2人の捜査FILE
〜刑事I&YOU〜
五月女雅志
FILE3 誘拐・・・殺人
昼下がりの刑事部屋。
追う事件もなく他の刑事たちは事務処理や昼食のため部屋を離れていた。
食事を済ませて戻った愛が、優と堀江主任にコーヒーを入れる。
入り口のドアが開く。廊下を気にするように背後を見ながら制服の男が入ってくる。
「・・・?」
そのコミカルな動きに愛&優が首をかしげる。地域課の主任だ。
「堀江さん、ちょっと来てくれませんか?」
「どうしました?」
「塚本と松岡も・・・」
地域課主任の言葉に3人が立ち上がる。4人で部屋から出る。
地域課の主任はキョロキョロと周囲を見ながら3人をエスコートする。
山崎通商(株)の看板が出ている都内のビル。
「私は社長秘書の大島でございます。」
男が電話に話す。
「社長は重要な会議に出席していまして・・・」
大島の表情が変わる。
「他の業者がうちを名指ししたようです。」
会議室、初老の紳士が話す。
「地検の捜査が入るのは避けられないようです。」
「社長の責任は避けられないでしょう。」
別の男たちが話す。
「私は構わない・・・先生には・・・」
上座に位置する社長が男たちに話す。
「問題は吉岡さんですよ、彼は社長の行動を知りすぎています。
人柄から考えると地検の取調べに耐えられないかもしれません。」
出席者の1人が話す。
「失礼します。」
大島秘書が会議室に入る。
「どこからだ?緊急の電話とは?」
社長が大島秘書と社長室に入る。
「もしもし・・・」
「ヤマザキサンカ?」
「誰だ?」
電子処理されたロボットのような相手の言葉に山崎社長が尋ねる。
「カスミサンヲアズカッタ。モチロン、アナタノクルマノドライバー、ヨシオカモイッショダ。」
「なに?」
社長が声を上げる。
キョロキョロと落ち着き無く周囲を見る、地域課の主任の後ろから愛&優と堀江主任が廊下を歩く。
「ここ・・・」
地域課の主任が第一応接室のドアを開ける。3人が応接室に入ると言葉も無く地域課主任がドアを閉める。
「署長!」
優が声を出す。制服姿の署長がスーツの男と応接セットを囲んでいた。
「座ってくれ。」
署長が3人にソファーを勧める。
「誘拐というわけですか?」
「はい、社長は『警察には届けない』とおっしゃっていました。今は自宅に帰っていらっしゃいます。
それは、犯人の指示でもあるようなのですが・・・」
堀江主任の言葉に男が答える。
「誘拐されたのは社長のご令嬢ですね。」
「はい。」
「大島さん、あなたは社長の指示に反してこちらにいらしたわけですが?」
「かすみさん・・・彼女とは結婚を前提としたお付き合いをしています。
社長はご存知ではないのですが・・・」
「・・・」
大島秘書の話に堀江主任、愛&優がうなずく。
沈黙が部屋を包み込む。
「大島さんはこれからどうされますか?」
「お宅に行くつもりですが・・・」
「山崎さんの説得をお願いします。我々もすぐお邪魔します。」
「わかりました。よろしくお願いします。」
堀江主任の言葉に大島秘書が頭を下げて応接室から出て行く。
「どうする?大きくは動けない。」
署長が3人に尋ねる。
「成人を2人誘拐した。計画的な複数犯ですね。」
「自宅を犯人が監視していることも考えられますね。」
優&愛が意見を口にする。
「我々3人は山崎社長の自宅に入ります。問題は山崎氏の出方ですね。いろいろと噂のある人物ですから・・・」
「大臣経験者への利益供与問題・・・か?」
堀江主任の言葉に署長が答える。
「他の人員を集めておこう、古田刑事に指揮を任せる。マスコミとの報道協定も手配しよう。
くれぐれも犯人に気づかれるな。」
「了解。」
署長の指示に堀江主任が答える。
3人が地下駐車場に入る。堀江主任はスーツケースを手に白い小型セダンに乗り込む。
「ご令嬢のご友人だからね。」
「私は大学教授のご令嬢だよ。そんなにセレブを気取る必要はないよ。」
「・・・そうでした。」
優の返答に愛が苦笑する。
「けど・・・なにか変だよね。」
「ちょっとね・・・」
優の言葉に愛が同意する、堀江主任の車に続いて愛が105号を発進させる。
スーツケースを手にした堀江主任が出入りのセールスマンのように山崎邸に入る。
105号車が山崎邸の正面に止まる。デパートの紙包みを持つ優を愛がエスコートして山崎邸へと入る。
「こちらの女性がかすみさんですね。」
「あぁ・・・」
堀江主任の問いかけに山崎氏が答える。
オートバイを囲んでスーツ姿の山崎氏とライディングスーツの若い男女が笑顔で並んでいる。
「もう一方は?」
「息子です。」
「卓也君、21歳です。」
山崎社長の言葉を大島秘書が補足する。
「今日、かすみさんは午前中に会社に来たわけですね。」
「かすみの車を卓也が使っていまして・・・かすみも車が必要だと言うので、吉岡君を会社に訪ねたはずです。
私は朝聞いていて知っていたので会ってはいません。」
「卓也君は友人と旅行に、かすみさんはご友人のパーティーで横浜のホテルに行かれることになっていました。」
堀江主任の問いに山崎社長と大島秘書が答える。
「こちらの方が吉岡運転手ですね。」
「我が社に勤めてもらって15年近くになります。」
別の写真、白い外国製の高級車の前に初老の男性が笑顔で写っている。
「・・・」
社長が一瞬大島秘書をにらむ。
「・・・」
大島秘書がリビングから出て行く。
「・・・」
堀江主任が優を見る。優が会釈をして大島を追う。
大島が廊下で深呼吸をする。
「・・・」
「大島さん。」
優が声をかける。
「少しいいですか?」
「なにか?」
「かすみさんと社長さん、かすみさんと弟の卓也さん、社長さんと・・・」
「家族の仲ですか?」
