クリムゾン・エンジェル 1

――― 紅い天使の冒険 1 ―――



ドールドライバとは?

これは遙かな未来、人類があまねく銀河を
その支配下におき、
繁栄を築いたそれよりもなお未来…

銀河を襲った惨禍―――「大戦」。
それは疲弊をよび、社会の崩壊、文明の崩壊をもたらした。

新たな技術はもはや無く、
人々は遺産を食いつぶしてゆくのみ…
緩やかに…緩やかに滅亡へと向かう
そんな世界。

これはそんな時代、そんな世界のお話。

ドールというのは
大戦時代以前に確立された技術。
巨大な人型の機械。
それを人々は人形―――ドールと名付けた。

そしてそれを扱う人々を
彼らは尊敬と畏怖を込めてこう呼んだ――

ドールドライバと。

全52話でお送りする予定 (嘘)


登場人物紹介はここをクリック



第1話「海賊」

レーダーに輝点が光る。
「船影捕捉!大型輸送船です」
その声と共にブリッジ内に緊張が走る。
「やりますか、中佐」
「たりめーだ」
左側頭部を機械で覆われた片目の男が、あごをしゃくる。
行けというように。
「了解!機関全速!ビッグチャーリーの首根っこをおさえます」
2基のTASドライブが唸りを上げ、体感できるほどの加速が艦を包む。
片目の男は機械の目を剥いて笑う。
凶暴な笑いだ。

スクランブルのサインが激しく明滅する格納庫の中、リン・クルード元少尉は ドール・カムイに搭乗した。
巨大な人型戦闘機械。それがドールだ。
リン・クルードはそのパイロット――ドールドライバだ。

シートバックにオフセットされたコネクタケーブルを引き出し、ヘルメットのジャックに 差し込んでロックする。
「イグニション」
声と同時に、カムイの総ての機能が目を覚ます。
もっとも好きな時だ。
各種計器の淡い光を顔に受けながら、各部の点検をする。
キャノピーが自動的に閉じると、その内側はドールの視覚情報がディスプレイされる メインモニターとなる。
「各部異常無し。《龍牙》、出撃します」
《龍牙》は彼女のコールサインだ。
リンのカムイはひとつ大きく身をゆすると、おもむろにその第1歩を踏み出す。
EGケーブルが外れ落ち、大蛇のように床を這う。
巨人《龍牙》はそのままカタパルト上に、軽い前傾姿勢で機体を固定する。
リンはスロットルを開ける。
それに合わせて巨人のジェネレーターが咆哮をあげてゆく。
2基の推進板が開き、発光を見せ始める。
最初あわい光だったそれは、すぐに輝度をあげ眩いまでになる。
『グッドラック』
ブリッジの大尉の声が耳元できこえた。
左右のコントロールスティックに添えた指に軽く力を入れる。
その瞬間、世界は一気に後方へと飛び去った。
《龍牙》は―――リンは居るべき場所に戻ってきた。
リンはそれと意識せぬまま微笑を浮かべている。
星の世界が迎えてくれていた。

「接敵まで30秒」
隊長機のダ・メイガの声がした。
目標の輸送船めざして3機のカムイは真空を裂いて飛んでいる。
「全セイフティー解除…確認」
ダ・メイガは元大尉。第三の目を盛るトラムナ人だ。ドールドライバ にはトラムナ人が多い。
第三の目が空間識に優れているからだ。
魔法のようにドールを操る。
ダ・メイガもそうだった。
まぎれもなく超一流のドールドライバだ。
まだリンは模擬戦で――宇宙戦闘でも市街戦でも――ダ・メイガからポイントできた 事が1度も無い。
中佐とこの男だけは敵に回したくないものだ。中佐にも1度も勝てた事が無い。
自分もそれなりの腕のつもりだが、このふたりは別格だ。
リンは母船に残った中佐の、半分機械に埋もれた顔を思い浮かべて、ぶるっと震えた。

「ビッグチャーリー視認。すげぇ、ジオ型シリンダーみっつも抱えてやがる。 あれが満杯なら遊んでくらせるぜ」
僚機のロッド・ダウナー元少尉。モデルのようなハンサム君だが、いささか 調子者でもある。きっといつかそれが命取りになる。そうリンは思っている。
いや。
心のうちでつぶやく。
こんなこと続けていれば、いずれ命を落とすのは同じことだ。
海賊なんてヤクザな商売、そうそういつまでもうまく行くわけがないのだから。
リンはため息をついた。
いくらなんでも今日がその日だとは夢にも思わなかったが。


