またまた冒険者は迷宮を目指す!(2000/10/26)
「だ〜か〜ら〜!言ったじゃないですかぁ〜!!」
歪王が声を荒げる。
ここは第三新リルガミン市にほど近い森の中。
その森の中の街道を6人の男女がとぼとぼと歩いて行く。
擦れ違う旅人たちは奇妙なものでも見るような奇矯な視線を注いでいく。
それもそのはず。
6人は素っ裸にコモだけまとった、なんとも情けない恰好だからだ。
「またやられちゃいましたね」
角角角が、どちらかといえば楽しそうにそう言った。
「にこにこしてる場合じゃありませんぞ〜」
そういうけん1もあまり深刻そうには見えない。
が、ときおり暗い表情になるのは国元への仕送りに思いを馳せるからだろう。
「しかし困りましたね」というのは、べちょ。
「もう一銭のお金もありませんよ。今夜の宿もままなりません…」
「そういうなよ〜」さら夫がこめかみを押さえつつ、うめくように言う。「俺だってアタマが痛いんだからさ〜」
「かわいそう、さら夫さま」かすみが心配そうに覗き込むのへ、
一同「あんたのはただの飲み過ぎじゃ!!!」
厳しい突っ込みだった。
第二リルガミン市の迷宮を制覇したさら夫は、次なる目的地へ移動することにした。
今度は第三新リルガミン市。
そこにもなかなか稼ぎ甲斐のある迷宮があるという情報を掴んだのである。
今回は、角角角以外のメンバーはいったん故郷へ帰るということになった。
しかし、第三新リルガミン市までは同じ道中である。
ならばそこまで一緒に行こうということになった。
「おれがおごる!」
なにせ金はうなるほどある。
今回もさら夫はお座敷馬車を仕立てた。
歪王やけん1も一抹の不安を覚えたものの、同じことが2度あるはずも無いと、さら夫の厚意を気持ちよく受けることにした。
思えばこれが失敗だった。
しかしまさかと誰しも思う。
一行は、第二リルガミン市から第三新リルガミン市までの1週間、がんがん飲みかつ食らった。
迷宮での厳しい冒険のあとである。
ハメをはずす、なんていう生やさしいものではない。
飲めや踊れや大騒ぎ。
最初のうちは「こんなことをしている場合ではないんですが」と言っていた歪王も、しまいには率先して裸踊りを披露する始末。
一行はあまりの楽しさにうかれまくっていた。
なもんだから、お座敷馬車のスタッフがどいつもこいつも顔に大きなマスクをつけていたり、塗り壁なみに濃い化粧をしていることを気にも止めなかったのもやむを得ないことと言えよう。
たぶん、きっと。
そう。
このお座敷馬車のスタッフは例の連中だったのである。
リルガミン市から第二リルガミン市までの移動に使ったお座敷馬車で、さら夫たち一行に眠り薬を盛って裸で放り出したあの連中だったのである。
でもって、景気づけに第二ギルガメ亭で飲んでいたところをさら夫達にみつかり裸にむかれて放り出されたあの連中だったのである!