「かすみさんと社長は一卵性親子と言われるほどの仲でした。
卓也君とは良くバイクツーリングに行っていますからね。
社長と卓也君の仲も一般的な家庭よりもいいでしょう。
社長はああいう方ですが、過保護なほどお2人を可愛がっています。
奥様を4年前に亡くされてからはとくに・・・」
大島秘書の話に優がうなずく。
「誘拐は告訴を必要とする申告犯罪ではありません。
警察として情報を入手したからには、行動しないわけにはいかないのです。」
「帰れとは言いませんが、協力は拒否します。」
堀江主任の言葉に山崎氏が答える。
「娘の命のためであれば、金などおしくはありません。
現金の受け取りに犯人が現れても、娘の無事が確認されるまでは、表立って動かないで頂きたい。」
「わかりました。」
山崎氏の言葉に堀江主任が同意する。
リビングの電話が呼び出される。愛が録音装置のスイッチを入れる。
「逆探知お願いします。」
優が携帯電話にささやく。
「・・・」
堀江主任がうなずく。
「もしもし、山崎です。」
山崎氏が受話器を手にする。
「オタクノ、リビングニ、カザッテアル、レネノエヲ、
トウアヒャッカテンノ、カミブクロニイレ、
16ジニ、オダイバノ、メガミゾウマエノ、ヒロバニコイ。
シャチョウヒトリデ・・・ケイタイデンワヲワスレルナ・・・」
「かすみは無事か?」
「キガイハ、クワエテイナイ。」
電子音のような機械的な声がリビングに響く。
「声を・・・」
「・・・」
社長の言葉を無視して相手が電話を切る。
「レネの絵?」
「あの少女像のことでしょう。」
堀江主任の問いに山崎社長が壁の絵を指差す。小ぶりな少女の絵が額に入っている。
「バブル期に横浜のギャラリーで購入しました。当時は2億円ほどしましたが・・・
現在でも1億円前後の価値があるでしょう。」
「1億。」
社長の説明に優が声を出す。
「わかった、君はそこに残り、現場には塚本と松岡を送ってくれ。絵画に詳しい捜査員を現地に応援に送る。」
「了解。」
署長の指示に堀江主任が答える。
大型の紙袋に少女像が額ごと入れられる。
愛と優が105号に乗り込む、愛が車を出す。
少し間を置いて山崎社長が紙袋を手に出て来る。
「もしもし・・・」
署長が電話をかける。古田・高橋・・・刑事たちがその様子を見守る。
山崎氏を乗せたタクシーが女神像のあるプリンセスガーデンに止まる。
タクシーを降りた山崎氏が女神像のある広場へと向かう。
105号が路肩に停車する。
助手席の優がデジタルカメラを手に車を降りようとした時、携帯電話の着信メロディーが流れ始めた。
「はい、携帯塚本。」
「警視庁刑事課美術品盗犯担当の金田です。
私は今、山崎氏の左側15メートル。白い上着の女性と一緒にいます。青い上着を着ています。」
優が相手の言葉に周囲を見る。
山崎社長から少し離れたベンチに白い上着の女性と青いジャンバーの男が座っている。
男の方は携帯電話を手にしている。
「私の逆サイド、赤い野球帽と、青い封筒の手にした背広の青年が私の部下です。
それと、ここを見渡せるビルに2人配置しています。塚本さんは、そのまま車で待機していてください。」
「了解。」
金田刑事の指示に優が答える。
ホテルのロビー、和田刑事が携帯電話を手にする。
「わかった。」
署の会議室、高橋刑事が電話を切る。
「横浜に送った和田と清水からです。
かすみさんが出席を予定していたパーティーは、
横浜アジアホテルの一室で、18時ごろから始まる予定だそうです。
学生時代の友人の集まりで、出席者は10名前後だそうです。」
高橋刑事が報告する。
「出席予定者を一通り調べてくれ。」
「了解。」
署長の指示に刑事たちが動き出す。
女神像前に立つ山崎氏あ携帯電話を取り出す。
「着信!」
「・・・」
愛の言葉に優がうなずく。
社長が近くのベンチへと近づく。
ベンチに座る時、それまで抱えるように手にしていた、絵の入った紙袋をベンチの下に滑り込ませる。
社長は周囲を見るとゆっくりと立ち上がる。絵はベンチの下に置かれたままだ。
社長が座っていたベンチに2人連れらしい女の子が座る。
「すいません。」
メガネをかけた男が女の子に声をかける。
「ベンチの下にデパートの袋はありませんか?私の荷物なのですが・・・」
「えっ・・・あっ・・・」
女の子が男に紙袋を手渡す。
「人質の安全。」
「わかっている。」
愛の言葉に優が答える、2人が車から降りるのと同時に金田刑事たちも行動を開始する。
人ごみの中を絵を持った男が歩く。後を追う愛&優に金田刑事が追いつく。
金田刑事と同行の女性刑事が軽く愛&優に会釈をする。4人が左右に分かれる。
男がショッピングモールへと入る。
「モールの裏手に2人回ってくれ。」
金田刑事が携帯電話に指示を出す。
モールに出店している飲食店の前に何列かの行列が出来ている。男の背中はその間に消えた。
愛&優が小走りで行列に駆け寄る。男の姿は見えなくなっていた。
ショッピングモールの中心にあるインフォメーションセンター。愛&優が館内のモニター映像を見る。
「どうだ?」
「見つかりません。着替えをして箱抜けしたようです。」
金田刑事が部下と話し合う。
江西警察署、
「申し訳ありません。」
「あの人手の中での尾行は難しい。気にするな・・・」
頭を下げる優に署長が答える。
「似顔絵はできないか?」
「誰も正面から見ることが出来ませんでした。」
堀江主任の問いに愛が答える。
「犯人からの連絡も無い。」
堀江主任がつぶやく。
山崎邸、山崎氏がソファーに座って電話を見つめる。
少し離れた所に堀江主任の交代した高橋&三輪刑事がいる。
「大島・・・」
「はい。」
