死刑に反対する地域諮問会議@香港
 
報告:田鎖麻衣子(弁護士)


7月7日〜9日、アムネスティ・インターナショナル(AI)の主催による「死刑に反対する地域諮問会議」が開催された。

この会議は、アジア・太平洋地域における死刑廃止のために、共通のキャンペーン活動を担い、地域間のネットワークを構築することを主な目的とし、各国・地域から死刑廃止運動関係の活動家を招いて開催された。

香港、インド、インドネシア、日本、韓国、フィリピン、シンガポール、台湾から各1〜2名が招聘されたほか、世界死刑廃止連盟(WCADP。日本からはフォーラム90と監獄人権センターが参加している)からミシェル・トーブ事務局長が、また、フォーラム・アジア(東南アジア地域で活動展開している国際NGO)からも1名が参加し、それ以外にオーストラリア・モンゴル・タイなど各地のAIとAI国際事務局スタッフも参加し、総勢30名弱の会議であった。日本については、直前の6月22日に日本の死刑に関するAIのレポートが発行されたばかりという事情から、私ひとりの参加となった。

一言で言えば、上記目的のための合宿というべきもので、まず、前半の日程で、
  1. 各国・地域から1名ずつが、自分の地域について、死刑廃止に障害となっていることは何か、優先的に取り組むべき課題は何か、成果を挙げたキャンペーン何か、についてのプレゼンテーションを手短に行い、
  2. 各プレゼンの中から、10項目近くの優先課題とすべきテーマの候補を抽出し、
  3. 全体を5つの小グループに分けて、その中からアジア・太平洋地域のネットワークとして共通に取り組むべきテーマを絞り込むための議論を行い、
  4. さらに小グループごとに議論した結果のプレゼンを行って、テーマを絞り込んだ。
その結果、死刑執行の密行性・透明性、薬物犯罪に対する死刑、必要的死刑(死刑以外に量刑選択の余地がない)、公判手続の不公正、情報の共有化の5項目が重点課題と設定された。

次いで後半日程では、これらのテーマのために、ネットワークとしてどのようなキャンペーンを行うかを、 やはりグループワークを中心に議論。残念ながら私は、この議論の最後のとりまとめの途中で時間切れとなってしまったのだが、 などが議論された。

こうした高密度の議論の合間に、時間を取って、これまでのキャンペーンの経験に学ぶためにいくつかのプレゼンテーションがなされた。なんといっても有意義でありインパクトがあったのは、6月に死刑を廃止したばかりのフィリピンの活動家による報告だった。彼らのキャンペーンは、「だからこそ廃止できた」ということが大いに頷ける素晴らしい内容であり、日本でも大いに参考にされるべきと痛感したので、概要を紹介する。

1987年に死刑がいったん廃止されたフィリピンでは、1993年の死刑再導入後、2000年にミレニアムを祝福し事実上のモラトリアムが実施され、モラトリアム終了後も死刑執行のない状態が続いていた。

そうしたなか、AIフィリピンや他のいくつかの人権団体が中心となって、「MTB−MRB」というネットワーク(MTB=タガログ語で「死刑に反対する人々」の略、MRB=Movement for Restorative Justice「修復的司法への運き」をつくった。すなわち、死刑廃止運動に取り組む団体だけでなく、修復的司法、宗教者、児童・青少年、女性、労働者や国会議員の事務所など、様々なテーマにとりくむ約50もの団体を、いわば広く浅く巻き込み、国内主要都市でのネットワーク作りを行い、さらに、ともにキャンペーンを企画することで死刑囚・元死刑囚やその家族をも巻き込んでいった。

また、ネットワークの活動を国際社会にアピールしていくことも忘れなかった。MTBの事務局を担ったのはフィルライツ(PhilRights=The Philippine Human Rights Information Center)という団体だが、欧州連合(EU)の欧州委員会による死刑廃止プロジェクトへの資金援助企画(Call for Proposals)に応募して「当選」。2年のプロジェクト期間に、その豊富な資金をもとに、集中的に、かつ見事に練り上げられたキャンペーンを行い、計画通りの成果を挙げたのである。

MTBは、まず、死刑廃止を行っていく前提としての状況分析として、死刑囚の処遇状況の監視や、女性死刑囚といった特定の範疇の死刑囚に関するパイオニア的な調査研究を行い、また、既存の刑事司法制度に代替するものとして修復的司法を位置づけた。そして、死刑問題に対する関心を高めるため、ドキュメンタリービデオの製作や路上での演劇、地域での討論会、展示会、論説委員への書簡やテレビやラジオのインタビューをはじめメディアへの積極的な働きかけを行う一方、運動員に対しては、効果的な運動を行うためのトレーニングを行った。世界死刑廃止デーなどの特定の日、死刑執行の危機などには、同時的なイベントを企画し全国一斉行動を起こした。

さらに、実に綿密な国会対策を行った。まず、すべての国会議員について、死刑廃止に対する態度による評価を行って、効果的なロビーイングのための国会内の勢力マップをつくった。議員秘書との強力な連携を築き上げ、議員へのブリーフィングや対話・集会を行うほか、死刑廃止議員連盟の形成に尽力し、総カラーページの立派なパンフレットをはじめとするロビーイング用のキットを製作してこれを駆使。議員連盟と、欧州連合代表者や、元死刑囚との対話の橋渡しも行った。すべての議員に対し、事務所を訪問し、かつ、死刑囚手作りの葉書を送るなどし、国会内では、毎日いつも、MTB運動員がロビーイング活動をしている状態だったという。とくに、若者たちが運動の中で果たした役割は大きかったようだ。

フィリピンの死刑廃止に関して私が日本で接した報道は、カトリック教会の圧力で大統領が政治判断を下した、というものが殆どだった。もちろん、MTBの中心を担う団体にはキリスト教系の団体もあったが、50の参加団体リストは非常に多岐に渡っており、それを見ただけでも、彼らの活動の幅広さと傾注した努力の大きさが窺われる。決して報道のように矮小化できるものではない。アジア・太平洋地域の死刑廃止や、あるいはモラトリアムを求める運動にとって、大いに示唆に富む内容であり、この情報に接することができたことは、会議出席の大きな成果であった。

他方、新たに発足するADPANに、日本の運動体は、どのように関わっていくべきか、というとてつもなく重い課題を背負ってきた。フィリピンの貴重な経験にも学びながら、国内のネットワーク作りとあわせて、皆さんと一緒に改めて考えたいと思う。
(2006.9.25 up)


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