どんな洗剤を使っている人でも水環境を守る取り組みに参加できるように、組合員の暮らしに対応したLASをふくめ、多様な洗剤の品揃えをすすめます。」
 まずAから考えてみよう。
 「すべての面で優れた界面活性剤はありません」、というのはそのとおりである。何にせよ、環境問題では、これは洗剤だけのことではなく、すべての廃棄される商品がそうであって、至極当たり前のことである。
 生協がこれまで採用してきた「よりよい洗剤政策」は、すべての面で優れた界面活性剤を選ぶ政策などではなくて、The bestがないとしても、The  Betterを選び出して、組合員に供給しよう、とする政策であった。その意味では、今日では国がPRTR法のなかで問題物質のひとつであることを認めざるをえなかった(かっては旧厚生省が白であるとしていた)LAS系の洗剤を、全国の生協では、早くから、あえて、よりよい洗剤の範疇から除外してきたのである。これは相当に先見の明があったことであり、この政策の構築過程で全面的に協力してきた研究者のひとりである私としても、生協が誇りにしてもよい優れた判断であったと思っている。
 さいたまコープは、今回、この「より良い洗剤政策」が誤りであったとしたうえで、(組合員に謝ってまでして)、これを放棄して、LAS洗剤の導入に踏み切ったのである。
 つぎに「通常の使用で使用を禁止するような問題はありません。」としているが、生協は従来LAS洗剤の「使用を禁止」してきたのではない。ただLAS系の洗剤を推奨しない、したがって生協の商品として供給するようなことはしない、という判断をしできたのである。この考え方を環境を守る政策との関連で、厳格に採用してきたのである。これほどすじの通った論理的、科学的な政策はない、と私は思う。LAS系の洗剤には、禁止するような問題としてではなく、商品として推奨しないとする相応の理由があったのである。生協はその理由を無視してはならない、と慎重に考えてきたのである。
 さらに、Cに、「どんな洗剤を使っている人でも水環境を守る取組みに参加出来るように」ということが「LAS洗剤をふくむ多様な品ぞろえをした」理由であるように書かれているが、「水環境を守る取組みに参加する」ためには、国がPRTR法で指定して問題視されているようなLAS洗剤の使用を、何人と言えども抑制することこそが必要なのであって、どんな洗剤を使っていても良いわけではないのである。例えばPを含む洗剤や発泡性のABSや環境ホルモンの疑いのあるPOEP系の洗剤など、「どんな洗剤を使っていても」水環境を守る取組みに参加している事にはならないのである。やはり水環境を守る取組みに参加するためには、使用する洗剤を選んで、すなわち問題ができるだけすくない洗剤を使う事が求められているのである。
 さらに、「組合員の暮らしに対応したLASもふくめ多様な洗剤の品揃えをすすめます。」とあるが、「組合員の暮らしに対応したLAS」とはどういうことであろうか、たとえ75%の組合員がPを含む洗剤を使用していたとしても、このような表現をするのであろうか。生協の政策と言うのは、現実順応至上主義ではないだろう。

2 使用量の削減を打ち出した以上は是非とも成功させる責任がある。
 どんな洗剤であれ、使用量を減らすのは当然の事である。「より良い洗剤政策」でもそのための運動は行われてきた。今回のさいたまコープが使用量の削減を打ち出したのは大変結構なことである。LASの導入にまで踏み込んで減量政策を提起した以上は、今後具体的に数字をあげて、洗剤の使用量がこれだけ減少した。LASの使用量もこれだけ減らせた、などという組合員の使用実態の変化を示さねばならない。言うだけで、あとは知らない、などというわけにはいかない。今後に注目しよう。

3 5の「LASはPRTR法に指定され、問題があるのではありませんか。」という設問の項では、さいたまコープはつぎのように答えている。
「LASが対象となった背景は、洗剤に使われることで、量として非常に多い化学物質であることからのようです。」
 しかし、本当に量だけが問題だったのであろうか。もしそうだとすれば、なせ、組合員のLAS使用量を削減するためにも努力しないのであろうか。なぜ、あらためて、従来は扱っていなかったLASの供給を開始するようなことをするのであろうか。
「背景は」とか「量としてーーーーからのようです」などと言うような曖昧な表現ではいけない、これは出所を明らかにするべきである。PRTR法の正確な定義を重視するべきである。なぜ、BOD総量の大きさが問題になる石けんがPRTR法の対象にならずに、LASが対象になっているのか。それは量だけでなく、むしろ質の問題が重視されているからである。LASは分解性が悪く、しかも使用される量が大きく、水生生物に対して、河川での実在残留濃度で影響があることが問題にされているからなのである。これは洗剤メーカー側の研究者も認めていることなのである。
 LASは量として問題になっているのである(らしい)から、使用量を減らす運動をすれば、それでよい、と組合員を煙に巻く、その本質的な問題点をそらせてしまう、この態度は著しく不当である。全く生協らしくない。
 LAS系であれ、なんであれ、国のPRTR法の対象になっているような化学物質を含む洗剤を生協が組合員に供給するのはよいことではない。これは単純明快なことである。しかも今時、一部の組合員の反対を押し切ってまで、新たに、問題ぶくみの洗剤の供給を開始する、などというのは相当な時代錯誤である、としかいいようがない。

4 3項のなかに、「リスク評価の視点を含めて、LASを含む洗剤を取り扱わないとするような問題はないと判断しました。」とあるが、生協の安全、安心を大切にする、水環境を守る「より良い洗剤政策」の基本的な立場に立てば、従来どおり、LASを含む洗剤を取り扱わないにこしたことはない、とする判断を何故しなかったのであろうか。それほどにまで無理をして、私たちや有志組合員の反対を押し切ってまで、LASを導入しようとする真意はなんであろうか。
 「リスク評価の視点を含めて」とあるが、これはもう少しくわしく説明してほしい。LASのリスク評価には私にもおおいに関心がある。

5 生協の政策決定には厳格な論理的正当性が求められる.LASについては生協は早くから精密な科学的な評価を行って、今日PRTR法の対象物質になるような問題点を正確に指摘してきたのである。これを無視したさいたまコープの今回の洗剤政策が本当に正しかったかどうかは正確に検証されねばならない。
 私の著書やこのHPでも繰り返して述べてきたことではあるが、もう一度明らかにしておこう。
 LASの今日的な河川での実在濃度が、0,1ppm程度であり、一部の小河川での流入口付近の水域では、その10倍を上回る場合があり、他方で、実験的に、ある種の魚の行動異常が0,0015ppm以上で生じる、あるいは、ある種の魚で、0,1ppm以上で発育障害が起こる、などという研究報告がある、この事実から目をそらしてはならない。  生協は「よりよい洗剤政策」に立脚した上で、洗剤使用の減量運動にとりくむべきである。生協がLASの導入に踏み切るのは誤りである。このことを重ねてはっきりとさせておく。

6 もしも、リスクコミュニケーションに忠実な立場から、さいたまコープが私を招いて学習する場を設けておられたら、そして私がこのHPに記載してきた内容が組合員の大多数の目にとまるようにしておられたならば、さいたまコープのLAS導入をふくむ洗剤政策がすんなりと採択されるようなことはなかったであろう。
 今からでも遅くない。生協の名誉のために、私の所論がもっと組合員に良く見えるようにしてほしい。私は洗剤・環境科学研究会の今年度のシンポジウム、プレセミナーが埼玉県下で行われるように、会長、事務局長、年会長にお願いするつもりである。
 私は生協の発展を祈念する研究者の一人として、今後ともあらゆる協力を惜しまない。(完)


(9月6日)洗剤・環境科学研究会には、かって100名以上の生協関係者が会員になっていた.毎年、各地で開催された研究会には、生協だけの分科会が開かれた。私が年会長を引きうけた神戸の研究会では、コープ神戸の生活文化センターの大講堂がいっぱいになるほどの盛況であった。年移り、人変わって、今はLAS洗剤の供給を開始する生協が現れるようになった。研究会に参加する関係者もわずかになった。
 何故こうなったのか。環境の生協、安心、安全の生協といわれながら、その一方で,地道な研究成果を尊重しようとする考え方が薄れて行く事は悲しむべき事である。PRTR法に規定されているような化学物質の一つであるLAS系の洗剤を解禁して、組合員に一般企業の洗剤を供給し始めるような事を堂々とするところが出てきた。しかも私が再三忠告してきたというのに、回答を寄せようともしない。、学習会の講師に私を招いて話を聞くことを組合員のグループが申し入れたと言う。あるいは。間に立つ人があって私を呼んで意見を聞くように勧めたという。しかしいずれも断られたという話が聞こえてきた。このままでは、なにが学習の生協なのかと言う定評が広がって行く事を憂える。このまま放置する事は良くない。大多数の組合員のために、大事にならないうちに、何とかする必要がある。
 洗剤・環境科学研究会の各位もこの話の成り行きに関心を持って欲しい。(完)


 (9月5日)洗剤・環境科学研究会は市民と研究者の協力によって、洗剤、環境問題の解決のために取り組む事を目的としたユニークな研究会である。研究者と市民一般の方々の御入会を待望している。
 入会のお申し込みは,TEL:044−860−2415、洗剤・環境科学研究会事務局 瀬川典男まで。なお近くホームページが開設されるのでお待ちいただきたい。
 私、藤原は元会長、現在は幹事のひとりである。昨年は体調が悪くて欠席したが、今年3年ぶりに名古屋の研究会に出席して、このような意義ある研究会が会員の減少という現実を突きつけられている事に驚かされた。これからは皆様のご支援を得るように努めたいと思っている。


(9月4日)来年の洗剤・環境科学研究会に望む


 来年の研究会は山梨県河口湖畔で坂下栄氏を現地会長として開催されることになった。 是非とも成功するように私達も協力したい。

 ついてはシンポジウムの提案をしておく。
つぎの二つの企画を是非とも採用して欲しい。

シンポジウム1:PRTR洗剤の市販をどう考えるか
(1)PRTR法の対象物質とは
(2)PRTR洗剤とは
(3)PRTR洗剤の市販をどう考えるか
(4)PRTR洗剤を供給する生協をどう考えるか
(5)PRTR表示の法制化の提案
(5)生協のより良い洗剤政策を評価する

シンポジウム2:簡易環境測定運動をどうひろげるか
(1)簡易環境測定機器とは
(2)簡易環境測定運動の目的は
(3)世界的な評価をどう周知するか
(4)環境教育にどう活かすか
(5)行政の環境測定対策の活性化に役立てるには

 このシンポジウム案をできるだけ早く実行委員会で採用していただいて、出来ればそのひとつでもプレセミナーで取り上げて、さらに、本研究会でより深く論議する様にしてほしい。
 これらのシンポジウムは時宜に即しており、社会的な意義がある。影響するところが大きい。反響も期待出来る。本研究会の意義を再確認できる。
 この機会に、以上を一幹事として提案しておく事にする。研究会の会員各位としても慎重に考慮されたい。


(9月1日)洗剤・環境科学研究会に出席して
−再生の方策を考えよう−


 8月29・30日、名古屋で開催された洗剤・環境科学研究会に出席して、一昨日帰宅した。この機会に所感を述べる。

1 公開講演会には、さすがに200名以上が参加して満員であった。地元の実行委員会の御尽力で、市民、学生たちが熱心に聞いていた。講師の顔ぶれも名古屋大名誉教授の北野康氏と名城大学助教授の田村博人氏、本会会長の天谷和夫氏と豪華であった。

2 しかし、肝心の本会会員の参加は極めて少なかった。評議員、幹事会、総会への出席者も少なく、論議も低調であった。例のごとく、現地の協力者に、「おんぶに抱っこ」のありさまであった。正直なところ、私は元会長、幹事として恥ずかしかった。

3 会計報告では会費納入状況が非常に悪い事が知らされた。事務局の旅費、活動費は事実上ゼロ、会報も徹夜の奉仕、すべてが手弁当、会誌の発行も危ぶまれる状況であるという。

4 評議員会は報告事項で精一杯で、討議、検討の時間はなかった。本当に必要なのは、研究会の欠陥の是正と再生をはかるためにどうするのか、そのことを真剣に皆で考え合う事なのに、その時間が全くとれていない。これでは衰退するに任せるということになってしまう。会長、事務局に再考を願いたい。

5 考察
(1)ここ、2,3年、第1世代の会員、とくに幹事、役員層が高齢化してほとんど引退した。70歳以上の会員の退会が相次いだ。会員数が激減した。しかも同時に若い世代の新会員、役員後継者を呼び込む運営上の努力が不足していたために、現状のような会員数の大幅減少というような結果になった。
(2)洗剤問題に関して言えば、安全性問題に関わる実験研究データが殆ど出尽くして、研究会に発表される論文数が激減した。環境問題に関して言えば、類似の学会誌が多くあり、本会のような小規模研究会への投稿が敬遠され、あるいは必要とされなくなったためと思われる。
(3)地元の大学、企業、行政側の好意的な援助がなければ、自主的に研究会が開けなくなっている。これは現地の関係者に非常な負担を与えることになっている。こうした「施される」状況が長続きするはずがない。
(4)会長、事務局長を中心とする事務局担当者の負担、労力、献身的な奉仕が無ければ運営は不可能になっている.これでは将来的に事務局を受け継ぐものがないだろう。このままではいけない。
   本研究会の意義を重要であると考える会員は、現状を無視している事は許されない。
(5)私が会長、年会長であった時代には、全国の生協が非常に協力的であった。しかし生協の洗剤問題についての関心はほとんど消えてしまった。今回の研究会には生協関係者の出席は殆ど見られなかった。しかし、本当は、コープとうきょう、さいたまコープ問題に見られるように、生協には、「よりよい洗剤政策」をどうするのかという重要な課題が付きつけられている事を忘れてはならない。放置していると、環境の生協が泣くような結果になりかねない。
(6)特に会計事情が最悪である。この点ですべての活動が制約されている。収入源を何とかせねばならない。
(7)要するに、会員の本研究会に対する無関心、維持、再建に関する意欲の喪失に問題がある。また創始者の三上先生はじめ先輩たちの労苦に対する感謝の思いが薄れて、研究会の存在理由を意識する事が無くなっていることに気づかねばならない。

6 対策
(1) 本会の今日的な意義を、再三、強調する必要がある。
 「市民と研究者の連帯による研究活動を行う」と言う本会の特色を、再三、訴える必要がある。洗剤、環境問題をとおして、「実験研究」を支える「論理研究」の分野での要請が大きくなっていることを自覚せねばならない。これは市民の論理なくして追求する事は出来ない。
 本会の性格上、今日では実験研究分野での発表は自ずから制約される事になるだろうが、、簡易測定器などを利用した市民、消費者と研究者の協力による調査活動などの可能性は大きくなっている。.他方で論理研究の分野では、洗剤、環境問題についての論理研究課題が非常に多くあって、今後とも本会の存在理由、特色を大いに発揮する事が出来るだろう。
(2)研究活動の方向性を明らかにする。
1) 調査活動では本会会長の天谷氏が開発された簡易環境測定器具を利用した環境調査を市民組織と協力して実施して、水、空気などの地域汚染の実態を明らかにする活動が行われているが、これには今後とも重点を置く必要がある。行政側の環境調査活動を促進するためにも、このような活動は大いに期待されている。わが国での市民調査活動を英文化して国連など、国外で発表するべきである。これはマスコミなどを通して、逆に国内で注目される事になるだろう。
2) 学校教育現場に、簡易測定活動をアピールして、小中学校環境教育に寄与する事が出来る。本会として、積極的に教育委員会などへの提案を行うべきである。
3) 論理研究では、国、自治体の洗剤政策、規制状況の評価、企業の販売政策経の批判、生協の洗剤政策の評価など課題が多い。私は洗剤などの家庭用品で、PRTR化学物質をふくむ商品には、PRTR表示を付する事をかねてから提案してきた。
 たとえば、LAS、ノニオン界面活性剤等がPRTR法の対象物質とされていながら、これらの界面活性剤をふくむ洗剤が堂々と市販されているが、どのようにこの事実を評価するか、どう対応するべきかなどを検討する必要がある。
 また環境問題では、温暖化防止のためにどのような実践的な取り組みを行なうべきか、家庭として、企業として、自治体として、国としての対応のあり方を論証する事が求められている。
 生協のような消費者活動、市民運動の洗剤、環境問題に関する活動のあり方、実効性の評価なども求められている。批判の無いところに進歩はない。
(3)会員同士のコミュニケーションを活発化する。
 会計事情が極端に悪いなかで、以前のように役員が再々集まって論議する事は難しくなった。だから電子機器を活用を考慮せねばならない。とくにパソコンのメール機能を生かして、事務局からの連絡、特に検討課題の通知をクリック一つで行なうようにする。協議事項はメールで配信して、事務局のアドレスに各自の意見がメールで入るようにする。関係者全員にその意見を伝達する。電子機器の応用によって、事務局の機能は非常に活性化される。関係者のメールアドレス一覧表を作成(メールで配信、各自のパソコンにインストール)する。これで全員が同時に情報を共有できる、
(4)「どうすれば会員を増やせるか」、「どうすれば会計を建てなおせるか」、「本をつくる」、などと目的を絞った特別委員会を立ちあげる。会議はメール交換方式で行い、集まりは極力年1回くらいにとどめる。
 以上のような委員会は、
1) 会長が、とくに若手の会員を委員として委嘱する。数年前に構造改革論議は古参会員でやったが、今度は若手が立ち上がって、新しいセンスで再建策を練り上げて欲しい。
2) PRをかねた出版を行なう。たとえば、つぎのような案がある。
a「簡易環境測定科学」または「市民による環境測定の科学」
 天谷会長の監修で、意義、原理、個別事例、環境教育への応用、調査活動の実際、世界的、国内的な事情、UNEPの推奨、取り扱い業者の紹介などの各章を分担執筆する。これには相当な社会的需要が見込まれる。
b「今何故洗剤問題なのか」または「PRTR洗剤をどうするか」
 PRTR法との関連、生協のLAS洗剤解禁ムードを批判する。
(5) OBとのネットワークをつくる。
 高齢化によって、本会の発展を祈りながら退会していったOBたちが数多くいる。本会の創立、発展に協力してきたこれらのOBたちの助言もまた非常に重要である。事務局ではこれらのOBを結ぶネットワークを作って、会報を送り、親睦を深めるための何らかの媒体をつくるべきである。「退会、はいさよなら、一切ご縁はありません。」ではすまないだろう。ときには、皆で、本会の創始者である三上先生の墓参もしたいものである。OBたちも本会の発展のために祈っていてくれると信じたい。OB連絡名簿(メールアドレス集もよい)を作って、OBたちに送ってあげたい。HPも見て欲しい。
(6) 時宜に即したシンポジウムをプレセミナーなどで開催する。
 例えば、
「一部の生協でのLAS洗剤の供給開始について」
「PRTR法と企業の洗剤政策について」
「簡易環境測定法の可能性と限界性について」
「界面活性剤添加商品の問題性について」
「洗剤関連商品のコマーシャルについて」
「学校教育での環境意識化活動について」
等が考えられる。完全中立の立場で運営する。学問的、科学的な意見の交換をはかる。同時に本研究会に対する社会的な注目を集める。すぐれた企画は会員の増加につながる。来年の山梨研究会に向けて検討して欲しい。
(7) ホームページの機能を活性化する。
 ホームページの目的を、本会のPRを通して、会員数の拡大を図ることに特化する。断じて「お飾りホームページ」にはしない。貴重な財源を使う以上は、必ずペイするものにしたい。HP問題への取組みが遅れがちであるが、思い切って若手の会員に立ち上げを委嘱して、期限を切って、開設の促進を図ってはどうか。
 HP運営委員会をつくって,週1回更新が可能なように、原稿を分担、募集する、ただちにアップロード出来るように、メールで事務局の担当者に送る。担当者への謝礼は当面は小額でお願いする。

(8) 会計の安定化をはかる
 会費徴集と会員数の増加をはかる。同時に、本会の活動に対して好意的な企業に事情をうったえて、寄付を募る。NPO法人格を取得して、免税寄付が受け取れるようにする事も検討する。

7 結語
 要するに、本研究会を21世紀の研究組織としてリニュウアルするために、新しい世代のセンスでクリンナップされることを期待しよう。主役を若い世代に譲る。第1世代は脇役に回る。その線で現状に立ち向かうしかないだろう。それが率直な結論になる。
 かって、久留米での研究会では参加者は延べ3000名にものぼったことがあった。会員数も500名近い時期もあった。機構改革によって、環境研究部門を設けて、かろうじて維持されている現状を直視せねばならない。より良い洗剤問題はまさしく環境問題でもある。洗剤と言う商品がある限り、洗剤問題も決して終わることはない。
 その時代にはその時代の課題がある。本研究会に対する社会的な要請は決して失われてはいない。再生の希望はある。その事を確信しよう。
 さて、問題は実際にどう動き出すか、ということである。(完)