山崎氏が大島秘書を呼ぶ。
「何故“あの絵だ”?」
「さぁ・・・」
山崎氏の問いに大島秘書が答える。
「私は休む、君も休んでくれ・・・刑事さんにはコーヒーを・・・」
「わかりました。」
立ち上がる山崎氏の言葉に大島秘書が答える。
翌朝、赤い外国製の小型車が山崎邸の前に止まる。
「姉さんが・・・」
青年がリビングに飛び込んでくる。
「落ち着いて・・・卓也君。」
青年に大島秘書が声をかける。
パトカーが湖畔を走り抜ける。岸辺に人々が集まっている。パトカーがその後ろに止まる。
クレーン車が品川NOの黒い外国製高級車を湖底から引き上げる。制服警官が車内を調べる。
「助手席に人がいる。」
警官の1人が声を出す。
刑事部屋の電話が呼び出されて優が受話器を取る。
「はい堀江班です・・・そうです・・・えっ?」
優が保留ボタンを押して受話器を置く。
「主任、山梨県警からです。
川原湖で水中に転落した山崎氏の車が発見されて、
車内から男性・・・吉岡運転手と思われる遺体が・・・」
「・・・」
優の報告に刑事部屋に沈黙が広がる。
「お電話代わりました・・・主任の堀江です。」
相手の話を聞く堀江主任の表情が厳しいものへと変わっていく。
「湖畔から滑り込むように湖に沈められた車の助手席で、男性が死んでいた。
県警は睡眠薬のようなもので眠っている被害者を、助手席に乗せて車を沈めたと考えているようだ。」
「他殺ですね。」
「・・・」
堀江主任の説明に古田刑事が確認をする。堀江主任がうなずく。
「和田、清水。現地に向かってくれ。」
「了解。」
堀江主任の指示に2人が答える。
海辺のファミリーレストラン、その前には国道が通っている。
「いらっ・・・」
店に入った人影を出迎えたウェイトレスが絶句する。
乱れたロングへヤーの女性、服は汚れていて足元がふらついている。
「電話を貸してください。」
女性が声を出す。
和田&清水刑事が出張の準備をしている刑事部屋、電話の呼び出しに愛が受話器を取る。
「はい、堀江班・・・高橋さん、ご苦労様です・・・えっ、山崎かすみさんから自宅に電話?」
愛の言葉に刑事たちの動きが止まる。
105号が千葉県警のパトカーの先導を受けて海岸線を走る。小さな医院の前に2台が止まる。
「江西署の松岡です。」
「塚本です。」
「どうぞ・・・」
制服警官が入り口をガードする病室に2人が入る。
「警察の方ですか?」
「江西署、組織犯罪対策課・・・」
「刑事課と同じです。」
かすみの問いかけに愛と優が答える。
「何ヶ所か擦り傷は認められますが、医学的な面では問題はありません。
落ち着いてから専門家のカウンセリングを受けていただく必要があるでしょう・・・
今日は、自宅に帰って休養されることをお勧めします。
病院のベットより、家族と一緒に過ごす方が精神的にもいいでしょう。」
「・・・」
優が医師の話を聞く。
ベッドサイド、カーテンの向こうでかすみが着替えをしている。
愛がベッドに置かれる服をビニール袋に入れていく。
「この洋服と下着は、証拠品としてお預かりします。」
「わかりました。」
愛の言葉にかすみが答える。
「・・・」
かすみの下着を愛が見る。不審なところのないきれいな下着。
「なにか?」
「いいえ・・・」
かすみの問いかけに愛が答える。
「・・・では今日は失礼いたします。」
「君にも迷惑をかけた。」
「吉岡さんの方には明日から・・・」
「頼む。」
大島秘書が山崎氏と話し合う。大島秘書が山崎邸から出て行く。
105号の後部座席に優とかすみ、県警の刑事が乗り込む。愛が運転席に県警の刑事が助手席に乗り込む。
「ところで、吉岡さんは?」
「・・・」
かすみが優に尋ねる。優や他の刑事たちは答えることが出来ない。
「まさか?」
かすみが“状況”を理解したかのようにつぶやく。
105号車が山崎邸の前に止まる。
「かすみ・・・」
「姉さん。」
「・・・」
出迎える山崎氏と卓也を見て、かすみが安心したかのように笑みを見せる。
「パーティーに持っていくプレゼントを買って、
デパートの地下駐車場で吉岡さんが待っている車へと向かいました。
その途中で、フルフェイスのヘルメットをした2人組に襲われました。ナイフで脅されて、車に・・・」
「車?」
「犯人の車、目隠しをされて3時間ほど・・・廃墟のようなところに連れて行かれて、手には手錠を・・・」
「車は?」
「ワゴン車のようでした。」
「犯人は2人とも一緒でしたか?」
「廃墟では1人のようでした。もう1人は吉岡さんとうちの車を・・・
途中、『逃げようとしたら、運転手の命はない』と脅されました。」
リビングでかすみが愛&優に話す。
「食事とトイレは?」
「食事はでませんでした。トイレは、犯人が入り口まで案内してくれて、手錠と目隠しを外してくれました。」
「そう・・・トイレに行けたのね。」
「はい。」
愛の問いにかすみが答える。
「その廃墟の場所はわかる?」
「最後に車に乗せられたのは15分ほどでした。トイレに入ったときに外が・・・」
「何がみえました。」
「少し高台の斜面のようで、右手に灯台と左手に海、海沿いに道路が見えました。」
「すると・・・」
優がペンを取り出す。
右側に灯台、左手に波を書く。
「こういう配置で見えた?」
「はい、灯台を見下ろすかたちでした。」
「海の見える家か・・・」
かすみの証言を聞いて愛がうなずく。
「犯人と別れた時は?」
かすみに愛が尋ねる。
「ワゴン車で送られて途中で降ろされました、さっき言ったとおり、廃墟から15分くらい。
車を降りたときに『200数えるまで目隠しを外すな』と言われました。」
「目隠しを外したときには車はいなかった。」