船体をなめるようにして3機のドールが追い越して行った。
衝撃波がびりびりと船体を震わせる。
「なんだありゃ!?」
「無茶しやがって!」
「ぶつける気か!」
巨大輸送船――第三惑星号のブリッジ内は怒号に溢れた。
3機の高機動物体が接近中なのは知っていた。
それがおそらく戦闘用ドールであろうことも。
しかしこちらは輸送船だ。
それも、どでかい図体の、いわば宇宙の鯨だ。
急激な機動は不可能だ。
通信で呼びかけても応答は無いし、息を呑んで様子を見守っていたのだった。
あわや、ぶつかると覚悟を決めたところで、3機のドールはブリッジを掠めて 飛び去って行った。

いや―――
「反転してきます」
「船長、通信が入ってます」
立て続けに報告が入る。
「出せ」
「はい、メインスクリーンです、どうぞ」
ブリッジ正面のスクリーンに、今追い越して行ったらしいドールのドライバの 顔が大写しになる。
トラムナ人だとすぐわかる。
着ているドライバスーツは、たしかネルヴァド軍のものでは無かったろうか?
だがネルヴァドはここから100パーセク以上も離れている。
こんなところで作戦活動中とも思えんが…?

果たしてスクリーンの中の男は、
「我々は自由解放同盟宇宙軍である。貴船の協力を願いたい」
なんじゃそりゃ、脱走兵じゃねーのかよ、と誰かが言うのを船長は片手で制しながら
「どのような協力を望んでおられるか?多少の食料と燃料なら 用意させていただいてもよろしいが?」
柔和な表情で告げる。
しかし、――――

「ご協力感謝する…と言いたいところだが、それでは不十分だ。我々の活動の ためには貴船の運んでいるゴルディウム鉱石のすべてをいただきたい」
トラムナ人はスクリーンの中でにこりともせずにそう言った。
そのときオペレーターからの報告が入った。
「後方に反応です。高速で追いすがってくる船がいます。この大きさから見て…おそらく こいつらの母艦かと」
それを聞いた船長のこめかみに、たらりとひとしずく、汗が流れた。

あーやだやだ。
第三惑星号のブリッジ斜め後方に占位しながら、リンはひとりごちた。
なにが自由解放同盟だか。
ただの海賊じゃないか。
いっそ逃げだしちゃおうか。
そうも思うが、ダウナーはともかくダ・メイガから逃げ切れるとはちょっと 思えない。
それにたとえ逃げ切れたとして行く先など何処にもありはしない。
今日何度目かの憂鬱なため息をつきながら、サイトの中央に輸送船のブリッジを 捉える。

「たいへん残念だが」
意を決したように船長は口を開いた。
「あなたがた、あー、なんといったかな、自由同盟軍と仰ったか、貴軍の要請には 答えられそうもありませんな」
その瞬間、ぱぱっと、まばゆい輝線がブリッジの外を下から上に(後方から前方に) 走る。
リンではない。
ダウナー機の放った威嚇射撃だった。
しかし船長は毅然として言い放った。
「そんなおどしには乗らん!」
「そうか、残念だ。それでは強制的に接収させていただこう。―――」
その言葉を最後にスクリーンの映像は消えた。

巨大輸送船・第三惑星号の船長は苦渋の表情を浮かべた。 「やむをえん、応戦するしかあるまい」 艦内放送のスイッチを入れた。
「総員戦闘用意!海賊が来るぞ!迎撃だ!!」
第三惑星号の中は騒然となった。
しかし、大きいだけの輸送船に、3機の戦闘ドールと高速突撃艦を相手に できるのだろうか?