(7月28日)T,S生協の組合員、職員でこのHPをご覧になっておられる方へ


 一般企業の洗剤を組合員に供給する事は一向に差し支えがありません。しかし、PRTR洗剤を組合員に供給しておられる生協が、同時に環境、水、生態系の保全を運動方針に掲げる事は出来ないと思います。私たちが安心、安全の生協として、大切にしてきた原則や理念を踏みにじるようなことをしないために、良識ある商品政策が実施されるように願っています。PRTR化学物質をふくむ商品を軽軽しく組合員に供給するような行為は恥ずべきことです。私だけでなく、一部の組合員たちの批判を無視しての発売開始が強行されました。このHPをおそらく丹念に収録されている関係者もおられることでしょう。貴方は本当のところどう思っておられるのでしょうか。  是非はどうあれ、批判は雑音として無視する、それが今日的な事業体のモラルであると思いますか。しかも生協は事業体以上の、消費者のための組織なのではありませんか。  このホームページを見てくれている人々は、今T,S生協で行われている事実をどのように理解しているのでしょう。ある人々は今堂々と行われている不条理に憤っているでしょう。ある人々は生協のために嘆いているでしょう。ある人々は生協の偽善を笑っているかもしれません。いずれにしても生協の汚名がこのような形で広がって行く事を心外だとは思いませんか。


(6月16日)生協でのLAS洗剤の供給開始について


 今後の安全性の処理に当たってはリスクアナリシスの手法が重要であるといわれるようになった。リスクアナリシスはリスク評価トリスク管理とリスクコミュニケーションが三つの柱として必須であるとされている。
 コープさいたまでは、LAS系の合成洗剤を組合員に供給するかどうかと言う問題に関して、リスクアナリシスを誠実に実施される事が求められていた。しかし結果は期待を大きく裏切った。
 私はどのような結果になったかを正確には聞かされていない。しかし少なくとも、コープさいたまは、良い結論に到達する様に、間違わない様に、細心の助言を行ってきたひとりの研究者の私に対するリスクコミュニケーションを誠実に実施してきたとは言えない。最終的に理事会に提案され論議された内容では、当初のLAS導入論から一歩も出ないものであった。
 最終段階で、組合員の間に、私を学習会の講師に呼んで勉強したい、という要請があったという。学習の生協だから当然のことであろう。しかし私には何の連絡も無かった。環境重視の生協の看板が泣く。
 今時、より良い洗剤政策を放棄して,PRTR法で使用や移動についての届け出が必要とされる問題化学物質であるとされている界面活性剤LASを含む合成洗剤の、組合員への供給を始めた生協が出てきた。なんと言うアナクロニズムであり、なんと言う無神経さであろう。
 愛する生協運動の発展のために、私は今後とも必要な手段を取り続けるつもりである。  来る7月9日には、東京弁護士会主催の、食の安全を考えるシンポジウムで基調講演をすることになっている。もしもこのHPをご覧になったさいたまコープの組合員の方がおられたら、終了後にお会いする機会を持ちたいと思う。(完)


(4月24日)PRTR法該当物質の移動量の報告について


 私は、事業体はPRTR法該当化学物質LASの販売量を報告するべきであると思う。
 PRTR法では,工場、事業所などはPRTR法該当の化学物質の生産量、移動量を届け出なければならないことになっている。PRTR法該当のLASは家庭用の洗剤に含まれているが、現状では、この洗剤を使用する各家庭からの報告はいらない事になっている。その代わりに、国の統計には、洗剤メーカーからの一括した生産,出荷関連の届け出数量が記載されることになっている。
 そこで、この際,提案がある。この法の目的にかんがみて、届け出が生産量だけでなく、「移動量」についても必要であるとされているのであるから、たとえば一定の規模のスーパーマーケットや生協のような量販店,事業体で販売されて,各家庭で消費された殺虫剤や洗剤中に含まれるPRTR法該当化学物質の数量については、その量販店、事業体に報告義務を課する、ことにしてはどうだろうか。
 この数量は、まさしく、その量販店、事業体を経由して各家庭から環境中に移動した問題化学物質の実態を明らかにする上で、特別に重要な意味を持つ。現状のような、おおもとの洗剤メーカーからの出荷量では、ただちに環境負荷に直結するような数値にはなりにくい。問題は生産された後、消費されて、実際に環境に負荷された数量そのものなのである。
 たとえば,LASについては、従来からの「より良い洗剤政策」をとっている生協では、販売量、移動量を報告する必要はない。これに対してLAS洗剤を取り扱うことになった生協では、毎年、相当の数量を報告せねばならないことになるだろう。
 環境、生態系を大切にすると言う一方で、PRTR法に該当するような問題化学物質の取り扱いの実態を世間の目に触れる形で公表せねばならないような生協が実際に出てくる、とすれば、非常に残念なことである。(完)


提案する。


今年の洗剤、環境科学研究会の全国研究会に、つぎのようなテーマのシンポジウムを企画してはどうだろう。

「生協はLAS洗剤を解禁しようとしているのか」


 全国の生協関係者が参加するこのシンポジウムに.コープとうきょうやさいたまコープの責任者が出席されて,存分に所信を表明される事を期待しよう。


(4月7日) Sコープの組合員の皆さんへ
―LASはPRTR法の対象となる有害化学物質です―


 化学物質排出監理促進法(PRTR法)に基づく初の集計の結果が環境省と経済産業省によって公表されました。この法律では工場や家庭、自動車などから環境中に排出された有害化学物質の排出量と移動量を各事業所などが届出ることが義務づけられています。行政側がそのデータを公表することで、事業者などに排出削減を促す新しい取り組みです。
 この法律の対象となる化学物質は354種類ですが、以前にも書いたように、この中に、家庭用の合成洗剤の界面活性物質である直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)が含まれていることはご存知のことかと思います。
今回の発表は01年度のものでしたが、化学物質354種類の排出量上位10物質の中に、問題のLASは第7位で登場しており、家庭用の洗剤のことだけに、たいへん注目されています。
 このLASをふくむ洗剤を、環境、水、生態系を大切にしてきたことで定評のあるS生協が新たに組合員に供給し始めようとしている、などということは全く信じ難いことです。従来の生協の「よりよい洗剤政策」ガ間違いであったとして,水生生物には明らかに問題のある、国がPRTR法の対象物質に指定しているような化学物質をふくむ商品を組合員に堂々と供給しようというのでは、生協の安全、安心政策が信頼されなくなります。各企業でさえ排出量の削減につとめている化学物質であるというのに、こともあろうに、生協が組合員にLASの排出促進を勧めているような商品政策がよいなどといえるのでしょうか。
 そんなことをすれば、生協が世間からどのような目で見られるようになるかがおわかりでしょう。LAS系洗剤の新規取扱いを決めた昨年の理事会決定は誤りです。取り消していただかねばなりません。
 総代会のシーズンになりました.こころある、生協を愛する組合員の皆さんたちがしっかりと対処されるように望んでやみません。(完)


 組合員は賢明なる選択を
 
(3月1日)洗剤問題は今や環境問題そのものなのである。


 洗剤は家庭内で使用される最大量の化学物質である。国土が極端に狭くて人口が稠密な我が国では、単位面積当たり,アメリカの約10倍量の洗剤が消費されている。そしてそれらの全量が最終的に、人口密集地域周辺の、比較的、短小、狭隘な河川や閉鎖的な内海、内湾、内水系の沿岸域に流入している。このような場合には、家庭の台所、洗濯排水から環境中に放出されて、拡散して行く洗剤の生態系影響などが最も留意されねばならない。  もちろん、有機物量の大きさも注意するべき要因ではある。しかし、同時に微生物などによって、それらの有機物質が分解される性質である、いわゆる生分解性の大きさも問題にせねばならない。たとえ有機物量が小さくても生分解性の悪い洗剤では残留濃度は結局大きくなる。さらに河川などの魚介類などに対する悪影響、すなわち生態系に対する有害性を問題にせねばならない。生分解性が良くなくて、生態系影響が大きいLAS系のような洗剤は好ましくない。まして、0、0015ppmと言うような、洗濯機からの排水が100万倍に希釈された場合の界面活性剤LASの濃度域でさえ、ある種の魚に行動の異常をもたらす、忌避性と言われるような現象についても、その影響を無視する事は許されない。
 生協の「より良い洗剤」政策において、石けんを中心とした、生分解性のよい、生物影響の少ない洗剤群を、可能な限り、最少量使用する、という考え方が、現在でも大方の生協において受け入れられている理由は極めて明白なのである。
 問題は,そのようなすぐれた政策が組合員の日常的な購買行動となって現れていない、ということにある。組合員のたった5%しかコープの洗剤を利用していない、という現状がどの生協でも当たり前になってしまっているという点にある。
 何故か。どうしてこうなったのか,その答えは明らかである。その部分についての生協の政策的な取組みが非常に遅れているからである。折角の学習、運動機能が働いていないからである。猛烈な企業側のコマーシャルに組合員の意識が引きずられるのを拱手傍観して見ているからである。あるいは、企業の洗剤以上に魅力のあるすぐれたコープ洗剤を開発して、それらを自信を持って組合員に提供することができないでいるからである。そして、最後に、こうした現状をおかしいとも、はずかしいとも思わないでいる当事者たちがいるからである。
 花王やライオンkkでさえ、LAS系洗剤の欠陥を認識しているはずである.環境保全に厳しい世論をふまえて、LAS系洗剤以上の洗剤を開発しようとして努力しておられるはずである。
 そのような、いわくつきのLAS系の洗剤を、わざわざ、現時点で組合員に供給しようという生協が現れようとしている。従来の生協の、「よりよい洗剤政策」を否定したうえで、花王やライオンの製品を、店舗において、あるいは共同購入によって、組合員に供給しようとしている生協がある。
私には、それらの生協が、同時に、環境保全の旗幟を高く掲げておられることが異様に思えてならない。
 生協は組合員の良識に支えられている。結局は組合員自身のあり方が問われているのである。成り行きに注目したい。(完)


   

新・洗剤政策のための討議はつくされたのか


 さいたまコープがこの春を期して、LAS系の洗剤の供給を開始する、という方針をめぐって、私は、このHPで、いくつかの所論を示しました。また責任者である理事長や役職員当てに直接、拙著の研究会誌関連の総説の別冊などもお送りしました。この秋から春までが組合員討議、検討の期間だということなので、従来の我が国の生協の「よりよい洗剤政策」に深く関わってきた研究者のひとりとしての責任上、あえて、そうさせていただいたのです。
 現時点までの、さいたまコープ担当者からのお返事では、
@ 「先生のご意見は理事会にも,組合員にも伝えました。」
A 「専務からはもう少し(にじのひろばでの)表現のしかたに気をつけるように、との助言を頂いた。」
とのことでした。
 「伝えた。」といわれる担当職員からは、私の所論のここが誤っている、などという指摘が一切ありません。伝えただけで、その結果がどうなったかがわかりません。 結局、私の所論に対しては、理事会にも組合員にも何の反応もなかった、ということなのでしょうか。開かれた消費者の組織である生協には似つかわしくない経過で,LAS系洗剤の導入が決まるとすれば、これは見過ごすことの出来ない事態であると思います。
 さいたまコープの機関誌「にじのひろば」(2002年10月号)によれば、今回の洗剤政策の変更に関して、県の環境科学国際センター総長とか言う、ご立派な肩書きの某氏の「新しい洗剤政策について」の講演会とシンポジウムが3回にわたって持たれる、と書かれています。私はこの某氏が洗剤問題の専門家であられるのか、どうかもよく知らないし、そこで、LASの問題点がどれほど論議されたかもわからないのですが、おそらく理事会のLAS系洗剤導入の方針を強調、敷衍する内容の講演をなさったのだと思います。LASには問題がない、従来の生協の洗剤政策は誤りであった、「誌面を借りてお詫びいたします。」といわれるほどの、ひとつの立場を強調する講演やシンポジウムの場面を、さいたまコープが、意図的に、丹念に、繰り返してつくられたのは、それなりに理解できることです。
 しかし、その一方で、全国のおおかたの生協の洗剤政策に準拠した私のような考えかたがあるということを、理事会や組合員たちは本当に知っているのでしょうか。生協の洗剤関連の担当者は、知らせる責任を正確にはたしておられるのでしょうか。「組合員に知らせた」というのに、本当に何の反応もなかった、とすれば、それは非常に異常なことであると思います。なぜなら、生協の「よりよい洗剤政策」をこれまで信頼してこられた組合員たちが本当に完全に沈黙しているはずがないからです。疑問さえ訴えてこない、などとはとても思えないからです。
 もしも、さいたまコープが真剣に洗剤政策の変更を考えるというのなら、某氏のLAS容認の講演会を3回も実施する一方で、従来のよりよい洗剤政策に沿った、日生協やコープクリーン、あるいは私のようなLAS批判側の専門家の話を何故1回でも理事たちや組合員たちに聞かせよう、としないのでしょうか。そして双方の意見を勘案した上で、最終的に組合員達の合意形成が行なわれるというのが生協が大切にしてきたルールでありマナーなのではありませんか。
 私の、このホームページにアクセスしていただけるさいたまコープの組合員さんたちは多分皆無であろうと思います。しかし全国の多数の生協関係者は、このHPを見てくれています。さいたまコープの洗剤政策をめぐって、今何が起こっているかを知っています。  最初に洗剤政策の変更という方針ありき、あとはこの方針を貫くだけ、というような生協の運営のありかたが誤りであることはよくご存知でしょう。私の,おせっかいにも手間暇をかけた、コープとうきょうやさいたまコープのLAS導入批判についての一連の展開が単なる雑音に聞こえるような、杜撰な取り扱いに終るのはたいへん残念なことです。
 「にじのひろば」にはつぎのように書かれています。「さいたまコープでは2001年4月から1年間、組合員代表、学者、職員による「洗剤プロジェクト」を設置し、――さいたまコープの考え方や方向を整理し、7月の理事会で新・洗剤政策案をつくりまた。」
 まことに周到な取り組みです。しかし、これほどに綿密なプロセスをふんだというのなら、この新・洗剤政策案なるものに疑問を呈する私のような見解に対して、はっきりとノーといえる根拠を示してから、「来春には新しい洗剤政策としてまとめてゆく」べきではありませんか。必要なら私を呼んでもらってもよろしい。洗剤プロジェクトの面々とひざを交えて討論してもよいでしょう。最近は少々健康を害している私ですが、体調さえよければ、生協の「よりよい洗剤政策」のために何とか努力してみてもよいと思っています。  いのちとくらしを大切にするのが生協です。環境や生態系を重視するのが生協です。科学的な事実に基づいた、リスクアセスメントに忠実な、リスクマネージメントに責任を持つ、そのためのリスクコミュニケーションを徹底して行なうのが生協です。花王やライオンと生協は違うのです。生協は組合員、消費者の生活協同、連帯の組織です。企業と全く同じである、というのではおかしいのです。生協の商品はより良いものとして、徹底的に選ばれねばならないのです。
 もうすぐ3月です。見切り発車がないように祈っています。繰り返していいますが、私の総説に示した見解やHPでの所論に対する反論をお示しください。私を含めた生協の「よりよい洗剤」論者を説得して、完膚なきまでに屈服させるような,「LAS系洗剤導入、減量使用論」を文書の形でまとめてください。おそらくこれは生協運動の歴史に残るような見事な記録となることでしょう。必要なら、学者先生を含む洗剤プロジェクトをもう一度立ち上げて論議してみてください。
 一部の官僚たちがよくやるような,「シカト」政策はとらないで下さい。科学的で、客観的で、冷静な、開かれた政策決定のプロセスが慎重に、最後までしっかりと踏みしめられるように期待してやみません。
  私はさいたまコープの洗剤担当の担当者のお二人に直接お会いしました。優れた生協マン,ウーマンと言える方々でした。だからあえて言いますが,新政策の取りまとめのためのすべての手続きを周到に行なう責任は事務方のあなた方にかかっているのです。長年にわたって組合員が信頼してきた洗剤政策を変更する、と言う歴史的なとりくみをきちんとやり遂げるためには,その手続きには誤りがなかった、という事実が存在しなければならないのです。
 新方針が最終的にきめられる総代会まで、もう余り残された時間がありません。(完)



(1月14日)洗剤の使用量を減らす事が本当に目的なのか


1 洗剤の使用量を減らすのはよい事であり、日生協をはじめ,全国のすべてといってもよい生協で,これまで、そのための取り組みが行われてきた。なにもさいたまコープだけが事新しく運動化するなどと言うわけではない。

2 「にじのひろば」の記事を普通に読めば、さいたまコープが理事会で洗剤の新政策を決定し,来春まで組合員の討議を行なう、とまで言われるのは,そして「組合員にお詫びする」とまで言われるのは、単なる洗剤の減量運動だけのためではなく、従来取り扱っていなかったLAS系の洗剤を生協で供給すると言う問題があるからである。問題は減量ではなくて、生協でのLAS系洗剤供給の是非なのである。
 減量運動を伴うから商品政策の変更だ、などと言う事ではないと思う。

3 生協でLAS系洗剤を取り扱ったほうがBODの減量運動がしやすので,と担当者は言われたが、それほどBODの減量にこだわるのなら、洗剤に限らず、台所の米のとぎ汁の減量,無洗米の利用、食器洗いでの油分のふきとり、食器洗浄機の禁止、そして洗顔,入浴時の石けん使用量の減量、ついでにトイレットペーパーの減量など、生活雑排水全体での有機物減量運動に取組まれたほうがよいだろう。洗濯からのBODは生活雑排水からのBODの約15%にすぎないのだから。

4 やはり生協としては,減量問題とは別に、LAS系の洗剤使用の可否について、正面から真面目に取組むのが筋であると思う。

5 LAS系の洗剤とはLASを何%以上含むものを言うのか、とか、LAS系洗剤の定義は、などと言うことはさいたまコープ自身が明らかにするべき問題である。1%だろうが、20%だろうが私にはどうでも良いことであって、ただ、それらのLAS系の洗剤が使用されて、結果的に、実在の河川,河口部の水の中に、実験的に生態系に有害な影響を与えることが証明されている残留濃度での界面活性剤、LASが認められるから、LASを排出するような洗剤は使用しないほうが良い。とくに、環境を,生態系を大切にする生協では商品政策を誤ってはならない,と私は 御注意申し上げているのである。

6 減量政策のためには、LAS系の洗剤を生協が供給したほうがよい、というのはおかしい。本気でそう言われるのなら,洗剤に限らず,以上の3項のようなBOD減量運動をやってからのことにされたらよいであろう。
 しかも、これなら、従来の政策の誤りを組合員におおげさに謝るまでもないであろうし、来春まで組合員討議を行なって決めるまでもないであろう。

7 もしも本気でLASの供給を開始するのであるならば、私の論理の謝りを明らかにしてからのことにされるように希望する。問題を減量問題などにすりかえてはならない,。
今は生協という組織にとって非常に大切な時だと思う。(完) 



(1月8日)おいでいただいてありがとう


 ただ今,さいたまコープの洗剤担当者2名がお帰りになった。
 始めに、本日の話し合いの印象を言うと、私が同生協の機関誌「にじのひろば」を読んで感じていたものとは相当に違った説明が行われていたように思う。現場におられるこのお二人のお話はそれなりに訴えるものがあった。
 お二人は要約すると以下の2点について強調された。
1 従来、私たちの生協は、組合員の皆様に対して,生協の洗剤を使うか,使わないか、という2者択一的な態度で迫っていたのではないか、また一般企業のLAS系の洗剤を使ってきた組合員に、なんとなく後ろめたさを感じさせていたのではないか、との反省がある。したがって、今後は、生協でもLAS系の洗剤を扱って、すべての組合員を対象に洗剤の減量運動を行なっていったほうがよいと思うようになった。

2 生物影響性については、LAS系の洗剤が最も問題であるとは思っていない。 生分解性、生物影響性、有機物量の3点の評価でLASが最も問題であるとは思わない。現状では、既存のデータから判断する事は出来ないと思う。

 さて、以上に対する私の意見を言うと、つぎのとおりである。
1 まず、第1点であるが、正直に言ってこのような考え方があったことに驚いた。生協は自前の考え抜かれた食品添加物政策を持っているが、だから生協の食材以外の商品を買っている組合員が「引け目」や「後ろめたさ」を感じておられるとは思ってこなかった。現場をよく知っておられる担当者の正直な実感として、洗剤の場合に、そのような「引け目」や「後ろめたさ」を無くそうとなさるお気持ちはよく理解できる。
 しかし、たとえば食材の場合、だから生協がZリストにこだわるのを止めて、スーパーと同じ添加物を含む商品を扱った上で「減量」に集中したほうがよい、と言えるかどうか。生協では商品の品質自体への厳格な評価と、商品展開過程での組合員の心情対策を一体として問題にするような商品政策はとってこなかった。教育、学習、情宣は品質と展開それぞれのために熱心に行なわれてきた。生協の安全,安心政策はそのようなものとして、生協発展の基盤を支えてきたと思っている。
 生協の石けん洗剤を使わない、セフタ―もいやだ、だから花王のLAS洗剤を買って使う、それは自由である。なんの引け目も感じる必要はない。もしも2者択一のような感じを与えていたのなら、従来の洗剤政策はそのままで、その点だけを改めれば良かったのではないか。

