2008年12月9日 第19号(通算234号)
『作業所だより』最新号より
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                           カラオケ忘年会の提唱者・Hさん。居眠り君のカメラに操作盤を持ったまま“ベ〜ッ”
主張/競争意識


 同じダウン症のタク君とK君は兄弟と間違えられるほどよく似ていますが全くの赤の他人。不幸なのは若いK君の方が少し上背があるのでお兄ちゃんに見られてしまう。タク君にとってはそれが癪の種。おまけにK君はタク先輩の仕事を頼みもしないのに自分がやろうとする。これもタク君には腹の立つ話。

 と、自然に二人の間には共働ではなく競争関係が生じてしまいます。追うのはK君ですから追われる立場のタク君は特に辛い立場。

 先週も出勤してきたタク君が来るなり腹痛を起こし吐いてしまいましたので帰ることになりました。お父さんが迎えに来られて帰りかけるタク君の肩に手を置いた店長が「後のことは心配せんでいいし、K君が君の仕事は全部やってくれるからな」と声をかけました。とたんにタク君ブスッとして帰って行きました。

 その週は最後まで休んでしまったのですが、タク君の代わりにやってくれているはずのK君に店長は「やっぱりタクでないとアカンわ。お前この仕事クビや!」今度はK君がブスッ・・・タク君が見たらニコニコしそうな状況が展開していました。

 大阪府知事が煽っている競争心を掻き立てることで学力を向上させるというのと違って、これは本当に自然発生的な競争心です。店長はそれを目の前にいる人には「お前はまだまだだ」と言いながら、その場にいない方をほめる形で煽り立てます。こういう競争心は切磋琢磨を生み出し、二人で伸びていくのでしょう。

 そうではない競争心も作業所にはあります。えんどう豆とかトウガラシなどの収穫は、小さなものを大量に採らねばならないから、熟しているかどうか見分けられる人みんなで畑に入って収穫作業をするのですが、みんながマイペースで丁寧に野菜を見分けながら取り組めばいいのに、これまた競争心が生まれてしまいます。「あの人は私よりたくさん採っている。負けたくはない」という他人との比較による競争心です。

 実はこれは困った事態を招くのです。未熟なのもお構いなしで採ってしまって分量だけを増やす結果になるからです。収穫量は少なくてもていねいに見分けて粒ぞろいを採ってくれることが大事なのに、上げ底みたいな収穫量を競い合う結果になります。テストで言えばカンニングしているようなもの。人としての成長にはつながりにくい競争だと言えるでしょう。

 競争意識や競争心を否定するつもりはありません。タク君とK君のような競争心はあらゆる意味で二人の成長につながるでしょう。しかし、絶えず他と自己を比較し焦りを募る競争は、心を傷つけ人をつぶします。

エピソード特集@


作業所で一日を一緒に過ごしているとゆかいなことや「おや?」と思わされる場面がよくあります。そういうことに出会うと、作業所のホームページに書き込むようにしています。年末を控えてやや記事枯れなので、そんなエピソードを特集します。

10月17日

「ありがとう」

 ダウン症の二人は仲がよいけど張り合い、いつもじゃれあっています。今日はK君がタク君の首にしていたタオルを取り上げ、上に放り投げたところ棚の裏側に落ちてしまいました。椅子によじ登っても取れないため、タク君が取ってくれと頼みに来ました。

 K君に「お前が先輩のタオルを取り上げてやったことなんやから、自分で解決しなさい。私には仕事があるから」と申し渡しておきました。何やら道具を持ってきてやっていましたが、ずいぶん時間が経ってから「取れた〜」と喜びの声が上がり、タク君が「ありがとう」といって受け取っているらしい声が聞こえました。

 店長がしみじみ「アリガトウ言うてるなあ」とポソリ。自分のクビにしていたタオルを取り上げられてやられたことなのに、何のこだわりもなく「ありがとう」と受け取るのですなあ・・・なんとなく感心してしまいました。

10月19日

「虫が入ってる!」

 水無瀬神宮秋祭りでラーメン屋をやっているときのこと。湯がきあがった麺にスープを入れトッピングにかかろうとしたHさん「アッ、虫が入ってる!」と大きな声。スタッフが黙ってその丼を引き上げてきました。


 私は「何も大きな声で言わんでもいいのに」と聞こえるようにブツブツと・・・とたんにスタッフの一人が「今の発言は正義やないなあ」「そうやそうや」とみんなが大爆笑。どうやら私は「正義発言」をすると思われているらしい。私は、小声でささやくように言ってほしかったなあと思ったのですがねえ。

10月21日

子どもやないか

 昼食をとりながらダウン症の二人が私たちに向かって楽しそうに報告。昨日K君の家にタク君が遊びに行ったのだそうです。休みにお互いを訪問して遊ぶという場面がめったにないものですから「へ〜っ」と感心しました。K君が冷たいお茶をだしてくれたということで、改めてお礼を言っていました

 で、「お前は一人で遊びに行ったのか?」と聞くと「お母さんと一緒やった」。思わず「あのな、20歳も過ぎた男は、友達の家には一人で行くものや。お母さんと一緒に行くのは子ども!」「そやかてなあ・・・」二人は顔を見合わせて慰めあっていました。まだまだ子どもですわい。

 もっとも後で聞くと、母親同士共通の知人が来られてタクのお母さん訪れるのについて行ったということらしいけど。

11月5日

ボクは白人?

