死刑廃止フォーラム主催 特別シンポジウム
「韓国・盧武鉉(ノムヒョン)政権下での死刑廃止法のゆくえ」 報告



2003年2月25日(火)、早稲田奉仕園において、韓国における死刑廃止運動の中心人物の一人である車亨根(チャー ヒョングン)弁護士を迎えて特別シンポジウム「韓国・盧武鉉(ノムヒョン)政権下 での死刑廃止法のゆくえ」が開かれた。(主催:死刑廃止フォーラム)

この日は韓国ソウルで、ノムヒョン大統領の 就任式が行われていた。
左から車亨根弁護士、通訳リ氏、李相赫弁護士

車弁護士の報告があり、その後韓国死刑廃止運動協議会長・李相赫(イサンヨク)弁 護士からの発言があった。

以下に要旨を報告する。




車亨根弁護士の報告: ノムヒョン政権が死刑廃止をどのようにしていくのか

死刑廃止は社会改革であり、社会改革としての死刑廃止をなし得るためには、以下 の3つの課題がある。

1,改革をもたらすためには、それを動かす勢力が必要である。
2,死刑廃止に反対する人たちを、論理的に説得しなければいけない。
3,死刑廃止を定着させるシステムを確立しなければいけない。


今後の展望を述べるために過去と現状を把握しなくてはいけない。
第一期 1945年〜1989年
第二期 1989年〜2003年
第三期 2003年〜今後
第一期では、死刑が憲法に違反するというようなことを言えば、KCIAに共産主義者 ではないかと疑われて牢獄に入れられるような時代。李承晩時代よりは、朴政権や盧泰愚(ノ テウ)政権の時代はもう少し自由にはなった。しかし、死刑廃止という勢力はなかっ た。

第二期は1989年に死刑廃止協議会が発足することから始まる。キリスト教カト リック、プロテスタント、仏教関係者などの宗教者が中心となっていた。この運動 は、政府に対して違憲ではないかとは言ったけれど、一時執行停止とか法律の上程な どはできなかった。国民に対しては広報として、死刑廃止の必要性を訴えた。当時の 国民の状況としては、30%の廃止派と70%の存置派であった。宗教界が中心では あったが、最初は名前だけの参加が多かった。

1999年には国会に死刑廃止法案を上程した。91名の議員による署名はあった のだが、法案は自然消滅という形になった。

2001年10月30日に、2回目の死 刑廃止法案が過半数の議員155名の署名で国会へ上程がされた。鄭大哲(チョンデチョル)議員の発議によるものである。この議案は現在も国会で係留され審議中の 案件となっている。これに呼応する形での死刑執行モラトリアムの運動があり、一定 の効を奏している。それはたとえば最近の凶悪犯罪に対して、最終審の判事が「死刑 判決はどのような場合においても最小化しなければならない」との判断を示している ことからもわかる。

また、金大中大統領時代は、死刑反対団体の要請もあって1回の 死刑執行も行われていない。ただ、昨年末には死刑執行問題が注目された。政権交代 時には、次の政権の負担を少なくしようということで一気に執行するという慣例があ り、心配されたが執行はなかった。現在韓国では57名の死刑囚がいるが、今まで慣 例では収容適正人員といわれている30名まで減らされてきたので、今回は20名ぐ らい執行されるのではと心配されたが、結局4名の無期への減刑ということであっ た。

2001年には、死刑廃止アジアフォーラムがソウルで開かれ国民の関心も大きく なった。その時のあるマスコミの調査では、死刑廃止の支持率が51%と過半数を上 回った。

死刑廃止法案には、現在韓国では大きくは以下の3つの考え方がある。

1) 韓国死刑廃止運動協議会(会長・李相赫)が代表する法案
死刑の代替刑として終身刑を導入する。終身刑は、事件服役開始時を基準にして、 平均寿命に至る余命の2/3を過ぎなければ、仮釈放できないとする。

