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【まえがき】
お待たせしました、紅天9です。
ところで今日気が付いたんですけど、前回「戻ってきた腕は1本だけだった」とか言ってガルガンティスの腕を修理だか、組み立てだかしてましたけど・・・
ガルガンティスの腕には最終兵器「空間破砕弾」が仕込んであってそれ使ってバーサーカーやっつけたわけだから、両腕とも無くなってる、てのが正しいんじゃないでしょうか?
でしょうか?って、自分で書いた事なんだけどネ。(^^ゞ
そのうち修正かけにゃアキまへんな。
それとですね、
前々回でしたか紅天7で、かすみが
単分子ナイフを
「鞘」に戻すって、ついその場の勢いで書いちゃいましたけど、あれって、本当は鞘無いんだよね。
無いっつか、無い設定なのよ。
ブレードの外周は普段ラバーっぽいカバーで覆われてるのね。 あくまでも外周だけ。つまり刃の部分だけなんだけど・・・そうね、ちょうどドッグタグみたいな感じって言えばわかりやすいかしら?。
ブレード側面は露出してる。
それが、かすみがグリップに手をかけることで、カバー部分は液状化して、しゅるっとグリップの中に引っ込むわけですよ。
そういうつもりで書いてる。
なのに!
「鍔なりの音を立てて刀をおさめる」
てのが好きなもんだから、つい「鞘に戻し」ちゃいました。(^^ゞ
さ〜て、どうしたもんかのう。(笑)
ちなみに、かすみがどうやってナイフを身につけているかというと、ヒモやベルトの類は一切使用しておりませんで、ナイフがかすみの身体に直接くっついているみたいに見えます。
まるで鉄片が磁石にくっついてるみたいな感じで。
かすみのフィットスーツは任意の物体を任意の場所にホールドすることが出来るようになっております。
ま、私はこれを個人的に「超電磁下げ緒」と仮称しております。(笑)
長くなりました。
では本編をお楽しみください。
第9話
「ケルベロス」
辺境の惑星の宇宙港回りには、必ずと言って良いほど、それなりの繁華街があるものだ。
宇宙船乗りたちの収入は決して少なくない。
しかし、板子1枚下は地獄の彼らである。
死と隣り合わせに生きる彼らに、貯める、という意識は少ない。
もちろん中にはきちんと人生設計をもって貯蓄に励む者もいないわけではないが、圧倒的多数は刹那的快楽主義者であると言って良い。
そんな彼らの落とす金を狙って、賭場ができ、酒場ができ、娼館ができ・・・さまざまな商売が生まれ、それにまつわる人々が集まり、やがて街となる。
しかし中心はあくまで金を落とす主、流れ流れる宇宙船乗りたちである。
気の荒い連中が闊歩する街のストリートのあちこちで、喧嘩のおこらぬ日など無い。
治安の行き届かぬ辺境のこと、殺し合いになるのもそう珍しいことでは無い。
だがしかしこれは・・・
時は7日ほど遡る。
わずか3人の男を10人を越す男達が取り囲んでいる。
グリーンマットの異名を持つ惑星タペスから数百光年離れた惑星インドゥーでの出来事だ。
3人の男と、それを囲む10人を越す男たち。
お世辞にも友好的な雰囲気とは到底言えない。
10人の男達は手に手に武器を携え、目にはぎらぎらと殺気をたぎらせている。
しかも3人に直接相対しているのは10数人にすぎないが、そこここの屋根の上、通りに面した店の扉や窓の陰から照準をむけている者まで数えれば、優にその数倍はいるだろう。
その数、ざっと40というところか。
対して、囲まれているのは3人。
特別ゴツイわけでもない。
重装歩兵並みの武装をしているわけでもない。
それどころか、ひとりなど丸腰だ。
そんな男達がたった3人きりだ。
通りに、ほかに人影は無い。
流れ弾をおそれる女子供は家屋の中でじっと息を潜めている。
乾いた風だけが吹き抜け、路地裏から迷い出てきた野良犬にさえ、ただならぬ気配がわかるのだろう、きゃうんと啼いてこそこそと引き返して行く。
殺気に溢れた40人の男たちを目の前に、3人の男の命は風前の灯火と思われた。
もはや土下座して命乞いをするよりほか、助かる手だてはあるまい。
いや、それとてこの殺気を沈めるに足るかどうか・・・
だが―――
3人の男に怯懦の表情は無かった。
殺気に気色ばんだ街の住人に囲まれ、無数の銃口を向けられながら、3人の表情には緊張のかけらさえ無い。
ナルギド麻薬でもやって感情喪失状態にあるのだろうか。
ナルギド麻薬というのは、銀河の反対側、惑星カナマーンの特殊な植物から精製される麻薬の一種だ。
多幸感をもたらし、知覚力を増大させる。
恐怖心を捨て去るという名目でナルギドを使い始める宇宙船乗りは決して少なくないが、常習性も高く、危険だ。
長期間の常用はヒューマノイド系の脳に致命的損傷をもたらす。
この3人もそうなのだろうか?
