蟹鍋

by くらざめ



「浩之さん、できました」

コタツと半分融合合体する俺が、怠惰を貪る我が家の居間に、セリオが入って来た。
シンプルな白のカジュアルワンピの上に、チェックな普通のエプロン、料理用に髪をポニーにして、
なんというか実に、ロマンチック?な感じ‥‥‥‥‥‥漢にとってな。

「あの‥‥どうかしましたか?」
「ん?うんにゃ、セリオが可愛いな〜って呆けてただけだ」
「そ、そんな‥‥‥‥‥あ、あのありがとうございます」

ほんの少し上気するセリオの頬、食べてしまいたいくらいに愛らしいのだ。
てか、実際に謎の触手がオドロオドロしそうになったが、今は夕食の時間、
セリオの手、ラブリーな鍋持ちの間に挟まれた、
鍋の方を、しっかり食べないとな‥‥‥‥‥後の体力が持たないから(ニヤ)


いつも初々しい反応をするセリオを促し、鍋をコタツの上にセットする。
今夜は豪華にカニ鍋なのだ。
とは言え、スーパーでカニが安売りしていたからなんだがね。

「セリオ、早く開けて見せてくれい〜」
「ハイ、ただいま」

土鍋の蓋を開けると、立ち昇る湯気。
磯の香りそのもものカニのニオイが、とっても旨そうである。

その第一印象を証明するが如く、赤く茹だったカニ。
夕食のメンバーは、メインの毛蟹と脇役(出汁)の丸蟹、中間の渡り蟹。
白菜も緑と白で、彩りを演出している。

「ああ涎出る。
 小振りだが、780円で毛蟹を提供したスーパーには花丸だな」
「もう全部煮えてますから、どれでも食べられますよ」
「じゃあ先ずはメインの毛蟹じゃ!
 ミソが食べたい、でもってきゅ〜っと呑るんだ」
「そう思いまして、こちらも準備してます。
 鍋の季節ですから、温燗にいたしました」
「おおっ!岩ノ井(地酒)の古酒か、ますますいいね〜」

セリオが杯に注ぐ琥珀色の液体。
日本酒だが、数十年熟成させた為に、まるでコニャックの様な色になるのだ。
そして新酒には無い、豊かな深みとまろやかさを持っている。
冷やでもいいけけど、温燗にすると埋もれていた香気が鼻を擽って最高なんだよ。

「くは〜っ」

”はじめ人間”的な息を吐き、俺はご満悦。
それもこれもセリオの心遣いのお蔭、後でいろいろとナデナデしてやらんとイカンな。

「さてさて、喉も良く潤ったことだし、蟹さんを食べるとするカニ」

値段のまま、ちょっぴり小さい毛蟹に手を出す。
ハサミと肢を取って攻撃力を奪い、
キャメルクラッチでボディーを真っ二つにしてやる、残虐超人(代表:拉麺男)も真っ青な残忍計画である。

しかし‥‥‥‥‥。

「ん、んぎゃああああぁぁぁっ?!」
「ひ、浩之さんっ?!」
「ア、アチィ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

この蟹め!とムンズと掴んだ瞬間、
脳天を直撃する高熱の感触。
ブワッチャ〜と謎な悲鳴をあげて、俺は飛び上がった。

幼体に、お、襲われる!リプ○ー、海兵隊の皆さん出番ですタイ(泣)

なんつ〜か、
迂闊なヤツめ!と、アム○の台詞が脳内でリフレインしている。

「セ、セリオ〜、手が熱いよぅ(泣)」
「あ、当たり前ですよ。
 煮えてる鍋の蟹を素手で取るなんて、熱いに決まってます(汗)」

あまりにも正当なご意見です。
ラオ○様は、素手で焼石を砕いて平気だが、
リ○を殺せず、未だ非情のオーラ(闘気)を纏っていない俺には無謀だった。

セリオ、少し呆れ顔。
う〜、久しぶりに茹で蟹だったら、蟹が熱い事を忘れてたわい。
普段は冷凍蟹じゃけんのう!ハ、ハハハ(泣)