2) 現在国会で論議中の鄭大哲氏の法案
死刑の代替刑として特に何も導入せず、無期を宣告する際に15年を過ぎなければ 仮釈放をできないという宣告もできるというもの。

3) カトリック系の人々の考え
死刑の代替刑に仮釈放のない終身刑を導入しようというもの。

今後の展望

1,主体となる勢力
中心勢力としてのカテゴリーがもっと広がらなくてはいけない。韓国でも民主化後 はNGOが多く誕生している。今までは政治的なものが中心となっていたが、現在は 環境、経済などの生活に密着した広がりがある。こういったNGOと連携していかな ければいけない。また、国内だけではなく海外の団体とも協力していかなければいけ ない。特に日本の人たちとは十数年やってきたし、またそれとともに欧米とも広く協 力していきたい。

2,反対勢力へのアプローチと課題
ノムヒョン大統領はカトリック信者である。軍事政権下で政府から追われていたと きに、ノ夫婦を匿ってくれたのがカトリック司教の家であり、そこで夫婦ともに受洗 した。カトリック新聞のインタビューでノ氏は死刑廃止について、「徐々に廃止の方 向に持っていく」と答えている。

行政府は、現在の53名の死刑囚を執行しないでいられるかがまずは大きな問題で ある。そういったモラトリアムの状態で、現在の死刑廃止法案を通すことができる か。現在の国会は与小野大の 議員状態なので議案が通るかどうかは予断を許さない。今春には公聴会も開かれる。 議案提出時に署名した議員が全員賛成票に投じるかどうかはわからない。

否定的な側面
  • 韓国は時代の動きがすごく早く、日本の30歳は韓国では300歳といわれるく らいです。特に今は北鮮の事が今の韓国ではいちばん大きな問題なので、死刑廃止が 次の問題となってしまわないか心配である。
  • テグでの地下鉄放火事件は一人が多数を殺してしまった事件であり、廃止運動に は大きなマイナスとならないか。

肯定的な側面
  • 死刑廃止の集会などへ参与が高まってきて、国民の関心が上がっている。「デッ ドマン・ウォーキング」のへレン・プレジャンさんの集会には3千人集まった。一昨年 のアジアフォーラム、それと同じような趣旨で行った昨年のカトリック女子校でのコ ンサートのチケットは完売した。
  • ノムヒョン政権には改革への意志を持った人たちが入っている。法務部の長官に は46歳の女性がなると言われていて、彼女は判事ではあったが検事ではなかった。
  • ノムヒョン大統領は第一に“参加”ということを言っている。今日の就任式の登 場も8人の一般の人と登場した。参加する民主主義というのを強く言っている。この 死刑廃止運動も国民の参加が大きく必要となる。


韓国死刑廃止運動協議会長・李相赫(イサンヨク)弁護士の発言

韓国の国民は死刑には犯罪抑止力は弱いと考え始めている。私は弁護士として現実 の裁判のなかでそのように感じてきている。

日本と同じで、韓国でも冤罪と考えられる死刑囚は何人かいる。

今国会に提出している死刑廃止法案の発議者鄭大哲氏は、プロテスタント信者で、 彼の母親は金大中氏の死刑判決時の弁護士だった。鄭(チョン)氏は死刑の代替刑と して仮釈放のない絶対的終身刑は非人道的だといって今国会で審議中の議案を出して いる。

私は、代替刑として平均余命2/3を過ぎなければ仮釈放のない「平生終身刑」という ものを提唱している。死刑廃止に反対している人には、この方が受け入れやすいと 思っている。

死刑廃止を検討している委員会は、9人の委員で構成されていて、3人は廃止賛成 者、4人は警察出身者で廃止反対、2人は中立的な立場だ。

2003年にアジアフォーラムを台湾で開催しようと考えていたのだが、いまだに 決まっていない。台湾でできなければ日本での開催も考えている。その節はどうぞ力 を貸して欲しい。

(2003.3.30 up)


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