女性が、情事を済ませショーツに足を通していた。

山川理沙、37歳になるバツイチの熟女だ。
相手の男性、稲垣士郎は、そんな理沙の姿を見ながら感嘆の溜息をついていた。

(・・・・・素晴らしい・・・・)

長い足に程よく肉のついたヒップ・・・
鍛えているのであろう大腿の筋肉が
形の良いヒップをこれ見よがしに持ち上げている。

(とても37歳には見えないな・・・・・)

士郎は、理沙の着替える仕草までが華麗に目に映っていた。

士郎の視線に気がついたのか理沙は、
大人の、それもこれ以上ない艶やかな瞳で士郎を見つめた。

「士郎さん・・・恥ずかしいわ・・・そんなに見られると。」

「理沙・・・君は素敵過ぎる。」

「フフフッ・・・・私を見るのが久しぶりだからじゃないかしら。」

「そんなことはないさ。」

理沙と士郎は、こういう関係になって早くも4年が過ぎようとしていた。
理沙は、士郎と付き合い始めた4年前に夫と離婚をしていた。
2人居た子供も、夫の両親に強制的に連れて行かれてしまった。

士郎と会うのは、月に一回程度だが、理沙にとっては士郎という男性は
自分が、これから生きていくうえでもっとも大切な男性の一人だった。

理沙は、離婚後、笑夢という小さなスナックを経営していた。
アルバイトを2人ほど雇って入るが、こじんまりとした大人が集う店だった。

理沙は、ここで士郎と知り合った。
いつも閉店間際に訪れる士郎に理沙は不思議な感覚を覚えていた。
特に自分や店員と喋るわけでもなく、ただ一人スコッチを
3杯だけ飲んで帰るという日が1ヶ月続いただろうか・・・

士郎の注文するスコッチの銘柄は、いつも決まってベル/リアルマッケンジーだった。
マッカース半島ウィグタウンで蒸留されているスコッチで
仕込用水はブラッドノック河の水から作られている。
士郎は、好んでこの酒を飲んでいた。

理沙は、その間、士郎の存在が自分の心の奥深くに浸透していることを感じた。

士郎が好き・・士郎と一日過ごしてみたい。
いつに間にか、そういう気持ちを漠然と考えるようになった。

理沙は、勇気を出し士郎に声を掛けた。

凛とした目元から時々浮かべる男の年輪ともいえる表情・・・
無口で大人しくはあるが、理沙は、士郎を紛れもなく好きだということを実感した。

そして・・・2ヵ月後、二人は恋に落ちた。

士郎は、それ以来、理沙の店に通うことを止めた。
スナックのママという立場・・・

そして、どんな客にも公平に楽しく飲んでもらうという雰囲気を
自分が壊してはいけないと思ったからだ。
理沙は、首を振ったが士郎は、理沙にそれを説明すると共に決断をした。

《理沙・・・僕と深い関係になろう・・・僕には妻がいるが、
 こうして会うときは、君は、僕の妻と同じ立場でいて欲しい。》

士郎の言葉に理沙は身震いを感じた。
士郎を愛してしまった事実・・・

そして士郎の真愛を確信した理沙は、全てを捧げる決心を固めた。

着替えを済ませた理沙は、ソファに座る士郎の元に歩み寄った。
ゆっくりと手を差し伸べ、握り返す士郎を軽く引き寄せる。
士郎は、立ち上がると理沙を抱き寄せて濃厚なディープを交わした。