「兎に角冷やしませんと」
「う、うむ、ちょっくら台所で水を‥‥‥‥へ、へ?セ、セリオ?」

流水を求めて立ち上がろうと、俺が腰を浮かせるより早く、
セリオは素早く近付くと、赤くなり始めた指先を、
そっとその可憐な唇に含んでしまった。

意外な行動にアワアワする俺を他所に、
セリオはソロリソロリといたわる様に舌を這わせてくる。
こ、こそばゆいというか、ハワ〜っていうか、
氷でも含んでいるように冷たい口の中の感触に、背筋がゾクゾクしてくる。

映画の某”九半分”にこんなのあったな。
ってことは、あ、あの、もしやお誘いですか?
見下ろす目を閉じたセリオは、実に美しく、俺の想像はどんどん逞しくなる。
一部もズンズンビルドアップ!

一分ほども、そうしてドキドキものの小さな水音を奏でていただろうか、
やがてセリオはゆっくりと口を開いた。
そのとき、セリオの舌と俺の指に、
キラキラと一瞬橋がかかったのを、見逃さなかった。

たいそうエエ感じです。

「セ、セリオ‥‥‥」

あう、上擦った声だよ(赤)

「浩之さん‥‥指の具合は如何ですか?」
「あ、そう言えば、もう平気っぽいかな‥‥なんで?」
「こういう場合に、口内で低温電解水を使い、応急処置ができるんです」
「はあ〜便利なもんだな。
 俺はまたてっきりセリオが‥‥‥‥‥‥‥‥」
「ハイ?」
「いや、何でもない」

エッチな事を考えました(エッヘン!)とは威張れない。
しかし、指が火傷しそうな時に、
んな事を妄想できちゃう自分は、大物なのかいな?

「しかしのう、HM−13シリーズってお口までハイグレなんだな〜」
「いいえ、これはテストタイプの私だけの、お試しで機能なんです。
 コストの割りには、あまり使用する機会がないという事で、
 量産型への搭載は見送られました」
「まあ、普通に考えればそうだろうな」

俺は嬉しいけど、マニアックな機能だもんな。
セリオの主力分野のオフィス仕事では、使用する事はまずあるまい。
第一、んなの頼んだらセクハラになるぞ?

「いわば映画版ガ○ダムの、大気圏突入機能のようなものですね」
「ふ〜む、なるほどな流石は新型と言うことか。
 これからも俺だけの為に使ってくれな」
「ハ、ハイ、勿論です(赤)」

なかなかに意味深な台詞だな。
蟹鍋の湯気以上に、ポワワンな雰囲気が漂ってしまった(赤)
う、うぬ、これはまた後にしなければならないから、話題転換しよう。

「しかし、TV版のも割りと好きな突入方法だが、やっぱアレはまずかったんだな」
「そうですね。
 TV版のマント方式だと、ザ○でもジ○でも平気で出来ちゃいますね」
「ん〜、ボ○ルは無理だけどね‥‥‥‥重力があると飛べないから」

ガンダ○の話しで軌道修整し、
いよいよ毛蟹タイム。
今度はセリオに準備してもらう。
何しろメイドロボなので、こういうのは得意。
俺はドームの某アントンみたいに、傍で口だけ出す(笑)

「値段の割りには、ミソが沢山ありますね‥‥‥はい、どうぞ」
「おう、茹でたての蟹ミソなんか久しぶりだよ」

やっぱ瓶詰めのヤツとは香気が違うよ。
逆さまになった甲羅に居る蟹ミソに、涎を垂らしながら箸をつけた。
ヒロに害‥‥‥‥いや、ほろ苦いようなコクのあるミソの味が、口一杯に広がった。

「‥‥‥‥‥‥‥‥」

続いて無言のまま、甲羅に口をつけ蟹汁ごとゴクリと啜る。
芳醇な磯の香り、目を閉じれば、ここは北海道!