全長1キロを優に超す、巨大輸送船。
その表面に数百基のトーチカポッドが迫り出した。
自動制御のそれは、3機のドールめがけて火を噴くが、かすりもしない。
「つぶせ、つぶせー」
ダウナーが奇声をあげてビームライフルを撃ちまくる。
リンはダウナーのやや後方に占位しつつ、彼を援護する。
トーチカは数百基といえど、もともとが巨大な輸送船だ。その広大な表面積から すると、ほんの一握りをカバーしているにすぎない。
対空砲火といえど、ごく散発的な者に過ぎない。
気は抜けないが脅威にはなり得ない。楽な仕事だ。
あと1分もすれば、母艦も射程圏内に入るだろう。
それまでには十分終わらせることが出来る。

と、そのとき。

リンは、ダウナーの進路にトーチカではない何かがあるのを見た。
見たというより、感じたといったほうが近いかもしれない。目では見えていない。
反射的に機体をロールさせて、機首を振った。
リンの、それは天性の勘だった。
それがダウナーとの命運を分けた。
「ダウナー!」
燃え上がるダウナーのカムイを横目にみながら、スロットルを開ける。
急速離脱。
TASドライブが悲鳴を上げるが、そんなものは無視だ。
増速しながら機体を振って、カーゴシリンダーの陰に回り込む。
ふう、大丈夫だ…
ほっと気を緩めかけたところをトーチカからの攻撃が機体を掠める。
ぱぱっ、ぱぱっ、ぱぱつ―――
ライフルを点射して付近のトーチカを潰す。
危ない危ない…
「どうした、リン? ダウナーの反応が消えたぞ、なにがあった、リン・クルード?」
ダ・メイガの冷静な声が耳朶をうった。
なにがあった、ですって?
リンはその言葉に、いま見たと思ったものを思い返していた。
今、なにがおこったのか?
―――真紅のサムライが巨大な日本刀でダウナー機をまっぷたつに叩き斬ったのだ!


もちろんサムライのわけなど無い。
あれはドールだ。
戦闘用ドール。
けれどあの腕。徒者ではない。本職だ。
海賊対策として貿易業者がよく乗せているという護衛屋かもしれない。
護衛屋の中には生きたまま伝説になっている者さえいる。
その中のひとりなのかもしれない。
だとしたって、こっちだって戦闘のエキスパートだ。
本当のプロの腕というものを見せてやる。
けれどあの紅いドールは…
まるで生き物のように見えた。
もちろんそんなはずはない。
わかっている。
だけど、一瞬そう見えた。
だいいち、あの巨大な刀はなんなのだ?
しかも、高速で飛翔する戦闘用ドールを一撃のもとに切り伏せるですって!?
ビデオグラムのマンガじゃあるまいし。
…待って!
紅いドール?
紅いドールですって?!!!
リンは思い出した。
紅いドールを駆る護衛屋の噂を。
その男の噂はほとんど伝説にまでなっている。
リンは思い出した。
生きながら伝説を築いた男―――紅い天使と呼ばれる男のことを。


|



リンは思い出した。
紅いドールを駆り、生きながら伝説となったその男の噂を。
そいつはクリムゾンエンジェル―――紅い天使と呼ばれている。
そいつに敵はひとりもいない。
そいつにいるのは、かつて敵だったものだけだ。
そいつの全身はいつも血にまみれ、乾く暇も無いという。
そこでついた渾名がクリムゾンエンジェル。
紅い天使だ。
リンは小隊長ダ・メイガに叫ぶように報告を入れる。
「ダウナーは斬られました。ドールです。紅いドールです。カタナを持った紅いドールに斬られたんです!紅い天使かもしれません!!!」
「紅い天使?…カタナを使う紅いドールだと?ふん、おもしろい。わかった、私が処理する。合流しろ」
「了解」
さすがダ・メイガだ。
落ち着いたものだ。
お手並み拝見といこう。
リンは戦闘速度のまま再びシリンダーを回り込む。


ふたりのやりとりは海賊船ブリッジでも傍受していた。
「出るぞ!」
頭半分を機械で覆われた男――元ネルヴァド軍少佐エイブ・アルゼンタイン(いまは自称中佐)が吠えた。
「紅い天使か…きく名だな。ヤツの腕が噂の半分ほどもあるのだとすると少しは苦戦するかもしれん。俺が出る」
「では私も」
「大尉、きさまは残れ。後方援護だ。ライトバストを用意しておけ」
「は!御武運を!」
「なぁに、念のために出るだけだ。運などいらんさ」
アルゼンタインは機械の目をグロテスクに光らせるとブリッジをあとにした。