「はい。そこから10分ほど国道沿いを歩いてあのファミリーレストランに・・・」
「・・・」
愛と優がうなずきあう。
105号が入る。
「廃墟のトイレきれいかな?」
「どうしたの?」
「気にならない?」
「綺麗な下着・・・」
ハンドルを握る愛と優が話し合う。
刑事部屋。
「例のレネの絵のことですが、、山崎氏に絵を販売した画廊・・・分裂して何人かの社員が独立したそうです。」
堀江主任に金田刑事が話す。
「絵の価値のわかる人たちですね・・・探りをいれてみてください。」
「わかりました。」
堀江主任に金田刑事が答える。
愛&優が部屋に入る。
「かすみさんが監禁されていた場所の件は?」
「明日、県警が付近の一斉捜査をするそうだ、悪いが合流して参加してくれ。」
「了解・・・早朝出勤ですね。」
優・堀江主任、愛が話し合う。
古田&磯部刑事が部屋に入る。
「殺された吉岡運転手のことですが・・・」
「なにかわかりましたか?」
古田刑事に堀江主任が答える。
「吉岡運転手は62歳。タクシー/ハイヤーのドライバーを15年以上務めて、
13年前から山崎氏の自家用車の運転手になっています。
肩書きとしては大島さんと同じ総務課秘書係だそうです。」
「山崎氏は運転免許を所持していましたが、10年ほど前に書き換えを行わず失効になっています。
吉岡運転手はもともと出入りのハイヤー会社のドライバーだったそうですが、
人柄を社長が信頼して、自分のドライバーに雇用したようです。」
磯部&古田刑事が報告する。
堀江主任のデスクの電話が呼び出される。
「堀江班・・・清水か?」
堀江主任が電話のフックボタンを押す。
「詳しいことはFAXで送りますが、吉岡運転手の検死報告が出ました。
死亡推定時刻、昨夜20時から22時前後。死因は水死です。死亡時、睡眠導入剤を服用していたようです。」
「睡眠薬か?」
「胃にクスリが残っていました。服用後数時間を経過していたようです。
クスリは医師が処方する一般的なもので、流通量が多く入手した人物の特定は難しいようです。」
「わかった、引き続き捜査を続けてくれ。」
「了解。」
堀江主任が電話を切る。
三輪刑事が部屋に入って来る。
「主任!」
「どうした?」
興奮している三輪刑事に堀江主任が尋ねる。
「山崎氏の周辺から聞き込んだのですが、吉岡運転手は近く、地検の聴取を受ける予定だったようです。」
「どういうことだ?」
「例の利益供与の本格的な捜査に着手する。
吉岡運転手は日頃、山崎氏と行動を共にしていますから、その取引に同行していた可能性が高い。
そして、真面目な性格の吉岡運転手が口を割る可能性が山崎氏の周辺で噂になっていた。
高橋さんは、確認を取っています。」
「・・・」
三輪刑事の報告に刑事たちがうなずく。
影が建物の室内に油らしきものをまく、最後に火の着いた布を床に投げ捨てる、床から炎が上がる。
105号が警察署に入る。
「実は今日の1時頃のことなのですが、情報と合致する廃屋になっている別荘が不審火で燃えたそうです。」
「放火?」
「半焼だったそうですが・・・最初にそこに行って見ようと思うのですが・・・」
「お願いします。」
現地の刑事の言葉に愛&優が答える。
黒い覆面パトカーと105号が山道へと入り、雑木林を抜ける。消防車やパトカーが止まる一角に2台が止まる。
「・・・」
焼け跡に愛&優が立つ、骨組みを残して中はほとんど燃え尽きていた。
「・・・!」
トイレの個室に愛が気がつく、
「・・・」
優がそこへと近寄る愛が続く。
「ここだね。」
「灯台・・・海・・・国道・・・」
優の言葉に愛が答える。
「塚本さん、松岡さん。」
案内をしてくれた刑事が2人に駆け寄る。
「リビングと思われる焼け跡にこれが・・・」
刑事の手には手錠があった。
「ここの所有者は?」
「持ち主は10年ほど前に亡くなったそうです。
相続した息子さんが不動産会社に売却したそうですが、
買い手がつかずに近く、周囲のほかの土地と一緒に再分譲する予定だったそうです。
その工事が始まれば取り壊される予定だったそうです。」
愛の問いに刑事が答える。
アパートの一室、
「しかし、あの人はなにを・・・こっちは・・・」
男が誰かに背中を向ける。テーブルの上にレネの少女像が置かれている。
影が男の高頭部に・・・
ライターの炎が少女像に・・・炎が上がる。
愛&優が刑事部屋に入る。
「証拠は灰か?」
「いくつか指紋が採取されたそうです。」
堀江主任の問いに優が答える。
「堀江主任。」
金田刑事が入ってくる。
「例の画廊の件ですが、昨年の春にオーナーが変わり、
新しいオーナーの方針に反発した社員が数人退職したそうです。
その中に一人なのですが、以前盗品の売買に関わって逮捕された人物がいます。」
「盗品の売買ですか・・・?」
「『盗品とは知らなかった』ということで、処分保留になっています。
飯田という男で、元暴走族の変り種だそうですが・・・
詐欺まがいのセールスをしていたという情報もあります。」
「その男も含め、捜査を進めてください。」
「わかりました。」
金田刑事が部屋から出て行く。
数時間後、愛がカップにコーヒーを注ぐ、優が古田刑事にカップを手渡す。
FAXが動き出し受信をスタートさせる、同時に堀江主任のデスクの電話が呼び出される。
「はい、堀江班・・・受信中です。山崎かすみの指紋のほかに、飯田 徹、前科1犯の指紋?」
堀江主任が受話器に尋ねる。
届いたFAXを三輪刑事が堀江主任に手渡す。
「飯田という男は、山崎氏の関係者の1人です・・・ありがとうございました。」
堀江主任が電話を切る。
「画廊の飯田ですか?」
「そうだ・・・金田さんを呼び出してくれ。」