さら夫達がお座敷馬車を仕立てるときいて、再び(今度は変装して)現れたというわけだ。
そして…
一行は、いい加減酔いつぶれたところを、ふたたび簀巻きにされて放り出されたというわけだ。
かくして…
「どーすんですか!」
「どう…ったってなぁ」
さら夫はぽりぽりと頬を掻く。
「まぁ、またみんなで稼ごうよ」
にかっと笑う。
意外に人なつこい笑顔だ。かわいいと、言えなくもない。
「んもう。しょうがないなぁ…」
歪王も苦笑してしまう。
そのとき、
「おーい、来てごらんよ、街が見えるよ」
先を歩いていたべちょが手招きした。
森を抜けたのだ。
行ってみると、森はそこで終わり、広く視界が開けている。
正面に白く大きな岩山。
その麓に広がる街並みが第三新リルガミン市だ。
「あそこが目的地なんですね…」
かすみが呟いた。
みなが頷いた。
誰もの心の裡に湧き上がってくるものがある。
それは未知なるものへの冒険心か。
「さ、行きましょお!」
歪王が先頭を切って歩き始めた。
第三新リルガミン市はもう目の前だ。
第三ギルガメ亭にて(2000/10/26-27)
さら夫たちは最低限の装備をなんとかととのえた。
決して満足のいくものでは無かったが、この際、贅沢など言っていられない。
そのかわり、酒場にたむろしていた、何の罪もない人々のうちの何人かが、簀巻きにして放り出されたという噂もあるが定かではない。
「今夜はここに泊まるどころじゃねえなァ〜」
さら夫がテーブルに足を投げ出したまま、うんざりした様子で呟いた。
「しばらくは馬小屋暮らしですねぇ」
かすみが楽しそうに言う。
そのことを、気に病んでなどいないようだ。
さら夫は片眉を上げた。
実のところ、さら夫自身は馬小屋でも道ばたでも苦にはしない。
彼が気にしているのは、かすみのことである。
かすみはちゃんとベッドでやすませてやりたい。
さら夫はそう思っている。
それを察して、かすみは「私は平気です」とアピールしているのだ。
けなげだぁ〜。
さら夫は目がうるうるしてくるのを感じた。
それを誤魔化して、
「あとでヌンチャクの練習しような」
「はい〜」
かすみは腰の後にさしたヌンチャクを引き抜いてぶんぶん振り回してみせる。
だめだ。
まだ全然サマになってない。
しかしスジはいい。
いずれにしても、かなり特訓が必要だなと、さら夫は見てとった。
と、そこへ、
「あんたたち、さら夫さんとかすみちゃんじゃろ?」
でっぷり肥ったドワーフのおやじが話しかけてきた。
「そうだけど…あれ?」
振り仰ぐと…ギルガメ亭のオヤジが立っていた。
いや違う、正確には第三ギルガメ亭のオヤジだ。
だがこれがもう、信じられないくらいギルガメ亭のオヤジそっくりである。
無愛想だが酸いも甘いも噛み分けた人生の年輪を感じさせるあのオヤジに。
ただし、こちらのオヤジはかなり愛想が良いようだ。
「あんたは…?」
「ほうほうほう。私はギルガメ亭のマスターの末の弟でなぁ、あんたらのことは兄貴からよく聞いとるよ」
「そっくりですぅ〜」
「よくそう言われるんじゃ、お嬢ちゃん」
「で、何のようだ?」
「ふむ。見れば金が無くて困っとるようじゃが…ちょっとイイ話があるんじゃよ」
そう言ってさら夫の表情を窺う。
さら夫は、にやっと笑って、ドワーフのために椅子をひいてやった。
かすみはふたりの表情をきょときょとと見比べている。
第三新リルガミン市の背後に聳える巨大な岩山。
そこに竜が棲むという。
竜はオーブを持っていて、それがかなりのお値打ちモノ。
ところがそのオーブ、魔力が強く、なまなかな者では触れることさえ適わない。
「どうじゃね? あんたら、ワードナの護符に触れた者なら持って帰って来られると思うんじゃが?」
「いいね、やってみましょ」
もともとそのつもりだったし、と心の中で続ける。
「そんなお話、どうして教えてくれるんですかぁ?」
かすみが間の抜けた声でオヤジにたずねた。
「誰でも知っとることじゃよ。」
「???」
「いやな、ワシもひとくち乗せて貰おうと思っての」
やっぱりね、とさら夫は思った。
「おんしら、金が無いんじゃろ?見ればわかる。どうじゃ、ワシをスポンサーにせんか?
飲み食いと宿を提供しよう」
「交換条件は?」
「ダンジョンでみつけたもの総てに対して30%」
「金だけ20%。アイテムはこっちで自由にさせて貰う」
「む…金だけのアイテム無し、30%でどうじゃ?」
「おーけぃ。それで手を打ちましょ」
さら夫は、にやっと笑って続ける。
「おやっさん、なんだったら40%出してもかまわないぜ」
それを聞いてドワーフが目を丸くする。
「そのかわり」とさら夫は言った。
「俺とかすみにはいちばんいい部屋だ。あと、かすみに週に2度のお風呂サービスと毎食事にエルフの香草サラダを必ずだ」
それをきいてドワーフのオヤジも納得の笑顔になる。
「おやすいご用じゃ」
「よし、じゃぁ契約成立ってことで」
ふたりは握手をかわした。
これでダンジョン探索の準備は整った。
騎士編の反省点も踏まえて目的も明確にしたし。(笑)
次回よりダンジョン探索開始。
乞うご期待!