いや。
この男達はそうでは無さそうだ。
ナルギド麻薬常習者に特有の目の濁りが無い。
むしろ辺境惑星アザムーンの凶獣イシュアのように、氷結した眼差しの持ち主たちである。
不意に、3人のうち真ん中に立つ長身の男が口を開いた。
「どうしちゃったの、きみたち。怖い顔しちゃってさ〜。楽しくやろうよ、楽しく。人生は1度きりなんだよ〜」
整った顔の造作はハンサムとさえ言えるが、額に垂らした金髪の間から覗く目がそれを壊していた。
この男には白目の部分が無い。
つるりと黄金が埋められたかのような金色の眼球だけがそこにはあった。 義眼なのだ。
この男はへらへらと小馬鹿にしたような口調を隠そうともしない。
ひとの神経を逆撫でせずにはおかない口調であり、声音だった。
それだけではない。
この男にはどこか精神の歪みを感じさせるものがある。
口の端だけ歪めた笑みは、見る者の怖気を振るわせる。
しかも、ちゃりちゃりと耳障りな金属音が耳を打つ。
音は男の右手からだった。
義眼の男は、金色に輝く3発のカートリッジを、その手の中で弄んでいる。
耳障りな音は、カートリッジが擦れ合う音だった。
胸にクロスさせて、たすき掛けにした2本の弾帯から抜き取ったものだろう。
左右の腰に低く吊したいびつで非対称な2丁の銃も、持ち主の危うい精神性を具現化しているようだった。
その男の左に立つ男は、背は中背、宇宙灼けに灼けた浅黒い肌に三白眼をぎょろりと白く光らせている。
短く刈り込んだ黒い髪、太い眉毛に濃い口髭、決して大柄では無いが、全体に角張った体つきの岩のような男だった。
腰に銃は吊していない。
光線剣らしきスティックをぶらさげているだけだ。
しかし不気味な剣呑さを漂わせていることでは真ん中の男に譲らない。
憮然とした表情で睨め付けるさまは、人食い虎の寝起きを思わせる。
それも飛び切り寝起きの悪い虎だ。
街の男達はついたじたじと後退る。
最後のひとり、右に立つ男は小柄な東洋人風の風貌を持っている。
この男に至っては武器らしきものは、見たところ身につけていない。
髪を弁髪に結い、ゆるやかな上着に身を包んでいるだけだ。
風貌と相まって、武道家か、はたまた求道者のような印象を一瞬与える。
だが一瞬だ。
男の口元を見るがいい。
この男の双眸を見るがいい。
口元は酷薄に歪み、瞳には真空の闇を宿すその男のどこに求道者の面差しがあるだろう。
それは見る者の背筋を凍てつかせずにはおかないものだ。
この男とひとつ部屋で過ごすくらいなら、ジャバスの檻に飛び込むことを、100人が100人選ぶに違いない。
そして、それはおそらく正しい選択だ。
この男がにやりと笑むと、それだけで風に血臭が混ざったかのような心地にさせられる。
こんな男が求道者などのわけが無い。
静寂の中、真ん中の男が掌中でカートリッジを弄ぶ、ちゃりちゃりという音だけが神経に突き刺さる。
「物騒だねぇ、きみたち。おれら善良な船乗りにそうやって銃を向けるなんてさ〜」
大仰に、いかにも心外そうに、そして軽薄にそう言う。
「ふざけるな!お、おれの弟一家にした仕打ちを忘れたとは言わせねぇ!!」
集団の先頭に立った男が激情にかられたように1歩前に出る。
その男は声を震わせながらもなおも続ける。
「ダルソンの街でおまえらケルベロスがした事をおれらは忘れちゃいねーんだ!」
ずいと前に1歩踏み出す。
「ほう?」
金色の義眼の男は目を細める。
「おれたちをケルベロスと知ってのことなんだな?」
へらへらとした口調はそのまま、聞く者の背筋を凍らせる、ぞっとするような響きがある。
恐怖にかられた男が叫ぶ。
「だったらどうした!」
突きだした銃の引き金に指が掛かる―――
だが!