「士郎さん・・・次はいつ会える?」

「また、連絡するよ。」

士郎はそう言って理沙の髪を優しくなで上げた。

理沙は、気持ち寂しそうな顔を浮かべて士郎を見つめた。

「ええ・・・わかったわ。」

士郎には、妻と子供が居た。
この4年間で士郎の気持ちは、何度も聞いてきた。

自分は、独身であり、士郎には妻と子供がいる。
理沙なりに士郎に対して気を使いながらも、
やはり自分以外の女性が居ることに懸念の気持ちを抱いていた。

「士郎さん・・・・あの・・・・私・・・・」

「理沙・・・すまない。君の気持ちは良くわかる。」

「うぅん・・・そんなことじゃないの。」

「・・・・・」

「貴方には奥様がいる。・・・こうして一月に一回、私と会ってくれるだけでも
 私は凄く幸せだわ。でも・・・でも、いつか、私から・・・・士郎さんは・・」

「理沙、僕は君と別れるつもりは毛頭ないよ。」

士郎は、そういって理沙の頬に手を当てた。

「・・・ええ・・・ごめんなさい・・・・・信じてるゎ。」

「理沙・・・明日から1ヶ月ほど台湾に出張なんだ。」

「台湾?」

「ああ・・・向こうで雇っている現地社員が組合を作ってストを起こしたんだ。」

「そうなの・・・」

「僕に、それを収めてこいと白羽の矢が立ったんだ。」

「士郎さん、事業担当ですものね。」

「理沙・・・帰ったら真っ先に会いに行くよ。」

「・・・ええ・・・・待ってる。気をつけて行ってらして。」

理沙は、にっこりと笑みを浮かべて上着を羽織った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

士郎と別れ、自宅に戻った理沙は一人食事をしていた。
流れるテレビは声だけが微かに耳に届いている。

理沙は、悩んでいた。
士郎は、自分を離さないといってくれたが
士郎の妻も、士郎自身を信じているに違いない。

(・・・本当にこのままでいいのかしら・・・・・私は・・・・)

何度も深い溜息をつく理沙・・・・

理沙は、食べかけの食事を片付け、冷蔵庫からワインを取り出した。
酔いたい気分だったのだ。

2杯目までを早い時間で飲み干し、3杯目を注いだときには
少々、自分の気持ちが冷静に受け止めれるようになっていた。

確かに士郎は自分を愛してくれている。
4年間という年月で、それは確実に証明され理沙自身も疑う余地はない。
だが、理沙の心の中にもう一つすっきりしない塊が存在しているのは明らかだった。

(・・・・・やっぱり・・・士郎さんの奥さんに・・・・)

理沙は、知らないうちに涙を浮かべていた。


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― 一ヵ月後 ―

「おかしいな・・・・・」

士郎は、訳のわからない胸騒ぎに襲われていた。
台湾から帰国した士郎は、理沙の店に電話をしたのだが、
しかし、番号が変わったとアナウンスされるのだ。
携帯電話に電話をしても他人が出てしまう。

(理沙・・・・どこへ・・・・)

士郎は、空港からタクシーを使って理沙の店に急いだ。

向かう途中、嫌な予感が士郎の頭の中を巡っていく。
1時間後、士郎は、理沙の経営するスナックに到着した。

「・・・・!」

理沙のスナックの名と違っていた。

「・・・・シルバーリング?」

士郎は、躊躇うことなく店の中に入っていった。

「いらっしゃいませ。」

ママであろう年配の女性が四郎に声を掛けた。

「あの・・・ここは、笑夢という店だったのでは?」

「ええ、先週、店をたたんだんですよ。ここは一昨日オープンしたばかりなんです。」

「えっ!・・・・あ・・・あのぉ・・・前のオーナーは?」

「ああ・・・確か山川さん・・・でしたか?」

「ええ、そうです。山川理沙です。」

「彼女、店を移すって言ってただけで・・・詳しいことは・・・」

「・・・そ・・・そうですか・・・・」

「あのぉ・・もしかして、稲垣さん・・・ですか?」

「!・・・は、はい・・・・そうです。稲垣です。」

「彼女から預かり物があるわ。」

店のママは、小さな封筒を士郎に手渡した。
受け取る士郎・・・・

士郎は、店のママに礼を言って外に出た。

(理沙・・・・)

直ぐに封筒を破き、中の便箋を取り出す士郎・・・・

〔士郎さん、本当にごめんなさい。 私、色々と考えたんです。
 士郎さんは、ずっと私を愛してくれると言ってくれました。
 でも、でも士郎さんには、奥様やお子さんが居ます。
 私は、愛人という形で士郎さんとの付き合いを続けていくことは
 何ら問題はないと思っていました。だけど、だけど、士郎さんの
 奥様やお子さんのことを考えると、私のそんないい加減な気持ちが
 ご家族の人たちを不幸にしてしまうと思ったんです。〕

(・・・り・・・・・理沙・・・・・)

士郎は、理沙の抱いていた気持ちを察しながら続きを読んだ。

〔士郎さんを裏切ったわけではありません。 今でも、私は士郎さんを
 心の底から愛しています。  私は、士郎さんに貰った愛を
 ずっと、ずっと持ち続けて生きていきます。 どうか安心してください。
 他の男性とは、もうこんな関係にはなりませんから。〕