古田刑事の問いかけに堀江主任が答える。指示を受けて磯部刑事が受話器を手にする。
「飯田のアパートで・・・了解。」
金田刑事が携帯電話に答える。
「重要参考人だが、犯人だとすると1人を殺害し、証拠隠滅を放火で図った凶悪犯だ。注意してくれ。」
「了解。」
堀江主任の指示に、代表する形で高橋刑事が答える。
地下駐車場、刑事たちが覆面パトカーに乗り込む、愛&優も105号に乗り込む。
パトカーが次々と発進する。
「犯人は、1人では無いよね・・・」
愛が気がついたようにつぶやく。
「かすみさんと一緒にいて監視していたのが飯田でしょう。
絵を受け取りに現れた男・・・川中湖で吉岡運転手を殺害した人物・・・
受け取りと殺しは時間的には1人でもできるかな?」
「飯田が見張り?」
「どういう意味。」
「受け取った絵の真贋を見分けられるのは飯田だよ。」
「・・・そうか・・・」
愛と優が話し合う。
古いアパートの周囲に次々と覆面パトカーが停車する。先行している車から金田刑事が降りる。
「妙です。灯りは消えていますがTVの音が聞こえます。
何度か呼び出していますが、反応はありません。」
「突入しましょう。」
堀江主任を中心に集まった刑事たちに金田刑事が報告を受け、堀江主任がすぐに決断を下す。
「古田さん、高橋・・・裏手、塚本、松岡は正面。」
「了解。」
堀江主任の指示に刑事たちが動く。
アパートの1階、一番奥の部屋。
「明日はお客様謝恩セール!」
暗い部屋の中からTVCMの音が聞こえる。
金田刑事がマスターキーで部屋のロックを解除する。愛がドアを開け、優と堀江主任が部屋に飛び込む。
「警察だ!」
堀江主任が声を出す。
「・・・!」
かすかに異臭が鼻に入って来る。
「主任?」
「塚本、灯り!」
優が壁のスイッチを操作する。
「・・・!」
男が頭から血を流して倒れている。
「・・・」
脈を確認した堀江主任が首を左右に振る。
パトカーが次々と現場に到着する。鑑識課員が写真を撮り始める。
愛と優が床に落ちている半分が焼けている絵を見る。
「時価数千万円の絵。」
「なぜ?」
「違いますよ。」
愛と優の言葉に絵を確認していた金田刑事が意外な言葉を口にする。
「金田さん・・・どういうことです。」
古田刑事が金田刑事に尋ねる。
「レネは19世紀末から20世紀初頭に活躍した画家です。それにしては、紙も絵の具も新しい。」
「ニセモノ?」
金田刑事の説明に優が声を出す。
「たぶん、山崎氏のリビングに飾られていて、身代金の代わりに誘拐犯に渡された絵、
という意味では本物でしょう。」
「どういうことです?」
「全ては詳しく鑑定してみてからです。」
愛の問いかけに金田刑事が答える。
誘拐事件と2件の殺人事件の捜査本部、翌日。
「飯田の死亡推定時刻は昨日の午前8時から10時の間です。」
「死因は頭部強打によるくも膜下出血のようです、ハンマーのようなもので、
十数回殴打されたものと推測されます。」
古田&磯部刑事が報告する。
「今のところ、目撃者の情報はありません。」
「飯田が勤めていた横浜の画廊を退職したのは2ヶ月前ですが、
その後の彼の行動には不明なところが多いようです。」
「自分の店を作ろうとしていたようですが・・・」
「スポンサーを探していたようです。」
高橋・三輪・愛・優の順で報告する。
「発見された少女像ですが、成功に模写された物でした。製作されたのはこの5年以内のようです。」
「すると、山崎氏がわざわざニセモノを用意していたということですか?」
金田刑事の報告に署長が尋ねる。
「それは推測ですが・・・」
金田主任がホワイトボードの前に立つ。
「山崎社長は15年ほど前、飯田が勤務していた画廊から少女像を購入した。」
金田刑事が画廊(飯田)、山崎とボードに書き、少女像の写真を山崎の横に置く。
「山崎氏は近年になって少女像を第三者、ここではAとしますがに譲った。」
金田刑事がAと書き、写真をAの横に置く。
「しかし、表立って譲ったことにはしたくない、山崎氏は模写を自分の家に飾っておいた。」
金田刑事がもう一枚少女像の写真を取り出して山崎の横に置く。
「本物の絵を譲られたAというのは?」
「例の保守系政治家のことですよ。資産公開でも『絵、何点いくら』の世界ですからね。
贈り物として美術品は最適ですよ・・・このことは地検にお任せしましょう。」
「・・・」
金田刑事の説明に捜査本部に苦笑が広がる。
「飯田は絵を入手するために、山崎かすみさんを誘拐、吉岡運転手を殺害した。
絵を入手したものの模写であることがわかり、吉岡氏を殺害した共犯者に殺害された。」
「筋書きとしてはそういうことか・・・」
堀江主任の推理に署長が答える。
「本当にそうでしょうか?」
愛が声を出す。
「どういう意味だ、松岡。」
署長が尋ねる。
「共犯者の姿を想像できません。」
優が意見を言う、
「共犯者と飯田の行動が逆転している感じがします。」
「逆転?」
愛の言葉に堀江主任が尋ねる。
「仮に犯人が3人として・・・
飯田は山崎かすみを監視していた、それは現場から指紋が発見されているのだから間違いない。
かすみさんの証言を信じると、監視をしていたのは1人。
共犯者Aが山崎氏から絵を受け取り。
共犯者Bが吉岡運転手を監視、殺害した。」
「絵を素人が扱っていた可能性があります。
仮に絵を扱ったのが専門家だったとすると、山崎かすみが無事に開放されるわけがない、
『本物の絵を用意しろ!』ということになるはずです。すぐにニセモノとわかったはずだ。」
愛の説明を受け高橋刑事が話す。
「他に犯人の目的があるとすると?」
「吉岡運転手の口封じでしょう。」
古田刑事の問いに優が答える。