彼我の距離は一瞬で詰まる。
真紅のドールとダ・メイガのカムイは輸送船の表面上でみるみるその 距離を詰めて行った。
真紅のドールはカタナを横青眼に構え微動だにしない。
まるで斬馬刀を構えた戦国武者だ。
「く…おもしろい」
あれが噂の紅い天使だというのか、よかろう、やつの反応を試してやる。
ダ・メイガはペダルを踏みこみ、さらに増速する。
見切りの真髄、見せてやる!
カタナの圏内、切っ先ぎりぎりのところで反転、ヤツのカタナが空を斬ったところに 抜き身の早撃ちを喰らわせてやる。
ダ・メイガの武者震いにあわせるように、彼のカムイのの指がぴくりと動いた。
ドン!
二者の間の空間が炸裂した。
ダ・メイガがカムイの方向転換にTASフィールドを展開したのだ。
同時に目くらましを兼ねてチャフを散布。
超新星の輝きを放って紅いドールを包み込む。
チャフは一粒一粒が妨害波を発する。
この瞬間、ドールのセンサーは総てデッドする。
それはこちらも同じだが、私には総てが予測のうちだ。ヤツは違う。
横っ飛びに回り込みながら、両の腿にマウントされたハンドガンを抜き、チャフの 輝きの中に向かって続けざまに撃ち込む。
青白いエネルギーブレットがチャフの中に吸い込まれてゆく。
勝った。ここまでだ。ダ・メイガの顔に不敵な笑いが―――浮かびかけた正にその瞬間、 彼の表情が凍り付いた。
斬!
まばゆい一閃が眼前をよぎった。
紅いドールの大刀の一振りだった。
構えた両腕がビームガンごと、斬り落とされる。
ばかな!
紅いドールはいかなる機動を行ったものか、ダ・メイガ機のほぼ真横に占位している。
どうやって?
チャフを撃つより先に移動を開始していたか?
だが、ダ・メイガの反応は速い。考えるより速く体が動く。
機体にスピンをかけて瞬時に方向転換、さらに跳ぶと見せておいて逆にデッドスラスト、低くスライディングする。
これをなめらかに、一瞬のうちにやってのける。
この機動についてこれる者はいない。
しかし!
衝撃と共にモニターが消えた。
なんだ?
ステータスは頭部破損を告げている。
頭を斬り落とされた!?
ありえない機動だ。
こんな機動の可能なドールがいるのか!?
こんな操縦のできるドールドライバがいるのか!!
このままだと負ける?
背中に冷たい汗が流れる。
ドール同士の戦いで生まれて初めてダ・メイガは恐怖を覚えた。
同時に、
これが紅い天使だというのか!
歓喜に震える自分がいる。
ドールドライバとしての本能が歓喜の叫びをあげている。
どちらが本当のドールドライバか教えてやるのだ!
ダ・メイガはTASドライブを緊急モードにたたき込む。
まだ戦える!
伝説を塗り替えるのは私だ!
この私が―――
ダ・メイガの意識はその存在と共にそこで途切れた。

リンは、何があったのかわからない。
ダ・メイガのチャフ散布で《龍牙》の全センサーも一時的にデッドした。
ほんの1秒か2秒、そんなものだった筈だ。
しかし。
回復した瞬間に見えた光景はリンに息を呑ませた。
真紅のドールが長大な日本刀を揮い、ダ・メイガのカムイ(腕が無くなっている!)を両断する、正にその瞬間だった。
長大な日本刀はコクピットごとドールの胴体部を真一文字に切り裂いた。
次の瞬間、ダウナーのときと同じ極小の太陽がそこに花開く。
あれでは助からない。
いや、それ以前にコクピットを薙で切りにされた時点で死んでいるか。
せめて苦痛なく死ねていればいいのだが――頭の隅でそう思う。
すぐに太陽のきらめきは消え、その中から、紅いドールの不気味な姿だけが現れた。
リンはくちびるを噛んだ。
間違いない。
こいつは紅い天使だ。
それも噂どころの騒ぎじゃない。
生きながら伝説になるわけだ。いまなら納得できる。
こんなの相手にして、勝てるわけない。
まだ死にたくないよ。
相対速度をゼロにして、武器を投げ捨て、両腕を上げて降伏を意思表示する。
「だから海賊なんてやらなきゃ良かったんだ…」
震える声でそうつぶやいたとき―――
「敵前逃亡と見なす、クルード少尉」
低くかわいた声が耳に飛び込んできた。
「中佐!」
そう叫ぶのと凄まじい衝撃が機体を襲うのとは同時だった。
《龍牙》の腕が飛び、脚がもげ、頭部が吹き飛んだ。
モニターが消え、AIが死に、TASが暴走する。
「きゃーーーーーーーーーっっっ!!!」
リンは自分が悲鳴をあげているのに気づいていない。
しかし頭の中は意外に冷静で「やな予感が当たっちゃったなぁ」と他人事のように 考えている。
リンのカムイはTASの暴走で、ネズミ花火のように、きりきり舞いしながら 虚空へとその姿を消していった。