(り・・理沙・・・・お前・・・・・こんな・・・・・)

士郎は、歯を噛み締めながら何度も何度も手紙を読み返した。

「理沙ぁっ・・・・何で・・・・何で・・・・・グッ・・・」


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それから3年・・・

士郎は、出来る限りの情報を集めては、あの手この手で理沙を探していた。
しかし、手掛かりはなく士郎の気持ちはどん底までに落ち込んでいた。

既に理沙も40歳を超えているはず・・・・
あの手紙では士郎に対し慰めとも取れる言葉を吐いていたが・・・
どこかで新しい男性と幸せに暮らしているかもしれない。
そんなことを考えると士郎は、とても痛堪れなかった。
理沙の幻影が士郎の記憶から消えることは一度もなかったのだ。


(・・・・理沙・・・・俺はもう疲れた。・・・・だが、必ずお前を・・・・)


会社の帰り・・・・
企業センターでの会議を終えた士郎は、関連企業の仲間から飲みに誘われていた。

「稲垣さん、久しぶりに会ったんだし・・・どうですか一杯?」

士郎は、断ろうと腕を上げかけたが
家に帰っても無駄な時間を過ごすだけと思い誘いを受けることにした。

「そうですね・・・・行きましょうか。」

士郎は、同職の連中数人と居酒屋に向かった。
酔いが進むにつれ、僅かながらも陽気さを取り戻していく士郎・・・・

2時間ほど酒宴を楽しんでいただろうか。
トイレにたった士郎に一人の女性が声を掛けた。

「あれ・・・稲垣さん・・・稲垣さんじゃないですか?」

振り向く士郎・・・・
しかし、声を掛けた女性に心当たりはない。
だが、紛れもなく自分の名を口ずさんでいる。

「ぇ・・・ええ・・・・そうですが。」

「忘れちゃったかなぁ・・・私、真弓・・・ほら笑夢でバイトしてた。」

「・・・・・・あ!」

その女性は、理沙のスナックでアルバイトをしていた女性だった。
僅かながらに期待を察する士郎・・・・

「思い出してくれた?」

「ぁ・・ああ・・・もちろんだ。」

「フフッ・・・相変わらず理沙ママと上手くいってます?」

「い・・いや・・・・・その・・・・」

士郎の様子に不惑を抱いたのだろう、士郎に頭を下げて真弓は立ち去ろうとした。

「・・・き・・・君っ・・・」

「え?・・・はい・・・」

「君は、理沙の・・・・理沙の居所を知ってるのかい?」

「ぇ・・・・・・ええ・・・・・・・・・あの・・・でも・・・・・・・・」

士郎の酔いが一気に冷めた。

「ど・・・どこに・・・どこに彼女は・・・・・」

「ぇ・・・あ・・・あの・・・私・・・・・」

士郎は、真弓の肩を掴み、激しく揺すりながら問いただした。

「頼む・・・頼むから教えてくれ。・・・・3年・・・3年も探してるんだ。」

必死の形相で理沙の居所を聞いてくる士郎に圧倒され、真弓は、理沙の居所を喋った。

「・・・ぁ・・・あの・・・・港区の・・・・臨港鉄道の駅裏で・・・お店を・・・」

「何という・・・何という店なんだいっ?」

「リ・・・・リアルマッケンジー・・・・」

「!・・・リアルマッケンジー?・・・・リ・・・リア・・・ル・・・」

士郎の目から涙が溢れ出した。
リアルマッケンジーは、士郎の好物であるスコッチウィスキーの名だった。

士郎は、真弓に礼を言うと店に仲間を残したまま、急いで港区にタクシーを飛ばした。

(理沙・・・・理沙・・・今行く・・・・行くぞ・・・・)

士郎は、高鳴る思いを胸に拳を握りながら理沙の店に向かった。


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理沙の店の前に到着した士郎は、運転手に代金を支払ってタクシーから降りた。

店を眺める士郎・・・・・
リアルマッケンジーと書かれた看板には、
ボトルをイメージした絵にハートを刻んでRISAと書かれている。
それを確認した士郎は、胸に熱いものが込みあがってきた。

(・・・り・・・・理沙・・・・)