2 引け目を感じさせなくすれば、すなわちLAS系の洗剤を生協で供給したほうが洗剤使用の減量政策が成功しやすいのかどうか,にも疑問がある。これまでにも洗剤使用量の減量はいわれてきた。成果が上がっていなかったとすればそれは引け目を感じさせてきたからとか、LAS系の洗剤を供給していなかったからとかでなく、減量使用を進めるための生協の学習,教育努力のあり方に問題があったからではなかったのか。使用量の削減は他の生協でもしっかりと行なわれているのである。

3 洗剤使用の減量化を従来どおり進めるというだけなら,商品政策の変更でもなんでもない。商品政策の変更というのならやはりこれまでと違った「LAS系洗剤も生協で供給する」という1点に焦点が絞られてくる。LAS系洗剤を認めたほうが減量政策が進めやすい、つまり進めやすさの変更があるから商品政策の変更である,と言っておられたが,これは少々詭弁ではないのか。進めやすさの部分は運動政策の領域ではないのか。
 それから、LAS系洗剤を配置したほうが,減量政策が進めやすいというのはどのような見とおしを持っておられるからなのか。LAS容認と言う、他生協ではあまりないような判断をしてまで、あえてこうした方針を採用されようとしておられるというのは明確な見とおしをお持ちになってのことなのであろうか。

4 機関誌「にじのひろば」では、「従来の政策が誤っていたことを組合員にお詫びする。」とまで書かれていた。これは、ただ事ではない。だからLASを容認しないで来たことを言うのだと私は受け取ったのであるが,実はLASを認めた上で減量政策を取ってこなかったことをお詫びする、ということだったのか。
 あの「にじのひろば」の記事を読めば、誰でも私のような受けとり方をするだろう。減量政策の手法を誤ったというぐらいのことで、大げさにお詫びすると言うほどのことはないのである。担当者は減量政策の強化を含めた商品政策の変更である、といわれたが、少なくとも商品の品質管理の部分と商品の展開にかかわる運動の部分は分けて考えるべきではないのか。
 すべての生協では、Zリストを商品政策の基幹に据えた上で、より良い食品の展開のための学習活動が行われてきた。洗剤の減量使用は運動論の範疇にあるというべきである。

5 担当者からの御質問があった。食品添加物と洗剤の界面活性剤の場合は違うのではないか。確かにそうである,とお答えした。確かに少々違う事は認める。しかし最近の世論やこれを受けた国の姿勢を見れば、農薬だけでなく化審法の対象となる化学物質一般に,生態系に影響があると判断されるものを排除しようとする傾向が強くなりつつあり,やはり実在環境残留濃度で生物影響が最も強く疑われているLASなどを含む洗剤を生協がわざわざこの時期に認めようというのはおかしいのである。目立ちすぎるのである。生協がZリストを採用して、先見性があると評価されてきたのと全く逆のことが、今回のさいたまコープの洗剤政策の変更ではおこりそうなのである。私は専門家の1人として、その意味で生協の「より良い洗剤政策」は先見的であり,たいへんよくできた、大切にしてほしい商品政策であると思ってきた。しかしさいたま生協は、この時期に、これまでの、LAS系の界面活性剤を排除してきた、この洗剤政策を採用し続けてきたことを組合員にお詫びしようとまで書いておられるのである。

6 LASを排除することが望ましいと言う私の意見にはついに合意してもらえなかった。「より良い洗剤の提供」を目指した大方の生協とはやはり相当に違った考え方をしておられると感じた。現状では、「より良い」,と言う評価自体ができない、各種の界面活性剤には長所,短所がいろいろある、だから特別に生物影響を重視する必要を感じない、ということであった。生分解,生物影響,有機物量という評価要因を並べて、論証してきた私の所論には結局頷いてもらえなかった。慎重な評価の結果に基づいて、せめてthe worst oneであることが疑われるものだけは排除するほうが良いのでは,と言う,相当に柔軟な生協の洗剤路線でさえも、「減量使用」のためには捨て去ったほうがよい、という判断をしておられるように思えた。なぜ学問的な判断を慎重に受け取ろうとなさらないのか。これは正直に言って意外なことであった。
 「より良い商品」政策と言うのは、選別,評価を回避していては成り立たない。なにが、the best,そしてthe better 、the worstなのかを科学的に,客観的に、慎重に判断する事を組合員は期待しているのではないのか。生協の商品政策は評価を大切にして来たからこそ評価が高かったのではないのか。

7 花王やライオンのLAS系の洗剤を供給すると言う事は,これらの洗剤が含む柔軟剤、蛍光増白剤,香料、分散剤、酵素剤、除菌剤,防臭剤などの多数の助剤成分や添加物などの安全性についても責任を持たねばならないということである。LAS以外の界面活性剤も含まれてくるであろう。思わぬ環境ホルモンのような有害成分が後からわかってきたと言うような事がないようにしなければならない。LAS系の洗剤というのは、LASだけが問題なのではない。それは生協の枠外でつくられた合成化学物質の混合体であるということである。だから大方の生協は慎重であり、安易にLAS系の洗剤などに手をだそうとはしないのではなかろうか。

8 生協の洗剤の品質改良がさらに必要であると言う点では私とお二人との意見が一致した。組合員にとって魅力のある,デザイン、性状、価格、宣伝に工夫の余地が大いにある。そして何よりも生協固有の教育,学習,運動機能を駆使すれば、盛大な企業側のコマーシャル攻勢によって、組合員の意識構造が、次第に企業の洗剤よりに変えられるのをある程度まで防げるのではないのか、と思った。

  9 最近は基礎生活用品として、食品と並んで、これほど典型的、代表的な洗剤についての学習会がほとんど行なわれなくなっている。外資系洗剤の草の根学習活動のほうがさかんなくらいである。これでは花王やライオン、外資系の洗剤に走る組合員の比率が増えてくるのは当たり前である.生協固有の学習,教育機能の援軍を失った結果としての今日の生協洗剤の不振があることを認めねばならない。これを認めたうえで、もう少し取り組みを強化すれば、何もLAS系の洗剤の導入にまでふみこまなくても良いのではなかったか。

10 私は、さいたまコープがLAS系洗剤の供給をお始めになったあと、どのような事態が展開するのかを静かに見守りたいと思う。多分これまで生協以外から洗剤を買っておられた組合員が生協でLAS系の洗剤を購入するようになるだろう。従来の生協洗剤の優位性を言えなくなったのだから、これに引きずられて、LAS系の洗剤を使用する組合員が増えてくるだろう。テレビのコマーシャルが影響力を発揮すればするほど生協での花王やライオン製品の売上も伸びることであろう。いくら減量使用の運動が成功したからといって(ただし、成功するという保証はない)購買者の増加によるLAS系洗剤の環境負荷の総量は大きくなるであろう。私はこれは、やはり環境を守ることをモットーとしてこられた生協としては好ましいことではないと思う。

 予防原則と言う考え方がある.悪影響が出てからでは遅いのである。慎重に,冷静に、できるだけ冒険はしない、それがEUなどでの最近のモラトリアムの考え方である。
 政府が生物影響が危惧される化学物質の規制を始めようとしている時に、さいたま生協の以上のような洗剤政策が高く評価されることになるのかどうか、私はやはり大きな疑問を感じる。
 全国の生協がさいたまコープのような、(LAS導入、より良い洗剤政策の放棄)の行き方を採用するようになることを望みますか、と言う私の質問にお二人はお答えにならなかった。
 私の意見が聞き入れられないのであれば,今後の経過を見守るしかない。ただし、私のような意見があったことを理事会や役職員,そして組合員の皆様には何らかの方法でしっかりとお伝えしておいてほしい。
 あなた方、役職員の責任は非常に重い。どうか、組合員のために,地域の環境や生態系のために貢献できると信じられる道をしっかりと歩んでほしい。
 今日はわざわざおいでいただいてありがとう。(完)


生協が培ってきた"より良い洗剤”の考え方が大切にされますように。
(1月8日)生協の洗剤政策をどう考えるか


 本日の午後、関東のS生協の担当者が洗剤政策について私の見解を聞きたいということで、遠路、拙宅までお見えになることになっている。
 この生協では、従来の洗剤政策が誤りだった(組合員に謝りたいとまで書かれておられる。)ということで、組合員討議、学習を通して、来春から花王やライオン等の一般企業のLAS系の洗剤も供給しようと準備を進めておられる。これらを一緒に供給したうえで使用量の削減を進めよう、ということである。
 本日は虚心に当事者のお話をお聞きしたい、その上で私の見解もお話したいと思っている。
 要するに、もしも生協がロッチデール以来のベーシック・ヴァリューなどという理念、原則をかなぐリ捨てて、単なる企業、事業体に徹しようというのなら、たかが洗剤という商品ひとつに目くじらを立てることはない。
 3年前に、関東のT生協では、「組合員が求める商品を供給するのが最善である」、とする奇妙な論理を堂々と掲げて、生物影響が疑われているLAS系の洗剤の供給を開始したが、その一方で、「安全、安心の生協づくり、環境を大切にする生協として」などというから、おかしいのである。
   ついでだからいうが、その頃、私は大阪のO生協の技術顧問を引き受けていたが、洗剤・環境科学研究会の会誌に、T生協の洗剤政策が誤りであることを、純粋に科学的に証明する総説を発表した。そのあとO生協の常務が私のところにやってきて、「他生協のことを、あれこれといわないでほしい」との、忠告とも命令ともつかない申し入れを受けたことがある。それがこの常務個人の考え方であったのかどうかは知らないが、研究者の利害関係にとらわれない客観的な見解や批判を虚心に受け入れて、しっかり考え直してみようというようような、当たり前の姿勢が保てないような組織が、他方で、「科学的、民主的、倫理的な基本的価値」などということをいいたてる。実像と虚像の解離性を際立てるようなやりかたが長続きするはずがない、私はそう思った。
 ともあれ、S生協の担当者は私の意見を聞くために、わざわざ宇治の拙宅までおいでになる。その熱心さには頭が下がる。私の見解などには一顧だにしなかったT生協の場合とはおおちがいである。どうか私を含めた多数の研究者の意見を十分に聞かれた上で、良い結論が得られるように願っている。すべては安全、安心を願っている組合員のためである。私のためでも、生協の理事、役職員のためでもないのである。

 一般企業であれ、生協であれ、およそ事業体といわれて、商品を不特定多数の消費者に供給する組織の商品政策の基本的な考え方はどうあるべきか。この機会に整理しておこう。 この際、とくに、洗剤という商品を頭において考えてみよう。
1 有用性、必要性、安全性を十分に検討してきたか。
2 長所と短所についての周到な解析を行なってきたか。その上で、重大な短所に目を閉ざすようなことをしていないか。既存の類似商品と比較して、「よりよい品質」を持つといえるか。
3 消費者のための有用性、必要性であるといえるかどうか。
4 安全性に問題がないか。人の健康に対して、環境、生態系の保持に関して、疑問が持たれるようなことがないか。優先評価事項の認定を誤り、あるいは怠っていないか。
5 科学的、論理的、客観的、多角的な評価に耐えてきたか。あらゆる立場の専門家、研究者の意見、見解を聴いてきたか。
6 企業倫理に反するような側面を持っていないか。
7 品質に関する公開性、表示が完全であるか。説明責任をはたしているか。
8 事業担当者の相当に恣意的な意向が反映した商品選択が行なわれていないか。
9 事業体のレゾン・デテールに反しない商品政策であるといえるかどうか。
10 既存の歴史的な経緯をふまえた商品政策だといえるか。
11 顧客、組合員を混乱させるような商品政策ではないか。
12 顧客、組合員に必要な情宣、学習、討議の機会を与えてきたか。
13 妥当な利益幅、経済性を考慮しているか。

 生協が一般企業の洗剤を組合員に供給することには全く問題はない。ただし、その商品は以上のような評価、検討に耐える「より良い商品」でなければならない。組合員はそう願っている。アメリカの生協の崩壊は、結局、組合員にとって魅力のない商品政策が、しだいに「スーパーも生協も同じなのね」と納得しだした主婦、組合員たちを生協から離れさせていったことによるものであった。私はバークレー生協店舗の解体工事の現場を見たときに、そのことが納得できたように思った。
 商品政策は組織の死命を制する。その誤りは組織の命運にかかわる。それはあらゆる事業体にとっての鉄則である。生協がスーパーと全く同じ洗剤を取り扱うことは一向にかまわない。ただし、それは批判に耐えないような商品であってはならない。
商品政策の過ちに目をつむることはおそるべき結果を招くことになるだろう。私はそのことを恐れる。本日はよい話し合いをしたい。(完)


  生協は消費者の民主的な生活協同の組織である。商品は組合員自身が選ぶ。
民主的な政策決定をしよう(12月25日)―生協の洗剤政策を再確認する―


1 生活協同組合はスーパーマーケットのような量販店ではありません。年一度の総代会において、組合員によって民主的に選出された理事、役員たちに、組織運営の責任を委ねている消費者の組織です。組合員に供給される商品は組合員の要求に基づいて、組合員自身が運用する商品検討委員会によって決められています。このことは、生協では、学習意欲が旺盛で、生活意識の確かな組合員総体のエネルギー・ポテンシャルが高いほど素晴らしい商品が作られて供給されるということであり。また、その逆の場合、すなわち評価に耐えないような商品が登場するようなことも起こりうるということです。

2 生協の組合員の先輩たちが散々苦労してつくりあげた「より良い商品」のひとつがコープの洗剤群です。「より良い洗剤」の考え方に最終的に辿り付くまでに、全国の組合員、役職員そして生協に協力を惜しまなかった研究者、技術者たちがどれほどの試行錯誤をくりかえしてきたことか。合成洗剤追放運動の路線とは一線を画しながら、最も科学的、整合的な考え方に基づいて、一般企業のものとは一味違った今日的な生協の洗剤路線がつくられていることを、これまで、1950年代からの一部始終を身近に見てきた私はよく知っています。私は、生協の洗剤を一言でいえば、まさしく「知的コンパクト洗剤」そのものである、といってもよいと確信しています。

3 もちろん時代の進歩に伴って、新しい研究の成果が明らかになってきました。今まで発ガン性が危惧されていた蛍光増白剤が動物実験で、文字どおりシロであることがわかりました。この時点で、生協の洗剤にも蛍光増白剤を配合しては、と言う意見があったかもしれません。しかし生協では決してそうはしませんでした。その理由は、洗濯排水が流れる側溝や小河川の水面が、夜、街路灯の下で薄ぼんやりと光るような環境汚染をおこしたり、しかモ相当に難分解性の、概して複雑な構造を持った化学物質を肌身に間近い位置に置いてまで、そのような洗剤を使用せねばならないほどの「必要性」があるのか、あるいは蛍光増白剤の存在が,自然の黄なりの良さをなくしたり、布地の色彩感を微妙にかく乱するおそれがあるのでは、ということでした。要するに、蛍光剤によって、「輝く白」を強調することは、洗濯、すなわち、よごれを落とす事が本来の目的である洗剤の埒外にある余分な手法である、と考えたのです。

4 催奇形性についても動物実験が繰り繰り返されて、哺乳動物では通常の洗剤の使用条件では、まず問題がない、と見なす事が出来るようになりました。しかしある種の水生生物では、ある種の合成洗剤で、軽度ながら催奇性があることがわかって、排水溝付近の小河川での生物影響には配慮したほうが良い、と考えました。組合員たちは環境を守るためには、出来るだけ分解性のよい洗剤を優先しようとしてきたのです。

5 しかし、何よりも生協の洗剤が一般企業の洗剤と違っているのは、水生生物の発育阻害、忌避性などについて特別に配慮してきた点にあります。洗濯機からの排水が相当に希釈された大河川や近海河口部のような濃度の水域でも、ある種の魚介類には有害と考えられる合成洗剤がある、という実験的な事実が認められています。私はかねてから、国が環境保全の立場から何らかの措置を講じるべきであると言ってきました。厚労省のいう「合成洗剤は通常の使用による限り問題はない」というのは人の健康に関することであって、廃棄された後の生物影響では必ずしもそうは言えません。そうした科学的な事実から生協の洗剤では、生分解性と水生生物影響性を特別に重視した政策が慎重に、厳重に選択されてきたのです。02年12月19日の環境、通商産業、厚生労働3省の審議会では、おそまきながら水生生物に悪影響のある化学物質を規制する化審法の改正案が決められましたが、生協の洗剤政策の正しさを再確認することが出来た、と思います。(詳細は食生活安全フォーラムの12月20日付のHPを参照のこと)

6 歴史的に最も肌身にやさしい、最も分解性の良い洗剤が石けんです。しかもメーカー側の実験でも、石けんの洗浄力は合成洗剤に劣っていません。合成洗剤の洗い上がりの白さが際立っているように見えるのは、蛍光増白剤という薬品が配合されていて、布地が紫外線を受けて青白く光るためです。主剤の合成界面活性剤に、蛍光増白剤、柔軟剤、香料、除菌剤などの多種多様な合成化学物質を混合したものが、いわゆる合成洗剤です。したがって、開発時点では問題にされていなかった環境ホルモン作用が後になって発見された事例があったように、安全性には、相当に慎重に配慮せねばならないのが、いわゆる合成洗剤一般であるといえます。しかも、洗剤は、家庭内で最も多量に使用される人工化学物質であり、乳幼児から高齢者まで肌身に最も近く接触しうる家庭用品でもあります。洗濯のあとは、丸ごと環境に排出されて、さまざまな水中生物と接触するという性質を持っています。それは日常的、反復的、長期的に、私たちのすぐ横に置かれている化学物質の混合体なのです。だからこそ生協では、これまで30年にわたって、慎重に洗剤政策を取り扱ってきたのです。何も事情を知らない人々が、軽々に洗剤政策を変更しよう、などと言ってはならないのです。

7 しかし、いうまでもなく理想的なものはありません。石けんにも短所がありました。その最大の欠点は有機物量が多いということです。確かに一回の洗濯に必要なBODは合成洗剤の約6〜8倍もあります。しかしこれは水槽の中に石けんと合成洗剤を溶かして比較した数字であって、実際には石けんの排水は、水深の浅い、好気的な側溝、小河川、下水管などを流れて、途中に下水処理場なども通りながら、次第に微生物によって分解されていきます。幸いなことに、石けんの構造は非常に単純であって、実際に相当時間を経過した後では、石けんと合成洗剤とでは,最終的なBODに大差がないことがわかっています。

8 石けんの欠点はまだまだあります。冷水に溶けにくい。独特の石けん臭がある。石けんかすが出る。毛,絹ものには向かない。硬水では洗浄力が落ちる。などなどです。だからこそ、生協では石けんオンリーの洗剤政策を採用しませんでした。石けんの長所は認める、しかし石けんの短所にも配慮して、必要に応じて組合員が自由に選べる洗剤選択の範囲を柔軟にひろげてきたのです。石けんの短所を補うために、そして石けんに満足できない組合員のために、慎重に、慎重に、生分解性と生物影響性とそして有機物量に配慮して、複合石けん、高級アルコール系、ノニオン系などの、選びぬかれた合成洗剤を供給リストにあげてきたのです。
 生協は、本来の「より良い商品政策」に則って、The bestがなければ、The better を供給する、しかし、絶対に,The worstを供給することはない、という方針を貫いてきました。こうした考え方に基づいて、何が、現状で、採用され、あるいは採用されない洗剤群であったかは周知の通りです。

9 しかし、悲しいことに、以上のような洗剤についての考え方は、大部分の生協では次第に忘れられていきました。先輩たちの苦労を受け継ぐこともなく、学習、教育の機会も少なくなっていきました。その半面でテレビのコマーシャルなどでの企業側の圧倒的な宣伝攻勢や外資系洗剤の旺盛な販売攻勢によって、組合員の意識は次第に変えられていきました。贈答用品として、押し込まれるような商品供給の現実が一般化して、大多数の組合員たちは生協の洗剤政策などには無関心になっていきました。さいたまコープの調査では、生協の洗剤を使用している組合員の比率は26%にまでおちこんでしまったのです。(ただしこの成績は全国の生協の中ではまだまだ非常によいほうです。良くぞここまで持ちこたえられたものだと思います。)
本来は、ここでこそ、生協の理事、役職員が生協の洗剤政策の優位性に目覚めて、私の言う「Come back to COOP detergent」の旗幟を高く掲げて、学習、教育活動を振起することが必要であったのですが、それをしなかった。これは明らかに、生協の運営責任を委ねられてきた人々の怠慢であった、といわれても仕方がありません。その逆に「組合員が求めている洗剤を置く、組合員の生活に貢献するのが基本的な考え方です。」と言い切るような生協が現れてきたことも周知の通りです。これでは企業のコマーシャルに引きずられる組合員が多くなるほど、生協が企業よりの商品を供給するようになる、ということであり、生協の商品の優位性を自ら否定することになります。

