[3年間の空白]



村上健一は、正午近くになるというのに、まだベッドで枕を抱えていた。
新事業を立ち上げるため、プロジェクトチームのチーフとして
指名をされ、ここ数ヶ月間、休みを返上し仕事に精を出していたのだ。

年末も押し迫った昨日、やっとのことで一区切りがつき
昨夜は、プロジェクトの仲間とともに朝方まで酒を飲み明かしていた。
よく寝たのだろう。
健一は、既に目は覚めていたが動く気力がなかった。
時折、陽の眩しさで目を開けるもののベッドから出るきっかけがつかめないでいた。

その時、電話のベルが鳴り響いた。
起きることが億劫で、しばらく放っておいた健一だが電話は鳴り止まない。

健一は、渋々ベッドから起き上がった。

(・・・・・・起きるか・・・・)

ベッドから降りると首を回しながらボードの上の受話器をとった。

「・・・・・もしもし、村上です・・・」

ほんの僅かな間をおき、相手の声が耳に入った。

<・・・もしもし・・・わたし・・・美紗子です・・・>

「え?!・・・・・み・・・美紗子・・・・美紗子か・・・」

眠たそうな健一の声を聞いて美紗子と言う女性が済まなそうに続ける。

<・・・・ごめんなさい・・寝てたみたいね。>

「ぁ・・・いや・・・いいんだ・・・久しぶりだ・・でも、どうしたんだ急に。」

<・・ええ・・・仕事で名古屋に来たものだから・・・無性に会いたくなって。>

美紗子は、3年前に離婚れた健一の妻だった。

「そうか・・・・良太は元気か?」

二人の間には、5歳になる一人息子の良太がいたが、
離婚の際、妻が引き取っていった。

<・・・ええ・・・・毎日、楽しそうに幼稚園に行ってるわ。>

「お義父さんや、お義母さんは?」

<・・・うん・・・元気よ。私が仕事しているから良太をよく見てくれている。>

「そうか・・・・よかった・・・・」

<・・・ねえ・・・今、お暇かしら?>

「ああ・・・暇と言えば暇だが・・・」

<今日はクリスマスよ・・・・>

「え?・・・・・あ、・・・そうだな。」

<フフフッ・・・相変わらずな返答ね。・・・・>

「そ・・・そうかな?・・・・いや、凄い久しぶりだからびっくりしてさ・・・」

<・・・・健一さん・・・>

「ん?」

<会いたいの・・直ぐに・・・・・>

「・・・もちろん・・・俺もだが・・・」

<?・・・曖昧な返事ね・・・・誰か、いるのかしら?
    ・・それとも・・・素敵な女性でも見つけたの?>

「そんな暇ないよ。新事業のプロジェクトでずっと忙しかったし。
 それに・・・それに、俺は再婚しないさ。したくないんだよ。」

<・・・・フフフッ・・・貴方の事は私が一番良く知っているわ。>

「美沙子」

<・・・・抱いて欲しいの・・・・健一さんに・・・・
 それとも私じゃ駄目かしら・・・ダンディーさん・・>

「・・・そんなことないさ・・・・・俺の部屋に来るかい?」

<・・うぅん・・・・いま、名古屋駅に居るの。迎えにきてくれる?>

「わかった。着替えを済まして直ぐに行くよ。」

<ええ・・・じゃ、JR地下のファッションワンでブラついてるわ。>

「ブラつく?・・・疲れちゃうだろう。」

<そんなことは無いけど・・・・>

「・・・そうだ、ファッションワンに黐木という
 ケーキ屋があるんだ。そこで、お茶でも飲んでてくれ。」

<・・・わかった・・そうする。>

健一は、電話を切ると浴室に急いだ。


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支度を済ませた健一は、急いで家を出ると車庫に走った。
健一は、先月購入したコルベットに乗り込むとセルを回した。
数回アクセルを噴かし、ゆっくりと道路にクーペを出していく。