引き金は引かれない。
いや、引けない。
男は呆然と手元を見落とし・・・愕然とした。
指が・・・指が消え失せていた。
鋭利な刃物で切り取られたように、真っ赤な傷口に骨の白い断面を覗かせて、指先が無くなっていた。
そのかわり、いつのまに動いたものか、東洋人風の男が傍らに立っていた。
3人のうち、左に立っていた弁髪・無腰の男だ。
いつのまに!?
にィっ、―――弁髪の男が暗い瞳に笑みを浮かべる。
袖口から覗く右手の指には、引き金を引こうとした男の指先が摘まれている。
いかなる方法いかなる技で切断したものか!
弁髪の男の恐るべき技だった。
3人を取り囲んだはずの街の男達は一瞬気を呑まれた。
弁髪の男の動きがまったく見えなかったからだ。
その衝撃に動きが止まる。
「俺達をケルベロスと知って銃を向けた以上、そのツケはデカイぜ」
四角い岩塊を思わせる男が低く呟くのを誰が聞いたろう。
その手には抜きはなった光線剣・・・いや!
ぶおん!
音を立てて閃いたのはビームブレイドではない!
紫電の光を煌めかせて蛇のようにのたうつそれは、ビームウィップだった。
その扱いの難しさから今ではほとんど使い手がいなくなった光の鞭だ。
青く輝くエネルギーの蛇は、その身をぶるんとうねらせたかと思うと、一瞬にして10人の男達の胴を両断してのけた。
女子供の悲鳴、男達の怒号が街を揺るがせる。
地獄絵図の始まりだった。
遠巻きに狙撃態勢をとっていた男達はいきりたった。
だが、狙い撃とうにも、照星の向こうには既に3人の姿が無い。
仲間たち10人の身体が血飛沫を撒き散らしながら、どうと倒れたとき、3人の姿はかき消すように消えていた。
ど、どこに?
サルーンのドア脇から狙っていた男は思わず店の外へと走り出た。
刹那―――
何が起こったかもわからなかったろう。
首が身体から刎ね上がっていた。
赤い血の尾を引いて。
その傍らを駆け抜けた、右手が血にまみれた小柄な影を見ることの出来た者がいるかどうか。
ふざけやがって!
娼館の2階のバルコニーに陣取っていた男は冷静さを失っていた。
手当たり次第に、構えたグレネードをぶっ放す。
隠れてたってこれでイチコロよ!
仲間達や街の住人のことを失念している。
3人の人間離れした動きが植え付けた恐怖を、武器を乱射することだけが一時的に忘れさせてくれる。
グレネードを撃ち込んだ眼下の街路が、向かいの店が轟音と共に破片を撒き散らす。
さまぁみやがれ!
狂気に目を輝かせたそのとき。
視界の隅、眼下の街路からバルコニーの下に何かが動いたような気がしてグレネードを構えなおした。
遅かった。
青い光が男の立つバルコニーの床から無数に生えた。
・・・ように見えた。
バルコニーを一瞬のうちにを無数の切片に切り刻むビームウィップの動きはひとの目に捉えきれるものでは無かった。
足元が頼りなく宙に遊び、胃の腑がふわっと持ち上がる。
浮いたのではない。
バルコニーの残骸と共に落下を始めたのだ。
「ひ・・・!!」
しかし男は悲鳴をあげることは出来なかった。
いや、
それどころか自らの身体が地面に叩きつけられるように落下したのさえ知覚出来なかったに違いない。
それというのも男の身体が地面に落下したときには、すでにビームウィップの輝きに寸断されていたからだ。
ばらばらの肉片が血を撒き散らしながら地面にぼとぼとと落ちた。
男が手にしていたグレネードランチャーだけが、がらんと転がる。
なんという不思議!
