5月23日(金)に東京四ツ谷の主婦会館プラザエフにて、宗教者と死刑廃止活動団
体・個人が集まり死刑廃止のセミナーが行われた。
主催は聖エジディオ共同体、イタリアのキリスト教徒によるNGOである。
このような死刑廃止をテーマとした、宗教者による横断的なセミナーは、日本で初め
ての試みであった。
アムネスティ死刑廃止ネットワークは全面的にこれに協力した。
死刑廃止は生命をめぐっての問題であり、どの宗教にとっても避けては通れない重要
な課題であることが明らかとなった。参加者は約100名。
発言参加者は次の通りである。
アルベルト・クワトゥルッチ氏 (聖エジディオ共同体)
古川龍樹氏 (生命山シュバイツァー寺)
廣瀬靜水氏 (大本総長)<代理出席=斉藤泰氏(教学研鑚所研鑚室長)>
ホアン・マシア氏 (日本カトリック司教団)
雨森慶為氏 (真宗大谷派)
末廣哲氏 (監獄人権センター)
菊田幸一氏 (フォーラム90)
保坂展人氏 (死刑廃止を推進する議員連盟)
柳下み咲 (アムネスティ・インターナショナル日本)
また、次の人たちからの本セミナーへの賛同メッセージが読み上げられた。
ホセ・ヨンパルト氏 (カトリック司祭)
西郊良光氏 (天台宗宗務総長)
左藤恵氏 (元法務大臣)
オブザーバーとして、立正佼成会が出席。
始めに、聖エジディオ共同体のクワトゥルッチ氏からこの会を催した経緯についての
話があり、次に参加者の発言が順番にあった。
各発言の要旨は次のとおりである。
柳下 み咲(アムネスティ・インターナショナル日本 死刑廃止担当)

アムネスティの死刑廃止活動は、団体ができて7年後の1968年から「良心の囚人」を救援する活動の一環として、政治囚に死刑を科したり執行することに反対することを表明するかたちで始まった。
その後、アムネスティの死刑に反対する姿勢はより強いものとなり、1977年12月、死刑廃止についての国際会議がストックホルムにおいて開催される。世界各国から刑法学者や犯罪学者、ジャーナリスト、宗教家らが集い、死刑に反対する論拠を積み重ねた上で、人権の観点から死刑に言及した最初の宣言である
「ストックホルム宣言」を満場一致で採択。現在においてもアムネスティの死刑廃止活動の柱である。
日本支部の死刑廃止活動としては、1977年のストックホルムでの会議にも当時の理事が出席しており、その当時から日本支部としては積極的に死刑廃止に取り組んでいた。このように死刑廃止の活動の取り組みに歴史が長いこと、国際的な連帯をもって活動してきたという点に日本支部の死刑廃止活動の二つの特徴がある。
一方、アムネスティの死刑廃止活動の限界もある。運動の国際性と不偏不党性を保つために、自国の死刑囚に対して特定の支援は行なわない。そのため、日本支部も日本の死刑囚の救援活動に直接に携わることはないが、他の死刑廃止団体や国会議員、弁護士らと協力して、死刑制度を廃止するように日本政府に働きかけを行なうというかたちでの運動をしている。
活動は全国各地のアムネスティ会員が担っており、東京、大阪、札幌に死刑廃止ネットワークセンターがあり、このセンターが活動の調整を行なっている。
死刑廃止ネットワークの主な活動は以下のようなものである。
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国際事務局からの死刑廃止に関する文書の翻訳・配布
-
パンフレット、ホームページの作成、イベント、死刑廃止入門セミナー、学習会、読書会等の開催など、一般の方への働きかけ
-
死刑執行の際の抗議行動
-
他団体との連携
日本のアムネスティの死刑廃止活動の今後の課題としては以下のようなものがある。
- 国内の個別の死刑囚に関わる活動を行なわないため、国内の情報に弱い。
- 死刑囚の人権を守るということがなかなか理解を得られ難く、アムネスティの会員や一般の人からも非難を受けてしまう。
- 犯罪被害者家族との連携をどのようにしていくのか。
古川 龍樹氏(生命山シュバイツァー寺)