真っ赤なコルベットが冬の空に染まった。
目に焼きついたら離れないであろうグラマーなスタイル。
目を閉じていても分かるハスキーなエキゾースト サウンド。
魂と調和する圧倒的なトルクと情熱的なドライブフィール
最高出力297kw、最大トルク546N・m
アメリカンスーパー スポーツの称号に相応しい圧倒的な動力性能を誇る、
最新のLS2型オール アルミニウム製スモール ブロックエンジンだ。
強大なトルクは幅広い回転域に適応し、スポーティ走行はもとより
日常の市街地走行でも扱いやすい特性を実現している。

健一は、コルベットを駆って美紗子の待つ名古屋駅に急いだ。

華麗なハンドルさばきで国道に出て行く。


健一は、3年前の美紗子との事を思い出していた。


涙を流しながら健一に抱きつき、「ごめんなさい。」と囁いたあの日・・・

「何故、離婚れなければいけないんだ?」

「ごめんなさい・・・・ごめんなさい・・・・」

「美紗子・・・」

美紗子は、寝室でパジャマ姿の格好で健一に抱きついていた。

「美紗子・・・理由を・・・・良太はどうするんだ・・・」

「あなたが好き・・でも離婚れたいの・・・良太は私が引き取るわ。」

「おい、なに勝手なことを・・・」

「・・・苦しいの・・・あなたと居ると不安と嫉妬で苦しいの・・・」

「・・・そ・・そんな理由で・・・・か?」

「・・・・私にとっては重要よ・・・そして深刻だわ。」

その頃、健一は、広報課に所属していた。
広報課は、ほとんどが女性社員であり、その課の係長をしていた健一は
係長に昇格したばかりで、仕事に非常に熱心だった。
毎日のように女性社員らと残業をし、また就業後も長としての
コミニケーションと説い酒を飲んで帰る日が何年も続いていた。

だが健一は、社員と不惑の中になることは一切なかった。
いや、そういう事をする人間ではなかった。
それは妻の美紗子にも十分解っていたし、そんな健一の性格を知り尽くしていた。

しかし、自宅に掛かる電話は、ほとんどが部下の女性社員であり
その会話は、自分に接する以上に優しく親しいものだった。
美紗子にとっては、解っていても狐疑心が湧いてしまう。

健一は、自分を愛してくれていたし、それは美紗子も十分に承知していた。
浮気するような人間ではないが、誰にでも優しすぎる健一の性格が
美紗子にとって、苛立ちを抑える術すら浮かんでこなかったのだ。

後々、美紗子から聞いた話では、部下の女性から、直接、美紗子に対して
健一と付き合いたいので別れて欲しいとか、デートをしても怒らないで下さい等の
電話が、何度も妻の美紗子に掛かっていたらしい。
それは、アプローチを健一が受け止めない女性社員の腹癒せでもあったのだろう。
だが、健一に気を使う美紗子は、
そのような度重なる電話や脅迫にノイローゼ気味になった。

一言もそんな話を健一に言わない美紗子だったが、
それに気づかなかった健一は、ひどく後悔したものだった。


あれから3年・・・・


健一は、国道23号線を抜け名古屋高速に乗った。
マンションを出てから20分・・・
高速に乗ってから、わずか10分程度でツインタワーが見え始めた。
アクセルを踏む力が強くなる。

健一は、咥えていたタバコに火をつけると名駅インターを降りていった。

平日の昼間は車が多い。
信号もあっという間に変わってしまい健一を苛立たせていく・・・

(・・・ったく・・・・)

健一は、僅か数分の道が数時間にも感じられた。
やっとのことで、エスカ街の地下駐車場に
コルベットを入れるとエスカレーターを使わずに
階段をダッシュで駆け上がっていった。

人ごみを分けながら、美紗子の待つ黐木へ急ぐ健一・・・

黐木のドアを開け店内を見渡した。
美紗子は、ボンミッソを頬張りながらブランディーティーを飲んでいた。

(!・・・美紗子・・・)