俺、至福の時。
黙って立ち上がり、セリオに背を向け、
両手を天に広げ恍惚の表情をする。

でもって、
”たった一夜の宿を〜”なんて、名もなき旅の博徒の唄を吟じてしまったりした。

「あ、あの‥‥もしや侠客立ちでしょうか?」
「うむ、カツミの音速拳も平気って感じだな。
 オーガさんには負けるけど、スゲ〜旨いよ」
「良かったですね」
「ああ、これもセリオが料理と蟹の解体をしてくれたお蔭だ。
 はい、頭出してナデナデしてあげるから」
「ハ、ハイ‥‥‥(赤)」

感謝をこめて、シルクの感触なセリオの頭をナデナデしてあげる。
ポ〜っとした表情のセリオ、喜んでくれて俺も嬉しいし、
セリオの髪はスベスベだから、撫でているコッチも実に気分が良い。

しかしセリオ、こんなところだけは、姉にそっくりだな‥‥‥‥‥‥他はぜんぜん違うけど。

「んじゃ、もういいか?」
「あっ‥‥」

ニ三度で、手を放すと、セリオがちょっぴり切ない色を浮かべた。
無意識だろうが、上目使いになって俺を見る顔は、殺人的にナイスだ。
クールイメージが先行するセリオだけに、
こんな時折みせる表情が、ほんにラブリ〜じゃのう。

でも何か苛めたい。
可愛い娘についつい意地悪になるのは漢の性だな。

「では、本格的に蟹三昧と行こうじゃな」
「は、はい‥」

普段は十回くらいはするのを、半分以下で終わらされて、
残念なのだろうが、健気なセリオは不満を漏らさない。
でもやっぱり、もっと欲しいってのが、そこはかとなく表れてる。

それが愛しく可笑しく、ついうちニヤニヤしていると、
セリオも俺が苛めっ子モードになっていたのに気付いたようだ。
子供っぽく口を尖らせ、抗議する。

「ひ、浩之さん、酷いです」
「がはは、セリオがあんまり可愛いからな〜。
 あとで目一杯するから許してくれい」
「もう‥‥」

仕方ないですね、と優しい微笑みのセリオ。
う〜ん、アットホームだね♪




「丸蟹は、お手軽に味噌を味わえるのがいいよな〜」
「お値段もよろしいですね。五杯で三百五十円ですから」
「ほほう、ほとんど身が無いのを差し引いても、それはグッドだ。
 淡白な味も、幾らでも食べられるしな」

北斗○拳に二度の敗北は無い、と蟹鍋に挑む俺。
もう優雅に丸蟹の味噌までバクバクやってる。

この丸蟹、他の地方にも生息るのか、名前はどんなかは知らないが、
簡単に言うと丸い蟹だ‥‥‥‥‥‥てか、マンマだけど(汗)

大きくても拳大で、肢の身なんか食べるところないけど、
出汁も良くでるから、味噌汁などには最高で、
さらに茹でて、甲羅を割り、味噌を啜るのにはもってこいだから、
俺的にはタラバ蟹や、花咲き蟹よりも好きな庶民的なヤツである。

「でも、やっぱり毛蟹は良いね〜♪
 蟹の王道だろう、味噌も身も旨いの一言だぜ、グハハ」
「これで安ければ、まさにパーフェクトジオン○なんですが‥‥」
「うむ、それが難点だな。
 毛蟹一機でボー○が五機は賄えるからのう、選びたくても大破した後が辛い赤ゲルだよ」
「それは設定が連邦よりですから、仕方ないですね‥‥‥‥‥ハイ、どうぞ」
「お、サンキュ‥‥‥ったく、漢ならばジ○ンなのに、ありゃ納得できん」
「まあまあ、そのぶん連○軍にはレパートリーがありませんから」

セリオが気品溢れる振る舞いで、古酒の薫り豊かな杯をくれる。
俺の手は蟹の汁で汚れているので、セリオが気を利かせて呑ませてくれるのだ。
タイミングも絶妙、蟹の塩気に喉が乾いたな〜と、思うとすかさずです。
ほんにセリオは良い娘じゃのう。