私の父の古川泰龍は教誨師として「福岡事件」の2人の死刑囚に出会った。
2人の訴えを聞き、1961年よりすべてを投げ捨て私たち家族全員で2人の助命、再審運動に打ち込んだ。
運動を始めて15年目の1975年6月17日、2人の死刑囚のうち石井健治郎さんは恩赦で無期に減刑、しかし同日、西武雄さんは処刑された。
処刑された西さんの冤罪を証明するために40年以上闘っており、現在6度目の再審請求の準備をしている。死後再審であり、もし無実が証明されれば、なんらかのかたちで死刑制度について波紋を投げかけ、死刑廃止の布石になるのではないか。
西さんのような冤罪死刑囚を二度と生んではならないし、そもそも命は不可侵であり、国であっても人を殺すことは許されない。命の尊さを伝えることが宗教者の真の姿であるならば、死刑廃止は世界平和と同じように宗教者の願いであり、人類の願いであると思う。
20世紀は戦争の世紀・虐殺の世紀と言われた。21世紀こそは宗教者は本来の命の尊さに目覚め、人命尊重の夜明けを目指さなければならない。
福岡事件:
終戦後すぐの占領下の1947年、闇取引の最中に1人の中国人商人と1人の日本人ブローカーが射殺され、強盗殺人事件として7人が逮捕された。全員無実を主張したが、2人が死刑判決を受けた。
被害者の1人が戦勝国の中国人であり、華僑商会の会長であったことから大きな圧力がかけられたと言われている。
アルベルト・クワトゥルッチ Alberto Quattrucci 氏 (聖エジディオ共同体)

聖エジディオ共同体は、1968年にローマに設立されたキリスト教の一般信者によ
るNGO団体であり、社会から疎外され弱い立場にある人びとのためにのボランティア
を中心とした活動をしている。
聖エジディオは、国際キャンペーンによって145カ国から500万人の死刑反対の署
名を集め、世界の約600人の死刑囚との文通をおこなっている。
聖エジディオのホームページも重要な働きを持っており、死刑に関するニュースも載
せている。
「生命のための町」と題し、2002年11月30日を第一回世界反対の日として、
ローマ、ブリュッセル、バルセロナ、フィレンツェ、ベネチア、ニューヨーク、
ウィーン、ナポリ、パリ、ジュネーブなど世界60の大都市の賛同を得た。ローマで
はコロッセオのライトアップを生命の火として、その日行った。今年は広島、長崎の
参加を是非実現させたい。
聖エジディオの死刑廃止行動のガイドラインは、次の2つ。
1.死刑廃止を訴え、政府に働きかけます。
2.死刑に反対する文化を築いていきます。
菊田 幸一氏(明治大学教授・フォーラム90)
死刑廃止議員連盟の死刑執行停止法案が国会に提出されようとしていること、死刑臨調の設置、その間の具体的な死刑執行停止、死刑に代わる手段について議論がなされるといった具体的なスケジュールが日程に上っているのはまことに心強い。
現在「行刑改革会議」の委員として参加している。これは法務大臣の私的諮
問機関として今年4月に発足した。名古屋刑務所の不祥事が発端となってい
る。
もしも、この会議が存続中に法務大臣が死刑執行に署名するようなことがあれば、行
刑改革自体が無意義になると考えている。そのため、森山法務大臣にはそのような手
紙を書き、
参考人として出席した衆参両院の法務委員会でも同様の発言をした。
末廣 哲氏(監獄人権センター)

監獄人権センターは、95年3月に設立された人権NGOである。主な活動は刑務所な
どの日本の拘禁施設の人権状況を国際基準に合致するように改善する活動をしてい
て、その一環として死刑制度の廃止も訴えている。
終身刑もきわめて残酷な刑罰であると考えている。したがって、長期の死刑執行停止
や死刑廃止と同時に導入される終身刑については理解するが、死刑廃止なき無期刑の
単独導入には断固反対である。
現在の死刑囚処遇は、死刑制度の存廃を留保しても劣悪である。その特徴は徹底した
秘密主義である。それは、死刑執行の適正手続きが全く欠如している側面と、死刑確
定者の徹底した外部交通の遮断であり完全な隔離状態に置かれることである。
外部交通、人権救済、医療の問題などを「行刑改革会議」を通じて実現させていきた
い。
廣瀬 靜水(やすみ)氏(大本総長 人類愛善会名誉会長)
<代読=
斉藤泰氏(教学研鑚所
研鑚室長)>

大本教祖出口王仁三郎が、1930年に死刑廃止を主張した。
人間一人ひとりは、大宇宙にひとりしかいないかけがえない存在であり、特に死刑制
度のもつ最大の欠陥は冤罪の悲劇である。
大本は第2次大戦前に国家からの弾圧を受け、教団の聖地は没収され3000人に及
ぶ検挙者を出し、拷問による獄死者が相次いだ。この事件は国家が意図的に起こした
冤罪で、1945年に治安維持法の無罪が確定し、戦後不敬罪も無くなり全面解決し
た。まことに冤罪の悲惨さは筆舌に尽くしがたいものである。
「人は人を殺してはならない」。今日この倫理の確立が切実に求められている。
ホアン・マシア氏 (日本カトリック司教団)