10 結局、組合員の8割が市販の合成洗剤を購入するようになり、生協の洗剤の供給高は大きく落ち込みました。そして、あろうことか、ここで、一部の生協では、従来の洗剤政策を完全に放棄して、生協でも、組合員の多数が現実に使用している花王やライオンのLAS系の洗剤を供給しよう、という方針が、理事会の場で決定されるようになったのです.先輩たちが長年かかって築きあげてきた独自の洗剤政策が誤りであったとして、この誤りをたださないできたことを組合員に「謝らねばならない」とまで言い切るような生協が出現したことは、歴史的な経過を熟知している私などには、全く驚くべきことでした。
 何時の場合でも政策の見直しは必要でしょう。しかしその場合には、歴史的な経過をよく振り返って、専門家の意見をよく聞いて、そして組合員に賛否相方の見解を良く知らせて、充分に討論して、慎重に結論を出すことが必要です。生協は最も民主的な、消費者の知る権利を最大限に尊重する組織でなければなりません。どのような商品を組合員に供給するか、特に基幹商品と呼んでもよいような、生活に不可欠な商品の一つとしての、洗剤についての政策を誤るようでは、その生協本来の存在理由を疑われても仕方がないのです。 生協が叫び続けてきた安全である権利、環境を保全する任務の重大性に即して、洗剤政策の変更問題には慎重な態度をくずしてはなりません。

12 さいたまコープでは来年春までを洗剤政策について考える期間と定めておられます。今年の秋から充分に時間をかけて、組合員討議を行なおうという慎重さには敬意を表します。ある何とか国際センターの総長という立派な肩書きをお持ちの某氏の講演会も何回か実施されました。そこでは、おそらく別の私の報文で示した"洗剤優劣いろいろ論"が力説されたのだと思いますが、こうした学習会を積み重ねられるのはたいへん良い事です。
 ただし、念のために、聞いておきますが、以上に述べたような、従来、生協の洗剤政策のために協力してきた側の多数の専門家の見解も組合員の皆様方の判断材料として、公平に提供されてきたのでしょうか。なにか、学習の機会をお持ちになったのでしょうか。

13 生協は一部の役職員の恣意的な思惑によって運営されてはならない民主的な組織です。生協が発展するためには、生協のそのようなロッチデール以来の基本的価値を絶対に見失ってはなりません。私は、生協のSeinとSollenの違いを誰よりもよく知っています。多くの人々から、少なからず買いかぶりだ、などという批判を受けながら、なおかつ生協という消費者の連帯組織の将来に希望を託してきた研究者の一人であることを自負しています。だからこそ私は言うべきことを言わねばならないと思うのです。

 最後に、以上の私の所論が、一人でも多くの、さいたまコープの組合員の皆さまの目にとまるように祈念しています。もしもさいたまコープに知人がおられたら、ぜひとも一連の、このホームページの私の所論を読むようにおすすめください。かりに、さいたまコープが花王やライオンの製品の供給を開始することになろうとなるまいと、これまでの生協の本来の洗剤政策を学んだ上の事であってほしいと思うからです。(完)


さいたまコープの洗剤担当の皆様へ―LAS系洗剤の導入はお止めになるほうがよい―(12月20日)


 さいたまコープでは、従来の洗剤政策を変更して、ライオンや花王のLAS系洗剤も組合員に供給することについて、来年春までに結論を出す方針を明らかにしておられます。別の私の論文に示したように、同生協の機関誌では、これまでのさいたまコープの洗剤政策が誤っていたことを組合員に「お詫びする」とまで書いておられます。  何にせよ、冷静に商品政策を見なおされるのはよいことです。そのために、より多くの専門家の見解を聞かれることが望ましい。その意味では、周知のとおり、従来の生協の「よりよい洗剤」政策と深く関わってきた私の意見も当然聞かれるべきであったと思いますが、何らかの理由でそうはされませんでした。
 ただ私は、このような政策の変更が、我が国の生協の環境保全運動に及ぼす影響を考えた場合に、このさい黙っているのでは、専門家のひとりである私が無責任のそしりを受ける、と思いました。とりわけ、さいたまコープには、これまで何回か講演にも行ったことがあり、何人かの知人もおられるので、求められもしないのに、思い切って私の見解を理事会と組合員活動グループ宛にお伝えして来た次第です。
 私の所論は、このHPの別の項に詳細に示しているとおり、洗剤の有機物量が問題である事を認めるとしても、生分解性と生物影響を最も重視せねばならない、したがってそのような観点から、LAS系の洗剤を、環境問題に熱心な生協が、今どき、わざわざ導入せねばならない理由はない、と言うことにつきます。環境省が農薬などの生物影響を重視する方針を明らかにしている事もすでに引用しておいたとおりです。
 生協が生物影響の大きい洗剤を現時点で、あらためて採用する、などというアナクロニズムは環境運動では定評のあるさいたまコープの名誉のためにもあってはならないことです。
 その意味で、本日明らかになった以下のような環境省、経済産業省、厚生労働省の審議会の方針は、私のかねてからの主張を敷衍するものであり、さいたまコープの関係者の皆様には、おおいに参考にしてほしいと思います。
 来春の通常国会に提案される化審法の改正案に従えば、もっとも生物影響の大きいLAS系は決して好ましい界面活性剤ではありません。おそらく、ちかじか、洗剤メーカー自身もLAS系洗剤をより生物影響の低い洗剤に切りかえる方向を模索することになるであろうと思います。
 何故、さいたまコープが、組合員に謝ってまで、従来の洗剤政策を変更して。ライオンや花王のLAS洗剤を導入されようとなさるのか、私にはまったく理解できません。生協の「よりよい洗剤」政策は理論的にも実際的にも非常によく出来た商品政策です。問題なのは、生協の運営に責任を持ってこられた理事者、役職員の学習・情宣努力の不足から、この政策を組合員のみなさまに理解、浸透させることに失敗してきた、ということです。そのことをこそ、さいたまコープは組合員に謝らねばならなかったのではありませんか。

   02年12月20日付の新聞報道では、つぎのような見出しが大きく掲載されています。
「生態系への影響 基準に−化学物質規制 3省が法改正案」―

 その内容はつぎのようになっています。

「環境、経済産業,厚生労働の3省の審議会は19日、化学物質の製造や輸入を規制する化学物質審査規制法(化審法)の改正案をまとめた。人への有害性だけを評価する現行の化審法の判断基準に、あらたに動植物などの生態系への影響を盛り込み、事前審査にミジンコなどを使った試験を導入する。人には無害とされるが、生態系に悪影響を及ぼす物質も規制対象とする。3省は03年の通常国会に改正案を提出する。
 改正案は、企業などが新たに開発した化学物質について、事前審査に,藻とミジンコ、魚を使った影響試験を加え、有害性が疑われる場合は製造・輸入量の届け出や表示を義務付ける。分解されにくく、高い蓄積性があり、鳥などの食物連鎖の上位の生物に影響がある場合は製造・輸入の制限ができる。
 現行法は人への有害性に関するデータの提出を義務付け、規制している。」(毎日新聞 02年12月20日朝刊)

 今からでも決して遅くはありません。さいたまコープでは、あらためて洗剤政策について再検討の機会を持たれるように切望します。組合員を混乱させてはなりません。早い目に手を打たれることをお奨めします。そのために、私も最大限に御協力申し上げるつもりです。(完)


さいたまコープの洗剤政策を考える

 さいたまコープは来春にかけて洗剤政策の見直しのための検討を行なわれるという事です。これはたいへんよい事だと思います。日本の生協の組合員2000万人の洗剤利用のあり方は我が国の水・環境の保全のありように大きな影響を及ぼすことは明らかであり、私もこの分野の研究者の一人として少なからぬ関心を持たされています。
 本日付けで、さいたまコープあてに、以下のような質問状を御送付申し上げました。  これは、今流行りのリスクアセスメントのためのリスクコミュニケーションを洗剤問題で実践しようと言うことでもあります。
 さいたまコープがすぐれた洗剤政策についての結論を得られるように、出来るだけ多数の皆様方が関心をお持ちいただく様に期待しています。
 なお、御意見がある方は私までメールで御連絡下さいますように。


                           2002年12月5日
さいたまコープ 理事会殿
組合員活動グループ洗剤問題担当殿

      さいたまコープの洗剤政策に対するご質問(02年12月5日記載)
                    食生活安全フォーラム代表   藤原邦達

 さいたまコープは、機関誌「にじのひろば」、02年10月号の特集「洗剤についてご一緒に考えてみませんか」のなかで、「環境や安全性についても新たな研究成果が整理され、「洗剤」について、総合的に見直す必要がでてきたのです。」と書いています。そして「こういった変化をこれまでの間整理できず、組合員に対しても随時、新しい情報提供ができなかった不十分さは反省しなければなりません。紙面を借りてお詫びいたします。」そして、「LASを含む市販の洗剤を希望する方もコープで購入できるようにして、より多くの方で使用量削減がすすめられるよう取り組みを広げることが、これからの方向と考えています。」と結んでいます。
 さいたまコープの、今回の「水環境を守るための」洗剤政策の見直しというのは、要するに、従来から言われてきた「みんなで洗剤の使う量を減らしましょう」ということを除けば、花王やライオンのLAS系の洗剤も生協で自由に購入できるようにする、ということにつきます。本来なら、"すぐれたコープの洗剤に、もっと結集しよう"というべきなのに、結局は"もっと早くからLAS系の洗剤を置くべきであった。"そのための「情報提供ができなかった」ことを組合員に申しわけなかったと「お詫び」する、ということです。本当にお詫びせねばならないのは、LAS系洗剤を供給していなかったことではなくて、コープの洗剤の利用をここまで落ち込ませてしまった、生協の教育、学習、情宣活動についての努力不足ということではなかったのですか。
 さいたまコープの以上のような洗剤政策の転換は一昨年のコープとうきょう以来のことですが、首都圏を代表するこれらの2つの生協の動きは、従来の大方の我が国の生協の「よりよい洗剤」政策の転換を目指すものとして注目に価します。もしも、コープとうきょうやさいたまコープの洗剤政策の見直しが正しいとすれば、これは、全国に公称2000万人もの組合員を組織している日本の生協の水環境保全運動にも非常に重大な影響を与えることになるでしょう。
 私自身にとっても、関連する研究分野にあるものとして、とくに、これまで、長年にわたって生協の洗剤問題に協力してきた立場から、これらの生協の、洗剤政策の転換を軽々に見過ごすわけにはいかないので、この質問状をしたためることにしました。  なお私の、洗剤政策についての考え方は、数冊の著書のほか、つぎの論文に要約されています。
総説「家庭用洗剤の安全性と環境影響に関する今日的な評価」 ―洗剤政策のありかたを問う―  ;洗剤・環境科学研究会誌 22(2):11−25,1999
総説「洗剤の生態毒性を考える」:同上誌 17(2):1−18、1994
   以上のうち、前者は、LAS系洗剤の導入というコープとうきょうの洗剤政策の変更の直後(1999年)に書かれています。ただしコープとうきょうがこの論文をどう理解されたかは定かではありません。その別冊は、すでにさいたまコープの理事長あてに、02年10月23日付で御送付申し上げています。なお、この総説は私が主宰するホームページでも公開しています。

   最初に申し上げておきますが、私は、もうずいぶん昔のことですが、さいたまコープの洗剤学習会の講師をしたこともあります。したがって、私の講演を聞いていただいた方々がまだ相当数おられるはずです。そうした方々はおそらく現時点での私の見解を聞きたいと思っておられることでしょう。この小論はそうした組合員の皆様方への、私の専門家としてのお答えに相当するものです。
貴生協の機関誌によれば、来年3月までは、新しい洗剤政策を考えるための期間として設定されているとのことなので、私の、この小論が検討資料の一つとしてお役に立つことを願っています。
 私はこれまで、コープこうべを含む7つの生協の顧問、技術顧問もしてきました。日生協の学者懇談会やZリスト委員会の代表委員もしてきました。とくに生協の洗剤政策にはひとしお協力してきたつもりです。どうか、私を、生協の発展のためには、協力を惜しまない研究者の一人であると思っていただいて、以下の小論をお読み下さい。

1 端的に言って、さいたまコープが今回の洗剤政策の見直しによって、実際に行われようとしているのは、"洗剤の減量使用"という従来から言われてきたことは別として、"花王やライオンのLAS系洗剤の供給を開始する"、ということにつきる、と思いますが、そのことが、さいたまコープの「水環境を守る取組み」に従来以上に寄与することになる、とする根拠はあるのですか。従来の洗剤政策が「水環境を守る取組み」の上で、どこが不完全であったというのでしょうか。その不完全さは企業のLAS系洗剤を導入すれば改善されるとでもいうのでしょうか。

2 冒頭に示した貴生協の洗剤特集の、A項「どんな洗剤にも環境影響はあります」には次のように書かれています。

 水環境への影響は、有機物汚濁、生分解性、水生生物への影響の三つの面から検討しました。石けんは生分解性が良く、水生生物への影響が少ないのですが、有機物の量は多くなります。セフターEにも使われているAEという界面活性剤は、生分解性が良く有機物の量も少ないのですが、水生生物への影響は劣ります。多くの市販洗剤に使われているLASは生分解性は劣りますが、有機物の量や水生生物への影響は中間的でした。  どんな洗剤にも環境への影響(負荷)があり、界面活性剤によって、すぐれている面や劣る面があります。石けんや各種の合成洗剤を含めて、どの面からも環境影響が一番低い界面活性剤はなく、特定の洗剤だけを使えば水環境問題が解決するのではないことがわかりました。

 以上の解説にはよくわからない部分があります。つぎの質問事項にお答えください。
@ セフターEに使われているAEの水生生物への影響は、何に較べて「劣る」のでしょうか。石けんに較べてですか,LASに較べてですか。根拠とされた、石けん,LASとの比較データをお教えください。この点に関しての、日生協、コープクリーンの見解をお問合せになりましたか。
A LASの「生分解性は劣りますが」、「有機物の量や水生生物への影響は中間的でした。」とありますが、何より劣っているのですか。「中間的でした。」というのは何と何の中間ですか。有機物の量も水生生物への影響も、共に「中間的で」あったのですか。こうした結論に至った比較データをお教えください。
B 「新たな研究成果が整理され」とありますが、「新たな研究成果」とはどのような文献によるものでしょうか。私がまだ見ていないものがあるかも知れませんので、お教えください。

  3 「どんな洗剤にも環境への影響(負荷)がある。」のはそのとおりです。何処の家庭でも排出しているコメのとぎ汁にも環境負荷はあります。しかし環境への負荷というときに、複数の評価要因の中で、現時点で、どの評価要因を最重視するのか、ということは安全評価の前提であるはずです。その点を飛び越して、十羽一からげに、いろんな評価要因で、「すぐれている面や劣っている面がある」、だからどの洗剤を使っても同じだ、どの洗剤を供給してもいいのだ、という論理はおかしいのではありませんか。
 確かに、何にせよ、絶対安全、影響ゼロということはありません。完璧なものはないのです。食品にせよ、洗剤にせよ、商品一般に言えることです。しかし本来、生協では、「よりよい商品」を組合員に提供する、そのために、「よりすぐれている」、「よりよい」ことの追及と、同時に「より劣っている」、「より悪い」ことの厳格な証明が非常に大切なのであって、生協の商品政策の基本にはそのような考えかたが必要とされてきたはずです。これは一般的なリスクアセスメントの常道でもあって、生協はこの考え方を大切にしてきたからこそ組合員に信頼されてきたのだと思います。生協では、商品の特性がいろいろ、まちまちだから、みんな供給するというような態度は許されないのです。
(よりよい洗剤論については、拙著「生協運動 現代から未来へ」日生協刊、1983年を参照のこと)
 私には、日生協の食品添加物政策の基本とされてきたZリスト委員会に参加してきた経験がありますが、食品添加物でも同じことが言えます。洗剤に関しても、現在の大方の日本の生協の政策は、石けんか合成洗剤かの二者択一論ではなくて、「よりよい洗剤」論の立場で組合員に商品を提供してきたのです。その中で、「よりよい」ものとして、石けんと高級アルコール系、ノニオン系の中ですぐれた性能を持っていると判定されたものを選びだし、「より劣る」ものの中で、「最も問題の多いもの」と判断されるLAS系の洗剤は支持しない、という方針を採ってきたのです。それは非常に整合的で論理的な政策であったといえます。今回、さいたまコープでは、こうした論理を誤りだとして、「どの面からも環境影響が一番低い界面活性剤はない」から、この際、LAS系を加えて、花王、ライオンの商品もコープ洗剤も、同じように供給するという方針を採用しようとしています。これは生協が伝統的に重視してきた品質管理での、「よりよい商品」選択の原則を放棄したものである、といわねばなりません。しかも、特別に、今更、そんなことをしても、水環境によい影響を与えるという保証は何もないことはわかりきっているのです。
The best がない場合には、the betterを選んで提供する。間違ってもthe worstを含めたanything allを供給するようなことはしない。それは商業道徳の基本でさえあると思います。
 さいたまコープは、生協の「わたしたちがめざすもの」として4か条をあげておられます。いずれもすばらしい目標です。そしてその第1条に「わたしたちは消費者の権利にもとづき、くらしと健康を守り「よりよいものをより安く」をめざして協同します。」とあります。洗剤の場合でも「よりよいもの」は厳格に選ばれねばならないのです。それが消費者の権利に基づく供給者の責任であり、くらしと健康を守るために、生協にとって必須のことであるとして示されているのではありませんか。今回供給を開始されようとしている、花王などのLAS系の洗剤ははたして自信を持って、「よりよいもの」である、といえるのでしょうか。

4 コープとうきょう、さいたまコープの洗剤政策の基本的な考え方は、以上にのべたように、結局、評価要因の軽重を問題にしない"洗剤優劣さまざま論"とでもいうべきものです。商品の提供者には、よりよいものの選択・提供責任があるのですが、さいたまコープでは、従来の政策は誤っていた、各評価要因での優劣がさまざまだから、特別に、選別はしない、花王などのLAS系洗剤も加えて、みんな供給することにする。これまで、そのような「新しい情報提供が出来なかったこと」を組合員の皆様に「お詫びする」というのです。
 特集のグラフでは、26%の組合員が生協の洗剤だけを購入しておられますが、このような生協洗剤の優秀性を信じてきた真面目な組合員たちは、いまさら、"洗剤優劣さまざま論"(具体的にはLAS系洗剤の供給を開始する)という「新しい情報提供」がなかったことを、突然「お詫びして」もらって、きっと複雑な心境でおられるに違いありません。彼等は今までの生協の洗剤政策が誤りだったとは思っても見なかったことでしょう。今回の政策変更の基本的な考え方である"洗剤優劣さまざま論"は、そんなにすばらしい、政策変更のための論理なのでしょうか。
 ここで、3年前に、初めてLAS系洗剤を供給することに踏み切ったコープとうきょうの考え方を批判した、当時の私の報文の一部を引用しておきます。今回のさいたまコープの政策転換の考え方はこの文章のコープとうきょうの考え方と一体何処が違っているのでしょうか。

 このたび、LAS系洗剤を導入したコープとうきょうではつぎのようにのべている。
「新潟大学の高橋敬雄教授は、下水道問題連絡会議発行の「水情報」のなかで、「洗剤の環境影響について研究してきたが、この過程で、生分解性の高さを考慮しても石けんの環境負荷は合成洗剤より高いこと、石けんと合成洗剤の諸特性を比較すると優劣はまちまちであること、合成洗剤でも環境にやさしいものはありうること、がよくわかった」とのべています。どの洗剤を選ぶかより、界面活性剤の総量を減らしていくことが本質的な課題といえます。」
 高橋教授の所論は洗剤の優劣が「まちまち」であることを述べている点では全くそのとおりである。しかし、すくなくとも「優劣がある」ことを認めているのであるならば、洗濯、使用条件に応じて、よりすぐれた洗剤を選ばない、ということはありえない。生協がまさか環境ホルモンが生成するというPOPR系の洗剤を推奨することはありえない。生協ではどのような洗剤を組合員に薦めるか、という視点を堅持していなければならない。  「どの洗剤を選ぶかよりも、界面活性剤の総量を減らしてゆくことがより本質的な課題である」ということはできない。「どの洗剤を選ぶか」ということは「洗剤の総量を減らす」ということと同様に重要であり、それが「より本質的な課題」でない、ということはできない。もしも「洗剤の使用量、水の使用量を減らす」ということだけがコープとうきょうの「より本質的な課題であり」、方針であるというのなら,BODがLASの数倍も高いという事実が厳然として存在する石けんの使用をやめるように組合員を説得するのが最も正しいありかただ、ということになる。
 高橋教授は洗剤選択の必要性を否定しておられるのではない。ましてLASの使用をすすめておられるのでもない。高橋教授も水生生物に対するLASの許容濃度が0,1ppm程度であり、全国各地の水域でこれを大幅に越えるところが多数見られるという事実をよくご存知のはずである。コープとうきょうがLAS系洗剤の供給を開始するために、教授の以上のような記述を引用したとすれば。それは明らかに誤りであると言わざるをえない。  生協はその原則、理念に基づいて「よりよい洗剤」を「よりよい商品」として組合員に薦める責任を放棄することは出来ない。大多数の組合員が求めるものであるから、直ちに「よりよい商品」であるとするのは余りにも短絡的である。(註) 一長一短があるからということだけで、すべての洗剤商品を配置するというのなら、一般企業と全く同じことになる。それでは、組合員は生協で洗剤を購入する必要性をますます感じなくなるだろう。  (註)コープとうきょうは同じ機関誌に次のように書いている。「組合員が求めている洗剤を置く、組合員の生活に貢献するというのがコープとうきょうの基本的な考え方です。」13項参照。