さらには、セリオを食事をすると、もう一つ良い事があるのだ。
普段はあんまり気が付かないが、蟹の時にはそれが顕著になる。
注がれる視線に、セリオは何かして欲しい事があるのかな?と、いった表情をした。

「今度は渡り蟹ですか?」
「いやいや、そうじゃなくて‥‥‥まあ食べるけど、セリオと一緒に蟹だと、
 あんまり場が静まらないって感心してたのだね、これが」
「?」
「ほら、蟹って沈黙の艦隊ならぬ、沈黙の食材って言うじゃん」
「美味しいし、身をほぐすのに集中してしまうから、会話がなくなる、というものでしょうか?」
「そうそう、何か食べるのに熱中し過ぎて、話す余裕が無くなるんだよ。
 特に食べ放題の店なんかだと、設定料金分は絶対に撃破するって、
 絶対にムキになるから余計にな」

でも相手がセリオだと、それがない。
人間のお相手用に、食べるマネは出来るが、食欲は当然ないから、
蟹で原始の生存本能が目覚め、ガツガツしちゃう俺達とは根本が違って、
蟹鍋が実に穏やかなのだ‥‥‥‥‥‥味噌は俺が喰うっ!とか、殺伐にならない。

それどころか、エヘヘ〜美人に蟹を剥いてもらえて、ウハハだね、な気分。
ガ○ダムの話しも出来ますしね。

俺は幸せだな〜とセリオに話したのだが、
何故かセリオは、申し訳なさそうな色を浮かべてしまった。

「ありゃりゃん、どうした?」
「いえ、ご一緒にお食事をとれなくて、
 浩之さんは、寂しい想いをされているのではないですか?」
「はへ?なんで?」
「食事の団欒とは、同じ物を食べ、同じ感覚を共有してこそ、
 初めて築かれるものではないでしょうか?
 その点私は、疑似的な食べる機能があるだけですから、
 浩之さんは、結局独りでお食事をなさる事に‥‥‥‥」

それでは所謂”ゴッコ”ですね、と寂しげに微笑むセリオ。

そんな事ないのに、セリオは真面目だからな。
まあ、それがセリオの良いところでもあるがね。
俺ならば、三秒で脳が駄目になるような事を気にする。

ここは元気づけてやらねばなるまい。

「うんにゃ、たとえゴッコだとしても、ゴッコってのは大切なんだよ。
 夢追い人つ〜か、やっぱ心躍るものなんだな。
 特に北斗○拳ゴッコなんかは、漢なら必ずやるね。
 かくいう俺も、小学生の時に雅史とよく遊んだものだ。
 ケンシ○ウの俺が、雅史のこめかみに残悔拳をかましてやった時なんか、
 ペギィ〜!とか笑える悲鳴あげてさ、親指が二センチもめり込んだ。
 で、びびると同時に、いい知れぬ深い感動を覚えたよ。
 嗚呼、やっぱり秘孔は存在ったんだっ!てね」
「は、はあ、それは‥‥‥コメントに困りますね(汗)」

思えば、それこそアイツが爽やか”変”になった原因かもしれん。
人‥‥てか、漢として大切な何かを奪った可能性大。

やは!ヒロユキ〜、と無闇に殴りたくなる態度になったのも俺の自業自得かい(冷汗)
あの時、脳じゃなくて、身体の秘孔にすれば良かった。
まさに若気の至り、リュウケ○も忠告してたな、
その優しさが仇になるって‥‥‥‥‥‥‥‥残悔拳が優しいかは知らないけどね。

「一般的にもオママゴトとかもあるじゃん、気分が大切なんだよ、気分がさ。
 セリオを俺に団欒をくれてないなんて、間違いなの!
 ほれセリオも一献やってみな」
「ハイ‥‥では、頂戴します」
「はいはい、ぐぐいと‥‥‥でもって、ギャート○ズ的なプハッ!をやるのだ」
「い、いえ、それは少し(汗)」