「事件の真相を知る共犯の飯田を消す必要があった。」
署長がつぶやく。
「地検の捜査が吉岡運転手に近づいていました。」
「それを避けるのが犯人の目的が・・・」
堀江主任の言葉に署長が答える。
吉岡氏の通夜・告別式の準備が進んでいる斎場。山崎氏がハイヤーで乗りつける。
「社長・・・」
受付のテントで準備をしていたらしい大島秘書がハイヤーに駆け寄る。
「・・・」
大島秘書に声をかけずに山崎氏が斎場に入る。
「片岡主任、これまでの誘拐を目的とする捜査の指揮をお願いできますか?」
「了解しました。」
署長が捜査1課の主任に声をかける。純と同じポジションの刑事だ。
「松岡と塚本は千葉。」
「了解。」
堀江主任の言葉に2人が答える。
「高橋と私は・・・」
「飯田の事件ですね。」
「本庁と協力して・・・」
堀江主任の言葉に高橋&三輪刑事が答える。
「古田さん、東京から川中湖までの吉岡運転手の車の動きをお願いします。」
「わかりました、和田たちと合流します。」
古田刑事が堀江主任の指示に答える。
「我々は飯田の周辺を調べてみます。」
「お願いします。」
金田刑事の提案を堀江主任が受け入れる。
和田&清水刑事がコンビニエンスストアに入る。
「こちらになります。」
コンビニエンスストアのオーナーから防犯カメラのビデオテープを受け取る。
「ありがとうございます。」
2人が頭を下げる。
川中湖インターチェンジ、事務所に古田&磯部刑事が入る。
「東京を2時以降だとすると・・・4時前後以降ですね。」
「ETCの記録はないのですが・・・」
2人の係員が古田&磯部刑事の前にダンボール箱を置く、中には高速道路の通行券が詰まっている。
川中湖警察署の一室。
「・・・」
「・・・」
和田&清水刑事と県警の刑事が数台のTVで防犯ビデオの映像を見る。
インターチェンジから吉岡運転手の遺体が発見された現場の間にあるコンビニエンスストアの物だ。
「すぐに東京に戻り、この通行券の指紋を照合してもらってくれ。」
「了解。」
古田刑事の言葉に通行券を手にした磯部刑事が答える。
「和田刑事。」
県警の刑事の1人が声を出す。
「山崎家の車のようです。」
刑事の見ているモニター、店前の道路を走る山崎家の車が映っている。
「場所は?」
「インターチェンジから3.4キロの地点です。」
「時間は?」
「インターチェンジから数分でしょう。」
「推定速度わかりますか?」
「他の車より低い・・・40キロ前後ですね。」
刑事と和田刑事が話し合う。
「清水。」
「ちょっと待ってください。」
清水刑事がノートパソコンに向かう、データーを打ち込み経路と通過推定時刻を計算する。
タクシーに古田刑事が乗っている湖畔の広い路肩のある場所にタクシーが止まる。
「ここですか?」
「えぇ。」
後部座席に座る古田刑事の問いにドライバーが答える。
「ここです、あの時間でしたから、カップルだと思って・・・」
「ここに駐車していたのですね。」
「えぇ・・・」
「中に人は・・・」
「それなのですが、シートが倒れていたようです。だから、カップルだと・・・」
「・・・」
ドライバーの話に古田刑事がうなずく。このドライバーがここで、山崎家のものと思われる車を見ていたのだ。
「店内と駐車場を撮影するためのカメラですから・・・走行中の車の中までは・・・」
「・・・」
古田刑事がプリントアウトされたビデオの画像を見る。和田刑事の言葉に古田刑事がうなずく。
105号が国道沿いのガソリンスタンドに入る。
「最近、容器を使われるお客さんは少ないのでよく覚えています。」
店員が飯田の写真を手に愛&優に話す。
「説明はしましたか、携帯缶を使用する。」
「ツレのバイクのガス欠・・・だったかな?」
「バイクのガス欠・・・」
店員の愛の問いへの返答を聞いて優がつぶやく。
105号が国道の路肩に停車する。優が車から降りる。
「頼むね。」
「O.K.」
愛が105号を発進させる。
「ここからファミレスまでか・・・」
かすみが犯人と別れた現場から優が歩き始める。
105号車が不動産会社の前に止まる。
「燃えた別荘が目印?」
「あの別荘から1キロほど山に入った所に、バイクのツーリングベースになっているペンションがあります。
あの別荘はそこに向かう目印になっていました。間違えて中に入る人も多かったようです。」
「ツーリング・・・」
「雑誌で紹介されたこともあるようですよ。」
愛の問いに中年の男性が答える。
優が国道沿いを歩く、その横を次々と車が通り過ぎていく。民家を見つけて優がその家へと入っていく。
「県警の刑事さんにも話ましたが、気がつきませんでした。
うちで声をかけてくれたら110番通報をしたのに・・・」
「・・・」
奥さんの話に優がうなずく。
優がファミリーレストランでコーヒーを飲んでいる。愛が店に入って優に駆け寄る。
105号が都内のオフィス街の一角の駐車場に止まる。
出版社の一室、『月間 ツーリングガイド』の編集部。
「関東近郊の海岸ツーリング?」
「そのような特集号があったと聞いたのですが・・・バックナンバーはありませんか?」
愛の言葉に編集者が立ち上がる。
「これでしょう、今年の3月号、南関東の海岸線。」
「お借りできますか?」
「どうぞ?」
優の申し出を編集者が受け入れる。
山崎邸の裏口からエプロンをした女性が出て来る。
「すいません。」
路肩に停車していた覆面パトカーから降りた金田刑事が女性に声をかける。
愛&優が刑事部屋に入る。
「これか?」
堀江主任が『月刊 ツ−リングガイド』を手にする。
「24ページにペンションの紹介記事とともに、
あの廃別荘への入り口が目印として写真入りで紹介されています。」