大学のキリスト教倫理という科目の中で、講義で死刑制度廃止の問題を取り上げてい
る。その授業に参加する学生を見ていると、現状の認識不足ということがあり、情報
と考える示唆が必要である。マスコミなどは「被害者の報復感」と「見せしめに必要
である」というような意見をよく出しているが、これは大きな問題である。
日本カトリック司教団は、『いのちへのまなざし』(2001年発行の司教団メッセージ)の中で聖書に基づいて次のように述べている。
-
私たち人間が、国家共同体の名において、一人の人間の命を奪うことは、神の権
限を侵すことになる。
-
兄弟殺しをしたカインを殺さないように命じた神の愛はどんな醜い罪を犯して
も、人間に最後まで生きる可能性を与えようとするものです。生きる事への道が開かれこそ、
悔い改めの可能性がひらかれていく。
-
ゆるしがたきをゆるし合っていくことから、真の人間の輝きが現れてくる。
雨森 慶為氏 (真宗大谷派)

宗派として1998年6月に「死刑制度を問いなおし死刑執行の停止を求める声明」
を表明して以後、一貫して死刑執行の停止と、広く社会に対して死刑制度について論
議していくことの大切さを提起してきた。
『いのちの絵画展』やシンポジウム『死刑
廃止に向けて』などを開催するなどいろいろの試みをしている。
死刑制度は、応報感情をあおり、人々を分断する制度である。加害者の悔悟や反省、
被害者遺族の悲しみや怒りが癒されることも、死刑制度を持つ社会では困難である。
親鸞は全てのものを「同朋(どうぼう)」と呼んでいる。同朋とは、自分自身を尊重
し他者を尊重して共生していくということである。
私たちの社会が罪を犯した者を排
除するのではなく、反省や悔悟や償いと共に生きる、同朋の共同体となることを願
い、死刑廃止を訴える。
保坂 展人氏 (死刑廃止を推進する議員連盟)

今国会中に、「死刑執行停止法案」を提出する考えである。内容は
1.国会内に「死刑制度臨時調査会(死刑臨調)」を設置する。
2.調査会の結論が出るまで、死刑執行の停止をする。
3.仮釈放のない終身刑を導入する。
というもので、同時に犯罪被害者を救済措置の改善についても検討していく。
明日(5/24)に日本弁護士会主催のこの法案に関してのシンポジウムが開かれ
る。
また、保坂氏は死刑囚袴田厳氏、波崎事件の死刑囚富山氏の事を報告。冤罪事件でい
まだに拘置所にいて、重い病気にかかっている現状を話した。
この後、
ホセ・ヨンパルト(カトリック司祭)、
西郊良光(天台宗宗務総長)、
左藤恵(元法務大臣)
3氏からのメッセージが読まれた。要旨は次のとおり。
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ホセ・ヨンパルト氏 (カトリック司祭)=代読フロッレッツ神父
-
日本の死刑制度には、生命の問題であるにもかかわらず、2つのとんでもない特徴が
ある。
-
秘密主義。日本の死刑執行は、ある日の朝、突然本人に告げられ、その日に行わ
れてしまう。これは、他の国にはない日本だけのことだ。
-
“気まぐれ”ということ。死刑を執行するのは法務大臣が署名して行われるが、
誰がいつ処刑されるのかは全て法務大臣次第。人によって決められるわけで、法律が
決めるのではない。これを私は、“気まぐれ”という言葉で表されると思う。
-
西郊 良光氏 (天台宗宗務総長)
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天台宗では、平成9年に「死刑制度に関する特別委員会」を設置し、3年の論議を経
て、平成11年3月31日付けで、基本的に死刑制度反対の答申を得ている。
問題の前提として
-
死刑は廃止すべきであるが、代わる刑として仮釈放のない無期懲役刑の必要性
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義務教育を改革し宗教的情操の指導強化
などの必要性がある。
死刑制度の是非を問う前に、人間として「道」、社会構成員の一人として社会倫理を
踏み外さない社会、環境の土壌に未来際をかけて、努力を続けていかなくてはならな
い、仏教徒としての使命である。
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左藤 恵氏 (元法務大臣)
-
私も仏教徒として人のいのちの大切さを一人でも多くの人々の心に訴え続けたいと
思っている。
この後に、フォーラム90の安田好弘弁護士の司会によって、質疑応答や参加者によ
るフリーの発言があった。
最後にアムネスティの柳下から二つの提案がなされた。
それは次の2点である。
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本日集まった団体のネットワークを作り、賛同者を募り拡大する。そこで情報を共有し死刑廃止の運動を発信する。事務局はアムネスティが行う。
-
このセミナーを毎年開催する。
これは、参加者全員の賛成をもって採択された。