「やってくれるな、護衛屋。いや、紅い天使とよばせてもらおう」
アルゼンタインの声音には一種敬意のようなものさえ含まれている。
「貴君は噂以上の腕前だ。私の部下たちがひとたまりも無いどころか規律さえ 忘れさせるとはとは、さすが生きながら伝説になるだけの事はある。だが…」
アルゼンタインの表情がかわる。
「だが、それまでだ。きさまの仕事は失敗だ。私を本気にさせたからな、紅い天使!」
言うが早いか、ビームライフルを腰溜めにしたまま撃ちまくる。
紅い天使はその場でターン、チャフをまきながら高速離脱。
ビームがチャフで弾かれ、拡散する。
「くそ」
アルゼンタインはビームライフルを投げ捨て、背中に背負っていた巨大なライフルに持ち替える。
ABK1800対艦ライフル―――全長30メートルにもおよぶ巨大な 対戦艦ライフルだ。
いかに機動兵器ドールといえど白兵戦で運用するようなものではない。
しかし、アルゼンタインはそのまま構えた。
サイトの中に滲む紅いドールを捉える。
「いかな貴様でもこいつは防げまい」
つぶやいて、そのままトリガーを引く。
真空の宇宙に白熱の光が広がった。

それは、ほとんど爆発に近い。
口径1800の粒子ビームが奔流となって空間を切り裂いた。
その膨大な破壊エネルギーはチャフの攪乱効果をものともしない。
いや、散乱・擾乱はされてはいるのだが、元になるエネルギー量が桁違いだ。
数十メートル眼下の第三惑星号のカーシリンダー外壁がめくれあがり、溶けてきえる。
チャフ粒子は襲い来るエネルギーを散乱しきれず白熱の中に燃え上がって消滅。
拡散しきれなかった残りの50%のエネルギーが紅い天使を背中から襲う。
大戦時の強固極まりない装甲外板をも貫通してきた圧倒的なエネルギーだ。
勝利を確信してアルゼンタインは小さく呟いた。
「勝った…」
アルゼンタインは、しかし目を疑った。
「うそだろう…」
小さくつぶやく。
こちらを振り返った紅い天使の胸でなにか巨大な宝石のようなものが眩くかがやいている。
そこを中心に空間が歪んでいた。
紅い天使と破壊エネルギーとの間の空間が歪んでいる。
粒子ビームの莫大なエネルギーがねじれて消える。
その歪みの中に。
しかしそれも、水面の波紋にも似た空間のゆらめきをわずかに見せて、すぐに消えた。
マイクロブラックホール???
「そんなものまで使いこなすか。化けものめ! 大尉!」
「は!」
「ライトバストだ!」
「出します!」
紅い天使は空間を裂いて迫ってくる。
獰猛な肉食獣のように。
「くくく…」
これは歓喜か? それとも恐怖か!
ガキン!
紅い天使の大刀を対艦ライフルを盾に受ける。
まるで紙のように斬られてしまうが、わずかに斬戟を遅らせる事は可能だ。
わずか数ミリの差でかわしきる。
かわしつつ腰のサイドアームを跳ね上げ、自動モードで連射。
よけきれないはずの零距離射撃を、身をよじって紅い天使がかわす。
かわしざま、返す刀でサイドアームを斬る!
小爆発。
100分の1秒単位での攻防。
どちらも人間の速度ではない。
アルゼンタインの機械化された脳が、神経が、熱く熱を持つ。
『紅い天使のドライバー…どんなヤツなんだ?』
―――ぎちっ。
アルゼンタインは頭の中でまた音がした気がした。