呪いの迷宮(2000/20/27)
岩山に穿たれた洞窟はわずかに登りになっている。
歩くほどに急峻な坂となり、道幅はどんどん細く狭く、しまいにはひと一人通るのがやっとになる。
空気にも湿り気がまじってくる。
単に湿気というよりも妖気そのものの雰囲気だ。
モンスターの棲処にいかにもふさわしい。
緊張が、徐々に高まる。
それが突如として広大な空間に出た。
目の前に湖が広がり、その真ん中に小島があるのが見える。
地底湖だ。
「こんなところに湖が!」
「あの島が怪しいよね」
「ええ、どうにかしてあそこに渡りたいもんですが…」
ボートでもあればと思ったが、岸辺にはなにも無い。
しばらくは周囲の探索をするしか無さそうだ。
そう判断して、そちこちを歩いてみるが何も無い。
モンスターも出ない。
「雰囲気だけは思い切り不気味なんだけどね」
努めて明るい声を出してみたりするものの、いつもの軽さは誰にも無い。
このダンジョンに漂う妖気がただ事ではないことを、誰もが感じている。
これは…嵐の前の静けさだ。
次第に口数は少なくなる。
かすみもいつのまにか、さら夫の腕にしがみつくようにして歩いている…。
モンスターが現れた!
繁みの中から10人の海賊が躍り出た。
怖ろしい使い手ばかりだった。
一瞬でさら夫は手傷を負った。
これが雑魚モン!?
信じられん!
しかし、かすみも歪王も果敢に攻める。
歪王のバトルアックスが唸りをあげる。
空気の焦げる臭いがするようだ。
かすみのヌンチャクが変幻自在に敵を襲う。
闇に舞う黒い蝶のように。
しかし!
それですら一撃での致命傷には至らない。
敵はおそるべき継戦力の持ち主たちだった。
もしかするとグレーターデーモンにさえ優るのでは無いか!?
いや違う!
さら夫は、ブロードソードにマリクトを込めようとして気づいた。
魔力が失われている!
いや魔力だけではない、すべての能力が失われている!
このダンジョンには呪いがかかっている!!
すべての経験が失われたというのか!
馬鹿な!
青ざめる。
ぶん、と海賊の剣が襲い来る。
身をかがめたところを海賊の剛剣が頭上を払う。
髪の毛が何本か飛ぶ。
間一髪だ。
今は思い悩んでいるときではない。
さら夫は海賊の懐に飛び込んだ。
腰溜めにしたブロードソードが、ずぶり、と海賊の腹に突き刺さる。
剣先は背まで抜けた。
命が消えていく震えが、柄を握った両手から伝わってくる。
痛いほどに。
これだぜ!
どん!と蹴り倒して剣を抜き、次の敵を求めて振り返る。
その顔が笑っている。
振り返ったさら夫の顔が笑っている。
かすかに口が何かをつぶやく。
「楽しいなぁ…」
楽しいなぁ…そう言っていた。
戦いはこうでなくちゃ。
ぎりぎりの命のやりとり。
それがいいんだ。
「俺はここ、気に入ったぜ!」
狂戦士の咆哮が、闇を切り裂く。
陥落!ガリア要塞!!(2000/10/30)
ざばっ!
水面が音をたてて、大きく盛り上がった。
その水を押しのけるようにして現れたのは巨大な水竜だ。
水を滴らせる体表は、白く不気味にぬめっている。
ぎぃぃぃぃぃぃーーーーーーんんん!!!
目のない頭部をこちらに向けて、牙を剥きだした顎から、超音波に近い咆哮が迸る。
同時に、その竜の隣の水面がこれもまた大きく盛り上がり別の水竜が姿を現した。
もうひとつ。
さらにもうひとつ。
いったい、いかなるすべでこちらの位置を知るものか、4匹の水竜は鎌首をもたげてこちらを見おろしている。
再び、今度は4匹がいっせいに、超音波の咆哮を挙げた!