ほかは総て無数の欠片に切り刻まれたというのにグレネードランチャーだけは傷ひとつ無くその姿を保っている。
それだけを狙って外したというのか!?
だとすれば恐るべき手練の技。
その傷ひとつないグレネードランチャーを、岩のような節くれ立った手が軽々と拾い上げる。
「くだらん玩具を使う・・・」
あざけりを込めて放たれたそれは、鞭使いの呟きだった。
ふ・・・
鞭使いは口の端を歪めてグレネードランチャーを宙に放る。
右手が一閃!
青いきらめきが走り、イオン化した空気と共にグレネードランチャーを寸断する。
ばらばらと音を立てて落ちる残骸。
しかし・・・
そこに既に鞭使いの姿は無かった。
彼は教会の鐘楼に隠れて3人を狙っていた。
巨大と言っていいほどの、大きな狙撃用レールガンを構えて。
息子の仇だった。
あの3人は1年前、息子の乗っていた船を破壊した。
息子の命と共に。
その仇だった。
ついさっき、スコープサイトの中で、街の男達を前に金色の義眼の男がぞっとするような笑みを浮かべたとき思わず引き金を引きそうになった。
しかし堪えた。
すぐに郡警察の武装ドールが来る。
ドールが来さえすればやつらを捕らえるのは簡単だ。
このまま撃ち殺してしまってもいいが、それでは奴らと同じ獣だ。
奴らは法の手で裁く。
彼はそう決心して引き金を引くのを我慢した。
―――それが判断ミスだった。
事が動き始めたときにはもう遅かった。
3人のまわりを囲む10人が一瞬でやられた。
そうと気付いたときにはもうサイトの中に3人の姿は無かった。
人外の動きだ。
急いでサーチングモードに切り替えたが、通りは既に混乱に陥り、建物が爆発し、地面が熱波に沸き立ち、飛び散る残骸、燃え立つ炎と煙とが視界を覆い隠してしまって、役に立たない。
「くそ! なんで郡警を待たんのだ!」
苛立ちと共に吐き捨てるように言いながら、索敵スコープから目を離す。
と―――
目の前に金色のカートリッジが浮いていた。
「これは・・・?」
彼は知らなかったが、これは紛れもなく、義眼の男が右手で弄んでいたカートリッジだった!
それが彼の眼前数10センチの空中に浮かんでいる。
・・・どこか遠くで、男がニヤリと笑った。
白目と瞳の区別の無い、金色の瞳で。
それと機を一にして。
―――ぼごっ!
音を立てて、金色のカートリッジは彼の眉間を貫いた。
額から後頭部へ。
血と脳漿をぶちまけながら金色のカートリッジが躍り出る。
意志ある者のように。
数瞬、彼は呆然とした表情を浮かべたまま、やがてゆっくりとくずおれる。
ふわり。
まるでその生死を確かめるかのようにカートリッジは彼の亡骸の上をひとまわりする。
そして・・・
ひゅん―――!
カートリッジは彼をあとに鐘楼を飛び出す。
次の獲物を求める血に飢えた魔虫となって。
街は殺戮と破壊の修羅場と化した。
3人に、相手の区別は無かった。
武器を持つ者も持たない者も、男も女も、大人も子供も、3人は手当たり次第に殺戮してのけた。
殺すことが楽しいのだった。
血をみることが快楽なのだった。
3人は容赦なく殺戮と破壊の限りを尽くす。
正に地獄の番犬の名に相応しい所行だった。
街の住人たち自身がそれにまた輪を掛けた。
3人に怯えるあまり、持てる武器を闇雲に乱射した。
動く物を見ればそれだけで引き金を引いた。
わずかな音にも反応し、自分の影にさえ怯えた。
同士討ちを繰り返し、みずからの手で街を破壊する。
街は恐怖に支配され、ケルベロスが跋扈した。
と、そのとき、ごぉっと音を立てて3機のドールが上空を通過した。
鈍く銀色に輝く、辺境ではわりとよく見るタイプの汎用ドールだ。
軍の払い下げ品だとひとめでわかる。
それを見た街の男達の表情が明るいものに変わった。
払い下げ品と言ったところで、もともとが戦艦相手の兵器だ。その火力は通常の対人兵器などの及ぶところではない。
3機の武装ドールは周囲を睥睨するように、通りの真ん中に着地すると外部スピーカーで呼ばわった。
「我々は郡警察だ!そこの3人組、無駄な抵抗はやめなさい!ただちに武器を捨てて出てくるんだ!!」
朗々とした声は自信に満ちあふれ、手に携えたビームライフルが頼もしい。
ケルベロスの3人がどれほど殺しの技に長けていようとも、武装ドールを相手に勝ち目のあろう筈が無い。
逃げまどうのがせいぜいだ。
ゲームオーバー。
街はすんでのところで救われた。
誰もがそう思った。
だが―――!
