不 妊 症 治 療

2003年11月19日〜11月24日に南京において、周期療法の第1人者である夏桂成先生の診療見学や講義を受ける機会に恵まれました。このときに学んだことを加味して、内容をリニューアルしました。

周期療法とは
周期療法の基本的な考え方
周期療法に大切な7、5、3奇数律
基礎体温による周期療法の実際
特殊なケースについて
食養生について

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周期療法とは

結婚して避妊をせずに通常の夫婦生活をしているにもかかわらず、2年以上子供ができない場合は一般に不妊症といわれています。最近では1年で子供ができなければ何らかの不妊につながる障害があるという考え方もあるようです。
近年中国では中西医結合といって伝統的な中国医学の治療法に西洋医学の考え方を結合してより治療効果を高める方法が一般的に行われています。周期療法はこの中西医結合によって作られたすばらしい治療法です。周期療法の最大の特長は、生理周期にあわせて漢方薬を使い分けて妊娠の確率を高めることです。



上記の表を見てください。周期療法は生理周期(生理期、低温期、排卵期、高温期)にあわせて異なる漢方薬を服用しますが、各時期の基本的な治療方針は以下のようになります。

生理期: 活血薬と理気薬を併用して、子宮内の血液をきれいに排出させる。
低温期: 補陰血薬を中心に少量の補陽薬を併用して、子宮内膜を増殖し成熟卵胞を育てる
排卵期: 補精薬と活血薬を併用して、排卵をスムーズにする。
高温期: 補陽薬を中心に少量の補陰血薬を併用して、受精卵を子宮内に着床させ妊娠を継続できるようにする。

女性の体は生理周期によって女性ホルモンの分泌が異なり体調も変わってきますので、生理周期にあわせて漢方薬を使い分ける周期療法は大変効果的です。

漢方コラム周期療法の歴史 夏桂成先生を訪ねても参照してください。

周期療法の基本的な考え方


中国医学の考え方では心は神明を主り、腎は精卵の発育と排泄を主宰して生殖を主ると考えられています。神明は大脳の働きと同じですので、心−腎−子宮の生殖軸によって月経周期をコントロールしていると考えています。このような考え方は西洋医学の視床下部−脳下垂体−卵巣−子宮の生殖軸の考え方と一致しています。
生殖軸には肝と脾胃も協調しています。肝は疎泄を主り自律神経による調節と関係しており、脾胃は運化を主り食物の消化吸収を通じて血や精を補っています。よって心−腎−子宮の生殖軸のコントロールには肝と脾胃が深く関係しているといえます。
また子宮には十分の血があって生理が来ますので、血は月経周期と深い関係があります。
このような中国医学の理論をベースとして、西洋医学の生理周期や基礎体温の概念を結合させて、以下のような周期療法の基本的な考え方が作られました。



上記の表を見てください。この中で注目していただきたいのはエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の変化です。エストロゲンは低温期に高くなり排卵前後にピークになります。一方プロゲステロンは低温期に低く高温期に高くなります。周期療法の理論ではエストロゲンを陰と考え、プロゲステロンを陽と考えます。つまり低温期は陰が長じて、陰がピークになると排卵して陽に転化し、高温期になります。高温期は陽が長じて、陽がピークになると陰に転化して生理になります。このようにして生理周期は陰陽のリズムにより説明することができます。
生理周期は4つの周期を一定のリズムで繰り返しますが、妊娠のためには特に低温期において質の良い受精卵と子宮内膜を作ることが大切です。低温期にしっかりと滋陰養血することにより、エストロゲンが十分に分泌され、質の良い受精卵と子宮内膜を作ることができます。

漢方コラム女性ホルモンと周期療法も参照してください。


周期療法に大切な7、5、3奇数律


周期療法の日数を決める際に重要な法則に7、5、3奇数律があります。これは中国で不妊症周期療法の第1人者といわれる南京中医薬大学教授、夏桂成先生が長年の経験から見つけ出した法則です。周期療法では低温期は陰が長じる時期、高温期は陽が長じる時期、生理期と排卵期を陰陽が転換する時期としています。また数字で言えば奇数は陽、偶数は陰に属すと考えられています。
夏桂成先生の経験によると生理期と排卵期の日数は7日、5日、3日の奇数の日数になるようです。生理期が7日の方は排卵期も5〜7日、生理期が5日の方は排卵期も3〜5日、生理期が3日の方は排卵期も3日と生理期と排卵期の日数が対応していることが原則です。なお、排卵期は透明で光沢と粘りのある卵の白身のようなおりものが増えてくる時期を指します。排卵の時期にこのようなおりものが増えないと、エストロゲンが低く受精卵の質があまり良くないと考えます。
また低温期は9日、7日、5日など奇数の日数で、高温期は陽に14日、12日、10日など偶数の日数になることが原則になります。