 コープとうきょうは、その機関誌に、従来の生協の洗剤政策では、「調査、評価、判断抜きに、独りよがりの」対応をしてきたような書き方をしています。そして結局、優劣さまざまだから,LAS系の洗剤も含めて、花王、ライオン製品も供給することにした、というのですが、従来の生協の洗剤政策では、「調査、評価、判断抜きに、独りよがりの」対応をしてこなかったからこそ,石けん、複合石けん、セフターなどを選び出し、推奨してきた中で、LAS系の洗剤だけは排除してきたのであって、供給者としての責任を大切にしてきたのです。

5 ところでつぎの問題は「よりよいもの」の選択をどうするのか、ということです。 さいたまコープでは、有機物汚濁、生分解性、水生生物への影響の3つの評価要因(ものさし)をあげておられますが、そのうち、どの要因を最重視するのかが問われます。評価要因を等質、同列に見るわけにはいきません。
 結論からいうと、私は、これらのうち、洗剤の場合には、実験的な根拠と水域内実在濃度の関連から、有機物汚濁ももちろん大切ですが、現状では、生分解性と水生生物への影響という評価要因がもっとも重要であると思っています。これらの点では、別の私の論文や拙著などに示したように、石けんがもっとも影響が少なく、LASがもっとも影響が大きい、というのが今日的な学界の定説です。実験的に示されたLASの水生生物影響濃度を越えるような河川等でのLASの残留濃度域が実際に各地で証明されています。生態系の保全の立場から、LAS系洗剤の使用を抑制することが望ましい、と考えるのは環境政策を重視してきた生協としては当然のことではありませんか。
 ご存知のように、環境省は最近になって、農薬について、水生生物に対する影響を重視する方針を採用することを公表していますが、私は、農薬などとは比較にならないほど大量に、身近に、普遍的に使用され、無造作に廃棄されている洗剤の、とくにLAS系洗剤等の水生生物への影響については、国の環境政策としても特別に重要視する必要があることを主張してきました。我が国は単位面積あたり世界最大の洗剤消費国家なのです。
 ご承知のとおり、厚労省は「通常の使用による限り合成洗剤の安全性には問題がない」という公式見解を示していますが、これは人体に関してのことであり、LASの生態系、水生生物に対する影響では「通常の使用であっても、環境内残留濃度が水生生物有害濃度を超える水域があるので、問題である。」といわねばなりません。後述するように有機物汚濁の問題も大切ですが、今すぐ規制する必要があるのは、洗剤では水生生物への影響であり、その意味でLAS系洗剤の使用の抑制が求められている、と思うのです。

6 つぎに、有機物汚濁量では石けんが最も大きいことは事実です。しかし、我が国では、過去に最大、約40万トン(現在の洗剤全使用量の約半分に相当する。)の石けんを消費していた時期がありますが、河川は今よりきれいでした。小川にはメダカも泳いでいました。当時は下水道の普及率も今よりもはるかに低く、台所からの廃棄物も、例えばコメのとぎ汁なども今よりもずっと多く排出されていたと思われますが、日本の河川は決して、一部の石けん敵視論者がいうような、「どぶ泥」のようにはなりませんでした。有機物が多いことは私の別の論文でも認めているように、確かに石けんの最大の欠点です。ただ、現状での石けんの使用量をかりに倍増したとしても、まず環境に大きな影響が出ることはないでしょう。これに対してLASの場合には、今すぐにでも、減量ないし非LAS化を進めることが水生生物保全の立場から求められている、と私は認識しています。
 石けんは生分解性が非常に良く、実際の、大部分の好気的な地域環境での、浅水、流水などの条件下では、その大部分が急速に微生物によって分解されて、トータルの排水中のBODの数値も一定時間後には、合成洗剤の場合よりもかえって低下する、とされています。AEの生分解性も石けんに劣らないほどよい、とされています。さいたまコープでは、そのような有機物負荷という評価要因を、なぜ生物分解性や水生生物に対する影響という評価要因と同列視、あるいはそれ以上に問題視されるのですか。ただし、石けんといえども減量使用が必要であるのはいうまでもないことです。
 石けんが数千年の人類の歴史の中で、もっとも肌身にやさしい安全な洗剤であるとする、真面目な、多数の組合員たちの常識を大切にせねばならないと思います。今まで石けんのようなコープ洗剤を大切に使ってきた組合員に、いまさら、さいたまコープが,「(実際には、LAS系洗剤を供給することになる、という)新しい情報提供」をしてこなかったことを「お詫びする」、などというのは、全くナンセンスなことではありませんか。

7 私は、一般論として、合成洗剤というのは、石けんと較べて、人工、合成化学物質としての問題性が本質的に、より大きい商品である、と思っています。合成洗剤の成分である界面活性剤、柔軟剤、香料、蛍光増白剤等はほとんどが自然界にはなかった化学合成物質であって、安全性や生物影響等が厳密に評価されねばならないものであり、環境ホルモン作用のような、開発時点では検証されていなかった問題性が、POPRの場合のように、後になってから、次第にわかってくるような一面を持っている商品だ、ということです。おまけに、低温、短時間、低濃度などの実際の洗濯条件では、生化学的に、ほとんど効き目のないはずの酵素剤なるものを配合して、しかも、最近は除菌剤などという化学薬品まで添加した上で、盛大なコマーシャルで消費者の意識変革を迫る、そのような商品を私はどうしても好きにはなれません。だから、私は石けんで間にあうものは、できるだけ石けんで済ますのが良い、と考えています。しかし、これは個人的な確信、信条とでもいうべきものであって、こうした私の考え方を他人に押し付けるつもりはありません。
 一般論としては、有機物汚濁、生分解性、水生生物影響などを科学的に問題にするかぎりにおいて、何も石けんだけに固執する必要はないでしょう。石けんにも欠陥がたくさんあります。だから改質の努力が続けられてきました。複合石けんという随分使いよい商品が出来ました。しかし硬水に弱い、強アルカリ性、冷水難溶解性などという本来的な短所はどうしようもない、そこでセフターのような合成洗剤が用意されました。生協では、石けん以外に、高級アルコール系、ノニオン系の合成洗剤などが広く模索されて、その一部のものが選ばれて組合員に供給される、という包括的で融通性のある政策がとられてきました。生協は石けんか合成洗剤か、というような、固陋な2者択一論、硬直した白か黒か論を採らないできました。しかし,水生生物にとって、もっとも有害で、生態系保全のためには好ましくない、と評価されたLAS系の洗剤だけはコープ洗剤の範疇には入れない、これがさいたまコープ同様に環境保全問題に熱心な、全国各地の大方の生協の洗剤政策の基本に流れている考え方であった、といえるでしょう。
 これほどの、論理的、科学的、整合的な考え方に基づいた柔軟な洗剤政策を、さいたまコープは何故いまさら放棄するというのでしょうか。しかもこうした政策を大切に守ってきたことを組合員に申しわけなかった、などとどうしていうのですか。
 これまでの生協の洗剤が組合員に人気がなかったとすれば、何故もっとすぐれたコープ洗剤をつくって、あるいは選び出して、組合員に提供しようとしなかったのですか。教育、学習機能を活用して、コープ洗剤の優位性をもっと熱心にアピールしようとしなかったのですか。組合員に詫びねばならなかったのは、生協のそのような努力不足そのものであって,花王やライオンのLAS系の洗剤を採用することになるような「情報提供をしないできた」、ことではなかったのです。

8 「特定の洗剤だけを使えば水環境問題が解決するのではないことがわかりました。」とお書きになっていますが、全くそのとおりです。さいたまコープもそのような洗剤方針の下で、これまで、石けん以外の洗剤であるセフター等の複数の洗剤を供給されてきたのでしょう。しかし,これは、だからLAS系の洗剤の供給を開始するべきだ、あるいは供給してもよい、ということの理由にはなりません。生協では、これまで、LAS系の洗剤を使えば、水環境問題が改善でなくて、「増悪」する可能性があるから、LAS系の洗剤を排除してきたのです。LAS系の洗剤を外したことが「特定の洗剤だけ」を偏って供給したことにはなりません。生協は石けん「だけを使えば水環境問題が解決する」などと一度でも言ったことはないのです。しかし解決でなくても「改善」をはかるためにこそ、洗剤政策を真剣に考えてきたのです。下水道、下水処理場の整備、洗濯機の改良、洗剤の減量使用などと並んで、どのような洗剤を利用するのが正しいのかを問題にしてきたのです。 これは大方の日本の生協の、洗剤政策の基本にある考え方だと思いますがいかがですか。

9 お断りしておきますが、私は、いわゆるラジカルな「石けん派」ではありません。私が今日までの日本の生協の洗剤政策構築の過程で、どのような役割を果たしてきたかは、よくご存知かと思います。合成洗剤追放の掛け声が全国を風靡した頃から、私は一貫して、合成洗剤追放運動とは一線を画した、生協独自の、いわゆる「よりよい洗剤」路線を確立するために協力してきました。このことは、多数の生協関係者がお認めになっているところだと思います。
 私がかって会長をさせていただいた合成洗剤研究会(現在は洗剤環境科学研究会と改称)においても、決して合成洗剤追放路線を採用してきませんでした。その私が、あえて今回、貴生協の「欠陥のない洗剤はない、だからLAS系洗剤も供給する」という路線が理解できないと申し上げているのです。
    今時、LAS系に回帰するのは、まるで30年前の洗剤認識に逆戻りする、愚かしいことかと思います。合成洗剤メーカーでさえも、もうLAS路線は古いと認識されているのではありませんか。いまさらLAS系の洗剤を供給するというのは一種のアナクロニズムかと存じます。もっとすぐれた洗剤が開発されているのです。どうしてもメーカーものを取り扱いたいというのなら、LAS系以外の洗剤をお探しになったらよいのです・
 現に、組合員の多数がLAS系の洗剤を使用していようといまいと、その組合員を説得して、「よりよい洗剤」の使用を薦める、というのが、品質管理に熱心な生協の本領なのではありませんか。「Come back to COOP detergent!」という運動によって、一時的にせよ供給高が大きく伸びた生協もあるのです。

10 要するに、現実的に重要なのは、さいたまコープの洗剤政策の変更が、組合員の住む地域の小中大河川や河口部から近海域における水生生物保全の問題にどう関わるのか、ということです。
 今日、学界に報告されているLASの、アユの発育阻害濃度は0,1ppm台であるとされています。このことは花王の研究所長の論文の中にも紹介されています。つまり、洗濯機から排出された時点での数百ppmのLAS廃液が1000倍に希釈された水域でも、一般に水生生物の発育阻害が危惧されるということです。さらに、LASのアユに対する忌避濃度は、0,0015ppm以上であるとする研究報告によれば、たとえ10万倍に希釈された河口部や沿岸水域であっても、一般に魚類などの水生生物が、接近、回遊することを忌避するかもしれない、ということになります。
 アユが水生生物全般を代表するかどうか、についてはもちろん問題があります。発育阻害とか忌避性という、行動毒性とでもいうべき学問の新しい領域では、残念なことに、まだまだデータが不足しています。しかし生態系の保全を図るうえで、例えばアユの遡上が問題になる河川や琵琶湖のような湖沼では、あるいはアユと類似した魚が住んでいる水系では、このようなLASの魚毒性は大問題であり、私は、淡水、海水域の水生生物一般の場合でも、以上のような、魚毒性のデータを軽視してはならない、と思っています。実際にはこれより敏感な、あるいは逆に鈍感な生物種があることでしょう。
 もちろん、今日の河川や近海域の汚染は洗剤だけでなく農薬等のさまざまな有害化学物質のトータルによるものではありましょうが、その中で今日最も大量に廃棄されている洗剤が主要な有害物質のひとつである、ということは、おそらく間違いのない事実でありましょう。
 しかも多数の水質検査の報告では、現状でも中小河川の一部では、すでにLASに代表される陰イオン系の界面活性剤(LAS、ABS、AOS、AS等)の濃度が1ppmを越えているという事例がみられます。しかも最近は陽イオン系の化学物質の使用が増えてきているために、陰イオン系のLASなどと結合した錯化合物が出来て、メチレンブラウ法での測定値(MBAS)が低くでる傾向にあるといわれています。実際の水生生物への影響は陰イオン系の洗剤とMBASとしては出てこない非イオン系の洗剤のトータルによるものと思われるので、生分解性と水生生物影響性が重要な評価要因になることは明らかです。非イオン系でも生物分解性の大きいものを選ぶ必要があることはいうまでもありません。
 有機物汚濁の場合と違って、化学毒性の場合には、今すぐにでも、原因物質の減量あるいは規制を行う必要があるのです。
 界面活性剤の催奇形性についてはひところ盛んに研究が行われました。哺乳動物に関しては、胎児への発生毒性は認められましたが、催奇形性は一応否定されたということになっています。しかし、こと水生生物に関しては,10から100ppm台という、洗濯機排水の集中する団地などの排水口近辺で見られる残留濃度域で,LASがある種の水生生物の幼生に催奇形性を示すという事実が実験的に証明されているのです。つまり、環境水域の実在傾斜濃度のほとんどの範囲で、LASが水生生物に対して好ましからぬ影響を示している、とする考え方を否定することは出来ないといえるでしょう。
 さいたまコープはそれでも洗剤政策を変更して、組合員に、あえてLAS系洗剤の供給をすすめようとするのでしょうか。これは非常に大胆なことです。あるいは、水生生物への影響はない、などという専門家が誰かおられるのでしょうか。貴生協の理事会や役職員はこうしたLAS容認政策が全国の生協に広がっていくことが環境保全の上で、よいことであると本当に信じておられるのでしょうか。
 生協は水質、生態系保全の立場から、国や企業に対して,LAS系に代わるような性能のすぐれた洗剤の開発を要請するべき立場にあるのではありませんか。

  11 誤解しないで下さい。私はさいたまコープに対して何らの悪意も抱いていません。純粋に組合員にとってどのような商品が望ましいかを学問的に問題にしているだけです。それに、私には、これまでにも、旧埼玉の生協の皆様方とは洗剤問題でも多少のお付き合いがあったので、今回のこの問題の成り行きにはいささか「責任がある」と考えているのです。貴生協の機関誌によれば、「この秋に組合員の皆さんと学習・検討をすすめ、来春に新しい洗剤政策としてまとめてゆく予定です。」とのことです。まだ間に合うはずです。私の研究者としてのアドバイスは組合員のために決して無用のものではないと信じています。今重要なことは、無視や詭弁で切り抜けることではなくて、真実に忠実であることです。
 私の考え方に誤りがあれば遠慮なくご指摘ください。また、ご希望なら、ある段階で、もっと時間をかけて、貴生協の商品政策や組合員活動の責任者の方々と話しあってもよい、と考えています。

12 食品衛生の分野では、とりわけ、リスク分析手法、すなわちリスク評価、リスク管理、リスクコミュニケーションが重視されねばならない、といわれています。洗剤問題も食品衛生領域の課題であるとされていますので、生協でも、洗剤に関するリスク分析を正確に徹底して行うことが求められます。
 誤ったリスク評価を行ってはならない、既存の研究報告を徹底的に収集、解析して、最終的に組合員に対して「供給する」、あるいは「供給しない」商品を特定せねばなりません。それが商品政策というものです。あらゆる分野の研究者の見解を、周到に、冷静に聞く心構えが必要であることはいうまでもありません。
 組合員の現状での使用実態がどうであろうと、教育と学習と情宣活動を通して、「自信を持って薦められるコープ洗剤」を、組合員の前に提示せねばなりません。全国の大方の生協はそうしているのです。生協の店舗や共同購入で、アタックやニュービーズなどが飛ぶように売れるようになったので、コープさいたまの経営が楽になったなど、全く、駄じゃれにもならないことです。
 リスク管理も大切です。貴生協では、さいたま県下には、水生生物影響濃度を超える水域があるのかないのか、実際に確認されたのでしょうか。本来は国や地方自治体がするべきことですが,貴生協で、地域の小中大河川から採水して、実際にBODやLASの濃度を実測して見られたら、BODにはまだ余裕があっても,LASに代表される界面活性剤の濃度がすでに水生生物への有害域に達しているところが多いことはすぐにわかるでしょう。メダカどころか、糸ミミズさえ棲めないような水域があちこちに実在していることがはっきりするでしょう。
 そしてリスクコミュニケーションでは、とくに研究者と消費者の意思疎通のありかたが問われます。長年大切にしてきた政策の変更などとはいいながら、広い範囲の専門家の意見を、客観的に、冷静に、周到に聞くこともしないでいて、生協がリスクコミュニケーションの重要性を国に向かって求めることなど全くナンセンスです。
 私は、今、おせっかいと言われようと言われまいと、求められもしないのに、私の方から貴生協に対してコミュニケーションの機会を提供しようとしています。それは、これまで、特別に生協との関係を大切にしてきた研究者のひとりとしての私の当然の責任であると思うからです。

13 さいたまコープの機関誌では、組合員アンケートの結果として、「何を使っていますか」、「その洗剤を使っている理由は?」についてのグラフを示しておられます。組合員834人中、花王のアタックが424人、COOPセフターが191人という見事な成績です。「洗剤は何処で買いますか?」という円グラフでは「生協で買う」は26%になっています。
 コープとうきょうでは、このような供給の実態に即して、その機関誌で「その大多数の組合員が使用しているのがLAS系洗剤です。組合員が求めている洗剤を置く、組合員の生活に貢献するというのがコープとうきょうの基本的な考え方です。」と書いています。(DUO 10,1998 OCT コープとうきょう刊)このような論理がもしも、食品などの生協の商品全般に適用されたらどのようなことになるかは、よくおわかりのことかと思います。生協の情宣、学習活動よりも企業のコマーシャル攻勢などが勝っていて、組合員の意識が次第に良くない方向に変えられていった場合、コープとうきょうのような「基本的な考え方」をしていたら、生協の存在理由がなくなってしまいます。生協商品の独自性も失われてしまいます。
 そこで、念のために、ご質問申し上げておきますが、
(1) さいたまコープが以上のグラフを大きく示されていることの真意はなんですか。コープとうきょうと同じ立場に立ちたい、ということですか。
(2) 何故、このグラフのような結果になったのか、その理由を解析されましたか。
(3) コープ洗剤の供給が延びない理由はどういうことだと判断しておられますか。コープ商品の一つの典型であるコープ洗剤の優位性について、組合員に充分に「知らせる」ための教育、学習、情宣活動が充分に行われてきたのでしょうか。生協にこの点での反省があるのでしょうか。それともコープ洗剤はLAS系洗剤よりも劣る、というのでしょうか。まさかとは思いますが、その実は、花王やライオンの企業側の宣伝、意識化攻勢に負けてしまって、組合員のLAS系洗剤容認という現実を認めざるを得ない。だから、LAS系洗剤を置くことにした、というのではありませんか。

   ところで、10月23日に貴生協の理事長様あてにお送りした、洗剤問題に関する拙著総説はもうお読みいただいたでしょうか。何か感想がおありかと、ご連絡をお待ちしていましたが、1ヶ月以上も音沙汰がないので心配しています。
 なお、機関誌には「2002年3月、「洗剤」について、さいたまコープの考え方や方向を整理し、7月に理事会で新・洗剤政策案をつくりました。」とありますが、恐れ入りますが、研究上の参考と致しますので、その資料を一部ご恵送願いたく、よろしくお願い申し上げます。
 終わりにあたって、リスクコミュニケーションを重視する立場から、この質問状を含めてすべての資料を公開にしたいと思っています。問題の性格上、討論の中身が出来るだけ多くの人々の目に触れて、良い意見が集まって、よりよい結論が得られることを期待するためでもあります。したがって、この文書は以下の筆者主宰のホームページにも掲載させていただきます。
 なるべく多数の方々にアクセスしていただくようにお勧めくださいますように。
URL:  http://homepage2.nifty.com/safety-food-forum/
 要は、組合員のために、生協として、どれほど有益な評価が行われるか、そのための実りの多い討論が出来るか、ということです。皆様のご活躍を祈っています。