来る。
さら夫は薄く笑った。
肩越しに柄を握りながら後衛の3人を下がらせる。
この程度のモンスター、魔法など不要だ。
銀色の閃光が走り、襲い来る水竜の首が、縦にまっすぐふたつに割れた。
割られた竜の頭部が、モーゼに割られた海のようにように、さら夫の左右に分かれて落ちた。
物理的にあり得ない。
そう思えるほどに見事な剣技だった。
「1匹!」
さら夫が獰猛な笑みを浮かべてつぶやく。
さら夫の右手では、竜の猛攻をかすみがかろうじて避けた…かのように見えたが、次の一瞬、竜の頭部がみずからの勢いで吹っ飛んでいる。
首の部分に、これ以上無いみごとな切り口を見せていた。
交錯する一瞬に抜く手も見せずに切り落としたかすみの技だ。
「2匹ですぅ!」
かすみが嬉しそうにさら夫を見やる。
さら夫の左に立つ歪王は、跳躍していた。
竜の攻撃を迎え撃つ。
下顎から突き刺した剣は水竜の頭部へ突き抜け口を縫いつける。
突き刺さった剣をテコに、身をひねって竜の頭部に馬乗りにまたがり、今度は竜の、本来なら目のあたるあたりに剣を突き刺す。
思ったとおり目は無くとも眼窩はある。
ぐりぐりと脳までえぐる。
いかなモンスターといえど、脳を粉砕されて生きていくことは出来まい。
思ったとおり水竜は、巨大な体を痙攣させると、堀の中にその体を崩れさせる。
しかし頭部にまたがった歪王も一緒だ。
「うぶぅっ!」
少し水を飲んだ。
竜の眼窩から剣を引き抜くと、水面へ向かって水を蹴る。
さいわい、ロミルワの影響はこの付近にもわずかながら及んでいる。
なんとか方向感覚は掴める。
「ぶはぁっ!」
水面に顔を覗かせる。
「これで3匹!」
顔をぬぐいながら叫ぶと、堀の縁に立ったさら夫が
「4匹だ」
と声を返す。
見回すとなるほど、さら夫とかすみ、どちらが倒したものか、4匹目の竜もその白い巨躯を水没させていくところだった。
さすがに早い。
歪王はにやりと笑うと、抜き手を切って堀の縁まで泳ぎ始めた。
侍の「キモノ」は泳ぎにくいのが難点だった。
それでもほどなく岸に泳ぎ着くと、さら夫が手をとって引き上げてくれる。
「いいね、なかなか」
さら夫は笑顔だ。
「かすみは?かすみは?」
うしろでかすみが騒いでいる。
歪王は苦笑しながらはい上がる。
「うっくしゅ!」
くしゃみだ。
「まだ、泳ぐには早すぎまふな」
歪王は全身ずぶぬれの、自分の姿を見おろした。
ざばざばと水が滴っている。
いい男っぷりだ。
その堀をまわったところにガリア人の要塞の入り口があった。
強行突破する。
要塞内部は迷路のようになっていたが、さほど悩むことも無く最奥部に到達することが出来た。
ガリア人は見た目よりも臆病…というのだろうか、たいていの連中はこちらの姿を見ただけで逃げ出してしまう。
「う〜ん、きっと連中、かすみが怖いんだろうなぁ」
さら夫がそう言ってからかうと
「そんなことないですぅ、かすみ、そんなに怖い子じゃないですぅ」
本気で泣き出してしまう一幕もあって、これはなだめるのが大変だったりもしたのだが、それはまた別の話である。
さて要塞の最奥部。
そこに、この迷宮の2階への登り口がある。
ここを目指してきたのだったが…一行は困惑している。
そこには3枚の扉があったからだ。
1枚は第三新リルガミン市へ戻る道。
1枚はこのまま2階へ上がる道。
そしてもう1枚は…
「一種の呪いですぞぉ、これは」
けん1がうめくように言った。
「これは我々には入れませんなぁ…我々のような心正しき者には!」
そう言って「わっはっはっ」と豪快に笑う。
「となると…?」
考え込むように角角角が呟く。
「彼らをよぶより無いのでは?」
と、これまた思案げにべちょが続ける。
「うむ」
と、さら夫が頷く。
一行はためらうことなくリルガミンへの扉を開いた。
第三新リルガミン市に戻り、手紙を書く。
そして心悪しき友人たちをよぶのだ。
そうだ。
今こそ出番だ!
出よ!P小隊!!!
|