健一は、久しぶりに見た美紗子に感嘆した。
以前よりもまして若々しく美人になった感じがしたのだ。

ゆっくりと美紗子に近づく健一・・・

美紗子は、入ってきた健一を見て、にっこりと微笑んだ。

「アラ・・・早かったわね。・・・・お久しぶり・・・」

「そうだな・・・・・待たせちゃたかな・・・」

満面の笑みを浮かべて健一を見る美沙子・・・

「うぅん・・・いろいろとあなたのことを考えてて暇をつぶせたわ。」

「・・・そうか・・・俺も来る途中そうだった。」

「ぁ・・このケーキ美味しいわよ。・・・前はなかったのに。」

「ここのオーナーが、考えたんだ・・・名古屋名物らしいよ。」

健一は、そう言うと席に座りながらブルーマウンテンを注文した。

美紗子は、椅子に座った健一をじっと見つめた。

「・・・?・・・どうした?」

「健一さん、相変わらず、素敵だわ。」

美紗子は、そういってブランディーティーを一口飲んだ。
その時、健一は美紗子の指に指輪が嵌っていないことに気づいた。

(そりゃ、そうだな・・・離婚れたんだから。)

健一は、自分が指輪を嵌めてきた事が妙に恥ずかしかった。
慌てながらテーブルの下で薬指に嵌った指輪を
そっとはずしてポケットにしまいこんだ。

「三年前と同じだわ。」

「君もな・・・入ってきたとき君を見て釘付けになった。相変わらず綺麗だ。」

「フフッ・・・お世辞なんていいわよ。」

「お世辞じゃないさ・・・・正直驚いた。これほど綺麗になってるなんて。」

「3年も経ったわ・・・」

「離婚れたからかな?・・・それとも時間が女性を綺麗にするのかい?」

「3年は、長いわよ・・・・」

「・・・・誰が君をそんなに綺麗にしたんだい?」

「仕事よ。」

「仕事?」

「ええ・・・あなたと同じ。・・・仕事しかしていないわ。」

美紗子は、IT関連の仕事に携わっていた。
健一と結婚後は、一旦仕事を辞めたのだが、
離婚を機にまた同じ会社に就いていたのだ。

「・・・んー・・・しかし完璧だ。」

美紗子は、テーブルに置く健一の手をそっと上から被せた。

「フフッ・・・もういいってば・・・」

「ほら・・・手の暖かさまで美人だ。」

美紗子は、くすくすと笑いながら健一に囁いた。

「手の暖かさで美人ってわかるの?」

「ああ、俺には解る。」

美紗子は、健一の手を握ると、うっすらと涙を浮かべて小声で囁いた。

「健一さん・・・早く、抱いて欲しい・・・・」

「美紗子・・・・わかった・・・・」

「近くでお部屋取れるかしら?」

健一は、考えたあげく、マリオットアソシアホテルに携帯電話で予約を取った。

マリオットアソシアホテルはJRセントラルタワーズにある洒落たホテルである。
美紗子との再会に健一は、歩いて数分程度のこのホテルを選んだ。


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ホテルに入った二人は、すぐさま無言でキスを交わした。

唇を離すと美紗子は、心なしか寂しげに呟いた。

「ホント・・前と変わらないわ・・・キスだけでいっちゃいそうなくらい素敵・・」

「・・・・・」

「今のキスで、もう準備OKよ・・・」

「ん?」

「でも、やっぱりシャワーを浴びてくる。・・・ビールでも飲みながら待ってらして。

「・・・あ・・・ああ・・・・」

美紗子は、クローゼットを開けると健一に背を向けレザーのジャケットと
スカートを脱いでハンガーに掛けた。
シルクのシャツを脱ぐと真っ白な美紗子の肌が光った。
下着は、薄いブルーのレースで上下対のセンスのいい下着だ。

括れたウェストが悩ましい・・・
僅かにヒップに食い込んだショーツが
美沙子の臀部の形の良さを証明している。

美紗子は、恥らうことなく下着もはずした。
バスローブを羽織ると向きを変えて浴室に向かう。
すれ違いざま軽く健一の頬にキスをすると‘待ってて‘と言って浴室に消えた。