                                草々


文献一覧


1:DUO,10,1998 OCT.,コープとうきょう
2:DUO,1,1999 JAN.,コープとうきょう
3:環境と安全の生活情報,花王生活科学研究所編,1996
4:洗剤の毒性とその評価,厚生省環境衛生局食品化学課編,食品衛生 協会刊,1984
5:よくわかる洗剤問題一問一答,合成洗剤研究会編,合同出版刊 1997
6:洗剤の毒性と環境影響,三上美樹ほか,合同出版刊,1986
7:アルキルベンゼンスルフォン酸ナトリウムの毒性に関する研究,東 京都衛生局,1980
8:科学技術庁研究調整局報告,長谷川ら,1978
9:家庭用品に係わる健康被害病院モニター報告,厚生省生活衛生局, 1984
10:洗剤・洗浄剤の安全性に関する調査報告書,東京都生活文化局消 費者部,1994
11:水と環境を守るために,洗剤問題近畿地区生協連絡交流会,19 85
12:合成洗剤の環境影響に関する研究報告書,合成洗剤環境影響調査 団(代表 末石富太郎),1984
13:びわ湖から学ぶ,滋賀大学教育学部付属環境教育湖沼実習センタ ー編,大学教育出版刊,1999
14:洗剤の毒性と環境影響,三上美樹ほか,合同出版刊,1986
15:立川涼ほか,農芸化学雑誌,Vol.52,263,1978
16:日高秀夫,水,29,(13),18,1987
17:びわ湖から学ぶ,滋賀大学教育学部付属環境教育湖沼実習センタ ー編,大学教育出版刊,1999
18:洗剤の毒性と環境影響,三上美樹はか,合同出版刊,1986
19:洗剤汚染、小林ほか,1975
20:外因性内分泌撹乱化学物質問題への環境庁の対応方針について, 環境庁,1998
21:水環境における内分泌撹乱化学物質に関する実態調査報告,建設 省河川局,1998
22:坂田元三,生態化学,Vol.2,No.2,1980
23:文献2と同じ。
24:奥田正三,第4回合成洗剤研究会講演要旨集,1980
25:鈴木紀雄,環境と人にやさしい洗剤を求めて,環境技術研究協会
26:長時間経過後の各種洗剤の生分解性、日生協資料
27:合成洗剤と粉石けん,石鹸洗剤工業会資料
28:文献2と同じ。


生協の洗剤政策を考える(その7)(12月2日記載)


9 洗剤・環境保全運動に期待する。
 洗剤問題は地球、地域環境保全運動に直結している。洗剤は消費者がもっとも日常的、反復的、長期的に使用する必須の商品でもあり、だからこそ生協は歴史的にこの問題と真剣に取り組んできた。地道な洗剤運動は我が国における生協の安全、安心政策が社会的な認知を得て、今日のような発展が可能となったひとつの理由になったとさえいえる。
洗剤問題に関わる消費者の運動では、以下の点に留意せねばならない。
(1) 消費者が洗剤・環境問題の犠牲と恩恵を共有する当事者であることを確認し、消費者のための有用性、安全性、必要性を確保することを最優先せねばならない。
(2) 工業用、農業用の洗剤の使用状況についても厳しい関心を持つ。
(3) 水、環境、生態系保全の観点から洗剤問題をみなおす。
(4) 研究者と消費者の連帯を強化する。
(5) 未解明部分の研究を促進するよう要請する。
(6) グローバルな洗剤・環境問題の重要性に関心をもつ。世界に向かってわが国の過去、現在の体験や教訓を発信する
(7) 洗剤企業に対して消費者の要求を正しく伝達する。石けん、合成洗剤にこだわらず、安全性、環境負荷、生物影響の最も少ない洗剤を開発するための企業努力を要請する。
(8) 洗剤問題に関わる規格、基準、表示などの公的措置や水質規制などが正当に行われるように求める。
(9) 地域社会における洗剤・環境問題に関わる世論を高揚する。

  我が国の戦後の各地での消費者運動のなかで、大多数の生協の、いわゆる「よりよい洗剤」政策は、多様な運動,事業が発展する中で、研究者との協力の下で、組合員の意識的な向上を伴いながら、非常に柔軟に構成され、運用されてきたように思われる。
 長い期間に、さまざまな試行錯誤をのりこえて練り上げられてきたこのような洗剤政策を、万一にも軽率に変更したり、放棄したりするようなことがあるとすれば、おそらく生協の事業や運動面で、洗剤問題以外の分野にも大きな混乱を引き起こすことになるであろう。今後とも多数の研究者の見解を公正に聴取し、組合員の意見を十分に聞いて、組織的な討議を行い、慎重に対応することが望まれる。そのためにも組合員の環境、安全意識の高揚をめざして、洗剤政策推進のための教育、学習活動を振興することを怠ってはならない。
  かっては、約50%を超える組合員が生協のよりよい洗剤を自信を持って選択していたが、今日ではその生協の組合員の約90%が生協以外の店舗などで洗剤を購入するようになっている。
 コープとうきょうが今回LAS洗剤の解禁に踏み切ったひとつの動機はこのような異様な利用状況の低迷を打破しようとしたことにあったと思われるが、重要なのは、なぜ、大方の生協で、こうした供給高が急落するような状況を招いたのか、ということである。この点についての解析を徹底して行わないと大きな過ちを犯すことになる。組合員が生協の基本理念に基いた安心、安全政策の象徴として提供されているコープ洗剤を信頼し、進んでこれを購入するような状況を作るために、組織をあげて、努力するような、生協らしい商品政策が重視されていたのであろうか。各店舗や共同購入で、花王やライオン製の洗剤ばかりが「売れて」いって、供給高が上がったことを喜んでいる生協とはいったい何なのか、そのことを組合員とともにしっかりと考えてみてほしい。
 残念なことに、最近の生協では洗剤問題は事業面でも運動面でもほとんど省みられることがなく、ひところ盛んであった学習会などが開催されることもなくなって、かっては組合員のもっとも身近な位置におかれて、生協の存在理由を実証し続けてきた典型的な商品のひとつであったコープ洗剤は事実上影をひそめようとしている。コープ洗剤こそは、すぐれたプリンシプルのもとで、改良に改良が重ねられて、自信をもって薦められる現時点での最良の商品であることがあまり知らされないようになった。テレビなどをとおしての洗剤メーカー側の情報、宣伝量は圧倒的であり、このことこそが供給高が低下の一途を続けてきた最大の理由ではなかったのか。もしも、今後ともこのような状況を放置しているならば、そして、安易に一般企業と同じような商品を配置して、そうすることが「組合員の生活に貢献することである」などと言っているようでは、生協が安全、安心や環境保全のために、そしてよりよい暮らしのために、信頼出来る商品を供給することに全力を注入している、魅力のある消費者のための組織であるという、これまで長年かかって培ってきた地域社会における信頼感を維持することにも影響を及ぼすようになるのではなかろうか。   組合員を、生協が自信をもって推奨するコープの洗剤に呼び戻そうとする「Come Back To COOP洗剤」運動を推進しよう。これまで生協以外の店舗で洗剤を購入していた組合員のうち、せめて、その何割かがコープ洗剤に回帰することを目指した、組織をあげたとりくみが、このさい水質・環境保全の運動とあいまって着実に展開されることが望まれる。それは一般の企業並みのありきたりの商品展開に終始するようなことでなく、磨き上げた生協の論理に忠実な取り組みであることによって組合員の共感を呼び、事業上でも、必ず大きな貢献をすることにつながるであろう。
 終わりにあたって、コープとうきょうの今回のLAS解禁という画期的な問題提起が、我が国の消費者運動での環境保全のための洗剤政策を正しく発展させるうえで有意義に働くように祈念してやまない。


   以上

生協の洗剤政策を考える(その6)(12月2日記載)


7 グローバルな水、環境保全問題との関連性


 21世紀にかけて、以下の各事項に示すような状況が顕在化する可能性がある。
(1) 地球人口の激増と、とくに途上国での都市への人口集中
(2) 途上国の経済水準の向上に伴う洗濯機などの洗浄機器の増加と洗剤使用量の激増
(3) 都市のインフラ整備のおくれ、上下水道と浄水設備の未整備
 結果的に、使用される洗剤の種類と量と規制のあり方の如何によっては、世界各地の、特に途上国の巨大都市近辺の河川、近海水域などで、残留界面活性剤による負荷水準の急激な上昇が予想される。その場合に、どのような水質、環境、生態学的影響が発生する可能性があるのかが懸念される。このような状況が予見される時に、各地域に供給される洗剤の種類と利用のありかたは十分に吟味されることが必要であり、その意味で洗剤問題では戦後多数の経験を積み重ねてきた我が国の既往の体験は正しく伝えられねばならないであろう。安易にLAS系洗剤を容認するような考え方は地球環境保全の立場からも問題があると思われる。

8 洗剤の選択と利用のありかた


 結論的に、多数の洗剤について総合的に評価した場合には、家庭などでの一般的な使用において、現状でもっとも妥当な洗剤の選択と利用のありかたは、次のような内容を持つものになるであろう。
(1) 生分解性において劣り、環境、生物に対して問題の多いABS系やLAS系洗剤などの使用は原則的に好ましいことではない。
(2) 水質と洗濯条件が許す限り、石けん、複合石けんの使用が望ましいが、地域的な実情や洗濯対象に即して、分解性が高く、生物毒性が比較的に低いことが立証された合成系の洗剤の使用は認められる。具体的にいえば、たとえば高級アルコール系のAS,AES関連の界面活性剤のうち、構造が単純で、ベンゼン環を持たず、生分解試験でも石けんに匹敵する成績を示し、中性で毛、絹系の衣料の洗濯に適合し、硬水でも洗浄力が低下せず、しかもBODが石けんよりもはるかに低いものを選択する。またポリオキシエチレン系の洗剤でも、生物毒性が低く、石けんに匹敵するような生分解性を示し、洗浄力が高く、BODの低いものを選択する。
(3) 合成洗剤の界面活性剤や助剤成分については、環境ホルモンなどの容疑がかけられている有害成分がないことを確認する。
(4) 石けんあるいは合成洗剤に限定した洗剤の使用を固執するのでなく、水質、水温や洗濯の実状に即して、複数の洗剤を使い分ける工夫をする。
(5) どのような洗剤の場合であれ、使用量はできるかぎり削減する
。 (6) 洗濯によるBODの増加分は生活排水全般から削減するように努める。
(7) 排水路と下水処理機能の整備を促進する。
(8) 洗剤問題についての学習を徹底して、環境保全意識の向上をはかる。現在多用されている市販の洗剤だから消費者にとって望ましいものであり、「組合員の生活に貢献する」ものであるとするような奇妙な論理を排除して、よりよい洗剤とよりよい使用法を自覚的に見出すための取り組みを心がける。

このたび、LAS系洗剤を導入したコープとうきょうではつぎのようにのべている28 。
 「新潟大学の高橋敬雄教授は、下水道問題連絡会議発行の「水情報」のなかで、「洗剤の環境影響について研究してきたが、この過程で、生分解性の高さを考慮しても石けんの環境負荷は合成洗剤より高いこと、石けんと合成洗剤の諸特性を比較すると優劣はまちまちであること、合成洗剤でも環境にやさしいものはありうること、がよくわかった」とのべています。どの洗剤を選ぶかよりも、界面活性剤の総量をへらしていくことが本質的な課題といえます。」
 高橋教授の所論は、洗剤の優劣が「まちまちである」ことをのべている点では全くそのとおりである。しかし、すくなくとも「優劣がある」ことを認めているのであるならば、洗濯条件に応じて、より優れた洗剤を選ばない、ということはありえない。生協がまさか環境ホルモンが生成するといわれるPOPR系の洗剤を推奨することはありえない。生協ではどのような洗剤を組合員に薦めるか、という視点は堅持していなければならない。「どの洗剤を選ぶかよりも、界面活性剤の総量を減らしていくことが、より本質的な課題である」ということはできない。「どの洗剤を選ぶか」ということは、「洗剤の総量を減らす」ということと同様に重要であり、それが「より本質的な課題」でない、ということはできない。もしも「洗剤の使用量・水の使用量を減らす」ということだけがコープとうきょうの「より本質的な課題であり」、方針であるというのなら、BODがLASの数倍も高いという事実が厳然として存在する石けんの使用をやめるように組合員を説得するのがもっとも正しいありかただ、ということになる。
 高橋教授は洗剤選択の必要性を否定しておられるのではない。ましてLASの使用をすすめておられるのでもない。高橋教授も水生生物に対するLASの許容濃度が0.1ppm程度であり、全国各地の水域でこれを大幅に越えるところが多数みられるという事実をよくご存知のはずである。コープとうきょうがLAS洗剤の販売を開始するために、教授の以上のような記述を引用したとすれば、それは明らかに誤りであるといわざるをえない。生協はその理念、原則に基いて「よりよい洗剤」を「よりよい商品」として組合員にすすめる責任を放棄することはできない。大多数の組合員が求めるものであるから、直ちに「よりよい商品」であるとするのは余りにも短絡的である。一長一短があるからということだけで、すべての洗剤商品を配置するというのなら一般企業と全く同じことになる。それでは、組合員は生協で洗剤を購入する必要性をますます感じなくなるだろう。
 コープとうきょうは、「調査、評価、判断抜きに、ひとりよがりの」対応をしてはならない、とのべているが、これは調査、評価、判断の結果として組合員に推奨しうる洗剤、推奨できない洗剤があるということではないのか。これまでのコープとうきょうをふくむ大部分の生協はそうしてきた。生協では、調査、評価、判断をどのような一般企業よりも正確に、厳格に行うという前提で商品政策、洗剤政策が存在してきたのであり、心ある組合員はそのことに信頼し、そのことを誇りに思ってきたのではなかったか。
 店頭にLAS洗剤を始めとする国が認めたあらゆる商品をおくことは企業体として全く自由なことである。しかし事業者は本来いかなる商品であれ、購買者に何を薦めるか、薦めないか、どのような商品供給に重点を置くかということについての方針を明確にしていなければならない。洗剤に限らず、優れた商品であれば何もCOOPマークがついていなくてもよいだろう。しかし、生協が一般企業のコンセプトのもとでつくられた商品を取り扱う場合には、厳格な選別態度を堅持して、その企業の、そのブランド名の商品がもっとも優れた商品であり、代替することが困難であることを確認したうえで、はじめて組合員に供給することが出来るのではなかろうか。
 コープとうきょうは今回新しく品揃えすることになった3社のLAS系の合成洗剤について、製法、組成などの特許や企業秘密に類するような細部までを完全に把握する責任を組合員に対して背負うことになった。同じ合成洗剤でも以上の各社以外の製品との組成、価格、洗浄力、安全性などについての優劣を詳細に比較検討した上で、たとえば表に示されている花王、ライオン、P&G社以外の各メーカーの製品を選定しなかった理由を組合員に明らかにする責任も果たさねばならなくなった。間違っても環境ホルモンに該当するような化学物質成分が含まれていないかどうかも厳格に調査しておく必要が生じてきたことになる。こころある組合員はこれまで生協の、「よく見える」自前のコープ洗剤であるからこそ、成分的にも性能的にも全面的に信頼して、それらを購入していたのであるが、これからはそうはいかなくなったということである。
 コープとうきょうは、そのような面倒なことに気をつかうよりも、LASには問題がないというのなら、このさい、いっそのこと製法、組成、価格などに自信の持てる、画期的なLAS洗剤を自主的に開発して供給すればよいのではないか。花王のアタックなみに、あるいはアムウエイに負けないように、蛍光増白剤、柔軟剤、酵素剤、色素、香料などを配合した洗剤を、それらを「求めている」という組合員の「生活に貢献する」ために、堂々と提示することがもっとも望ましいのではなかろうか。
 すぐれた一般企業の製品が組合員に供給されることには原則的に何の問題もない。しかし安全性や環境影響に関わるような商品については生協の組合員に対する責任はとりわけ大きい。ここでは今回のLAS系洗剤解禁という事態があったから、コープとうきょうをあえて矢面に立てて述べてきたが、これまでにすでに一般企業のLAS系洗剤などを組合員に対して供給してきた各地の生協でも、改めて自己点検を強化して、組合員に対する責任をはたすことが必要であろう。そうでなければ、生協が重視してきたという水、環境をまもるとりくみの真価が社会的に問われることになるだろう。


生協の洗剤政策を考える(その5)(12月1日記載 )


5 洗浄力の比較


 安全性、必要性と並んで有用性に関する評価も重要である。石けんと合成洗剤の洗浄力の対比では 、石けんがLASなどと大差がないことを洗剤企業側も認めている。ただし硬度の高い水質の場合には石けんの洗浄力は大きく低下する。

6 洗濯洗剤としての石けんに関する評価

 石けんは数千年以前から使用されてきた。わが国でも戦前から大量に使われており、戦後、生産が回復して、昭和35年頃のピーク時には現在の全洗剤の使用量の3分の一、約40万トンも消費されていた。しかし戦前はもちろん、戦後でも下水道普及率が現在の2分の一以下であったにもかかわらず、石けんが水、環境、生態系に対して何らかの問題を起こしたという記録は全くない。現在の石けんの消費量約10万トンがかりに倍増するようなことがあったとしても、問題は生じないであろう。
石けんを重要視し続けようとする消費者側の心情はよく理解できる。しかし、今日の科学的な視点からみれば、石けんを無条件に至上のものとすることにも問題がある。何であれ、長所だけではなく、短所もまた正確に認識したうえで、冷静に対案を検討することが必要である。
(1)石けんの長所
1) 洗剤の中で一般毒性がもっとも低い。
2) もっとも肌に優しく、手荒れのすくない洗剤である。
3) 生分解性がもっともすぐれている。
4) 魚毒性などの生物毒性や皮膚毒性ももっとも低い。
5) 洗浄力は合成洗剤と同程度である。
6) 洗濯後の風合はもっともすぐれており、合成洗剤のように柔軟剤を加える必要がない。
7) 原料である油脂は永久に確保が可能である。
 石けんの最大の特徴はその化学構造が食物油脂の成分である脂肪酸のナトリウム塩であり、人類の数千年の使用体験にうらづけられた安全性を持っているという点にある。経験則は万全ではない。しかし未経験則よりも信頼できる。いまだに、石けんを凌駕するような効果的な入浴用合成洗剤商品は開発されていない。環境に優しい、肌身に優しい洗剤としての石けんの既存の印象はほぼ的を得ているといってもよいだらう。
 合成洗剤の主原料である地下資源はいつか枯渇する。いずれ原料コストも上昇する。現行の合成洗剤製造技術は来世紀中には確実に変更を求められることになる。もちろんこれは石油製品一般のことであって、何も合成洗剤に限ったことではない。
(2)石けんの短所
1) 対硬水性能が劣る。
2) アルカリ性が強い。洗濯対象によっては注意せねばならない。
3) 石けんかすを生成する。洗濯ものに黒かびを発生し、洗濯機にトラブルを生じることがある。
 石けんかすの生成が石けんの重大な欠陥であるようにいわれることが多いが、分散剤を加えた複合石けんでは石けんかすが詰まるようなことはない。またすすぎをよくして、よく乾燥させれば、黒かびなどがつくことはない。また側溝などにつまるという、いわゆる石けんかすの本体は髪の毛やゴミなどに排水中の残飯成分や、油脂、蛋白成分などが固着したものと本来の石けんかすの混合体であることが多い。
4) 冷水には難溶解性である。寒冷地域での使用が困難である。
5) 全自動型洗濯機への適性が高くない。
6) 臭気による不快感が問題にされることがある。
7) 洗濯物の黄ばみが問題にされることがある。
 もっとも、合成洗剤でも黄ばみはある。ただ合成洗剤では蛍光増白剤を加えることによって純白感覚を与えている。もしも石けんに蛍光増白剤を添加すれば黄ばみ問題は解消する。しかし、それはもちろん好ましいことではない。
8) 原料が食糧資源と競合する。しかし将来的には回収された廃油などを再生利用する方策などがある。
9) BODが合成洗剤の7乃至8倍もあり、環境水質の汚濁負荷が問題になる。排出BODが異常に高くなるような特殊な閉鎖系の水域では注意する必要がある。もっともこのようなばあいに、洗濯排水に起因するBODだけを犯人扱いするような偏った論理は排除せねばならない。
 石けんの以上のような短所は、複合石けんや生分解性が高く、BODや生物毒性のより低い、よりよい合成界面活性剤を開発するための企業努力が要請されてきたひとつの理由になる。そのような技術開発は正当に評価されねばならない。
 洗剤に限らず、理想的な、短所のない家庭用品などありはしない。洗濯の対象、洗濯の条件に即したクライテリアを柔軟に設定することが必要である。全国的な大部分の生協での、複数洗剤を配置した、生協のいわゆる「よりよい洗剤」の路線はこの意味でも妥当なものと考えられる。


生協の洗剤政策を考える(その4)(11月30日記載)