そうは思わぬ者がいた。
ちゃり、ちゃり、ちゃり・・・
金色のカートリッジが奏でる不吉な音。
いつのまにか通りの真ん中に、義眼の男が忽然と現れていた。
不吉な音はその手の中からだ。
なぜ現れた?
3機の武装ドールを前に抵抗を無駄と知り、投降する気になったのか?
そうでは無かった。
「くく・・・」
義眼の男は口元を嗤いのかたちに歪めると、右手のひらを軽く宙に躍らせた。
なにかを放り上げたように見えなくも無い、そんな仕草だった。
このとき、金色のカートリッジが手のひらから消えた事に気付いた者は、おそらく仲間のふたりだけだろう。
「お楽しみはこれからだ・・・」
義眼の男は低く呟く。
3人には投降する気など、微塵も無かった。
3機のドールを、畏れてさえいない。
恐るべき自信!
恐るべき傲慢!
それを支えるのは無知か狂気か、それとも―――!?
義眼の男は左右の腰に低く吊した2丁の銃を初めて抜いた。
左の銃は細く長く、右の銃は太く大きい。
にやりと表情を歪めると、義眼の男は細く長い銃の後端部に太く大きな銃の
銃口を差し込んだ。
がちり。
ひねりを加えるとロックされる音がして、銃身が伸び、グリップに畳まれていた銃床が展開する。
2丁と思われた銃は1丁のライフルへとその姿を一瞬で変えた。
義眼の男はラフにそのライフルを構える。
ライフルには照星もスコープもついてはいなかった。
しかし、義眼の男にとってそれは問題では無かった。
男の、瞳の無い金色の目は正確に目標を捉えていた。
目標―――正面に立つ3機のドールのうち、先頭に立つ1機を。
そのドールのコックピット内に警報音が響く。
「む? ロックオンされた?」
そのドールドライバ―――郡警察保安官はメインディスプレイにウインドウを開いて正面の男を大写しにする。
不気味な金色の義眼までもがはっきりと映し出されるが、
「見たことの無い銃だが・・・マグナムライフルか?」
いずれにしても大した事はないと、タカをくくる。
ドールの機体は電磁コーティングに包まれている。
これは人間で言えば防弾チョッキを着ているようなものだ。
物理攻撃に対しては効果が無いものの、レーザーやビームを大きく減衰させる。同じドールの持つ武器や固定砲ならいざしらず、人間の持てる程度のエネルギーパックでは傷もつけられない。
ふん、お仕置きのひとつもしてやるか。
鼻で嗤ってロックオン警報を止め、ドールが手にしているビームライフルのセイフティーを外す―――。
外せなかった。
保安官には何が起こったかもわからなかったろう。
義眼の男の銃が火を吹いたのだ。
それが保安官機を襲った。
音もなく、唐突に、コックピットごと上半身が消失した。
まるで見えない怪物に呑み込まれたように。
マイクロブラックホール弾。
それが義眼の男の銃から吐き出された弾頭の正体だ。
これなら表面の電磁コーティングも、分厚い装甲も何の意味も無い。
局地的に生じた特異点があらゆる物体を呑み込むだけだ。
防ぐ方法は、無い。
一瞬膨れあがった黒い球体は紫色のスパークを撒き散らしながら不意に消える。
マイクロブラックホールは安定しない。
自らを呑み込みながら空間を閉じて消失する。
その間、100分の1秒もあるかどうか。
しかし効果は十分だ。
上半身とドライバを失ったドールがゆっくりと倒れるその様を見ながら、義眼の男が不気味に笑う。
このとき、郡警察の僚機2機は致命的なミスを犯した。
すぐさま散開すべきだった。
逃げるべきだったのだ。
そうすればまだ対処のしようもあったのだ。
だがこの2機はそうしなかった。
倒れた保安官機に駆け寄ってしまった。
それが命運を決めた。
いつのまに現れたのか、鞭使いと拳法家が左右のドールの足元に取り付いた。
1歩間違えばドールに踏み潰されかねない危険な行為だが、ふたりの動きは手慣れたものだ。
何の危うげも無い。
鞭使いが右手の鞭を一閃させる。