士郎は、大きく深呼吸をすると店のドアを開けた。
以前の店より数倍大きく、店内も大勢の客であふれかえっている。繁盛しているようだ。

「いらっしゃいませ、お一人ですか?」

「え?・・・あ・・・ああ。」

フロアマネージャーであろう男性が、士郎に丁寧に頭を下げてくる。

「あいにく、カウンター席は全て埋まっておりまして。奥の席でもよろしいですか?」

「ええ・・・結構です。」

士郎は、フロアマネージャーに案内され奥の席に進んだ。

カウンターを見る士郎・・・・

「・・・・・・・・・」

しかし、理沙は居ない・・・・・

士郎は、店内を見渡した。

その時・・・・・

奥のテーブル席で客に接待をする和服姿の女性が目に入った。
背中を向けているが、士郎にはそれが理沙であると直ぐに解った。

店員が士郎の席にオーダーを聞きに来た。

「いらっしゃいませ、お飲み物は何にいたしましょう?」

「ぇ・・・あ・・・あぁ・・・そうだな・・・・・うん、スコッチはあるかな?」

「はい、だいたいは取り揃えてございます。」

「じゃ、リアルマッケンジーを。」

「かしこまりました。」

店員は、店の名前と同じ酒を注文した士郎に満面の笑みを浮かべ席を離れた。

「8番席、リアルマッケンジーが入りました。」

店員のその声に、カウンターマンが返事を返す。

僅かに肩を上げる理沙・・・・
客との会話を止め、ゆっくりと8番席の方に振り返る。

士郎と判った理沙の表情が、僅かに崩れた。

「・・・・・・・・・・・・ぁ・・・・ぁ・・・・・」

(・・・・やはり・・・・理沙・・・・)

士郎は、潤んだ目で理沙を見つめた。
理沙は、一瞬、驚いた表情を見せたが直ぐに笑顔に戻り客と会話を続けた。

(・・・・・・・り・・・理沙・・・)

僅か数分後、理沙は席を立って8番席の士郎の元に歩み寄ってきた。

「・・・・・・・・・士郎さん・・・・」

小さく、そして涙声で理沙は囁いた。
同時に店員が士郎の席にリアルマッケンジーを運んできた。

「いいわ・・・私が作るから。」

「はい。」

理沙の命で店員は、そのまま席を離れていった。

ロックをグラスに落とし、リアルマッケンジーを開けると
僅かに手を震わせながらスコッチを注いでいった。

「理沙・・・・探したんだ・・・・3年間・・・ずっと・・・・・」

士郎の言葉に無言でいる理沙・・・・

「?・・・理沙・・・理沙・・・・」

士郎の言葉に返答をしない理沙・・・・・

「り・・・・理沙・・・」

理沙は、立ち上がるとカウンター席に歩いていった。

「・・・・・・」

なにやらメモに書いているようだ。
さらに、カウンターの中にいる店員からバッグを受け取ると
中から鍵を取り出し、それを持って士郎の席に戻ってきた。

「・・・・士郎さん・・・・」

理沙は、小さく折りたたんだメモ帳と鍵をそっと士郎に手渡した。

士郎は、理沙を見つめたまま、それを受け取った。
理沙は、士郎に一瞬だけ視線を返すと
ストゥールを立ち上がって先ほどの席の戻っていってしまった。

士郎は、受け取ったメモを開き中身を読んだ。

〔このビジネスホテルの507号室で待ってらして。
 2時間ほどで私も、店を出てそちらに行きます。
 部屋にシャワーもあります。浴びててください。〕

士郎は、そのメモ用紙をスーツのポケットにしまうと
リアルマッケンジーを一気に喉に流し込んで席を立った。

支払いを済まそうとレジに行くが、店員から必要ないと言われ理沙に視線を移した。
士郎も理沙に振り向くが、理沙は相変わらず客の接待に忙しいようだった。

士郎は、レジの男性に頭を下げ店を出た・・・・・・・・・・・・


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紙に書かれたビジネスホテルに着いた士郎は、キーを挿しこみ部屋に入った。
ほのかに甘酸っぱい匂いが花に刺さった。
籠に盛られた大量のレモンがその匂いの元だった。

(・・・・・・)