漢方コラム7、5、3規律についても参照してください。


基礎体温による周期療法の実際


代表的な8タイプの基礎体温と周期療法の具体的な方法について解説します。周期療法に使う漢方薬については代表的な方法を記載します。

漢方コラム婦人の聖薬「当帰」 生理期の漢方薬について 低温期の漢方薬について 排卵期の漢方薬について 高温期の漢方薬について 不妊症に効果的なサプリメント も参照してください。



@正常タイプ

正常な基礎体温は以下のグラフのように@高温期が12〜14日続くA高温期と低温期の差が
0.3〜0.5℃あるB低温から高温へ1〜2日以内に移行する という3つの条件が揃っています。



正常に近い基礎体温でも妊娠できない場合は基本的な周期療法を行います。

生理期: 婦宝当帰膠+桂枝茯苓丸など
低温期: 婦宝当帰膠+杞菊地黄丸或は六味丸+ビタエックスなど
排卵期: 婦宝当帰膠+冠元顆粒+海馬補腎丸など
高温期: 婦宝当帰膠+参茸補血丸或は海馬補腎丸など



A低温期が長く、高温期が短いタイプ

不妊症の方に比較的良く見られるタイプです。卵子の成熟が悪く排卵が遅れ、その結果黄体ホルモンの分泌が悪くなります。西洋医学では黄体機能不全、軽度の排卵障害などが考えられます。



このタイプは低温期に陰血が不足して陰が長じることができないために、排卵期にスムーズに転化できず、高温期に陽が不足して短くなります。低温期にしっかりと陰血を養いながら少し陽を補うことが大切です。

生理期: 婦宝当帰膠+桂枝茯苓丸など
低温期: 婦宝当帰膠+杞菊地黄丸或は六味丸+少量の海馬補腎丸、マカなど
排卵期: おりものが増えてきたら上記に冠元顆粒を加えて排卵を促進する。
高温期: 婦宝当帰膠+双料参茸丸或は海馬補腎丸+マカなど



B高温期が不安定なタイプ

高温期の途中で体温が下がったり、生理が近づくと体温が下がるタイプです。
西洋医学では黄体機能不全が考えられます。



このタイプは陽気の不足により高温を維持することができません。よって高温期に陽気を補い体温を維持することが大切です。

生理期: 婦宝当帰膠+桂枝茯苓丸など
低温期: 婦宝当帰膠+杞菊地黄丸或は六味丸+ビタエックスなど
排卵期: 婦宝当帰膠+冠元顆粒+参茸補血丸或は海馬補腎丸など
高温期: 婦宝当帰膠+双料参茸丸或いは海馬補腎丸+補中益気湯など



C高温期への移行がゆるやかなタイプ

このタイプも不妊症の方に比較的良く見られます。西洋医学では黄体機能不全、排卵障害、高プロラクチン血症などが考えられます。



このタイプは排卵期に@陽気不足により体温が上がらないケースA血などが体温の上昇を妨げるケースが考えられます。プロラクチンが高いことが原因になるケースも見られます。全身症状より弁証して適切な漢方薬を組み合わせます。

生理期: 婦宝当帰膠+桂枝茯苓丸など
低温期: 婦宝当帰膠+杞菊地黄丸或は六味丸+ビタエックスなど
排卵期: 婦宝当帰膠+冠元顆粒+芍薬甘草湯+参茸補血丸或は海馬補腎丸など
高温期: 婦宝当帰膠+参茸補血丸或は海馬補腎丸など
*プロラクチンが高い場合は炒麦芽を加える。



