「国家の暴力 − 戦争・死刑・人権」 報告


アムネスティ死刑廃止ネットワーク東京は、2004年10月23日、在日大韓基督教東京教会において、高橋哲哉氏(東京大学大学院総合文化研究科教授)を講師に招き、「国家の暴力―戦争・死刑・人権」と題する講演会をおこなった。(共催:日本キリスト教協議会「在日外国人」の人権委員会)


国家による暴力とはどのような性質を持つものなのか、「報復」と「処罰」との関係はどうあるべきかなど、高橋氏の専門である哲学からの考察と、いま日本で進みつつある憲法の改定と国家の暴力の問題などについて広く語っていただいた。

以下に講演の内容を収録する。(文責は死刑廃止ネットワーク東京)




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きょうは「国家の暴力」ということで、戦争、死刑、人権について一緒に考えたいという、そういう会を用意してくださいました。

戦争と死刑には「国家の暴力」という点で共通性があるということは、皆さんも日ごろお感じになっていることと思います。しかしそこにどういう繋がりがあるのか、あるいは「国家の暴力」というものをどういうふうに捉えたらいいのか。私は専門が哲学なので、そういう問題にも自分の研究の中でぶつかるわけですが、きょうはそのあたりの議論を材料にしながら、少し皆さんに考える材料を提供できれば、と思っています。

戦争と死刑、この2つの問題を考えるとき、まずは私たちがいま住んでいる日本という国家がどういう状況にあるのかについて、直視しなければいけないだろうと思います。

戦争ということについて申しますと、「戦争放棄」そして「戦力の不保持」に「国の交戦権の否認」と、徹底した戦争放棄の憲法を持っているこの国なのですが、しかし、ご承知のように実態は、平和憲法というものがすでにずたずたに蹂躙されている、そういう状況です。

2003年3月20日、米英軍を中心とした有志連合の国家によるイラクへの攻撃が開始されました。国連憲章によれば、国連安保理の承認によって、国際平和を維持するために必要だと考えられる場合には武力行使が認められるということなのですが、安保理ではその承認が得られませんでした。

現在国連加盟国は190カ国以上あるわけですが、イラクへの攻撃が議論になったときに、120カ国の代表が国連で演説をしました。そのうちの9割、100カ国以上が反対の演説をしています。そのなかに日本ははいっておりません。平和憲法を持ち戦争を放棄し、国際紛争を解決する手段として武力の行使および武力による威嚇は用いないということを憲法でうたっている日本が、この120カ国の9割のなかに入っていないという、これがいまの、戦争をめぐる日本国の現実だろうと思います。

むしろ日本は、アメリカの武力行使を基本的に理解し、そして支持するという立場をいち早く明確に出した。そういう意味では、イギリスと並んでアメリカの戦争政策にきわめて忠実であったということですね。

安全保障理事会の常任理事国では、フランスが強行にアメリカに反対しました。中国、ロシアも反対しました。フランスのドビルパン外相が国連でおこなった演説、 これは本来、日本の外務大臣が国連でやるべき演説だったのではないかと思われるくらいです。

イラク戦争に反対した100カ国に日本がはいっていないということは深刻に受け止めるべき現実だろうと思います。

では死刑についてはどうかといいますと、現在、広い意味で死刑を廃止していると考えられる国の数が118カ国、死刑を存置している国が78カ国。もちろん日本は死刑を存置しているわけです。

「死刑を広い意味で廃止している」とは、「通常刑に関しては廃止しているけれども、例外的には存置している」という国(14カ国)、「死刑は法的にはあるけれども死刑の執行を停止している」という国(23カ国)を含みます。「あらゆる犯罪について死刑を完全に廃止している国」は81カ国。従来は、この「完全廃止国」よりも存置国の数のほうが多かったのですが、今年に入って逆転し、死刑を存置している国(78カ国)よりも完全廃止している国のほうが多くなっています。

   (※数字は2004年10月現在のものです。)

アジアの中でも、たとえば韓国、あるいは台湾といった国で実際に死刑廃止法案が国会に上程されて審議されており、死刑廃止が実現するかもしれない。ひょっとしたら日本は、韓国や台湾にこの点では後れをとる可能性もあるわけです。

私たちは、自分たちの住んでいるこの日本という国を、主要な先進民主主義国であると、とりわけアジアでは最も早く民主化した先進国であると意識しているところがありますけれども、こういう点から見ればもうそんなことはとても言っていられない状況なんですね。

別の点での疑問もあります。日本の周辺諸国が、形の上だけでも「共和制」をとっているのに対し、日本だけは、何かよくわからない君主制のなごりがあって、この一家に属する人たちは国民としての権利がないというようなことになっている。 この点でも私は、本当に日本がアジアで先進民主主義国なのか?と大きな疑問符がついてくると思うんですね。

これが、いま私たちの国の位置している、戦争と死刑に関する現実だとまず押さえておかなければならないだろうと思います。
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