会員手記 
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イェーテボリにて 
                           

篠原 亮子   

 今年スウェーデン第二の都市イェーテボリで7月26日から開催された「第88回世界エスペラント大会」への旅に思い切って参加しました。大会テーマ「言語権と責任」のもとに62ヶ国・約1800人が集まり、来年の北京大会へとつなげて8月2日に閉会しましたが、エスペラント冬眠状態の私は多彩なプログラムにも殆ど出席せずに過ごしてしまいました。というわけで、折々心に残った事のみ少し記してみます。

 滞在したゴ―ティアタワーは23階建ての清潔で気持ちのよいホテル、大会の行われたコンベンションセンターとつながって居て何より、目の下に北欧最大のリーセベリ遊園地がひろがっています。数多い庭園や植物公園など緑あふれる街、市の中心イェータ広場には美術館・劇場・コンサートホール・図書館等に囲まれて市の象徴のカール・ミレス作ポセイドン像の噴水があります。美術館では世界有数の北欧美術のコレクション、19世紀の印象派の名画などの他、14ヶ国28名の現代アートの展示をしていました。その中に30脚程椅子をならべ、或るフィルムを映写している室がありました。それはカンボジアのポルポト時代、悪名高いトゥールスレンの監獄に1977年から79年迄囚われ、解放後その折の体験を描いた画家ヴァンナットの映像でした。彼は大量殺戮の後たった7人生き残っていた中の一人です。その場にはたまたま一人の西洋婦人と私しかおらず、貴女はかかわりのある身内の人かと尋ねられました。私はエスペラント大会で来た日本人と答えましたが、その方はこんな悲惨な事は二度とあってはならないと静かな表情で話されました。私はそれ以上見るに堪えず部屋を出ましたが、せめてどちらの方か伺えばよかった、ひょっとして彼女こそかかわりのある方ではなかったのかと後で悔やまれてなりませんでした。

 イェーテボリはスウェーデンの西の海の玄関、多くの国の定期船が通うスカンジナビア半島最大の港湾都市です。埠頭沿いの海洋博物館にはヴァイキングの頃から現代に至る船の歴史や模型、水族館などがあり、そこに40mを超える塔が立っていました。その台石には第一次世界大戦は交戦国ではなかったにも拘らず魚雷や機雷で亡くなったスウェーデンの690人の水夫達の名前と、その船の名が彫られています。その先端に海辺で息子や夫の帰りを願う女性の5mのブロンズ像がありました。それは航海に出て行く者の無事を祈るものでもあるのですが、海に向かいショールやスカートをなびかせて嘆き叫んでいる様にも見えるこの像は、とても心引かれるものでした。今又、個々の意にそわぬまま、世界中の港から空から国の為にと出て行く兵士達がいる事を思わずにはいられませんでした。

 大会の半日遠足の一つでヴェステルイェトランド州南部のヘーダレードにあるスターヴシュルカを訪ねました。13世紀に建てられ、スウェーデンで唯一残っている垂直の木組の木造のチャペルです。祭壇や説教壇は美しい聖母マリアの像や聖人の彫像で飾られ、古びてはいるものの心落ち着く場所でした。遠い昔の人々はここでどんな喜びを又悲しみを祈った事でしょう。何世紀もの間、村人達によって何度も修復され、かけがえのないものとして今に伝えられているのです。人の命がやさしさのかけらもなく奪われ、砲弾で街並や文化遺産がいとも簡単に破壊される今、最初いとおしささえ覚えたこの小さな小さな教会が、私には人類の偉大な遺産に思われて来たのでした。

 大会のあと、東欧へ2ヶ月の旅に立たれる大島順子さんと別れ、同行のTEKの皆様にお世話になりながら、コペンハーゲンでアンデルセン像の写真をとり、ダブリンでジェイムズ・ジョイス像の写真をとり、飲めないギネスを舌の先でころがして、どうにか体調を崩さずに帰って参りました。

 イェーテボリから親戚の中学生に葉書を一枚出しました。彼女の夏休みの地理の宿題にはこんな文章がありました。 「世界にはエスペラント語という世界共通語があります。エスペラント語さえ学べば世界一周旅行も楽しく行けると思います。」 テーマは夢の旅行でした。

 現在ある国々や民族間の憎しみの連鎖をどうにか断ち切り、平和な世界で夢が実現することを心から願っています。
   C^u mi povus esperi futuran mondpacon?

( 編集者注 )スウェーデン第二の都市 Goteborg ( 英語 Gothenburg、エスペラント Gotenburgo )の日本でのカナ表記は「イェーテボリ」と「ヨーテボリ」のいずれもが使われております。北欧史・地名事典など歴史・地理関係の本では前者が、旅行ガイドでは後者のようです。

(完)  

(C) 2003 SER (杉並エスペラント会会報 Sazanko n-ro 75 より転載)


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