健一は、服を脱ぎ上半身裸になると冷蔵庫からビールを取り出し栓を抜いた。
ベッドに座り煙草に火をつける。

(・・・美紗子・・・俺は・・・・)

健一は、何を考え何を思ったらいいのかさえ頭に浮かんでこない。
3年振りに会った美紗子への思いをまだ充足できずにいた。

しばらくして美紗子が浴室から出てきた。
ほんのりと頬を染め健一の隣に座った。

「私も一杯頂けるかしら?」

「・・・ああ・・・いいよ。」

健一は、グラスを出し美紗子にビールを注いだ。
美味そうにビールを喉に流し込んでいく美紗子・・・

「・・・美味しい・・・」

美紗子は、グラスをボードに置くと健一に抱きついてきた。

「健一さん・・・・」

健一は、丁寧に美紗子のバスローブを剥いだ。

美紗子の鼓動が、肌を通して伝わってくる。

美紗子の舌が激しく健一に絡んできた。

「・・・ンゥ・・・ング・・・・」

美紗子が健一のスラックスのベルトを無造作にはずしに掛かる。

その間、健一は美紗子のヒップに手を当て優しく愛撫を繰り返していた。
裸になった二人は、長い時間を掛けてディープを楽しんだ。

健一の指が美紗子の蜜壷に触れたときだった。

「・・・ァァァァー・・・・・健一ぃぃー・・・・」

美紗子は、健一に覆い被さって自ら腰を肉棒に埋めた。

「・・・ンゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・・・・」

「・・・美紗子・・・・」

美紗子の性癖は以前と変わっていなかった。
何度もキスを求め、妖艶な瞳でずっと健一を見つめている。

「・・・健一さん・・・・激しく・・・して・・・」

健一は、美沙子を押し倒した。
三年ぶりに抱く美沙子の身体・・・・・・
柔らかくも弾力のある肌はまるで吸い付くように敏感だ。

美沙子が快感を激しく表現し始めると
健一は、美紗子を四つん這いの格好にさせた。
そっと腰に手を掛け、肉棒を進入させていく・・・・

「クフゥゥゥゥゥゥゥー・・・・ィ・・イィィィィー・・・・」

健一も美紗子も無我夢中で求め合った。

健一が我慢の限界を過ぎた頃、美紗子はこれ以上なく恍惚な表情で囁いた。

「抱き締めながら・・・・・ね・・・健一さん・・・」

健一は、美沙子を仰向けにすると再び結合した。

絶叫する美沙子・・・・
自然に健一の腰に足を絡めていく。

「・・・ァァ・・・・い・・・・・・いくぅ・・・」

「お・・・俺も・・だ・・」

「ンァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァー・・・・・」

美沙子は、ソプラノを奏でて果てた。

健一の腰に巻きついた足が徐々に力を失っていく。

「・・・ゥッ・・・ゥゥゥ・・・ゥゥゥゥ・・・・・」

「・・・美紗子・・・・最高だ・・・・」

薄っすらと開けた美紗子の瞳から、銀色の涙が静かに零れ落ちた。
健一の首に巻いた手に力が入る。
美紗子の激しいデヒープが健一の全身を溶かしていく。



その後も、美紗子は2度ほど健一を求めた。
健一も、美紗子の要求に応え、至極幸福な一時を過ごしていった。


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健一は、駅のホームまで美紗子を送っていった。
クリスマスツリーのイルミネーションが街中を鮮やかに彩っている。

セントラルタワーの下では、
多くのカップルが、愛を確かめ合うように寄り添っていた。

美紗子は、周りのツリーの美しさに目を細めていた。

セントラルタワーを抜けJRの西口に入っていく健一と美紗子・・・
改札口に着くまで二人は終始無言だった。

切符を財布から取り出し時間を確認する美紗子・・・・
美沙子は、健一を見ながら呟いた。

「・・・20時17分だわ。・・・まだ、10分くらいある。」

「そうか・・・・」

ホテルを出て、やっと交わした二人の会話だった。

「健一さん・・・今日は、ありがとう。・・・・とても嬉しかった・・・」

「・・・美紗子・・・」

「健一さん・・・私・・・今でもあなたが一番好き・・・愛してる。」

「・・・俺もさ。」

美紗子は、美しい笑顔を健一に投げかけた。

「美紗子・・・また来れるかい?」

美紗子は、優しい笑顔を浮かべるだけで何もこたえなかった。
健一は、一抹の寂しさを感じながら美紗子の心を察した。

(・・・そうか・・・・そうだよな・・・・・今や二人は他人だ。)