D波動が激しいタイプ

ストレスが多く、自律神経が不安定な方に良くみられます。西洋医学では高プロラクチン血症、月経前緊張症候群、自律神経失調症などが考えられます。



このタイプはストレスにより肝気の疎泄作用が乱れ、体温も不安定になっています。肝気を整えてストレスを和らげることが大切です。

生理期: 星火逍遥丸+桂枝茯苓丸など
低温期: 星火逍遥丸+杞菊地黄丸或は六味丸+ビタエックスなど
排卵期: 星火逍遥丸+冠元顆粒+参茸補血丸或は海馬補腎丸など
高温期: 星火逍遥丸+参茸補血丸或は海馬補腎丸など
*プロラクチンが高い場合は炒麦芽を加える。



E高温期が長すぎる或は高すぎるタイプ

高温期が14日以上続く或は高温期と低温期の温度差が0.5℃以上あるタイプです。不妊症では少なく、西洋医学では黄体萎縮不全、月経前緊張症候群などが考えられます。



このタイプは陽気が過剰でいらいら、ほてりなどの症状が良く見られます。陰を補い陽気を静めることが大切です。

生理期: 加味逍遥散+温清飲+桂枝茯苓丸など
低温期: 加味逍遥散+瀉火補腎丸或は六味丸+ビタエックスなど
排卵期: おりものが増えてきたら上記に冠元顆粒を加えて排卵を促進する。
高温期: 加味逍遥散+ビタエックスなど



F低温期が短い或は高すぎるタイプ

低温期が短く排卵が早い或は低温期の体温が高すぎるタイプです。西洋医学ではホルモン分泌過多が考えられます。



このタイプは陰が不足して相対的に陽気が過剰になっています。陰が不足しているので排卵期のおりものが少ないことが多く見られます。低温期にしっかりと滋陰を行うことが大切です。

生理期: 加味逍遥散+桂枝茯苓丸など
低温期: 加味逍遥散+瀉火補腎丸或は六味丸+鼈甲など
排卵期: おりものが増えてきたら上記に冠元顆粒を加えて排卵を促進する。
高温期:
加味逍遥散+ビタエックスなど



G高温期がないタイプ(1相性)

いわゆる無排卵です。西洋医学では卵巣機能不全、多嚢胞性卵巣、高プロラクチン血症などが考えられます。



このタイプは排卵がないので、周期療法を行うことが難しいです。無月経の場合は補腎+養血+活血の漢方薬を症状により加減して服用します。

・陰虚タイプ: 婦宝当帰膠+杞菊地黄丸+ビタエックス+冠元顆粒など
・陽虚タイプ: 婦宝当帰膠+参茸補血丸+ビタエックス+冠元顆粒など

*上記の@〜Fのタイプですが、時には2つ〜3つのタイプが混ざっていることもみられます。このようなケースは基礎体温と体質、症状をしっかりと分析して、個々にあわせた漢方薬を選択することが大切です。

 

特殊なケースについて

@子宮に異常がある場合


子宮性に異常があるケースとしては、子宮発育不良、子宮筋腫、子宮内膜症、子宮下垂、崩漏などがあります。子宮筋腫や子宮内膜症がひどい場合はこちらの治療を優先して、症状が改善してから周期療法に移るようにします。症状が軽ければ最初から周期療法を行うことも可能です。

・子宮発育不良: 婦宝当帰膠+参茸補血丸+ビタエックスなど
・子宮筋腫: 婦宝当帰膠+桂枝茯苓丸+爽月宝など
・子宮内膜症: 婦宝当帰膠+折衝飲+爽月宝など

漢方コラム子宮性不妊について 子宮内膜症についても参照してください。



A卵管に異常があるケース

輸卵管の通過障害の原因としては子宮内膜症、感染症などがあります。輸卵管の炎症や癒着がひどければ手術などにより除くことを考えますが、それほどひどくなければ通常の周期療法の上に以下の加減を行います。
生理期〜低温期に疎肝薬、活血薬を加味して癒着を除き、排卵期に路路通、続断、柴胡、郁金などの通絡の作用がある漢方薬を加味すると良い効果があります。



B免疫異常があるケース

免疫性不妊は抗精子抗体により精子を異物と認識して攻撃するため、受精卵が育つことができません。生殖器の慢性炎症が原因となることがよくみられます。女性側だけでなく男性側の精子中に抗精子抗体があることもありますので、夫婦ともに治療が必要なケースもあります。陰虚肝旺タイプが多く見られますが、陽虚タイプもときに見られます。