4 洗剤の有機物負荷量


 わが国では洗剤のBOD負荷と生分解性、生態系保全観点をふまえた複雑な論争が行われてきたが、石けんのBODが大きいことが問題であることは否定できない。
 今日、わが国では、洗濯洗剤の約95%は合成洗剤であり、洗濯排水のBODは一日一人当たり約4グラムで、これは家庭排水の全BODの約10分の一に相当する。石けんのBODはLASの約7倍にも達する。これは確かに石けんの欠陥である。洗剤の全量を石けんに切り替えるような場合を想定すると、洗濯排水のBODは現在の数倍となり、確かに家庭排水のBOD約40グラムを大きく押し上げるような結果になるだろう。
 しかし、鈴木らは、家庭などの排水が流れる一般の水路などでは、石けん排水を含む家庭排水のBODは一日後にはLAS排水を含む家庭排水のBODと同じレベルに、相当日数を経た自然浄化後にはLASの場合よりもよりむしろ低くなるとしている 。これはLASの存在が石けんに比べて微生物の活性を低下させるために、家庭排水全体の有機物の分解効率が悪くなるためであると思われる。
 事実、各種の洗剤の長時間後の有機物と生分解性を対比した実験の結果では、石けんと合成洗剤の当初の負荷量の格差は大幅に縮小している 。むしろ家庭排水中の有機物トータルの分解では生物毒性の低い、微生物活性の高い石けんのほうが有利であると考えられる点に注目するべきであろう。
 国民全部が洗濯洗剤の全量を石けんに切り替えた場合などを想定して、その時に、あたかも全国の水域環境がドブ泥的になる、などとするような架空の議論をするのは無意味なことである。河川・側溝の水流は実験室内の水槽のように決して静止、停滞してはいない。概して水深が浅く、好気的な条件のもとで水が流れていて、そこで微生物の活動が活発に行われている現場こそが大部分の自然環境なのである。まして、これまでの歴史的な経過を考えると、石けんの使用がいくら奨励されても、全国的な使用量が現状の2倍、3倍増になるようなことは全くありえない。「よりよい洗剤」の考え方に基いて、石けん、複合石けん、選び抜かれた良質の合成系の洗剤などを適当に使い分けるような態度である限り、実際上地域水系のBOD負荷に関して問題が生じることはないであろう。
 一方で、すでに水生生物などに対する生物影響性などでの安全限界をはるかにこえる水域残留濃度を示しているようなLASなどの問題性には目を閉ざしながら、石けんのBODの大きさなどを過大にいいたてて、消費者の石けんばなれ、LAS系などへの無定見な移行を促進することには問題があるとわねばならない。
 石けんとLASなどの合成洗剤が環境中に排出された場合には、希釈と生分解が同時に進行する。排出時点で、かりに1000ppmであった洗剤中の界面活性剤濃度が10000倍に希釈された時点では洗剤に起因するBODの大きさは何ら問題にはならない。しかし、石けんの場合には全く見られなかった魚毒性が、この倍率にうすめたLASの0.1ppm濃度の場合には確実に現れる。魚類の水域忌避性にいたっては、そのさらに100倍に薄まっても問題があることになる。LAS系洗剤が流入している都市近郊の河川やこの河川が最終的に流れ込む河口部や沿岸部では実際にそのような濃度帯が認められている。これは生態系にとって確かに問題になる事実であることに違いない。
 もちろん、石けんには、後述する第7項に示したような性能上の欠陥がある。石けんがオールマイテイであるかのごとく、単純に、無条件に石けん以外の洗剤を認めないとすることは誤りであり、消費者の選択の自由を妨げることにもなる。


生協の洗剤政策を考える(その3)(11月29日記載)


3 洗剤の環境、生物影響


 洗濯排水などに含まれる膨大な量の界面活性物質は使用後に最終的に環境内に完全に暴露される。したがって、水生生物などの生態系に対する影響の有無、程度などが問題にされねばならない。
 このばあい、環境負荷の水準を示す界面活性剤の地域的な水系内での実在残留濃度と実験的に明かにされている生物影響濃度との対比が重要である。前者が後者を上回る場合には生物影響がありうると判断せねばならに。そしてそれがどの程度のものであるかということに関してあいまいな態度をとることは許されない。
(1)環境・水生生物影響濃度水準
 家庭用洗剤に含まれる各種界面活性物質の水生生物に対する影響をしらべた既存の多数の実験を総括した報告 によれば、概してLASの生物影響性がもっとも大きいものと評価されている。また最近大規模に登場してきているノニオン系の界面活性剤のなかにも魚毒性の大きいものがあり注意する必要があることがわかる。
(2)LASの水生生物影響濃度水準
 既存の多数の実験データを総括すると、界面活性剤LASは、10ppm台で一部の両生類、魚類などの奇形の原因となり、1ppm台で鯉やフナなどでの半数致死濃度を示し、0.5ppm台で、なまず等の生活行動を撹乱し 、0.1ppm以上でアユの稚魚の生育に影響を与えることが琵琶湖調査団によって報告されている 。
 多賀谷は、琵琶湖に流入する河川のLASでは南湖・瀬田川河川に高い濃度が認められ、「水生生物への影響濃度の目安0・1mg/l(ppm)を越えているところがある」と記載している 。
 10ppm台のLAS水溶液中でメダカや両生類などの卵を孵化させた場合に奇形の発現が見られたという報告 にも注目したい。産卵場所がたまたま排出直後の高濃度の洗剤排水に、ある期間さらされるようなことがおこった場合には問題があるかもしれない。
(3)水域忌避濃度
 アユを用いた実験ではLASの0.0015ppm以上の濃度域で忌避現象が認められている 。また標識をつけたアユを河川に放流して再捕獲した野外実験の結果ではアユはLASの平均濃度が0.044および0.190ppmの河川水を避け、LASの検出限界値(0.004ppm)未満の河川水を好むことがわかっている 。
こうしたデータをふまえて多賀谷は琵琶湖北湖の測定点付近の河川水(0.02〜0.05mg/l)はアユにとって良好な環境であるといえそうにない、とのべている 。
(3)実在する水系でのMBAS濃度
 家庭の排水口から地域の小側溝に流入した直後のLAS洗剤の廃液は数100ppmから数10ppmのLASを含むが、次第に希釈されて小中河川に入り、さらに大河川をへて河口部、沿岸水域に達する。瀬川らは相模川流域において、同時刻に採水して調査した各地点でのMBAS濃度の分布を示したが 、0.1ppmを超えるところが大部分であった。MBAS濃度は実際上もっとも多用されるLASなどの濃度に近いものとみなされる。この結果だけでなく、その他の多数の調査では、我が国の都市近辺河川の大部分の水域では水生生物への有害濃度の限界値であるとされている0.1ppmをこえるLAS濃度域が広範に認められている。
 公的機関による水質測定が定点によって行われているが、それだけでは実際の河川、海域、湖沼の沿岸部などでの洗剤汚染の状況は明らかにはならない。住民の採水が可能な、普通の水系に残留している界面活性物質の濃度分布域において、水生生物の産卵、繁殖、成長などに関わる広範囲の生態系が、残留するLASなどによって好ましからぬ影響を受けていることは確実であると思われる。もちろん実際には農薬や各種の工業化学物質などと洗剤成分の複合的な影響が問題になることはいうまでもない。
 なおLAS系洗剤などに含まれる難分解性の蛍光増白剤を多用した場合の、川面が夜光るといわれるような水質汚染が好ましくないことはいうまでもない。
(4)界面活性剤の残留濃度傾斜水域の概要
 界面活性剤が洗濯、産業排水として環境中に排出される場合、河川水などによる希釈と微生物などによる生分解によって、次第にその濃度が減少していく 。しかし洗剤の場合にはたえず、膨大な排出量が逐次、追加、補給されるために、側溝、小、中河川などでの濃度は相当に高いままに維持される。この際に問題になるのは単なるBODの大きさではなく、洗剤の化学物質としての生物毒性の強さである。高濃度の界面活性剤にさらされる家庭周辺の側溝の微生物やいとミミズなどが影響を受けることや地域の小川などでの水生生物に影響が出ることは確実であると思われる。都市近郊などでの浄水場に入るまでの、広範囲の実際的な水環境では、LASのような生物毒性の強い洗剤類ほど問題が多いといえるだろう。
(5) 環境ホルモンについての検証の必要性
 内分泌かく乱物質 (EDS:Endocrine Disruptors)問題が最近になって世界的に提起され、アメリカの内分泌かく乱化学物質検査勧告委員会(EDSTAC)において現在約85000種類の既存の化学物質についての検証が進められている。洗剤の分野でもこの機会にEDS該当の有無についての検証が行われることと思われるが、この場合、洗剤が大量に環境中に排出される関係で、合成洗剤の主剤である界面活性剤だけでなく、複雑な構造を持った蛍光増白剤、香料、色素、柔軟剤などの助剤についても試験が実施されることが必要だろう。現実にポリオキシエチレン・アルキルフェノール・エーテル(POPR)系洗剤の分解産物であるノニルフェノールがEDSであることが証明されており 、国の調査でも下水処理場の流入水、放流水のいずれにおいてもノニルフェノールが相当量検出 されて問題になっている。
 EDS問題の関連では、いわゆる合成洗剤のような、複雑な人工化学物質の混合体の場合には単純な石けんの場合よりも、より問題が大きいと考えられるので、洗剤メーカーは自社の既存の製品、今後の製品に含まれる主剤、助剤とそれらの使用後の環境内での変化生成物のすべてについてEDSに関する容疑が存在しないことを明らかにする責任が生じている。これは合成界面活性剤と多数の合成化学物質の混合体である合成洗剤そのものに対して新しく提起された問題点であるということができる。
 合成界面活性剤は農薬などの添着剤などとしても多量に用いられており、それ自体だけでなく、EDSの環境内拡散にも関連しているので注意する必要がある。
 以上を要約すると、水生生物に対する有害性が現れる界面活性剤の水中残留濃度として、大方の研究者によって支持されているLASなどに起因する界面活性剤の濃度が0.1ppmを大幅にこえる水域が各地に認められている。また閉鎖的な水環境になりやすい近海域や河口部でも魚の水域忌避濃度をこえる地域が数多くあるものと思われる。MBAS濃度が少数点以下3桁まで希釈された内湾、内水、近海域でも、魚類の回遊、繁殖、分布などにLAS系の界面活性物質などが影響を与えている可能性は否定できない。
 我が国の代表的な洗剤メーカーである花王石けんKKの生活科学研究所長であられた坂田は、つぎのように記している 。

界面活性剤の水生生物に対する最大許容濃度

 菊池らは、界面活性剤の魚体への吸収、体内分布、排泄に関する研究と、界面活性剤の魚類に対する長期間暴露実験をとおして、界面活性剤が水生生物に影響を及ぼさない濃度(最大許容濃度)を求めるための綿密な研究をしており、その成果が本誌にも発表された。その中であくまで設定された実験条件下での値で、これをそのまま水質環境目標値とすることは出来ず、適当な係数をかける必要があるがということで、これまでの調査、研究から界面活性剤の水生生物に対する最大許容濃度としてつぎの3つをあげている。即ち、(1)TLm試験からの算出として、水産環境基準では、淡水域でABS0.5ppm、LAS0.2ppmであり、海水域では若干毒性が強いとしている。(2)生存・成長・繁殖試験からの算出として、淡水域でのLASの最大許容濃度は0.3mg/l以下であると推定している。(3)生理学的、病理組織学等の方法での最大許容濃度は藤谷の研究からはABS、LAS共0.5mg/l以下、立川らの研究ではLAS0.0015mg/lとしている。

 筆者は、かねてから以上のような自社の研究所の所長が早くから認めている水生生物の許容濃度を上回るLAS濃度の水域が全国的に広範囲に広がっていることに対して、洗剤メーカーが責任を感じるべきであると思ってきた。これはいわゆるPPP(汚染者負担責任原則:Polluter Pays Principle)の問題でもある。また生態系の保全について責任のある環境庁が、水生生物保護の立場から、なぜ今日的な定説であるLAS濃度0.1ppmで水質を規制しようとしないのか非常に不審に思っている。今回LAS系洗剤の供給を開始したコープとうきょうでも、LASの環境汚染に関わる供給者としての責任が生じてきたことを無視してはならないであろう。
 いずれにせよ、コープとうきょうのパンフレットには、「LASの水生生物への急性毒性、慢性毒性については、十分なデータがなく、各種界面活性剤の相対的評価をすることは困難です。」としている が、これは明らかに誤りである。LASの魚毒性については、以上のように、すでに相当数のデータがあり、学会でも一定の評価が行われているという事実を組合員に正しく知らさねばならない。LASの生物毒性に問題があることは多数の研究者による、多数の実験の結果によって確認された事実であり、これは生協が組合員に対して提供するべき情報として重要であることはいうまでもない。
 これまで、全国各地の生協において「ひとりよがりの価値基準」でLAS系洗剤の生物毒性が問題にされてきたのではないことは明白である。またコープとうきょうが、「LASなどの魚毒性についての十分なデータがない」というのであれば、供給責任者である生協として、花王やライオン製のLAS系洗剤を改めて大胆に導入することには一層慎重でなければならなかったはずである。
 厚生省や洗剤メーカーなどでは、これまで一貫して「合成洗剤は実際的な使用条件では問題がない。」とする態度をとっているが、これは人の安全性についてのことであって、生物影響に関しては必ずしもあてはまらない。多数の研究者によって明らかにされている、実在水系でのLASなどの濃度域は、まさしく合成洗剤の「実際的な使用」によって普遍的に発生しているものであることに注目せねばならない。
 ノニオン系の界面活性物質の水域への残留状況はアニオン系の場合ほど明確にはされていない。しかし、すでに1979年時点での京都市衛生研究所の京都市内数河川の調査において、河川水中のノニオン系の陰イオン系に対する濃度の比率が13〜88%であった ことを考慮すると、それ以後にノニオン系洗剤の生産と利用は急速に拡大しているので、最近時点では残留濃度はもっと高い比率になっているものと想定される。しかしノニオン系の界面活性剤の生態系に対する影響はアニオン系の場合ほど詳細に調べられてはいない。 実際の環境水域ではノニオン系という各地での残留実態がそれほどはっきりしていない界面活性物質と比較的残留実態の明らかなアニオン系の界面活性物質が共存しているのであるが、これらの、環境の実際に即した複合的な作用などについての研究データは全く欠落している。この状況下に、環境ホルモン関連の諸問題も考慮して、ノニオン系の洗剤の使用についても出来る限り慎重な態度をとることが必要であると思われる。
 さらに、最近土壌や河川などの汚染が心配されている農薬のような、さまざまな環境化学物質との複合効果などについての研究がほとんど行われていないことも問題にしたい。原則的に分解性の高い石けんなどの洗剤が望ましいとされるのは、現状ではほとんど知られていない未知の洗剤間での複合効果を回避するためでもあることに留意せねばならい。
 ABSにとって代わったLASは河川や浄水場での発泡性を軽減した点では、非常に有用な界面活性剤であった。しかし、むしろ現時点では、四半世紀にわたるLASの出番は終わって、各洗剤メーカーともLAS洗剤以後の、より性能の優れた、環境や生物によりやさしい洗剤を開発する方向にあると思われる。


2 洗剤の安全性についての評価


既存の洗剤の安全性に関する研究報告は、現時点において以下のように要約することができる。
(1) 今日実用化されている多数の家庭用の石けん、合成洗剤は発癌性、変異原性については問題がないと結論できる 。一時、一部の蛍光増白剤の構造が発癌物質と類似しているので警戒されたことがあったが、その後の検証によって今日では問題がないことが証明されている。もっとも今日でも蛍光増白剤などという合成化学物質の利用を望まない消費者にとって、UVテストは依然として合成洗剤の有効な判別手段になっている。
(2) LASの催奇形性については激しい論争があったが、厚生省の研究班や洗剤メーカー側の見解では三上教授の実験結果については再現性がなかった、としている。ただし、この件に関して三上教授は一件でも問題になるような実験結果が見られた場合には、警戒を怠ってはならない、とのべている。
  洗剤の催奇形性問題では1960年代に多数の実験研究がおこなわれたが、その結果は表2のように要約されている 。棘突起欠損という三上研究室で見出された奇形は他の研究者のすべてが否定しているが、胎仔保有率の低下、胎仔体重低下、化骨の遅延,性比異常では一部を除いて有意の結果を認めている。母体の異常を確認した報告も相当数ある。

(表2)(省略)

 これらの実験結果の解釈は研究者の実験条件の相違や判定基準の相違などがあるために一概にいうことが不可能である。また発生学以外の専門分野にあって、実際に研究を行っていない部外者がこれらの実験結果を評価することも困難である。後述するような水生生物での奇形の発現が実験的に確認された事実であることを考慮すると、実験に使用した哺乳動物の場合でも奇形の発現が見られたとする三上教授の示唆は心して受け取りたい 。
 ただし、こうした動物実験のように、相当日数継続して高濃度の洗剤が広範囲の皮膚表面に塗布されるようなことは、人の日常的な洗剤の使用条件ではあまり考えられないことは事実であり、人の洗濯などの洗剤の実際的な使用条件のもとでは、あまり神経質になる必要はないものと思われる。
(3) マウスの皮膚塗布実験では東京都衛生研究所の研究で妊娠率の低下が証明されている 。これは皮膚塗布後の洗剤が経皮吸収されて、妊娠部位に運ばれて影響を与えた証拠であると考えられる。
(4) 今日実用化されている洗剤用の界面活性剤では、急性毒性、亜急性毒性、慢性毒性について特に問題となるものはみあたらない。
(5) In Vitro(試験管内)での生化学的な実験では、0.2ppmという低濃度でも、ある種のミトコンドリア酵素の活性阻害が見られたという報告がある 。これはLASと類似したABSの生化学的な態様の一部を示すものとして注目されるが、日常的な洗剤の使用条件のもとでは、人の場合に同様なことが問題になりうるかど    うかは不明である。
(6) LASなどの合成洗剤による皮膚毒性については、厚生省の研究班によって、主婦の手湿疹という皮膚科学的な症候での被害の発生が証明されている 。食器洗浄などで、温水で濃度の高い洗剤溶液を使用するような場合には皮膚疾患に留意せねばならない。
 洗剤メーカー側ではLAS洗剤の手荒れ疾患の発生率は石鹸と同程度であると述べているが、その一方で、手指、皮膚にやさしい台所洗剤が開発されたことの宣伝に力を入れるメーカーもある。石けんの皮膚毒性も完全には否定出来ないが、石けんが一般に皮膚にやさしいことは事実であり、合成洗剤による皮膚疾患が石けんに切り替えられたことによって治癒、軽快したという事例が多数みられている。

 いずれにしても、洗剤は経口的に摂取するものではない。急性毒性のLD50は一時的な大量摂取の場合であり、慢性毒性の最大無作用量の数値は主として経口的、継続的な摂取の場合であって、誤飲事故などの場合は別として、洗剤の毒性を一概に農薬や食品添加物などと比較することは無意味である。むしろ実使用条件に即して、皮膚吸収や皮膚障害の有無などを問題にすることのほうが正しい。その意味では体質的に手あれなどをおこしやすい主婦などではLAS系などの洗剤の使用にあたっては注意する必要がある。
 以上、人の普通の使用条件のもとでは、各種の洗剤の安全性を農薬や食品添加物なみに過剰に問題視する必要はないと判断されることを示したが、ひとつだけ留意しておきたいことがある。それは、いかなる民族であれ、地域であれ、一般に、人の体に、もっともやさしい洗剤は石けんであることがひろく認められている、ということである。洗顔や入浴にさいしては合成洗剤はふつう使用されない。これは単なる習慣の問題ではなく、体験的にえられた普遍的なコンセンサスであるということができる。条件が許す限りこのような肌身に優しい洗剤で洗濯ができれば、と考えるのは非常に人間的な自然の感情であるというべきだろう。
 もちろん界面活性物質のすべてに問題がないというわけではない。界面活性を有する化学物質には、自然界に由来するものを含めて毒性の強いものも多数ある。殺菌剤、殺精子剤、医薬品として使用されるものもある。したがって、消費者にとって、これほど身近にある洗剤の安全性の検証には慎重を期するということと、よりよいものを選別するということが大切であることはいうまでもない。内分泌かく乱物質というような新しい観点での点検も必要になってきた。その意味でも合成洗剤が安全性の面で、石けんよりも問題を大きく抱えた新規な人工化学物質の複雑な混合物であり、基本的に、より慎重に対処する必要があることを認めねばならないだろう。


生協の洗剤政策を考える。(その1)(11月27日記載)


藤原邦達


 この論文は最近になって、一部の生協が従来のより良い洗剤政策を放棄して、組合員に一般企業のLAS系の合成洗剤を供給する決定をしたことに関して、書かれている。
 とくにさいたまコープの組合員の皆様方に読んでほしいと思っているので、このHPをごらんになった皆様も知り合いの組合員の方々があれば、ぜひともコピーして送ってあげていただくように御願いしておきたい。