士郎は、理沙を見つけたという安心感、
いや、安堵感のためか一気に体中の力が抜けた。

背広を脱ぎワイシャツも脱ぎ捨てるとシャワールームに向かった。
頭から熱い湯をかけ、興奮で火照った身体をさらに刺激していく。

シャワールームから出た士郎は、バスローブを羽織り一人掛けのソファに腰を降ろした。
部屋を見渡す士郎・・・・

一つのベッドと小さなデスク・・・・
その横には冷蔵庫が置かれ、真横に備え付けのクローゼットがあった。

士郎は、理沙が来るまでの時間をどう費やそうかと考えた。
徐に立ち上がると冷蔵庫を開き、中に入っている缶ビールを2本取り出した。

そのうちの1本を一気に喉に流し込んでいく士郎・・・・

「ふぅぅー・・・・・」

もう1本を開けると、士郎はソファに座り静かに目を瞑った。

(・・・・理沙・・・・)

どれだけ、時間が過ぎただろうか・・・
しかし、士郎は時計を見ることはしなかった。

そして・・・・

ドアがノックされた。
慌てて立ち上がりドアに向かう士郎・・・・

「・・・はい・・・」

「・・・・私・・・・理沙です。」

士郎は、息を飲んでドアをゆっくりと開いた。
ドアの前には、理沙が、先ほどと同じ和服姿で立っていた。

「・・・理沙・・・」

「士郎さん・・・・」

理沙は、ゆっくりとした足取りで部屋の中に入ってきた。
鍵を閉め士郎を見つめる理沙・・・・

手には、1本のリアルマッケンジーが握られている。

「奥へ行きましょう。」

「ぇ・・・あ・・・ああ・・・」

理沙は、士郎と共に奥へ進んだ。

理沙は、冷蔵庫の上の盆から二つのグラスを取り
小さなテーブルに置くと冷蔵庫から氷を取り出しグラスに落とした。

じっと、その様子を見つめる士郎・・・・

理沙は、リアルマッケンジーをグラスに落としていく。

無言だ・・・・

士郎も何を話し掛けたらいいか判らなかった。

理沙は、注いだグラスの一つを士郎に差し出し
自分も一つを持ってベッドに腰掛けた。

「・・・・・・・・理沙・・・」

ゆっくりと視線を向けていく理沙・・・・

「探したんだ・・・ずっと・・・・3年間・・・・君を・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・どうして・・・どうして私を探したの?」

「?・・・・り・・・・・理沙・・・・」

「答えて・・・・どうして?」

士郎は、理沙の意図することが解らなかった。
探して欲しくなかったという意が込められているのだろうか?
しかし、士郎は正直に今の気持ちを理沙に伝えようと思った。

「僕は、理沙を離したくなかったんだ。・・・・虫が良すぎるかもしれない。
 だが、君が、黙って僕の前から消えてから・・・僕は・・・・僕は・・・」

「・・・・・・」

理沙は、士郎をずっと見つめたままだ。
士郎は、自然と出てくる言葉を止めようとしなかった。

「君が僕の家族を心配する気持ちは解っていた。僕もそれを考えると痛堪れなかった。
 ・・・・・だが、僕はそれ以上に理沙・・・君を思っていたんだ。だから、だから
 この3年間、諦めずに・・・・・ずっと探し続けてきた。会いたかったんだ。」

「・・・・・・・」

士郎は、何も言わない理沙に不安感が襲ってきた。

(・・・・・・・そうか・・・そうかもな・・・・)

士郎は、思った。
3年という年月は長い。
自分以外の男性が出来たに違いないと確信した。

理沙は、持っていたグラスを伸ばした。
士郎も、ゆっくりとした動作でグラスを上げていく。

「・・・・・・カンパイ・・・」

理沙が、聞こえないほどの小さな声で声を上げた。

「・・・・ああ・・・・乾杯・・・」

士郎は、リアルマッケンジーを半分ほど喉に流した。
熱いスラッシュが喉から鼻に抜けていく。

無言状態が、しばらく続いた。

(・・・・・そうか・・・・やはり、そうなんだな・・・・)

士郎は、理沙らしい振る舞いで自分に別れを告げようと
この部屋に誘ってくれたのだ。・・・と、士郎は、そう思った。

士郎は、何も言わない理沙の心中を察し、
二人の関係の終幕と自らの引き際を決断した。

(・・・何も聞かないで、このまま俺は消えよう・・・理沙もそれを期待してる。)

士郎は、そう心の中で呟くと残りのリアルマッケンジーを一気に飲み干し立ち上がった。
バスローブを脱ぎ、ソファに掛けていたワイシャツを手に取る士郎・・・
その様子に理沙が顔を崩しながら見つめた。