・陰虚肝旺:加味逍遥散+瀉火補腎丸+インターパンチなど
・陽虚痰濁:玉屏風散+双料参茸丸+インターパンチなど

漢方コラム男性不妊についても参照してください。



C生理周期が不安定なケース

無月経の人や生理周期があまりにも不安定な人は、周期療法を行う前に月経周期を整えるようにします。月経周期を整える場合は体質や症状によりさまざまな漢方薬を使い分けますが、養血調経を中心に考えます。
月経周期を調節する漢方薬を飲んでいるうちに妊娠するケースもありますが、2〜6周期服用して月経が整っても妊娠しない場合は、周期療法に移るようにします。月経周期を調節する漢方薬で基礎つくりができると、周期療法がうまくいくケースも見られます。

漢方コラム卵巣性不妊について 高プロラクチン血症も参照してください。



Dステップアップ治療、体外受精を行うケース

ステップアップ治療により、クロミッド→HMGと進んでいくと、西洋薬の使いすぎにより卵子の質が低下することが多く見られます。またクロミッドによりおりものが少なくなり、内膜が薄くなることがあります。このような場合は低温期に「陰血を養う」ことが非常に重要になります。西洋医学の治療に漢方薬を併用することによりクロミッドやHMGの副作用を防止し、排卵が確実に来るというメリットを残すことができます。
体外授精を行う場合はスプレキュア、クロミッド、HMGなどを使い、卵巣を刺激して採卵を行います。低温期に「陰血を養う」ことにより質の良い卵子を取ることができます。採卵後は着床を安定させる漢方薬を服用します。
クロミッドによりおりものが少ないケースや体外授精で採卵日を決めている場合は、周期療法を行う際に排卵期を省略して、生理期、低温期、高温期の3周期法を行うことがあります。

漢方コラム西洋薬との併用についても参照してください。

食養生について

妊娠しやすい体質作りにおいて、食養生は大変重要です。以下の5つの原則を守ると妊娠しやすい体質になっていきます。

@ 朝食は軽くすること。(おろしたてニンジンジュースなど)
A 和食を中心として、特に夕食はよく噛んでゆっくり食べること。
B 肉や卵、乳製品などの動物性食品は食事全体の2割以下にすること。
C 陰性食(冷やす食べ物)を減らして陽性食(温める食べ物)を多く取ること。
D 主食は未精白の穀物とすること。

体を冷やす陰性食は控えるようにしてください。
生物、冷たい物、お茶、コーヒー、牛乳、ビール、ウイスキー、白砂糖、クリーム、バター、肉の脂身、生野菜サラダ、南国の果物など
体を温める陽性食を中心に食べてください。
根菜類(ニンジン、ゴボウ、ヤマイモ、レンコン、かぼちゃなど)醗酵製品(納豆、味噌、しょうゆ、梅ぼし、お漬物など)黒い物(黒ゴマ、黒豆、ひじき、ワカメ、コンブ、のりなど)薬味(生姜、ねぎ、玉ねぎ、にんにくなど)
生の物、冷たい物の取りすぎは気をつけましょう。油物、極端に辛い物、白砂糖、化学調味料も取りすぎは禁物です。主食は玄米、胚芽米、雑穀などにして、豆、芋、野菜、魚をバランスよく取り、肉や卵、ファーストフードなどは減らしましょう。
飲み物は体を温める紅茶にしょうがの絞り汁を入れて黒砂糖で味付けをした「しょうが紅茶」をお薦めします。
上記の基本を守った上で、女性はエストロゲンの分泌を促進する作用のある大豆製品(味噌汁、納豆、豆腐、おから、ゆば、煮豆、大豆スープなど)と暖色で血液を養うニンジン、プルーン、のり、黒ゴマ、しょうが紅茶などを多くとりましょう。
一方、男性は根菜類(根っこは下半身を強化する)黒いもの、粘るものを多くとりましょう。例えばニンジン、ゴボウ、レンコン、ヤマイモ、黒ゴマ、黒豆などがあります。

漢方コラム不妊症周期療法Gも参照してください。


資料提供:日本中医薬研究会