 野菜の配達で学校回りをしながら、ラジオがアメリカの新大統領に黒人大統領が当選したと告げていました。居眠り君に「初めての黒人大統領なんやって、すごいなあ。君は黒人か白人かどっちやねん?」と聞きました。

 「うーん、白人やと思う」「そうか、それにしては色が黒いやないか。むしろオバマさんに近い色やぞ」「う〜ん、黒人かなあ?」

 同乗していたHさんにもたずねたけど、「どっちかわからへんわ」

 身近に外国人がいないから分からないのでしょうかねえ。我々は黄色人種であることを教えましたが、作業所の国際化はまだまだですわ。

11月12日

返事

 居眠り君がどんな用事なのか「あの〜、ちょっと店長」「なんや?」「あの〜〜〜」口が重い居眠り君、どう言おうかと考えて10秒・20秒・・・そのうち店長は「グゥ〜〜〜〜」と居眠りの真似。「ちょっと、店長寝んといてえや、なあ店長!」

 とたんに店長、カッと目を開いて「お前が居眠りしているとき、なんぼ声かけても寝るな言うても起きないやないか。なんでわしだけが起きなアカンねん」と言うなりまたまた「グゥ〜〜〜」

 我々は「ホンマやホンマや」と手を叩いて大喜び。居眠り君は仕方なく苦笑しながら居眠り中の店長に、しどろもどろの話しかけをしておりました。

11月13日

販売促進

 今作業所では来年のカレンダーを販売中です。利益は従業員のボーナスに充てますので、従業員にも「自分の問題として受け止めろ」と販売促進を訴えております。今日は居眠り君が奮発して自分で2本買いました。

 これで彼は義理を果たしたと思ったのか、みんなも自分のようにやるべきだと思ったのでしょう・・・昨夜はK君の家に電話をしました。K君が電話に出れば話にはなったのでしょうが、電話を受けたのはお父さん!そのままかまわずにお父さんに向かってカレンダーの“営業”をしたらしい。お父さんはびっくり!

 今日はK君宅から「もちろん買うつもりでおりましたが何かあったのでしょうか?」と作業所に電話があって苦笑するしかありませんでした。

 おまけに店長が配達に出かけて自分たちだけになると、留守番役の仲間に向かって大きな声で、まるでお説教のような“営業”をしておりました。

 まあホンマに安易なヤツですわ。

12月5日“分裂”忘年会


 このところ続けて料理屋で開いてきた忘年会でしたが、今年は各自が料理を作ってきて作業所に持ち寄ってやらないかという声が起こりました。以前にはそうしてやったことがあるから「それもいいな」ということになりました。

 すると、「障がい」者従業員から「自分たちは作れる料理もないし、話にも付いていけないから自分たちだけで高槻に出てカラオケで忘年会したい」という声が上がりました。「障がい」者たちだけで夜の巷に繰り出すことに少しは不安はあったものの、まあ、その気持ちも分かるなあということになり、今日び携帯電話もあることだし大丈夫だろうし、好きなほうを選んで参加するということでいいのじゃないかと、初めて忘年会を分裂してやることになりました。

 私がバイクを家に置きに帰って電車で再び作業所に戻るとき、作業所の従業員仲間が連れ立って水無瀬駅でにぎやかに乗車券を買っているところでした。「うまくやれよ」と声をかけて別れました。

 作業所の忘年会は・・・参加者13人、山菜おこわや色々な具の入ったグラタン風の料理、鯛のアラ炊きなどの単品と、熱した鉄板と出汁の入った鍋が用意されそれぞれが持ち寄った食材を煮たり焼いたりして食べました。

 カラオケの方とはHさんとテレビ電話で交流しようと練習もしておいたのですが、いざかけるとあわてるのか、カラオケの部屋の様子がうまく写らず空振りに終わりました。しかし、にぎやかな様子が電話を通して聞こえてきたし、順調にいっているらしいことは想像できました。カラオケの参加者は9名で、中には犬猿の仲みたいな組み合わせもあったのですが、席を離して座ったから問題はおこってないとのこと。ただし、広い部屋が取れず、狭い部屋に9人が詰め込まれたために身動きがとりにくいというような話をしてくれました。ちょっぴり不安な気持ちもあったのですが、電話の情報で安心しました。

 作業所の持ち寄り忘年会はいつもの通りにぎやかに、最終まで残った人達は日付が変わってから後片付けをして解散しました。

 カラオケ忘年会は6時から9時までで、精算すると25000円あまり。会計係の居眠り君は自分が食べることに一生懸命になって誰が何を頼んだか一切不明。参加者たちも「自分もたくさん食べたから合計金額を人数で割ってもよいということになり、楽な会計係になったそうです。

 休みが明けて、カラオケ参加者にたずねると「とても楽しかった」「これからは始めに3000円ほど集めて、精算してお金を返すやり方がよい」などと気に入ったようで、これからもやりそうな雰囲気でした。(右側の写真は歌を探すF君・・・居眠り君撮影)

      


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