「・・・・し・・・士郎さん・・・」

士郎は、必死で作り笑いをしながら応えた。

「いいんだ・・・・いいんだよ理沙・・・何も言わなくていい。」

「・・・ち・・・違うの・・・・」

小さな理沙の声が、士郎には聞こえなかった。

「君が元気で良かった。僕はそれで満足だ。・・・・スコッチ・・・美味しかったよ。」
「・・・・ァ・・・・・ゥ・・・ゥゥ・・・・」

すすり泣く理沙の肩に手を伸ばす士郎・・・

「理沙・・・泣かなくていい・・・・覚悟はしていた。」

「・・・違うの・・・・違うのっ・・・・」

先ほどと違い、はっきりとした口調で囁く理沙・・・・

「・・・え?」

「待ってたの・・・・私を探してくれるのを待ってたの・・・・」

「・・・り・・・理沙・・・・」

「士郎さんが・・・お店に顔を出した時・・・身体中が震えたわ。
 ・・・あの時、走りよっていって、抱きつきたかった・・・
 ずっと・・・ずっと、私を探してくれるのを待ってたの。」

「理沙・・・ど・・・どういう・・・・」

「士郎さんには家族もいる・・・私が・・・私の存在が士郎さんにとって
 重荷になるときが、きっと来ると思ったの・・・だから・・・だから、
 士郎さんお前から消えたの。・・・・凄く辛かったけど・・・・・・」

理沙は、そういって泣きじゃくった。

「理沙・・・お前・・・・」

「・・・でも・・・でも、士郎さんは、私を探してくれると思った。絶対に。
 それでも、私の前に現れなかったら・・・それはそれでいいと思ってた。」

「僕はこうして君の前に現れた。・・・そして、こうなるのが運命だったんだ。」

「だから・・・だから、私は・・・嬉しくて・・・・来るって・・・
 探してくれるって・・・私は・・・・士郎さんに期待してたの。」

「理沙っ!」

士郎は思わず理沙を抱きしめた。
大粒の涙を止めどなく流す理沙・・・・

「・・・いいの?・・・本当に私でいいの?・・・ずっと私を?」

「当然だ。・・・そして・・理沙・・・僕は、今こうして君を抱いている。」

「士郎さん・・・・好き・・・愛してるの・・・あなたを・・・」

「理沙・・・朝まで、君を抱いていたい・・・このまま・・・」

理沙は、士郎から離れると涙を拭いた。

「イヤ・・・・直ぐに・・・・して欲しい・・・・」

そう言うと、理沙は帯止めを外し着物を脱ぎ始めた。

全てを脱ぎ去った理沙は、ベッドのシーツを捲り仰向けに寝た。

「士郎さん・・・・キテ・・・直ぐに・・・我慢できないの。」

士郎は、妖艶な瞳で自分を見る理沙の心を読み取った。

(俺は・・・俺は、理沙と・・・・・)

士郎は、夢中で理沙に覆いかぶさっていった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


二人は、何度も何度も求め合った。
一睡もせずに・・・・・・

気がつくと、外は薄っすらと夜が明け始めていた。

士郎は、抱きつく理沙の腕を首からそっと解いた。
ベッドから降り、窓のカーテンを開ける士郎・・・・

(・・・・海が見えるのか・・・・)

堤防をはさみ地平線を確認できる位置にこの部屋はあった。

陽が、ちょうど顔を覗かせようとする時だった。

「・・・・士郎さん・・・」

「ん?・・・・・」

理沙が、心配そうに士郎を見つめている。

「理沙、こっちにおいで・・・・」

「・・・ぇ?」

理沙は、何も身につけないまま士郎の立つ窓際へと歩み寄った。
士郎は、理沙を前に移動させ、真後ろから優しく抱きしめた。

「地平線を見てごらんよ・・ちょうど、陽が昇り始めた。」

「本当・・・綺麗だわ。」

「・・・全部、陽が顔を出すまで見ていよう。」

「・・・ぇ・・・?」

「僕たちの再出発だ・・・・目に焼き付けておこう。」

「・・・・ええ・・・そうね。」

理沙は、胸の前で交差する士郎の腕を優しく包むように握った。

陽が徐々に昇り始め、オレンジ色の光射が士郎と理沙をゆっくりと包み始める。

じっと地平線を見つめる理沙と士郎・・・・

そして、全てが上りきった時、

理沙と士郎は、まるで同時に性昇したように全身に快感を覚えていた。