「・・・」
愛の報告を受けて堀江主任がページを見る。
「塚本の方は?」
「・・・それなのですが・・・」
堀江主任の問いかけに優がメモ帳を取り出す。
山崎邸から買い物に出て来た家政婦が、金田刑事と公園のベンチに座る。
「そういえば、1年ほど前に飯田さんがおいでになったことがありました。」
家政婦が口を開く。
「商談ですか?」
「新しい社長さんのご挨拶のお供だったと思います。」
金田主任の問いに家政婦が答える。
「その時、少女像を見た飯田が、一瞬表情を変えたそうです。」
「贋作と見抜いた。」
「その可能性がありますね。」
「共犯については・・・?」
「今のところ・・・」
堀江主任と金田刑事が話し合う。
山崎邸、ソファーに座る山崎氏の前に大島秘書が立つ。
「この状況だ・・・かすみとのコトについては少し落ち着いてから話し合おう。」
「社長・・・」
大島秘書が山崎氏に頭を下げる。
刑事部屋の電話がなる。
「堀江班・・・古田さん?・・・該当する車が映っていた・・・時間は?」
電話を受けた優が声を上げる。
「主任。」
資料を手に磯部刑事が部屋に入る。
「・・・」
資料を見た堀江主任の表情が厳しく変わる。
「松岡・・・」
堀江主任から愛が資料を受け取る。
「主任!」
資料を見た愛が声を上げる。
「・・・」
堀江主任がうなずく。
飯田のアパートの前に覆面パトカーが止まっている。
「車?」
「今、そのパトカーが止まっているあたり・・・」
宅配便の配送車のドライバーが話す。高橋刑事が指を指して場所を確認する。
「白いフローラでした。」
「フローラ?」
「最新型の奴。」
「良くわかりますね。」
ドライバーの話に三輪刑事が尋ねる。
「私も去年、フローラを買ったんです。『テールライトとかが変わったなぁ・・・』と思ったんですよ。」
「それを何回か見たわけですね。」
「えぇ。」
「ここ1ヶ月前後かなぁ・・・」
ドライバーの話に高橋&三輪刑事が互いを見る。
愛&優が大学に入る。
「・・・」
「・・・」
男子学生が2人に頭を下げる。
山梨の警察署。
「古田さん!」
和田刑事が古田刑事に資料を手渡す。
山崎通商に高橋&三輪刑事に入る。
「フローラですか?」
スーツ姿の社員がつぶやく。
「今年購入した営業車は・・・フローラですね。3台だったかな?」
「色は?」
「白です、社名とかは入れていませんから・・・どこにでもある車ですよ。」
高橋刑事の言葉に社員が答える。
山崎邸のガレージに白色のセダンと、かすみ&卓也の赤い車が並んでいる。
堀江主任が病院に入る。
「・・・」
「・・・」
医師と堀江主任が話し合う。
「古田さんたちが戻り次第、勝負をかける。」
堀江主任が携帯電話に話す。
105号を先頭にパトカーが山崎邸に止まる。
リビングに愛にエスコートされてかすみが入る。続いて優が卓也を連れて来る。
「お話というのは?」
「・・・」
先にリビングにいる山崎氏が堀江主任に尋ねる。その横に大島秘書がいる。
駐車場の白い車を鑑識課員が調べる。高橋&三輪刑事がその様子を見守る。
「少し待って頂けませんか?」
「・・・」
堀江主任が4人に話す。
「ちょっと失礼します。」
「私も・・・」
愛&優がリビングから出る。
愛がかすみの部屋、優が卓也の部屋に入る。
「主任。」
高橋刑事が堀江主任に資料を手渡す。
愛&優がリビングに入る。
「・・・」
愛が堀江主任の耳元になにかをささやく。
「大島さん?」
「はい?」
「あなたがここに乗ってきた・・・社用車の工具はどこにありますか?」
「はっ?」
「その工具の中に、飯田さんを殴打した凶器があるのではないですか?」
「・・・!」
堀江主任の言葉に大島が表情を変える。
「車の運転席のシートにルミノール反応が認められますが、飯田さんの返り血では?」
「・・・」
「大島君?」
返答をしない大島秘書に山崎氏が尋ねる。
「絵が贋作だと知った飯田は、私を呼び出して、『今度はかすみさんを殺す』と脅迫を・・・」
「それは違いますね。」
金田刑事が部屋に入りながら異論を唱える。
「飯田は、絵を贋作だと知っていましたよ。彼を利用して殺すことは計画どおりでしょう。」
「そんな・・・」
「あなたは知らなかったでしょうが、飯田は知人のブローカーに、
あの絵をコピーとして売り渡す約束をしていました。」
「・・・」
金田刑事の言葉に大島がうなだれる。
「しかし、あなたは主犯ではありませんね。」
「あなたに指示を出した人物がいる。」
愛&優が話す。
「申し訳ありません。私が飯田に贋作のことを知られて、賄賂の真相を知る吉岡の口封じをするために・・・」
山崎社長が立ち上がって話を始める。
「違います、あなたではないはずです。
あなたが主犯であるならば、誘拐事件を隠蔽しようとはなさらなかったはずです。
まして、標的である飯田にお嬢さんを預けはしないはずです。」
「もう・・・1人、大島さんに指示を出せる人物がいます。」
「卓也君・・・君も共犯ですね。」
堀江主任、愛、優が話す。
「僕は・・・」
卓也が声を上げる。
「君とドライブに行ったはずの岩崎君は、
『卓也君に頼まれて二人でドライブに行ったことにして、本当は彼女とお泊りデートをしていた』
と証言しているのだけれど。」
愛の話に卓也が唇をかむ。
「主任!」
和田・清水・古・磯部、4人の刑事がリビングに入って来る。
「川中湖近くのコンビニエンスストアの防犯カメラの映像です。」
和田刑事が3枚の写真を取り出す。
「吉岡さんの運転していた山崎社長の車です。
こちらは、その30分前と2時間後に店の前を往復したかすみさん名義の車です。」
2枚目と3枚目に赤い車が写っている。
