2003年1月18日、大阪弁護士会館で日弁連、大阪弁護士会主催「死刑問題シンポジウム―日弁連の死刑執行停止法案をめぐって」が開催された。

日弁連は、昨年11月22日、日弁連理事会で採択された『死刑制度問題に関する提言』をふまえて、死刑制度の存廃について国民的議論を尽くし、死刑制度が改善されるまでの一定期間、死刑確定者に対する死刑の執行を停止する時限立法『死刑執行停止法』の制定を提唱した。
このシンポジウムは死刑制度存廃をめぐる論議を提起するための最初の企画として開催されたものである。参加者は約150名。
集会ではまず日弁連『提言』の内容と採択された経緯について基調報告が行われた。(報告者:日弁連死刑制度問題連絡協議会座長 金子武嗣弁護士)
3年4カ月の執行ゼロから1993年の後藤田法相による「死刑再開」を契機に、歴代の日弁連会長は執行の都度、抗議声明を発表してきたが、日弁連会内では死刑存廃についてなかなか合意形成ができず『提言』に至るまでに実に13年も要した経緯などが報告された。
つづいて日本の死刑の現状と問題点が報告された。(報告者:日
弁連死刑問題調査研究委員会委員 小川原優之弁護士)
被疑者弁護のあり方、代用監獄制度、誤判防止制度が尽くされていないことなど、わが国の刑事司法制度にはさまざまな矛盾や問題があることが指摘された。
また死刑確定者の処遇については、弁護人といえども接見する際には拘置所職員の立会いが必要なことなど、国際人権(自由権)規約、国連決議、拷問禁止条約など、国際人権基準に違反しており、重大な人権侵害であることなどが指摘、報告された。
パネルディスカッションでは、パネラーとして保坂展人衆議院議員、安田好弘弁護士、石塚伸一龍谷大学教授が参加。また、再審無罪判決を勝ち取るまで獄中から無罪を訴え、34年間「死刑」に直面しつづけた元死刑囚・免田栄氏が発言し、パネルディスカッションを締めくくった。
各パネラーの発言要旨は以下のとおりである。
保坂展人衆議院議員 「死刑廃止議員連盟の法案作成とその内容、展望」

議連で取り組んでいる「法案」について。
死刑を廃止し仮釈放のない重無期刑を創設して、現行の死刑と無期との乖離を埋めるために法案作成に当たった。
法案のひとつである浜四津試案では、死刑制度を残したまま特別無期刑を導入し、附則で執行モラトリアムを取り入れることとなっているが、仮にモラトリアムが実施されないとすれば特別無期という重罰だけが残る、として議連ではまとまらなかった。
また、「国会内に死刑臨調を設置して、その間3年にわたって執行を停止し重無期か特別無期かの議論をする」としたが、こちらも議連総会ではまとまらなかった。
しかし、通常国会に提出する見込みの「大枠」については次のような合意がある。
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25年以上服役しないと仮出獄できないとされる特別無期では軽すぎるのではないか。重無期でないと国民に受け入れられないのではないか。
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仮出獄が認められない現状で、中間刑だけが重罰化してはいけない。
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「臨調」は「内閣」につくるのではなく「国会」の両院につくり国会議員で集中的に議論していくこと。
などである。
安田好弘弁護士

「死刑執行停止法」は死刑執行を停止した後に死刑制度をどうするのかわかりづらいところがある。
しかし、それは必ずしも問題ではなく、現にアメリカのイリノイ州やメリーランド州でも同じ様な法案がつくられている。
廃止・存置の議論の前に停止しようとするもので、欧州評議会が日本などに提案している、廃止を前提にした停止法とはこの点で異なっているが、法案が成立することで社会全体の人権のグランドレベルは上がるだろう。
石塚伸一龍谷大学教授

死刑執行の停止を目的に法案をつくっても意味がない。死刑廃止が前提だ。死刑廃止の状況はどんどん悪くなっている。裁判の一審、二審で死刑が確定している。上告しないケースさえある。
そして毎年コンスタントに執行がある。法務省が執行のための予算を計上しているからだ。
90年代以降、検察は厳しい求刑をしている。国民は厳しい刑罰を求めているという世論を意図的に誘導している。死刑が政治的に利用されているのだ。
免田栄氏

獄中で、執行される人々を70人から80人近く見送った。確定判決に素直に応じた人は少なかった。もしもう一度社会に出ることができれば死刑だけはなくしたいと思った。その思いは今も同じだ。
私は死刑が確定した後、再審では無罪になったが、一審の死刑判決は訂正されることなく残ったままだ。私は今も死刑囚である。
死刑は皆さんの子どもや孫の将来につづく問題だ。もう一度この国のことを考えてほしい。
【質疑応答より抜粋】
会場からの文書による質問に各パネラーが回答するかたちで質疑応答が行なわれた。
質問: 法務省から法案に対して激しい抵抗が予想されるのではないか?
保坂議員: 法務省は外圧があっても、わが国には固有の考え方があるとして突っぱねるだろう。しかしいつかは死刑が変わるという考え方、政治判断的な部分もあるだろう。私は決して絶望的に考えていない。
質問: 仮釈放のない終身刑は死刑同様に残虐ではないか? 死刑の代替刑は?
安田弁護士: 死刑に代替刑は存在しない。死刑廃止とひき替えに何を差し出すのか。新しい刑を創設する必要はない。
終身刑は極めて残虐な刑罰であると思う。死刑を廃止するために、国会の論議では終身刑の見直し、処遇の改善が常に前提にならなければならない。
質問: 被害者感情、被害者遺族の人権は?
安田弁護士:
被害者の問題を抜きにして死刑廃止は考えられない。私たちNGOも被害者支援センターなどを設立して活動してきたが、死刑が被害者の感情回復に寄与しているとは思えない。
犯罪とは何か、犯罪被害とは何か。私たちの社会では防ぎようのないないものが犯罪であり、社会を構成する人間全員で受け入れなければならない問題でもある。
石塚教授:
被害の修復はできない。あの人を返せ!と訴えても、もはや亡くなった人は返らない。生活を支えていた人を亡くした家族に対する、例えば家族の医療費を立て替える制度など、一時的な財産援助が国によって保障される制度がわが国にはない。犯罪被害者給付制度で支払われる「見舞金」ではなく、国による「補償制度」としなければいけない。被害者にとっては加害者を恨み、死刑を望むことしかできないのが現実だ。
死刑廃止と被害者支援とは矛盾しない。死刑廃止NGOはマンパワーで被害者支援もできるはずだ。
保坂議員:
弟を殺害されても死刑制度に反対している原田正治さんがいる。彼を特殊なケースだとして被害者の問題を切り捨てるところに世間の貧困さがある。被害者がかかえている問題は私たち自身の問題なのだと、引き受けることが私たちの課題だ。
最後にシンポジウム実行委員会から、日弁連は今後も死刑問題の国民的議論を提起するために活動していくこと、具体的には本年5月31日に東京で死刑問題シンポジウムを開催し、また11月22日には同じく東京でさらに大きな規模で死刑問題の集会を開催する予定であること、また10月16日の人権擁護大会でも犯罪被害者問題シンポジウムで死刑問題を取り上げる予定であることなどが報告され、閉会した。