健一は、色々な憶測をした。

離婚して3年・・・・・
今、愛していると言ってくれたのは美紗子の俺に対する精一杯の優しさなんだ。
恐らく、美紗子には好きな男性ができたのだろうと・・・・
これだけの美貌であり、性格も優しい女性だ。
他の男性が放っておくはずがない。健一は、そう思った。

美紗子には、美紗子の人生がある。
今日、俺に逢いにきてくれたのは俺に踏ん切りをつけるためなのだろう。
そう思った健一は、美紗子と会ってから気づかずに緊張していた心の楔が
静かに外れていくのを感じていた。

そして、瞬時に心の整理をして健一は笑顔を取り戻した。

「美紗子・・・君の人生だ。楽しく、思うがままにやっていけよ。」

「・・・・・・・・・・・そうね・・・」

美紗子は、それだけ答えると笑顔が急に寂しげな表情に変化した。
健一は、それには気づかず時計を見ると美紗子に促した。

「美紗子・・・そろそろ電車が来る時間だぞ。」

「健一さん・・・」

「ん・・・・?」

「お昼に・・・私と会ったときテーブルの下で指輪を抜いたでしょ。」

「・・・・え?・・・・み・・・美紗子・・・・」

「・・・フフフッ・・・・」

「・・・・・?」

「・・・私も・・・・私もあの店に入って直ぐに外したのよ。」

「え?」

美紗子は、皮のジャケットのポケットから指輪を取り出した。
二人の結婚指輪だ・・・

「あなたが指輪を外してた時の慌ててた態度・・・物凄く可笑しかった。」

「・・・お・・・おい・・・」

「でも・・・でもね・・・私・・・嵌めてきてくれたことが
・・・・・・物凄く嬉しかった・・・・・本当に・・・・」

美紗子は、そう言うとポケットから取り出した指輪を薬指にはめて大粒の涙を流した。

「・・・・美紗子・・・・」

「健一さん・・・私は・・・私は、ずっと貴方のもの・・・
 貴方に会うために3年間、ずっと・・・ずっと我慢を・・・」

そう言うと人目を憚らずに美紗子は健一に抱きついてきた。

「・・・・美紗子・・・・」

「好き・・・好きなの・・・離れていてもずっと好きでいたいの。」

健一は、言葉を返すことなく美紗子を強く抱きしめた。

美紗子は、涙を拭くと健一に背を向けて改札口をくぐった。
そして、健一に振り向くことなく、はっきりとした口調で声をあげた。

「・・・・・私が電話をしたら、いつでも身体を空けてて・・・」

そう言うと、美紗子は小走りで階段を駆け上がっていった。

(美紗子・・・・・)

健一の鼓動が再び跳ね上がった・・・・

一番上まで駆け上がった美紗子が、やっと健一に振り向いた。
既に美しい笑顔に戻っている。

健一は、指輪をポケットから取り出すと美紗子に見えるように薬指にはめた。

微笑む美紗子・・・・

「健一さん・・・大好きぃーっ!」

美紗子は、そう言って板についたようなセクシーなウィンクを
健一に投げると新幹線に乗り込んでいった。

「美紗子ぉぉぉぉぉぉーっ!・・・・・俺とお前に空白はないぞぉーっ!」

叫び終えたと同時にクリスマスミュージックをアレンジした
ピアノ調の音がJR改札口の天井から静かに流れ出した。

健一の心に美紗子の返事が返ってきた。

“あなたがいてこその私”・・・・と・・

健一は、ずっと・・・ずっと階段の上を眺めていた。