「これは、高速道路横浜東インターチェンジで回収された通行券です。」
古田刑事が高速道路のチケットを手にする、“富士中央インターチェンジ”のものだ。
「卓也さんの指紋が検出されました。」
「・・・」
磯部刑事が説明する。
「卓也君のベッドを下からこの雑誌が発見されました。千葉の現場付近が紹介されています。」
優が『月刊 バイクツーリスト』を手にする。
「川中湖から富士・横浜・川崎から木更津・・・」
「・・・」
愛のルート説明に卓也がうなずく。
「・・・」
リビングに沈黙が広がる。
「そして、全てを計画したのはかすみさんですね。」
「・・・」
堀江主任の指摘にかすみの表情が厳しいものに変わる。
「大好きなお父さんが逮捕されないよう、秘密を知る吉岡さんを殺すことが真の目的だった。」
「・・・」
愛の指摘にかすみの返答は無い。
「友人のパーティーと卓也さんのドライブを理由に、お父様の車を使う許しを得た。
そして、吉岡さんに川中湖の方向に行くことを指示した。」
愛が話しを続ける。
「途中で吉岡さんに睡眠薬を飲ませた。眠り込んだ吉岡さんの代わり車を運転して、
川中湖で合流した卓也さんと車を湖に沈めた。」
優が話しを続ける。
「その間に飯田に絵を受け取らせた。」
「・・・」
「もし、飯田がその場で逮捕されても共犯がいるという筋書きになっていた。」
高橋&三輪刑事が続ける。
「卓也さんと自分の車に乗り廃屋へと向かう。
そして夜が明けてから国道で卓也さんと別れ、ファミリーレストランで保護を求める。」
「警察の手が入る前に飯田に命じて廃屋を燃やした。」
古田&磯部刑事が話す。
「結婚をえさに大島さんに飯田を殺させた。
お父様に意思とは別に大島さんが警察に誘拐を通報したのもあなたの指示ですね。」
「飯田は絵が贋作であるのを知っていた、けれど父を脅迫することができなくて、私に金を要求してきたの。」
金田刑事の言葉にかすみが始めて答える。
「かすみ!」
山崎氏が声を上げる。
「あなたも知っていたのですね。」
「飯田の遺体のそばに、燃やされた絵があったと知ったときに・・・
飯田は贋作と知っても燃やす必要はなかったはずだ。」
堀江主任の言葉に山崎氏が答える。
「絵を燃やす必要はなかった・・・大島さんが完全に灰にしていれば別でしょうけれど・・・」
「灰からでも贋作であることはわかると思いますよ、紙が違いますからね。」
「・・・そう。」
かすみの言葉に金田刑事が説明する。
「そこまでして・・・あなたはなにを・・・」
「・・・」
愛の問いかけにかすみが冷たい微笑みを見せる。
「これは必要ないようですね。」
堀江主任が一枚の資料を出す。
「・・・?」
「川中湖の現場にあなたと卓也さんの靴の足跡が残っていた。
それと、あなたが病院で処方された睡眠導入剤のカルテ・・・」
「・・・」
堀江主任の指摘にかすみがうなずく。
「父が犯罪者になれば、私の経歴に傷が付きます。」
かすみが話を始める。
「吉岡さんがいなくなり、絵がなくなれば・・・」
「検察庁はそれほど甘くはありませんよ。」
かすみの言葉に堀江主任が答える。
「・・・」
かすみが突然テーブルの上に置かれているフルーツの横に置かれた果物ナイフを取ろうとする。
「やめなさい!」
優がかすみに飛びつく。優がかすみが掴んだナイフを取り上げる。
「・・・」
かすみが優に押さえつけられている。
「法の裁きを受けてください。」
「・・・」
愛の言葉にかすみが愛を睨む。
「・・・」
「・・・」
声も無く卓也と大島が崩れる。
「松岡!」
「はい。」
堀江主任の指示に愛が手錠を手にする。
「山崎かすみ、15時37分、緊急逮捕します。」
腕時計で時刻を確認して愛がかすみに手錠をかける。
卓也と大島がパトカーに乗せられる。かすみは優と堀江主任に囲まれた105号の後部座席に乗り込む。
愛が105号のハンドルを握る。前の車に続いて105号が発進する。
「こうなることはわかっていた・・・あなたにトイレのことを聞かれたときにね・・・」
「・・・」
かすみのつぶやきに愛は答えられない。
江西署に車列が入る。
数日後の刑事部屋、堀江主任が山崎社長が贈賄容疑で逮捕されたことを伝える新聞を読んでいる。
「・・・」
「・・・」
愛と優も無言で別の新聞を読んでいる。
「失礼します。」
金田刑事が部屋に入って来る。
「金田さん。」
「堀江さん・・・これ・・・」
金田刑事が小さな風呂敷包みを堀江主任に手渡す。
「・・・?」
「この部屋は殺風景ですからね。」
堀江主任が包みを開く。
「あぁ・・・みんな来てくれ。」
堀江主任の呼びかけに堀江主任のデスクの周囲に刑事たちが集まる。
堀江主任が小さな絵を手にしている。
緑に包まれた小高い丘、その上には一本の樹。そのそばに白い帽子とワンピースの少女が立っている。
「可愛い!」
「ちょっとアニメチックですね。」
愛と優が声を出す。
堀江主任が立ち上がり、壁時計の下の空いているスペースに絵をかけてみる。
「有名なアニメーターか誰かの作品ですか?」
「いえいえ。」
優の問いかけに金田主任が答える。
「自腹ですか?」
「実は、学生時代に私が・・・まわりにいた友人は何人かプロになったのですが・・・
家にたくさんあるもので・・・あちこちに飾ってもらっています。」
愛の問いかけに金田刑事が答える。
「金田先生の作品ですか・・・」
「・・・」
堀江主任の言葉に金田刑事が笑顔を見せる、他の刑事たちにも笑顔が広がる。
つづく
予告
“振り込めサギ”の一斉摘発
数日後、射殺死体が発見される
被害者は純の知り合いの元刑事
撃ち込まれていた5発の銃弾の意味は・・・
2人の捜査FILE
〜I&YOU〜
振り込め殺人事件