青いスパークを放ってドールの脚部に一条の傷が走る。
ハンドウェポンといえど、エネルギーを一点に集中させれば電磁コーティングに傷くらいはつけられる。
一点集中したエネルギーがコーティングを打ち破り、ドールの装甲を食い破る。
それだけでは無い。
触手のように伸びたビームウィップの獰猛な牙が、内部からドールの脚を食い荒らす。
それだけなら良かった。
それだけならドールにとって致命傷とはなり得ない。
だが、それで十分なのだった。
これは単なる突破口にすぎなかった。
鞭使いはドールの脚から離れた。
入れ替わるように黄金のきらめきがドールの脚、糸のような切れ目に飛び込んでいく。
それは脚部内に入り込み、ドールの血管・エネルギーケーブルの中を通って心臓部に向かう。
それは金色のカートリッジ。
義眼の男が宙に放った黄金のカートリッジだった。
拳法家はその両手のひらを残るドールの脚部に密着させる。
と―――!
拳法家の身体が青白く光り出す。
密着した両手を中心に、それは青いネットとなってドールの脚部にひろがり始める。
そこで拳法家は翻るように身を離す。
ドールの片足の電磁コーティングは既に中和され、消えていることに誰が気付くだろう。
これがこの男―――ドレニアス人の特殊能力だった。
そこへ、3発の黄金のカートリッジが襲いかかる。
1発目が装甲に傷を付け、2発目が穴を穿ち、3発目は体内に侵入する。
2機のドールドライバは突如襲った激しい頭痛に顔をしかめた。
コックピットのコンソールに紫色のスパークが走り、ディスプレイが次々とダウンする。
このとき、たとえ盲撃ちでもビームライフルを乱射すれば、あるいは助かったかもしれない。
これが最後のチャンスだった。
しかし何が起こったのか、何が起ころうとしているのか、事態の把握に戸惑っているうちにそれは永遠に手遅れとなった。
ぱちん!
音を立てて耳の後のプラグが強制リリースされた。
それはドライバの脳を守るための最後の安全装置だった。
ドールから感覚が切り離され、嘘のように頭痛が消える。
「いったい何が!?」
刺激臭の満ちるコックピットの中でドライバは叫ぶ。
それが最後の言葉だった。
1機のドールがもう1機のドールの頭部にビームライフルを突きつけた。
なんの躊躇いも無しに引き金を引く。
瞬間、大気を切り裂き、金属を焼き尽くす、凄まじい轟音と閃光が迸る。
零距離での射撃だ、ひとたまりもない。
撃たれたドールの頭部はそのほとんどを蒸発させ、残る部分、無数の細かな残骸も煙の尾をひいて飛び散る。
同士討ちか!?
いったいなぜ?
コントロールプラグの外れた彼らはドールを操縦出来ないのでは無いのか?
義眼の男が冷たく口元を歪ませた。
酷薄な笑みだ。
そして、呟く。
「やりあえ」
その声が聞こえたかのように、頭部を失ったドールが手にしたビームライフルを投げ捨て、背のTASドライブを唸らせて僚機に体当たりを敢行する。
金属と金属のぶち当たる凄まじい音をさせ、火花を撒き散らしながら2機はもつれあいながら大地に転がり倒れる。
そのまま1機―――首の無い方がマウントポジションを取り、鋼の拳でもう1機を殴る。
殴る方も殴られる方も、機体が激しく悲鳴をあげ、きしみ、歪む。
1発ごとに大地が震えた。
下になったほうのドールがぎりぎりと軋みをあげながらライフルの銃口を上になった機体の胸郭に突き立てる。
直後。
再び白色の閃光をあげ、爆裂音が大気をゆるがす。
頭部を失ったドールは、今度は胸にぽっかり黒い穴をあけ、ゆっくりと背後にのけぞり・・・ずしんと音をたてて倒れた。
びくんびくんと動くさまは、まるで断末魔の痙攣そのものだ。
残る1機は、ライフルを構えたまま上半身を起こすと、とどめを差すように痙攣するドールを狙い撃つ。
何度も何度も。
そして、ぴくりとも動かないのを確認すると、今度はライフルを投げ捨て、自らの胸に手をかける。
何をしようというのか!?
