[退院:平成6年5月以降 愛媛県松前町(まさきちょう)の自宅にて]
▼平成21年〜 <更新>
◇ ◇ ◇大空に抱かれて渡る雁の棹
春夕日遥か氷河を桃に染む
雛飾るホテルに異邦人多し
卒業や渡り廊下の笑ひ声
手のひらに未熟児をのせ春隣
松明に照らされし鵜の孤独なり
学会に来て洛北の花並木
(愛媛県宇和島市内の病院に入院中)
風薫る新しき人眼ざめよと
□
(愛媛県松山市内の病院に入院中)
夾竹桃闘病の先見えかくれ
この身にはうつろに響く蝉の声
雲の峰新しき人生ここに
野分かな先々のこと到来す
車椅子段差を前に残暑かな
新涼やまた来る朝を期待せり
水浴びてうれしさあまり悲鳴あぐ
ひょんの木を見上げ秋の日師を思ふ
リハビリの緊張ほぐす秋の風
秋冷や車輪に尋ぬ予後のこと
調子よく禁を破りて秋散歩
いすの木を見下ろしながら松手入れ
立冬も散歩日和となりにけり
寝返りの打てぬ体に秋の風
小春日にラジオの音の響きをり
漱石忌書物恋する気昂ぶり
冬の蜂ゐて懸命にリハビリす
物言えぬ悔しさ胸に十二月
かかえられ久々に見る寒の家
見舞客朝訪れぬ松の内
大寒の中車椅子つき進む
病床に三寒四温不意の客
山茶花のつぼみめぐらす研究所
盆梅や薬草園の中に咲く
日脚伸び床より眺むビルの影
余寒なほ来訪人の手に感じ
陽炎を通して見ゆる起工式
揺らがずに白木蓮を見上ぐとき
ブラスの音四方に響き山笑ふ
虚空より囀り聞こゆ寺の庭
凛と立つ楠の古木や二月尽
猫の恋世間話は疎ましき
入社式舶来シャツで深呼吸
彼岸会に土間さまざまの靴並ぶ
薬草園熊谷草の鉢一つ
供え物一つずつあり春地蔵
春昼に巨大クレーン空を射る
□
春爛けて新病院の廊下踏む
銀輪の反射鋭く柿若葉
メーデーや花屋の主人花を剪る
梅雨出水帽子目深に橋渡る
撒水車港街道濡らし行く
風鈴や家族の思ひすれちがふ
底冷えの港湾都市の目覚めかな
寒雷や久女の俳画微細なり
車椅子押しなれてゐる春日傘
盲学校葉桜並木影落とす
義足つけ若者闊歩若葉風
初蝉の合唱止まり船の笛
新涼や陵抱く公園へ
秋の朝信号を待つ盲導犬
遠出せし街光りつつ小春かな
宝塚劇場毀つ初冬かな
冬の朝無人エレベーター昇降す
治療室ポインセチアに燃ゆるもの
寒卵家族の絆確かむる
春海の往来激し貨物船
万葉歌口ずさみゐる弥生尽
高台に白藤揺れる古戦場
未来都市つと濡らしゆく穀雨かな
初夏の道新幹線の高架下
銅の選鉱音や油照り
ベランダに患者並びて遠花火
ペン立てに銀河鉄道描く夏
□
碑銘無き墓石並ぶ十三夜
廃屋の森に抱かれ紅の萩
迷ひ犬川面に揺れる冬の月
年賀客特攻隊の話など
雨水かな古墳の眠る池堤
大海をハイビスカスとのぞむ丘
黒牛の鼻輪の動く春の闇
麦熟れて校門開ける用務員
更衣背になじみしランドセル
床頭に新茶冷ませる昼下がり
□
[退院:平成6年5月以降 愛媛県松前町(まさきちょう)の自宅にて]
朝日浴び畦に並びし早苗箱
日盛りや餌を争ひ象猛る
満面に稲穂の垂れる道路鏡
鰯雲様変わりせし母校かな
文字盤の大きな時計夜寒かな
塗りたての郵便ポスト冬日向
一斉に海を見つめる河口鴨
冴返る博物館の石廊下
母の日や娘時代の映画館
振袖の袂気にせぬ卒業子
校庭の喧騒包む麦の秋
白南風や耳傾けし不器男の句
蕎麦の花脱藩の道偲びつゝ
常夜燈隠るるほどの紅の萩
石蕗の花門の小さき歯科医院
柿花火牛舎の闇を抜け出せば
大旦ハイジの如く山仰ぐ
試歩の夫外套広げ迎えらる
ワープロの挨拶文も四温かな