マネでもなんでも、楽しければ良いのじゃ。
セリオと二人の夕食は、俺にとってまさにそれ。
仲良きとこは何とやら、ですたい。

第一、これが仮に志保何かだと、
今ごろは毛蟹の爪(中身完食)で剣劇しているぜ、絶対に。

でもって、イラつくヤツのドタマに、ハサミをプスッて刺し、毛蟹の毛は血だらけ、
志保はギャ〜ギャ〜騒いでいるに決まってる。

もう、想像だけで最悪である。
目の前で、杯を持つセリオとは、カサ○ドラの監獄とサザンクロ○くらいの違い。

「‥‥‥‥‥‥」

俺が見守る中、
コクリと上品な擬音が似合いに、セリオが杯をあける。

呑んだら何をするのかな〜?という、俺の視線に、
セリオは、これで如何ですか?と、はにかんだ様子で口を開く。

「あ、あの‥‥‥‥‥お、美味しいです」
「うむ、良く出来ました」
「ハ、ハイ」
「では次は蟹ね」
「え?流石に蟹は勿体無いのでは‥‥‥?」
「いいから、いいから」

ニヘヘと笑いながら取り出すのは、蟹の肢の部分。
生のままで殻は外してあるヤツだ。
まあ、シャブシャブみたいにして食べる用だ。

鍋の中でさっと火を通し、身が白くなったものをセリオへ。
ほかほかと湯気が出て、身がぷっくりしているのが、実に旨そうである。

「はい、セリオ、あ〜ん」
「え?あ、あの‥‥‥」

てっきり単に食べるだけだと思っていたんだろう。
俺が摘まんだままの蟹の肢を口元に寄せると、
セリオは戸惑いの色をみせる。
ふふふ、”あ〜ん”だからな。
だが、俺は浩之!萌えの帝王!!退かぬ、媚びぬ、省みぬ!!

ああ、すっかり駄目になってる俺。

「あ〜ん!!」
「い、いただきます」
「おう、どんと来い」

セリオは伏せ目がちになりつつも、そっと口を蟹に近付けた。
まるで開花する桜のような唇。
蟹がとっても見劣りする程に良い。

そこに蟹の肢が触れるか触れないかの瞬間、
俺は、ぱっと手を上げて避けてしまった。
セリオ、へ?という具合に口を突き出した体勢になる。
珍しくオマヌケな感じだけど、コケティッシュで素敵。

「あの、浩之さん(汗)‥‥‥‥‥‥‥‥やっぱり、勿体無くなりましたか?」
「ち、違う、んなセコイことじゃなくて、題して”セリオ釣り”だ!」
「‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥」
「あ、あの何かコメントしてくれよ、放置プレイは苦手なんだ」

厳密には、されるのがな。
で、セリオ、かなり困った顔で一言。

「お、お茶目ですね(汗)」
「あゔっ、
 ここは”もう!浩之さんったら♪”みたいな台詞が、欲しいのに(泣)」
「は、はあ、そこまで気がまわりませんでした。
 ‥‥‥‥えと、すみません」
「あ、謝られると、俺が馬鹿みたいにだよ〜」

てか、本当に馬鹿かもしれん(汗)
素直に”あ〜ん”でラブラブになれば良かった。
カイ○ウがケンシロ○に負けた時の気分。
最初から北斗神○を学べば!ってヤツな(泣)

「そ、そんな男泣きしないでください。次は突っ込みしますから」
「いや、どうせならばラブの方が‥‥‥‥‥」
「ハ、ハイ、そちらも了解です」
「うう、苦労かけるね〜」