装甲の隙間に指を突き立てるようにして、強引にコックピットキャノピーをこじあける。
殴られ、変形した装甲が悲鳴をあげつつ、徐々に隙間が大きくなっていく。
がごん!
一段と大きな音をたてて、キャノピーが外される。
それを投げ捨てると、ドールの巨大な手はコックピット内へとこじ入れられる。
内部からドライバの悲鳴があがる。
それを天上の雅楽のように聞きながら義眼の男は小さく命じた。
至福の笑みと共に。
「―――やれ」
ドールの手がぎゅっと握られた。
胸の悪くなるような、無惨な音が響いた・・・。
それをその目で見、耳で訊いた3人の男たちの顔には薄い嗤いが貼り付いているだけだった。
「相変わらず見事だ」
「へへっ、おたがいさまだぜ・・・」
義眼の男は手にしたライフルを再び2丁に分割、腰のホルスターに戻しながら答える。
「生兵法は怪我の元、ってな。いい勉強になったろうよ・・・と言ってもその勉強を活かす機会は無いかぁ〜」
「もっともだ」
男達は笑う。
これがこの男達―――ケルベロスと呼ばれる男達だった。
見渡せば、周囲はいまや廃墟だ。
すでに街としての機能を残していない。
もう誰もここで暮らそうなどと思う者はいまい。
そう。
3人が通った跡にはゴーストタウンだけが残される。
彼らは殺戮と破壊をもたらし、地獄へ導く者たちだ。
そのとき、不意に3人の頭上に影がさした。
見上げる3人の表情に一瞬浮かんだ色は怯え、だったろうか?
素手も同然でドールに挑む化け物たちが怯えを見せるもの―――それは宇宙船だった。
それは突撃格闘戦闘艦だった。
特徴的なシルエットは艦首に2本の衝角をくっきりと見せている。
紛れもない。
護衛屋《蒼き死神》の持ち船、《死神の鎌》。
それが降りてくる。
3人はごくりと喉をならした。
義眼の男が怯えたように黒い戦闘艦を見上げる。
「も、申し訳ありません、ゾーンフェルドさん。遅くなりました」
『ばかめが』
戦闘艦の外部スピーカが冷徹な声を吐き出す。
『早く乗艦しろ。仕事だ』
ゾーンフェルドと呼ばれた男の声にはおよそ感情というものが感じられなかった。
ケルベロスの3人が怯えを見せるのも無理は無い。
この男の声音に比べればケルベロスの放つ雰囲気など春のおだやかな風にも等しい、冷たく凍てついた声だった。
艦底から放たれたトラクタービームに乗って、そそくさと3人が乗艦すると、闇色の戦闘艦は再び大空へと舞い上がる。
獰猛な猛禽類を思わせる動きで。
あとには3機のドールの残骸と、あちこちからまだ煙を立ち上らせている街の焼け跡だけが残される。
それだけが、かつてインドゥリアと呼ばれた街の名残だ。
第9話「ケルベロス」 了
予定のとこまで行きませんでしたが、ちょうど区切りのいいとこなので。
今回、かすみ達は姿を見せませんでしたが、次回は出てくる予定です。
また、新レギュラー、熊のレッキーさんもいよいよ登場となります。
これで残るレギュラーキャラはクリス・レインねーさんただひとり。
感想、ご意見、ご要望などありましたら伝心門へどうぞ。
追記(7/11)
ところで、
くにゃくにゃ蠢くもののどこが「ビーム」やねん!
というツッコミもありましょう。<ビームウィップ
いやまったく、でございますよ。
ライトウィップくらいにしときゃ良かったですな。
しかし一応、
この世界ではライトセイバー系の武器は基本的には単分子ワイヤーの表面にエネルギー膜の一種を張ったもの、とお考えいただきたい。
ですから、ライトセイバーを叩っ斬る、なんてー真似も出来たりします。
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