 1 今、なぜ洗剤問題を再びとりあげるのか

 全国の都市周辺の河川が洗剤で泡まみれになり、各地の下水処理場の付近に洗剤の泡雪が降り注いでいた1960年代当時の異様な状況の中で、合成洗剤の可否についての論争が一時は大きな社会問題にまで発展したのは極めて当然なことであった。我が国の合成洗剤をめぐる社会的状況を異常であったなどという人は、当時、今では想像も出来ないような、衝撃的な問題の発端が存在したという事実を知らないか、またはそのことを知っていてもあえて無視しようとしているのだと思う。
 その後、世論の盛り上がりに答えて国が研究班を組織して対応し、洗剤メーカーも発泡性洗剤の切り替えに取り組み、多様な洗剤の利用が可能となる中で、消費者団体のとりくみも次第に冷静さをとりもどして、洗剤問題をめぐる異常にラジカルな角逐は次第に終息していった。
 こうした経過の中で、我が国の消費者団体のなかには、粘り強く一切の合成洗剤を追放して石けんだけを支持する運動体が見られたが、消費者の生活協同体として事業と運動を両立させねばならなかった各地の大部分の生協では、石けんだけに限定せず、複合改質石けん系と高級アルコール系と一部の良質のノニオン系などの多様な洗剤の利用を支持するが、生物影響などに問題があるLAS系の洗剤の利用は支持しない、いわゆる「よりよい洗剤」政策を採用してきた。しかし、1980年代後半から、かってはさかんであった洗剤・環境問題に関する消費者の学習、教育努力の不足や洗剤メーカー側のテレビなどをとおしての猛烈なコマーシャル攻勢にさらされたことによって、組合員のコープ洗剤利用率は急速に減少し、最近では生協で洗剤を購入する組合員の割合は15%前後にまで低下してきたといわれている。
 もちろんこうした情勢の中で、最近になって、かっては生協の水・環境保全運動の中核を占めていた洗剤問題にあらためて注目し、品質に自信のあるコープ洗剤の普及を目指した取り組みを強化して、それなりに組合員の洗剤利用率を大きく伸ばすような生協も現れて来た。
 ところが、その一方で、昨年来、我が国有数の生協であるコープとうきょうが既往の路線を変更して、改めてLAS系洗剤の供給を開始することに踏み切った。そして表1のような、かってはコープ洗剤のライバル商品であった各洗剤メーカーのLAS系洗剤がコープの店舗などに登場するようになった 。

 (表1)(省略)

    これらの洗剤には、歴史的に生協の洗剤運動の中で問題視されてきた界面活性剤のLASばかりでなく、石けん洗剤では考えられないような人工着色料、香料、蛍光増白剤、酵素剤、柔軟剤などの多数の人工化学物質が含まれている。コープとうきょうの店舗に始めておかれた代表的な洗剤メーカーのLAS系洗剤は、改めてこれまでの40年間の生協の洗剤運動とは一体何であったのかを問いかけるものとなった。こうした事態が全国の生協や消費者運動関係者の注目を集めるようになったのは極めて当然なことであろう。
 コープとうきょうの考え方は、その機関誌の「今なぜLAS洗剤か!?」のなかに端的に説明されている 。すなわち、
「コープとうきょうの商品事業における品揃えの考え方は、普段のくらしの必要に応じて、大多数の消費者が使う商品、日常的に使われ続ける商品を中心にするということです。また科学的調査やそれにもとづく評価、判断のもとに取り扱わないことを決める商品もありますが、調査、評価、判断抜きに、ひとりよがりの「価値基準」で特定の商品を「供給しない」ということは行なわないことにしています。
 商品の選択、購入は組合員一人一人が行なうものであり、組合員の選択の自由を保障し、そのためにも、適切な情報提供や提案を行なうことが大切であると考えています。」
「コープとうきょうで供給している、複合、高級アルコール系洗剤の 利用率は約13%です。約87%の組合員がコープとうきょう以外で購入していることになります。その大多数の方が使用しているのがLAS洗剤です。組合員が求めている洗剤を置く、組合員の生活に貢献するというのがコープとうきょうの基本的な考え方です。」
 コープとうきょうの主張は、非常に画期的であり、要するにつぎのような諸点を強調していることになる。
@ これまでの、コープとうきょうをふくむ全国の大部分の生協での、LAS系洗剤を排除してきた洗剤政策は「調査・評価・判断抜きに、ひとりよがりの「価値基準」で特定の商品を「供給しない」としていた」のであって、誤りであった。
A 「環境にやさしい洗剤」などと称して、洗剤の種類を選別、限定するような従来の商品政策は正しくなかった。
B 大多数の組合員が使用しているLAS系洗剤こそが組合員が求めているものであり、だから、その商品を供給する。
C 現実に、組合員の大多数が購入して使用している花王やライオン油脂製のLAS系洗剤などをスーパーなどと全く同様に供給することが、「組合員の生活に貢献する」ことである。そうした洗剤の品揃えをしてこなかったこれまでの生協の方針は間違いであった。
D 界面活性剤LASには問題がない。LAS系の合成洗剤に含まれている人工化学物質のいずれにも問題はない。これまでの生協のLAS系の合成洗剤に対する評価は間違っていた。
 こうした、戦後のおお方の生協の、いわゆる「よりよい洗剤」路線に決別するような、大胆な問題提起に基く方針転換がコープとうきょうの組合員だけでなく全国の生協関係者に大きな衝撃を与えたことは十分に理解できる。
 いうまでもなく、全国の一部の生協でも早くから店舗などにLAS系の合成洗剤を配置していたところがあったことは事実である。しかし、たとえばコープこうべでは、洗剤政策・運動面では「よりよい洗剤」政策が重視されており、技術顧問であった筆者らが全面的に協力する中で、当時全国の生協の洗剤運動をリードしていた洗剤問題近畿地区生協連絡交流会(洗近連)に参加して、石けんの使用などを推進する大部数のパンフレットなどを普及し、さらに数万人規模での大規模な排水チェック運動を展開してきた。しかし今回のコープとうきょうの場合には、全く事情が異なり、洗剤政策自体が変えられた。すなわち既存の「よりよい洗剤」路線自体を「ひとりよがり」であるとして否定して、そのうえで、花王やライオンの商品を導入して、LAS系洗剤をスーパーなみに大きく正面にすえた点が極めて特徴的であった。
 これに加えて、大手の一部の洗剤メーカーがLASなどの合成洗剤には問題がないことを強調するような内容のパンフレットを各地の消費者センターなどで、引き続き、大部数配布しており、消費者一般に大きな影響力を及ぼすような状況が見られている 。すなわち、コープとうきょうの論理に従えば、このような外資系の洗剤メーカーをふくむ企業側のパンフレット、テレビ、安売りなどの圧倒的なメディヤ・コマーシャル攻勢に影響されて、LAS系などの洗剤を求めるような組合員が次第に増えてきた場合に、そうした現状に追随した商品政策をとって、「組合員が求めている洗剤を置く」ことが「組合員の生活に貢献する」ことになる、とする奇妙な状況が生協内でも展開しやすくなってきたということである。
 日生協をはじめとする各生協の既存の洗剤政策が、はたして本当にコープとうきょうがいうような「評価・判断抜きに、ひとりよがりの価値基準」で、特定の商品、すなわちLAS系の洗剤を供給しない、ということであったのかどうか、さらに各地の生協が洗剤供給に関して、コープとうきょうなみの新しい路線を採用するべきかどうかについてはこのさい仔細に検証し直してみることが必要になったといえるだろう。
 コープとうきょうは今まではLAS系洗剤を取り扱わずに、「よりよい洗剤政策」を原則的に、忠実に守ってきた、 大生協としては非常に生協らしい生協であった。したがって、おそらく今回の政策転換にあたっては、当然相当な内部論議があったものと想像される。しかし、これまで洗剤が生協の基礎商品として、重視されてきた以上は、今回、あえて新規な政策に踏み切ったことについて、コープとうきょうは既存のLAS系洗剤などを配置してきた各生協とともに、その洗剤政策に関する論理の妥当性や実施上の問題点などについて、あらためて、ひろく内外からの批判を受けねばならなくなった。それは生協という消費者運動体として極めて当然なことであるといえるだろう。
 筆者はこれまで関連分野の研究者として、日生協はじめ多数の生協の環境、食品問題などの安全政策に協力してきた立場から、今回のコープとうきょうの、洗剤問題の基本にふれるような提言や政策転換にはとりわけ深い関心を持たされてきた。この件に関して生協の組合員や職員から見解を問われることも多かった。そのような経過の中でまとめることになったこの小論では、以上のような最近の情勢のもとで、洗剤の安全性、環境・生物影響に問題点を絞って、とくにコープとうきょうが供給を開始したLAS系洗剤と対照的に取り上げられることの多い石けんにも注意を払いながら、最終的に、既存の、生協のいわゆる「よりよい洗剤」路線の是非と洗剤政策のありかたについて再検証してみることにした。  洗剤は今日、家庭内で最も身近に使用される最大量の合成化学物質であり、しかも必須の日用品でもある。その膨大な消費に伴う、各種洗剤ごとの有用性、安全性、必要性と使用後の廃棄、排出時の環境、生物影響などが歴史的に幅広く、奥深く問題にされてきたことは十分に理解できる。
 特に単位面積当たりの洗剤の使用量が世界でもっとも多いとされている我が国において、今日まで洗剤の種類や利用のあり方をめぐって研究者、企業、消費者のあいだで激しい論争が行われてきたのも当然なことだった。21世紀にかけて、発展途上国の経済水準が次第に向上し、洗剤の使用量が激増するなかで、インフラ整備が不完全なまま人口の都市集中が進行しつつあるような趨勢のもとでは、洗剤問題が地球、地域環境の水質汚染、汚濁問題の一環として大きくクローズアップしてくる可能性がある。そうした事態に備えるためにも我が国での既往の洗剤問題との取り組みの経過においてえられた体験と教訓を役立てることが必要であると思われる。
 消費者、一般市民の日常的な洗濯、洗浄のあり方に関して、実際的にどのような洗剤を選択することが望ましいのか、ということについては、これまで種々検討されて来た。しかし、その場合に、「石けんか、合成洗剤か」というような2者択一的な取り扱いが、企業対消費者という、えてして対立的になりがちな戦後の社会的な構図の中でなされてきたために、さまざまな誤解が生じていたことも残念ながら否定できない事実であった。
本来、安全性の保持、環境保全という最終的な目的を達成するためには、さまざまな関連因子を科学的、総合的、客観的に評価して、地域的な実態や洗浄作業の実際に即して、「よりよい洗剤」と「よりよい使用法」が個別的、具体的に選択されるべきであったというのに、非常に硬直した論議と運動が、あたかも、石けん派と合成洗剤派の、相互の完全否定を目指した対立の形をとって行われてきたような印象を持たれてきたことも率直に反省せねばならない。
 その意味では、今回のコープとうきょうの政策転換は、あらためて洗剤そのものの安全性や環境影響に的を絞って具体的に論議することを容易にした点で評価出来るかもしれないだろう。そして単に生協だけのことではなく、LAS系の洗剤の是非をめぐる我が国の消費者のありかた如何にもひろく影響する問題としてこの小論が役立つことを希望する。
 (つづく)


 (11月10日記載)
 少なくとも、一部の生協の洗剤政策に関する限り、「スーパーも生協も同じなのね」といわれるようになりました。洗剤が生協にとって歴史的にどのような商品であったのか、を知る人にとって、なんと言う大きな変わり様なのか、と感じさせられます。
 花王やライオンなどの洗剤メーカーもきっと喜んで見ていることでしょう。
 少なくとも、何故、どのような論理で、根拠で、こうなったのか、について、環境や生態系の保全をひとしお大切にしようと学んできた生協の組合員たちが関心を持つのは当然です。
 かって、環境問題のさいたまコープなどと言われたところでも、LAS系洗剤を組合員に供給する政策に踏み切るかどうかが問われています。慎重に経過を見守りましょう。


 (11月7日記載)
 さいたまコープが長年の「より良い洗剤政策」を誤りであったと認めて、来年度から、花王やライオンのLAS系洗剤を組合員に供給する政策を採用する事についての検討を始めるとのことです。
 生協の洗剤運動は生協の環境保護活動の原点だと言われてきました.たくさんの先輩達が洗剤問題に関わってきました。それだけにコープとうきょうに引き続く首都圏生協であるさいたまコープのLAS容認政策への動向は注目を引きます。
 皆様もどうか関心をお持ちください。私は今、私がお送りした洗剤問題の総説についての同生協からのお返事を静かにお待ちしています。
 いずれ私の現時点での見解を発表する事にします。
 我が国の環境と生態系を守るために、どうか良い討論の機会が持てますように。


 待望の環境洗剤科学研究のホームページが10末には開設されます。URLはつぎのとおりです。
http://www.japan-rsdes.jp


せばまる合成洗剤への包囲網


藤原邦達(元合成洗剤研究会会長・医博)

今年の9月5日の新聞各紙には次のような記事が掲載されていた。
「「農薬の影響評価、水生生物も対象」――−環境省は4日、農薬取締法を改正し、農薬メーカーなどに、農地周辺に生息する水生生物への影響評価を義務付けることを決めた。これまでの基準は人間の健康の影響防止に重点がおかれていた。基準改正は農薬の使用が野生生物の減少につながった反省を踏まえたもので、メダカやホタルが生息できる環境の再生を目指す。環境省は生態系保護のためには従来の基準では不十分と判断し,メダカなど他の魚類やみじんこ、藻類への影響についても調べるようにメーカーなどに義務付けることにした。今年度中に詳細な基準を作成し、来年度から実施に移す考えだ。」
 ところで代表的な合成洗剤のLASは農薬ではないが、周知のように、メーカー側の研究者をふくむ学界の共通の理解では、河川などでの水中濃度が0,1ppm以上で水生生物に対して有害であるとされている。しかもわが国の大方の中小河川での実在汚染濃度はこれをはるかに越えており、したがって私はかねてから、環境省が生物環境保全のために、何らかの規制を行うことが必要であると主張してきた。生態系に対する影響といえば,アユを使った実験で、忌避性が見られたLASの水中濃度は0,1ppmどころか、その100分の1レベルの0,0015ppmであるとされており、これは近海域で、河口部からの放流水が相当に希釈された場所であってさえも、魚類が沿岸域に寄つきにくくなる可能性があることを示唆している。
 今回の環境省の決定は農薬についてのことであるが、従来人の健康に関しては「合成洗剤は通常使用濃度で問題はない」という見解を取って来た厚生労働省が、水生生物影響については、果たしてどのような対策をとることになるのかが注目される。
 国としては、農薬であれ、洗剤であれ、水生生物に対する悪影響があるものについては、同じ対策をとるべきであり、当然、法的規制の対象にするべきである。
 さきに通産省ではPRTR法を制定した。これは問題化学物質の生産や移動や排出を行なう場合には、企業に届出義務を負わせる、という法律であるが、その問題物質のリストの中にはLASが含まれていた。日常的にこれほど安易に使用されているLASがリストアップされているという事実があるということに私たちは改めて注目せねばならない。
 せっけんは生分解性のよい、洗浄力の強い洗剤である。BODは確かに大きいが、実際の下水、中小河川環境では微生物によって分解されて、一部の合成洗剤のように何時までも残留して生物影響を示す、ということはない。せっけんを使えば水環境はどぶ泥のようになる、などという一部洗剤メーカー側の宣伝はナンセンスである。
 以上のような、環境省が農薬について水生生物影響に関する規制を行うというニュースを、合成洗剤メーカー側の関係者はなんと聞くのであろうか。少なくともLASをふくむような、問題のある洗剤は直ちに止めるべきである。
 洗剤は農薬よりもはるかに消費量が多く、使用面積が広く、しかも住居地帯の周辺で安易に廃棄されている。化学物質として農薬などと同じ程度の魚毒性を示す場合でも、実際の生態学的影響のトータルははるかに甚大となる。このような化学物質が従来野放しにされてきたことは全く驚くべきことであった。
 科学的な真実に基づいた「合成洗剤の問題性」を国側もいよいよ無視できなくなろうとしている。これは確かにわが国の生態系の保護のために朗報であるといわねばならない。  新しい年を迎えた今、私たちは静かにこの問題のなりゆきを見守ろうではないか。




室内環境衛生の重要性

藤原邦達
人の環境は人の体内環境と体外環境に分類できる。そして体外環境は人の居住環境と地域環境、地球環境に分けられる。人は実際上の生活時間を室内と室外で過ごす。
人類の衣食住の生活環境がますます複雑さを加える21世紀の社会では、直接の生活の場である居住環境が人にとって異常なものとなりやすい。
最近は地球環境や地域環境の重要性が強調されるが、人の体内環境の保全に関わる健康保持のためには室内環境の重要性を軽視することはできない。その理由について以下の点を強調しておきたい。

1 人は、その生活時間の相当部分を外部環境とは物理的に隔離された室内ですごしている。いわゆるQOL(quolity of life)は室内環境条件に左右されるところが多い。
したがって、人の健康維持のためには、室内環境の質的状態を問題にしなければならない。 サラリーマン、自営業者、専業主婦、学生、学童など、職業別、あるいは高齢者、乳幼児などの年齢別の室外、室内生活時間を調査した統計があるか、労作別に呼吸する室内空気量、問題化学物質量(NOX、塵埃など)が室外と対比して計測できるか、など、この分野には調査研究を要する課題が多く残されている。

2 快適化を目的とした冷暖房設備の普及に伴う物理化学的な室内環境の異常化が健康に対してもたらす影響が問題になっている。
 冷房病その他、温度、湿度、等の環境条件の管理が不十分な場合が多くなっている。職場、家庭などでの環境衛生に留意せねばならない異常事例についての報告を引用することができる。

3 室内での暖房器具などの使用に伴う排気ガスによる、急性、慢性的な健康影響が問題になっている。
 灯油などの石油系燃料の燃焼装置である暖房器具が室内のNOXやCO濃度を異常に高めることについては調査事例が豊富にある。道路周辺で見られる濃度をはるかに上回る室内事例が多くみられる。またベンツピレン系の化学物質のように発癌性が問題になる物質が排出されることも懸念される。

4 密閉式の建築構造物が多くなっている。
 最近の建築物が必ずしも室内環境保持に留意した設計になっているとは限らない。企業や個人が配慮する必要があることは勿論であるが、将来的には建築基準に関する法律的な側面において室内環境を正常化するための配慮が加えられるべきである。
 室内燃焼ガスや建材などに起因するぜんそくなども問題になる。また室内環境の異常化によるダニに起因するアトピー等のアレルギー疾患(いわゆる乳幼児などのアトピー疾患の80%以上はダニアレルギ―であると言われる。)も重要である。密閉構造、コンクリート構造に起因する高温、多湿、換気不全に伴う結露現象や結果的におこってくるカビの発生などは日常的に認められている。カビの胞子に起因するアレルギーの発生についても留意する必要がある。いずれも健康面での影響を問題にせねばならない。とくに乳幼児期には留意する必要がある。
 また長期的に見て、冷暖房に慣れた体の抵抗力が失われる可能性についても配慮が必要である。
 空気清浄機の役割、機材の性能についても環境衛生学的な検討が必要である。

5 新建材には有害化学物質が気散するものがある。
 最近のシックハウス症候群問題のように、新建材には室内環境を異常化するホルムアルデヒドなどの有害化学物質を含むものがある。化学物質過敏症のような新しい課題が多数登場してきている。複合影響的な影響についても今後の課題になる。
 体質的に過敏な個体についての配慮も必要である。

6 火災等で有害化学物質が発生する場合がある。
 建材の種類、組成だけでなく、非常事態に即応できるための、室内構造その他についての危機管理的な環境衛生学的な配慮が必要になっている。

7 室内環境保全のための、暖房、冷房装置の多用や、交通機関の利用に伴うヒートアイランド現象が地域環境を異常化することが問題になっている。
8 室内構造的にベランダ、窓等の設計をどうするか、あるいは家具などの配置など、乳幼児などの安全性保持上の配慮が必要である。
 調理上の労作、生活上の動線の合理化,健常化にも課題が多い。
 NOXなどを吸収するといわれる観葉植物の効用なども問われている。

9 室内環境保全に関連する冷暖房、電化器具などの性能を検討する研究課題と取組まねばならない。
 電気、ガス機器メーカーにも室内環境衛生的な配慮が必要な時代になっている。

10 採光、照度、配色などについても快適性が要求される。精神的、心理的な影響がQOLに影響するところが大きい。

11 室内環境の保全は設計、建築の段階で相当程度まで配慮することが可能である。  地球環境についは個人として対処できる部分は、いわゆる4R(REDUCE、REUSE、RECYCLE、REFUSE)というような迂遠な方法しかないが室内環境の衛生的な保全は個人として相当程度まで直接的な対処が可能である。

12 家庭環境とは家庭と言う室内環境そのものであり。単に身体、健康的な側面だけでなく、心理的、精神的な人の健康保持にも大きな影響を及ぼす。
 子供たちの心身の健康管理のために、室内環境衛生学的な配慮は不可欠である。特に母親、父親、家族の責任が強く問われる局面であることを忘れてはならない。
 清掃、清潔と言ったマナーもまた関係することを強調したい。
 また室内環境保全に関する教育、学習の必要性も再確認したい。

室内環境の衛生的な保全については、建築学的な対応が社会学的、心理学的配慮とあいまって検討される必要があり、さらに、法律、行政、財政的な公的な対策を伴うものでなければならない。今後は衛生的環境基準にかなうものについては税務上の優遇策を講じるなどの措置が期待される。自動車の排気ガス規制クリヤー車に対する税制的優遇措置は室外環境保全のための措置であるが、人の生活現場としての室内環境の保全についても、同程度の、あるいはそれ以上の公的な配慮が行なわれるべきである。
いずれにしても、市民、生活者の室内環境衛生に関する意識向上と積極的な安全確保のための現時点での取り組みが待たれていることを強調しておきたい。
アメニティーとは単に地球環境的な概念であるとは限らない。気候風土に即した室内環境保全についても重要視されるべき概念であるということができるだろう。


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