両者はふたたび間合いをあけ、アルゼンタインは踏み込むと見せて高速離脱する。
追う紅い天使。
逃げるアルゼンタイン。
その前方にきらっと光るものが。
アルゼンタインがにやりと笑う。
「きたか」
それこそが、アルゼンタインが求めた最終兵器―――斬艦刀・バーストライトだった!
「勝負は一瞬!」
すれ違いざまアルゼンタインは右腕を伸ばす。
飛びながらバーストライトを手にする。
わずかなタイミングのミスでも腕ごと持っていかれただろう。
しかしアルゼンタインは見事にキャッチ。
のみならず、バーストライトの運動エネルギーをさえ利用する。
一気に反転、おいすがる紅い天使に斬りかかる!
「貴様の刀がなんで出来ているかはしらん!しかしこのバーストライトとて失われた テクノロジーの産物・単分子ブレード!これで互角!!」
全エネルギーをこの一振りに叩き込む!
機械化された部分が溶けそうなほどに熱い。
神経がきりきりと痛む。
だがこの一刀だけは!

紅い天使も真っ向から受けて立つ。
刀と刀がぶつかりあう!!
刹那!
アルゼンタインは歪む視界の中、再び信じられないものを見た。
刀身と刀身が触れ合った瞬間!
アルゼンタインの単分子刀バーストライトに紅い天使の大刀が食い込んでくるではないか!
ずぶずぶと音を立てて食い込んでくるように見えた。
電子加速状態にまで踏み込んだアルゼンタインの全神経の、それは為した技だった。
切り裂かれることなど無いはずの無敵の名刀バーストライトが切り裂かれるさまを彼は 拡大された感覚の中で見てしまった。
「ばかな!」
アルゼンタインは叫んだ、
「時空刀だと―――!?」
全神経が焼き切れるのと、アルゼンタインの乗機が切り裂かれるのとは同時だった。
小太陽が出現する。
その輝きを背景に大刀を手にした紅いドールの姿が影となって映る。
傷ひとつなく。
その姿は神か天使か異形の怪物か?
真紅のドール、紅い天使は血のりを振るうように、しゅっと一振り、 刀を振ってみせる。
やがて紅い天使はその自らの身長よりもさらに長大なカタナを 背部の鞘に静かに収める。
紅いドール…紅い天使の双眸が満足げにその光を増す。
それはまるで、微かな笑みを浮かべたかのようだった。
紅い天使は軽く機首を振り、高速戦闘艦へと向かって加速した。
まだ戦いは終わっていない。

紅い天使の伝説が――――これから語られて行く。


第1話「海賊」 了 


-->



いかがでしたでしょうか。
って、まだ主人公出てきてませんけど。(笑)

では主人公の出てくる第2話で…
…お会いできるとよろしいのですが。(汗)
(2001/10/18)

ちょっと思いついたことがあったので後半、大幅に手直ししました。 つか改稿。
それでちょいアップ遅れました。
でもその甲斐はあったと思うのですが、さて?
(2001/10/22)




かねてより、せっかく感想などを伝心門に書いていただいても、関連情報として 残せないことに忸怩たる思いを抱いておりました。
たとえばPSO関連でも、わいおうさんにあのような素敵な文章を寄せていただいても 私の日記との関連では残せませんでした。
そこで、思いついた新企画。(^^)
おれが自分でコピペしちゃえ!

てわけで今度から、感想等いただいた場合はこっちにコピペさせていただきます。(^^)
なお、改行位置等はこちらで手をいれさせていただく場合がございます。ご了承くださいませ。


1428. おじゃましますです 魔崎 竜二 2001/10/19 (金) 22:07

え〜、こちらには初めて御邪魔させていただきます。
魔崎です。こんばんは。

いやね、たった今小説読ませてもらって、んで「読みたいって人がいたら」 とか言ってるし。(笑)
こりゃ、いっとかなぁって思ったわけです。

出来の方なんですが、凄い上手いですよね、
素人の趣味の域を凌駕しているのでは…、とさえ思えます。
もっとも、私なんかは普段から小説とか読まないほうなんで、ひたすら唸るばかりで、参考にもならないかもですが。

兎にも角にも、楽しみにしているのは事実。
続き読みたがってるのがココに居ます、の、魔崎でした。


ありがとうございます。
どう考えても褒めすぎですが、私、おだてられると木に登るタチですので素直に 嬉しいです。本当にありがとうございました。





第2話へ進む
目録へ
トップページへ戻る