春爛けて解剖学者退官す
満開の寸前に花力湧く
喉仏太き耕牛走り梅雨
五月晴幹は未来へ伸びるなり
朝刊を仕分けする背に麦あかり
雲の峰歩幅の広き山男
御影石豪商の礎や鰯雲
稲刈りて稲荷の杜の近づきぬ
普段着の尼僧堂掃く木の実晴
子規五友 学びし街は柿日和
托鉢僧聖樹の下を黙し過ぐ
雪嶺の滑壁天に光りをり
初御空南へ伸びる飛行雲
山笑ふ理髪の客の大あくび
子地蔵の七つ並びて春の雲
ポンプより井戸水溢れ花石榴
獄舎塀大緑陰に始まれり
大夕焼きのふと同じ子らの声
少年の釣糸絡む晩夏かな
虎の檻銀木犀の香動く
配達のバイク音去り虎落笛
経塚を囲みて淡き七変化
千年の杜より出でて風薫る
荒れ宮の木下闇出て眩しめり
夏の朝落慶を待つ檜の香
露涼し又鐘鳴りぬ札所寺
湯上がりて坂多き街冬の月
初仕事 社見廻る消防士
初詣神馬に寄する乳母車
たっぷりと雨ふくみたる刈田かな
蛇行せる大瀬の川や竹の春
秋天へ出でむ電動車椅子
蕎麦あかり龍馬脱藩道半ば
牛小屋の忽然と消え金木犀
池の面の眠る山々滲みをり
冬ぬくしエジプト展に子らの列
冬ざれの歩道に句碑の十あまり
湯之町の酒倉にある帰り花
葉牡丹のはみだしてゐる花時計
寒晴や蔵に吊りたる酒林
春まつり果てたる苑を車椅子
Eメール一行目より梅便り
風無くて芯より匂ふ沈丁花
満水の大池囲む花堤
吾子も乗る桜の下のゴーカート
麻痺の手で友へのメール花の冷え
勧農の碑文を照らす柿若葉
浜薄暑遊具に太き船結び
田水張る工事現場の隣まで
田水張る牛舎の跡の残されて
車いす紫陽花寺の磴見上ぐ
車いす入道雲の正面に
産土に一礼蝉を追っかける
秋暑し城下の町に観覧車
立てかけし子の捕虫網涼新た
ていれぎの里に桜の薄紅葉
木犀の花屑も載せ車いす
いくたびも団栗独楽をひとりっこ
禅寺に西洋の墓柿熟るゝ
大師池水底までも秋の空
パソコンで子規の短冊見る夜長
猟犬が背中伸ばして道渡る
等分に聖菓切り分く幼なかな
友よりの分厚き便り四温かな
梅園と海原見ゆる観覧車
淡雪を車いすごと浴びにけり
節分の園児の鬼面角小さし
子の作る男雛女雛の方を向き
神苑の緋寒桜のひとところ
隠れ里三代の鯉空泳ぐ
鳥曇スロープ下る車いす
いつもよりさらに早起き子どもの日
薫風や畝傍御陵の駅を出て
橿原の大いなる杜若葉濡れ
激辛のカレーを食す梅雨晴れ間
石楠花の赤紫や寺の朝
差し始む朝光の中蝉の声
幼子の背の高さの油蝉
落し水牛小屋ありし曲り角
乾きゐる畦に沿ひたる曼珠沙華
木犀のパソコン部屋にふと匂ふ
葉牡丹の短き茎や薄日浴ぶ
廃坑の社宅にあまた花八手
朴歯下駄 子規館闊歩冬ぬくし
山盛りに林檎擦りたる三日かな
しだれ梅ちらりと見遣る郵便夫
再会や堀端の梅咲き満つる
花の下あるきはじめの滑り台
背伸びして女雛に触る男の子
風光る一年生の参観日
緑陰の少し奥へと車椅子
梅雨に入る気配朝の窓を開け
半夏生 休耕田も水を貯め
深き夏車庫より走る鼬かな
百日紅子規も触れたる寺の庭
売られゐる小ぶりばかりの甲虫
神苑に紛れ込みたる曼珠沙華
ためらひの返信メール昼の虫
大瓶に挿す満開の秋桜
秋の蚊の羽音を耳に闇夜かな
辻堂に触れむばかりの木守柿
渋柿を十あまり吊る小さき軒
聖誕祭ハイテク玩具枕辺に
地球儀の海と向き合ふシクラメン
夏柑を枝引き寄せて麻痺の掌に
小さき掌でつくる赤目の雪だるま
伊予柑を湯舟に浮べ伊豫の国
百年の燈台の空鳥帰る
廃校の門に満開 桃の花
高圧線 鉄塔囲む花菜かな
