♪レコーディングに使用した楽器について
◎「モーツァルトの光と影」
☆Ferdinando Hofmann(c1790)渡邊順生氏所蔵
フェルディナンド・ホフマン(1756−1829)
1784年にウィーンでマイスターになり、精力的にフォルテピアノを作っていた。その姿勢は創意工夫に富んでおり当時の偉大な楽器製作家シュタインの楽器に独自の工夫をくわえている。ホフマンのフォルテピアノは音色の美しさでも群を抜いており、シュタインのピアノより力強くしかも柔らかく広がりがあり、ヴァルターよりは軽やかである。
まさにモーツァルト時代のフォルテピアノと言うのにぴったりの、ホフマンが製作した1780年代の半ばから後半にかけての数台のうち6台は現在も残っており非常に貴重な資料であると共に、この時期のウィーンのピアノの音色に対する好みがピアノのアクション機構とともに伝えられている。(「チェンバロ・フォルテピアノ」渡邊順生著より)
◎「モーツァルト・フォルテピアノ・デュオ」
☆Ferdinando Hofmann(c1790、c1795)―フェルディナンド・ホフマンのタイプの異なる2台―
ホフマンはウィーンのピアノ製作家の中では特に優れた一人で1808年にはウィーンの「鍵盤楽器製作者組合」の長となり、1812年には「宮廷付き鍵盤楽器製作家」の称号が与えられた。
当時のウィーンのフォルテピアノには二つのタイプがあった。
第1のタイプは反応が極めて敏感で透明感のあるはっきりした音色を持っている。シュタインのピアノはこのタイプの典型で、ホフマン(1790年の方)はこのタイプに属する。
第2は響版の反応の敏感さを少し抑えて弱音を出しやすくしたピアノである。音色は第1のタイプより少し曇った感じだが、聞こえるか聞こえぬかの瀬戸際のようなぎりぎりの弱音が出せるので、ダイナミック・レンジが広くなる。
このCDでは18世紀のウィーンのピアノの2つのタイプの音色を比較可能な形で収録しているという点で極めて資料価値の高いものである。(CDのブックレットより)
◎ 「J.S.バッハ イタリア協奏曲、フランス風序曲、2台のチェンバロのための協奏曲他」
このCDの演奏には3台のフランス様式の二段鍵盤のチェンバロが使用されている。
☆アンソニー・サイデイ:パリ1996年〔モデル:アンドレアス・ルッカース作のチェンバロ(アントワープ、1636年)をパリのアンリ・エムシュが1763年に拡大改造したもの〕
☆デヴィッド・レイ:パリ〔モデル:フランソワ・エティエンヌ・ブランシェ、パリ1733年〕
☆ マルティン・スコヴロネック:ブレーメン1990年〔モデル:ニコラ・ルフェーブル、ルーアン、1755年〕
サイデイは1942年に生まれたイギリスの製作家でパリに長く住むうちに17世紀〜18世紀のオリジナルのチェンバロの魅力にとりつかれ、最近は綿密なレプリカを長時間かけて作っている。彼が楽器のモデルとして選ぶのは、自ら修復したか、或いは自分の工房で丹念に調べ上げた楽器のみである。彼は単に17〜18世紀のモデルに忠実なだけではなく、オリジナルの楽器の木目の間にまで製作者の製作思想を読み取ろうとするような徹底した製作姿勢には、余人の追随を許さないものがある。
デイヴィッド・レイはアメリカ人だが長い間パリでチェンバロ修復家ユベール・ベダールのもとでアシスタントを務めた。レイは1733年のブランシェのチェンバロをコピーした際、オリジナルで鳥の絵が描かれていたところも全てサルの絵にしたので,「モンキーチェンバロ」と呼ばれている。
スコヴロネックは現代の製作家としては、殆ど伝説的といって良いほどの名声を獲得した。
1950年代から、歴史的チェンバロの製作を始め,レオンハルトのために1962年に製作した楽器が広く知られるようになり、ピーク時はウエイティングリストが30年に達したと言われる。彼の製作姿勢は極めて芸術家的で、素材である木の特性を観察しながら、インスピレーションが湧くとその場で楽器のデザインを変更してしまうような、いわば即興的な作り方をする。彼は決してモデルとしたオリジナルの正確なレプリカは作らないが、それは、楽器は生き物であり、生き物はコピーできないと言う彼の信条に基づくものだ。
彼の楽器には彼自身のパーソナリティが色濃く顕れているが、それはオリジナルの楽器についての豊富な知識と経験に支えられてきたものである。
この3人の製作家は現代のチェンバロ製作において、特別な位置を占める人たちである。
彼らの作るチェンバロが、楽器―すなわち音楽をするための道具として極めて優れていると言うだけではない。彼らは、いずれも、17〜18世紀に製作されたチェンバロの調査、研究、修復などを通じて、オリジナルのチェンバロについての深い知識と経験を持ち、彼らの作ったチェンバロの音からは、モデルとしたオリジナルの製作者たちの意図,その背景となった時代が見えてくる。それは丁度、優れた演奏家の演奏から、作品の真実と演奏家の個性の緊密な結びつきが聞こえてくるのとよく似ている。(CDのブックレットより)
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