マジにな。




鍋も終盤戦。
蟹はあらかた俺の胃に消えた。

「そろそろ弱火にして雑炊にしますが、よろしいですか?
 それともウドンでしょうか?」
「いや、やっぱし蟹は雑炊かな」
「ハイ、ではそのように‥‥」

よくとれた蟹出汁には雑炊が似合いだ。
てきぱきとご飯を投入し、
ちゃんと粘りが出ないように注意し、料理するセリオ。

ときたま、混ぜることに躍起になり、糊のような雑炊を作ってしまうのが居るが、
セリオに任せれば、安心だった。

レンジでチンする程度の待ち時間で、
鉄○のミ○バさんが作るような、上品な雑炊が完成した。
もちろん、○人監修のレトルトとは、比較にならない。

‥‥‥‥‥マルチならば、きっと蟹煎餅が出来ていただろうがな。

箸でかき込むと、これぞ蟹!という味が染みたご飯が旨い。
アサツキのアクセントも絶妙で、三ツ星は確実だ。

「最高じゃのう」
「それは何よりです」
「しかし、ちと蟹は飽きてきたかもな。
 甘い味も欲しいな‥‥‥‥うん、ワインでも呑むか。
 ポリフェノールたっぷりじゃない、ドイツの白ワイン」

庶民だからか、高価な蟹(毛蟹は780円)を存分に食べた所為か、
どうも蟹味が満杯になってきたらしい。
普通は何杯も食べるもんじゃないからな。

「オペンハイマ〜でよろしいですか?」
「ああ、十分ですな」

セリオが持ってきたのは、糖度が多少低い分、リーズナブルな白ワイン。
本場ドイツでは糖度が高いほど、値段も高いが、
アウスレーゼ以上の遅摘みだと、流石に甘過ぎてデザートでもキツイから、
俺にとっては、この辺りが丁度良い。
とは言え、グレードはちゃんとQmpである。

ワイングラスではなく、マグカップに注いでもらい、豪快に呑む。

「ぷは〜!」

口の中に、甘味と酸味が拡がる。
葡萄の濃い味よりは、若干薄いが、
まろやかな酸味で、実に呑みやすい甘さだ。

若さと、その青い苦味が少々あるが、
調和がとれていて、それは個性となって味を引き立てている。
ジーク・ドイチェランド!ね。

一気に飲み干し、立て続けにセリオにおかわりを要求する。

世間一般では、甘口の酒は食事と合わないと言われるが、
魚介類の場合は、甘味で生臭さが強調されないから、結構平気に飲めてしまう。

「セリオ、もう一杯」
「え?もう瓶の半分以上飲んでますよ?
 少々、ペースが早くないですか?」
「ん?そうだな、でも何か甘いものが欲しくてさ。
 蟹ばかり食べてたからかな?」

浴びるように飲む俺を、セリオが心配してくれる。
しかし、もっと飲みたくて仕方ない。

いや、酒が欲しいというよりは、喉が乾いた感じだった。

「蟹だから塩っぱいのかな?」
「でしたらお水をどおぞ。
 アルコールでも、喉が乾きますからね」
「んむ」

そしてワインを水にして、ゴクゴクとやること数回。
冷たい感触が舌から喉までを洗い流すのが、実に爽快だった。

「ふ〜水も旨いな。
 まさに命の水‥‥‥‥‥‥で、でも、あ、あれ?凄く喉が乾くぞ?!」
「え?」
「な、何か変だぞ?
 こんなに水分とってるのに、舌が塩辛くて、喉もぜんぜん潤わない。
 88目指して、アスラ○の砂漠をさまよってるみたい(汗)」

そう、それは夏コミパ後に感じる、砂漠のような乾きだ。
ポカリのプールにダイブしたいくらいに、身体に水が欲しい状態。

「そ、それはもしや‥‥‥‥(汗)」
「な、なに?聞いた事ないけど、蟹中毒とか?
 ま、まさかゴ○ゴ13も危機に陥った、ツィツィ蝿っ?!」
「い、いえ、蝿は関係ありません。
 ではなくて、蟹を食べ過ぎて、
 一時的に、血中の塩分濃度が、異常に高くなった所為だと推定されます」
「そ、そんなのあるの?」
「ハイ、お醤油を一気飲みすると、非常に体調を崩すのと同じです」