耕しの音を聞きつゝ メール打つ
黒薔薇と いへる大輪 匂ひをり
夏燕 襟を正して翔びたてり
短夜や看護婦たちの小走りに
稲刈りの匂ひの中に立ちゐたり
登校の画板の列や いわし雲
堰越えし水光りゐて 鵙日和
山音のいつもどこかに 山粧ふ
目の醒むる大輪の白 冬薔薇
湿りゐる土付き大根 足元に
登校の児の手の中に冬苺
冬ぬくし狭庭に石の招き猫
雪嶺の 雲と見間違ふ高さかな
黒豆をパンに入れたる小正月
花万朶 僅かに温き川の風
耕しの畝から畝へ子ら跳べり
げんげ田や 村一軒のレストラン
登校の子の声太し 若楓
いく筋も畝低きまゝ田水張る
咲き競ふ六月の薔薇朝日浴ぶ
子燕や 旧字遣ひの駅舎札
帰る客日傘を開く小さき音
雨あとの雫に溶ける草いきれ
朝涼や 願ひの叶ふ予感あり
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閑けさを纏ふ炎天鬼瓦
燈ひとつ学生寮の夜食かな
[ひつじ]田や ひょこひょこあるく女の子
運動会 わづかに雲の流れをり
爽やかや 百歳翁の語り口
真向へば金木犀のよく匂ふ
湖見ゆる古戦場跡 草紅葉
城山の頂近き冬の雲
落葉道抜ける 電動車いす
婚縁の話ふくらむ春隣
いっせいに葉牡丹の茎伸びゐたる
神の杜 老い集まりて大焚火
訪ふ人に枝垂るゝ梅の真っ盛り
春寒の句の座に車椅子二台
身支度に少しの油断 冴返る
白木蓮 己のが盛りの高きかな
花蜜柑 ひとすじ北へ飛行雲
遠目にも殊にあかるき麦の秋
小さき鉢青鬼灯の確かなる
梅雨晴のいつも束の間 母嘆く
梅雨晴や 郵便箱に弾む音
暁に極太胡瓜見つけゐる
衆目の小さき手ひらり 盆踊
秋まつり 果てたる坂を車いす
伊予訛 城址の案内 竹の春
枝々にほどよき丸さ 花梨の実
口中の潤ふ酒や 花梨の実
黒土に藁混ぜゐたる小春かな
実万両 熟れたる赤の地に触れて
時雨寒 庇の下の庭師たち
囀りに返す囀り 神の杜
退職の言葉震へて 春寒し
春寒し 一閑張の天狗面
思はざる 蝶の行方よ 花楓
桑苺 豊穣なるや 風無き日
一村に水の匂ひの芒種かな
合歓の花 目指して入りぬ 峡の村
大花火 ダムの懐 深きかな
川べりに 秋草あまた 十三館
朝焼けや 末枯時の 三角 州
石蕗の 黄の澄みわたり 門の翳
城山に 一朶の雲や 漱石忌
寒木瓜に 雫のひとつ 残りけり
若沖の 日本画を観る 二日かな
ブレーキランプ 尾をひく路面 寒の雨
一木の万蕾 梅の証しかな
咲き初むる 菜の花二輪 伊予の雲
しづかなる見頃の 彼岸桜かな
華やげる 関東風の 桜餅
一心に 地図広げ見る 徒遍路
葉の影に 花残しつゝ 若楓
幟立ち たちまち次の幟立つ
蜑の坂 咲き乱れたる 額の花
梅雨あがる 塩羊羹の甘さかな
子鴉の伸びきらぬ声 朝空へ
乾坤の神に一礼 蝉しぐれ
脱藩の杣道となる通草かな
ひとときの茜に染まる秋簾
終電の鉄橋を過ぎ 秋思かな
石蕗の 蕾の灯る 槇の垣
車椅子 停めてしばらく 帰り花
工場の 裏手に寂びる 花八手
昏れ深み いよゝ冬鵙 猛りけり
斜に放つ 日矢のやさしき 冬霞
風の音 音に風あり 虎落笛 <New>
風花や やゝ傾(かし)ぎたる 築地塀 <New>
雪洞の 灯映ゆる 御殿雛 <New>
花の雲小さき漁港の船溜り <New>
満潮の沿岸線路花曇 <New>
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