いや、そんな例え出されても分からないよ、と突っ込む気力もない。
兎に角、喉が乾いて仕方ない。

「取り敢えず、水分を取るしかありません」
「う、うむ(汗)」

セリオにどんどん水を持ってきてもらったが、
如何せん、日本酒、ワイン、水と飲んできたもんだから、
さほど飲めはしない。

てか、腹はタプタプで、もう十分に飲んでいる筈だ。
なのに、乾きはちっとも去らない。
きっと塩鮭もこんな気分なんだろう‥‥‥‥‥‥鮭は”活き”じゃないけどな。

「う〜、舌も喉も潤っているのに、ぜんぜん乾くよ〜」
「喉の表面ではなく、血液中のナトリウム濃度ですから、直には‥‥‥」
「そ、そんな〜、拷問だ(泣)
 げはっ!蟹とか、塩とか考えるだけでも、喉が破れそうだぁ〜〜〜〜」

思わず”あんまりだ〜っ!”と、エシデ○シ泣きな俺。
ただし、泣いてもスッキリ出来ない(汗)

しかし、他に手も無く、ちびちびと水を飲む。
床の上で、ばたばた悶えながら、
しばらく蟹は見たくもない状態だ。

セリオによると、もう十分水分は摂取したので、
今現在の乾きは、多分に精神的な要素が強く、
落ち付くまで我慢すれば平気だそうだが、
蟹=塩となった脳では辛いこと、この上ない。

蛇口を針金で縛ったリキさんも、地獄だったが、
自由に飲めるのに乾くのは、それ以上に苦しいのだ。

「浩之さん、ちょっとだけ頑張ってください」
「う〜セリオ〜」

もう、ヘコヘコな俺。
セリオは正座すると、手招きをして膝に誘う。
破壊力満点の膝枕で、俺の気を紛らわせてくれるのか。

ありがたく受けるが、頭の下の柔らかい腿の感触でも、
蟹汁の塩分を打ち消せはしなかった。
恐るべし蟹!

「浩之さん、ポカリです。こちらの方が吸収が良いですから」
「はい、いただきます」

無理でも、少しは塩分を薄めないとな。
こっちもありがたく飲む事にする。

「‥‥‥‥‥‥」
「セリオ‥‥?」

てっきり口元にくれると思ったのに、
セリオはポカリのボトルを自分で‥‥‥‥そして俺の顔にかかる緋色のシルクの心地。

「‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥」

唇に感じる温もりと、ほんの少しの甘さ。
ぬるっとしたので唇を割られ、ちょっとだけヌルイ液体が滑り降りて来た。
喉が潤される。

「‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥」

一瞬、塩辛さも忘れて、セリオを見上げる。
ほんのりと桜にそまった顔に、静かな微笑みが浮かんでいた。
まるで、淡雪か朧月。

たった今まで触れていた口唇から、
紡ぎ出される鈴のように澄んだ、穏やかな音色。

「甘い‥」
「‥‥‥‥甘いですか?」
「ああ、とってもな」

今度は糖度が上がってしまう程、飲みたい、
そう言うと、セリオは、くすりと口元をほころばせた。

「そうなったら、今度はどうやって辛くいたしますか?
 蟹はもういらないですよね?」
「そうだな‥‥‥‥」

髪に触れて、セリオの白皙の美貌を引き寄せ、耳元に囁いた。
セリオは、はみかに、それもよいですね、と甘く囁き返す。

「でも今は甘いのがいい」
「ハイ、どうぞ御随意に‥‥‥」

重なる唇。
しっとり甘い感触。


蟹は塩っぱいく、セリオは甘い。
藤田家の常識だった。



終了



あとがき

ちょっと遅れたけど、セリオ誕生日おめでとう!で書きました。
なんかセリオだと食べ物が多い(汗)
やっぱり最高のメイドさんだからでしょうか?
最近、某有名サークルさんのセリオ本買ってホクホクです。